聖戦の鎮魂歌

信濃

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本編

第八話

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東部統合本部

敵原子力潜水艦の撃沈又は海域からの排除を絶対条件とした作戦名『ウェイリング』発動5日前。野暮用でよった東部統合本部で今出くわしたくないやつランキング(自分調べ)3位くらいの奴に出会ってしまった

「よぉ、山城」

「あなたも山城でしょう」

「バッサリ言うねぇ」

そう言いながらケラケラ笑うのは山城光貴という男。自分より5つほど年上で山城家本家の人間であり分家の自分によく絡んでくる鬱陶しいやつである。階級は少将で上官なわけなのだがまぁ、仕事の話ではなさそうだし良いだろう。

「なんです?」

単刀直入に聞く。こっちは忙しい身なのだこんなところで時間を潰している場合ではない。

「俺というか本家の爺婆がな、例の作戦の黙認と協力を条件にあの情報の改竄を頼んだろ?あれ今どうなってる?」

「部下に解析させてますけど、できる範囲のことはします。約束ですので。ただしキーマンになりうる人物の場合は改竄は無理かと」

「本家はそこら辺了解してるとさ」

「やっぱジジィどもボケてないですね」

「なー」

「あんたはそれ同意して良いんですか」

「いやぁ、ぶっちゃけそう大して好きでもねぇ奴らだし、邪魔クセェし、頭カテェし」

そこから一息ついて

「それはそれとして感謝しとけよー、俺に」

「いや貴方じゃないでしょ」

「冗談冗談、優さんにだよ。あの人陸軍のやつに話つけてくれたんだから」

「また今度感謝しときます。ところで叔父、、、いや、優さんは元気ですか?」

「この前会ったときは死んだ目してたぞ」

「抱え込むのはあの人の欠点ですからね」

「おいおい」

そう話した後「それでは」と帰ろうとしたところ「最後に一つ」と呼び止められてしまった。

「なんですか?」

「お前の親父と腹割って話せ」

「は?」

あまりに唐突だったので素っ頓狂な声が出てしまった。しかしなんでそんなことを。

「条件みたいなもんだ。俺と兄さんと優さんからのな」

「、、、承服しかねます」

嫌だ。そう言いそうになるのを抑えてあくまでも平静を保とうとする。

「絶対条件だ☆」

その笑顔ムカつくな。ただ、抵抗しても無駄そうだ。この人はこういうことではブレない。条件は"話し合え"だ和解しろではない。それなら、まぁ、呑んでも良いだろう。それでも嫌だが、どうせロクな事にはならない。

「はぁ、分かりました。話せば良いんでしょう。結果は保証しかねますよ」

「大丈夫だろ。お前は話す場が欲しかったはずだからな、きっと和解できるさ」

何を根拠にと言おうとして喉元で止まる。図星だったからだ。なんでこの人はこんなとこで鋭いんだ。察し悪くて嫁さんによく怒られているクセに。

「図星だろ。後今なんか失礼なこと考えたな?」

「さて、なんのことやら」

「お前ホント良い性格してるな」

「褒められたと思っておきます」

「この野郎」

これ以上は時間の無駄だろうと判断して踵を返す。決してこれ以上探られたくないからではない。

「帰ります」

「おう、じゃぁな」



~~~~~~~



『ウェイリング』発動4日前

「司令、この前頼まれた資料できました」

そう言いながら近くの大きめのデスクで仕事をしていた嶋崎大尉に目配せをする。なるほど人払いか。すると嶋崎大尉がブラウン大尉に声をかけた。

「ブラウン大尉、ちょっといいか?」

「えっ?、、、あぁ、はい」

一瞬戸惑ったようだったがすぐに察したようだ。うちの部下は優秀揃いで嬉しい。というか優秀なやつを集めたわけだが。

「まずはこれを」

そう言いながら書類の束を渡してくる。

「どうだった?」

「誰までかは分かりませんでしたが改竄跡は掴めました。」

「やっぱりな」

「驚かないんですね」

「まぁ、そりゃな」

ページをめくりながら話をする。

「これが改竄場所か」

「はい」

読み進める。そしてそれがどれだけ厄介なことなのか分かってしまった。

「どこかの地点の報告が消されていると思っていたのだがな。まさか東部のポイント350~380までの地点の報告は偽造で本来はその地点での不明船は報告されていない。とはな」

「自分もビックリしましたよ。撤去されたのでしょうか?」

「いや、機能を人為的に停止させてるんだろう」

「それだったら民間船が通った記録が無さすぎると怪しまれますよね。それだったらタイミングを合わせる必要が、、、まさか」

「そういうことだ」

それから一息おいて

「対潜網の管理にアクセスできるほどの高官がナポーズドかそれに近しい国と繋がっている」



一方その頃



「何の話してるんでしょうね司令と夏伐少尉」

「この前司令が少尉に任務を持ちかけたらしい」

「へぇ」

人払いをしているわけだが、まぁぶっちゃけ、暇なので嶋崎大尉と駄弁っている。

「少尉も任官1年目なのに大変だな」

「たしか少尉って司令と昔からの知り合いって話ですけど」

「霧雨学園ってあるだろ、中高一貫校」

「有名ですよね。あそこ」

霧雨学園とは偏差値75以上の有名進学校で西部じゃ有名な学校だ。

「そこでの先輩後輩って聞いたぞ」

「エリートじゃないですか」

「司令は今更だろ」

ここでも扱いが軽い司令

「その時点で少尉が優秀なのは確約されたというか当たり前というか」

「ブラウン大尉も大概では?天音女学校出身でしょう?」

「別にそこまで凄くないですよ特にあの二人に比べたら」

「それ言われたら僕がますます霞むじゃないですかヤダー」

「嶋崎大尉ってどこ出身でしたっけ?」

「ふつーの進学校ですよ」

それだけじゃあ面白くない。何か引き出さないと

「何か無いんです?」

「そうですねぇ、、、コンビニが半径1km 以内に無いことですかねぇ」

「不便じゃないですか」

「まぁ、そうですね」

やはり暇である。その時

「そういえば今日って第二の伊勢さんがくるんじゃ」

「15時だよな、、、ってもうじゃねぇか」

腕時計を確認した大尉がそんなことを言っている。するとタイミング良く電話が鳴る。

「失礼」

と断りを入れて電話に出る

『大尉、伊勢少将がいらっしゃいました。司令室まで通しても大丈夫ですか?』

「いや、私が向かおう、少将には待機してもらってくれ」

『わかりました』

ここで通話は途切れた。

「伊勢少将が来たそうです。私が対応に出るので司令室まで通しても大丈夫になったら教えてください」

「わかった」
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