64 / 87
ばったりと
しおりを挟む
「罠は……無いか」
案内された部屋で中を見回すクァイア。
瑞希達が結局何をしたかったのか分からずに困惑しているものの、現状を確認すべきであると反射的に身体が動いたために手当たり次第に部屋を弄る。
数分後、何も見つからずに変な疲労感だけが溜まっていた。
部屋には花瓶や手紙の封を切るとき用の刃物などがあり、窓は普通に開閉できた。
「あいつら、舐めているのか?」
確かに瑞希と真正面からやり合ったら敵わないのはわかっているが、逃げてくださいと言わんばかりの場所に連れてこられたら頭にくるものもある。
それとも故意に逃がして追跡するつもりだろうか? さっきも命令した人物を聞かれたしなと、予測を立てはしたが、だとすると余計に逃げるわけにはいかない。
そう考え、従うふりをしつつタイミングを見計らって逃げようと決め、まずは先ほどの着替えろという指示通り、服を脱ぎ始めた。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「ふんふーん♪ いぃやっほう!」
マルコは今、無駄にテンションが高かった。
理由は簡単。
この魔王城に新しく来た村人達が大混乱という報告を受け、紅真がその脅迫――説得に向かったため、今日の訓練は比較的軽めで済んだのだ。
いつものようにぶん殴られ、蹴られ、血反吐を吐き、至る所の骨が折れ、瀕死の状態にさせられたあげく、回復されて強制的に続けさせられる事もない。
脱走者が出そうになった事もあったが、その時は紅真が自ら迎えに行って、帰ってきたら目も当てられないほどボロボロの姿にさせられていたため、逆らう者も今はいない。
さて今日は何をしよう? 思い切って寝てしまって無駄な時間を過ごしてみようか。などと気分は最高潮である。
そんなマルコが部屋に戻り、勢いよく扉を開けた。
「ただいま! 愛しのわがベッ……ド……」
部屋では見覚えのない人物が着替えていた。
短めの金髪、少し吊り上がった気の強そうな目、整った顔立ち、白い肌、細い腕に足、比較的小さめではあるが形の良い胸……
時間が止まった。
あれ? ここ俺の部屋じゃなかったっけ?
誰、この美人?
あ、もしかして厳しいシゴキに耐えてる俺に神様が与えてくれたご褒美か。
お腹すいた。ご飯食べたい。
余りにも予想外の出来事に頭がおかしくなって、変な事まで頭の中に浮かんでくる始末。
どうすればいいのか分からなくなったマルコがとった行動は、
「……ごゆっくり」
ゆっくりと扉を閉めようとした。
が、聞こえる風切り音。感じる殺気と嫌な予感。
その二つに反射的に横へ飛ぶ。一瞬後に元いた場所を通過する、封切りばさみ。
頬に浮かぶ一筋の赤い線から流れる血。
今、この瞬間だけは紅真にシゴかれていて良かったと、マルコは心から思った。
「あ、あっぶねぇ!」
だが、危機はまだ去っていない。
最悪の結末をひしひしと感じ取り、後ろを向いてわき目も振らずに逃げ出す。
そんなマルコを花瓶の破片が追い抜かしていく。
後ろから投擲されているらしい。
「俺が悪かったから助けてぇぇぇぇぇ!」
特殊なスキルを持っているのか、避けなければ致命傷になりかねない部分を狙いたがわず投げてくる。
結局、マルコに心休まる休日なんてものは訪れる事がなかった。
案内された部屋で中を見回すクァイア。
瑞希達が結局何をしたかったのか分からずに困惑しているものの、現状を確認すべきであると反射的に身体が動いたために手当たり次第に部屋を弄る。
数分後、何も見つからずに変な疲労感だけが溜まっていた。
部屋には花瓶や手紙の封を切るとき用の刃物などがあり、窓は普通に開閉できた。
「あいつら、舐めているのか?」
確かに瑞希と真正面からやり合ったら敵わないのはわかっているが、逃げてくださいと言わんばかりの場所に連れてこられたら頭にくるものもある。
それとも故意に逃がして追跡するつもりだろうか? さっきも命令した人物を聞かれたしなと、予測を立てはしたが、だとすると余計に逃げるわけにはいかない。
そう考え、従うふりをしつつタイミングを見計らって逃げようと決め、まずは先ほどの着替えろという指示通り、服を脱ぎ始めた。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「ふんふーん♪ いぃやっほう!」
マルコは今、無駄にテンションが高かった。
理由は簡単。
この魔王城に新しく来た村人達が大混乱という報告を受け、紅真がその脅迫――説得に向かったため、今日の訓練は比較的軽めで済んだのだ。
いつものようにぶん殴られ、蹴られ、血反吐を吐き、至る所の骨が折れ、瀕死の状態にさせられたあげく、回復されて強制的に続けさせられる事もない。
脱走者が出そうになった事もあったが、その時は紅真が自ら迎えに行って、帰ってきたら目も当てられないほどボロボロの姿にさせられていたため、逆らう者も今はいない。
さて今日は何をしよう? 思い切って寝てしまって無駄な時間を過ごしてみようか。などと気分は最高潮である。
そんなマルコが部屋に戻り、勢いよく扉を開けた。
「ただいま! 愛しのわがベッ……ド……」
部屋では見覚えのない人物が着替えていた。
短めの金髪、少し吊り上がった気の強そうな目、整った顔立ち、白い肌、細い腕に足、比較的小さめではあるが形の良い胸……
時間が止まった。
あれ? ここ俺の部屋じゃなかったっけ?
誰、この美人?
あ、もしかして厳しいシゴキに耐えてる俺に神様が与えてくれたご褒美か。
お腹すいた。ご飯食べたい。
余りにも予想外の出来事に頭がおかしくなって、変な事まで頭の中に浮かんでくる始末。
どうすればいいのか分からなくなったマルコがとった行動は、
「……ごゆっくり」
ゆっくりと扉を閉めようとした。
が、聞こえる風切り音。感じる殺気と嫌な予感。
その二つに反射的に横へ飛ぶ。一瞬後に元いた場所を通過する、封切りばさみ。
頬に浮かぶ一筋の赤い線から流れる血。
今、この瞬間だけは紅真にシゴかれていて良かったと、マルコは心から思った。
「あ、あっぶねぇ!」
だが、危機はまだ去っていない。
最悪の結末をひしひしと感じ取り、後ろを向いてわき目も振らずに逃げ出す。
そんなマルコを花瓶の破片が追い抜かしていく。
後ろから投擲されているらしい。
「俺が悪かったから助けてぇぇぇぇぇ!」
特殊なスキルを持っているのか、避けなければ致命傷になりかねない部分を狙いたがわず投げてくる。
結局、マルコに心休まる休日なんてものは訪れる事がなかった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる