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ばったりと

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「罠は……無いか」
 案内された部屋で中を見回すクァイア。
 瑞希達が結局何をしたかったのか分からずに困惑しているものの、現状を確認すべきであると反射的に身体が動いたために手当たり次第に部屋を弄る。

 数分後、何も見つからずに変な疲労感だけが溜まっていた。
 部屋には花瓶や手紙の封を切るとき用の刃物などがあり、窓は普通に開閉できた。

「あいつら、舐めているのか?」
 確かに瑞希と真正面からやり合ったら敵わないのはわかっているが、逃げてくださいと言わんばかりの場所に連れてこられたら頭にくるものもある。
 それとも故意に逃がして追跡するつもりだろうか? さっきも命令した人物を聞かれたしなと、予測を立てはしたが、だとすると余計に逃げるわけにはいかない。

 そう考え、従うふりをしつつタイミングを見計らって逃げようと決め、まずは先ほどの着替えろという指示通り、服を脱ぎ始めた。


□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


「ふんふーん♪ いぃやっほう!」
 マルコは今、無駄にテンションが高かった。

 理由は簡単。
 この魔王城に新しく来た村人達が大混乱という報告を受け、紅真がその脅迫――説得に向かったため、今日の訓練は比較的軽めで済んだのだ。
 いつものようにぶん殴られ、蹴られ、血反吐を吐き、至る所の骨が折れ、瀕死の状態にさせられたあげく、回復されて強制的に続けさせられる事もない。

 脱走者が出そうになった事もあったが、その時は紅真が自らに行って、帰ってきたら目も当てられないほどボロボロの姿にさせられていたため、逆らう者も今はいない。

 さて今日は何をしよう? 思い切って寝てしまって無駄な時間を過ごしてみようか。などと気分は最高潮である。
 そんなマルコが部屋に戻り、勢いよく扉を開けた。

「ただいま! 愛しのわがベッ……ド……」
 部屋では見覚えのない人物が着替えていた。
 短めの金髪、少し吊り上がった気の強そうな目、整った顔立ち、白い肌、細い腕に足、比較的小さめではあるが形の良い胸……

 時間が止まった。

 あれ? ここ俺の部屋じゃなかったっけ?
 誰、この美人?
 あ、もしかして厳しいシゴキに耐えてる俺に神様が与えてくれたご褒美か。
 お腹すいた。ご飯食べたい。

 余りにも予想外の出来事に頭がおかしくなって、変な事まで頭の中に浮かんでくる始末。
 どうすればいいのか分からなくなったマルコがとった行動は、
「……ごゆっくり」
 ゆっくりと扉を閉めようとした。

 が、聞こえる風切り音。感じる殺気と嫌な予感。
 その二つに反射的に横へ飛ぶ。一瞬後に元いた場所を通過する、封切りばさみ。
 頬に浮かぶ一筋の赤い線から流れる血。

 今、この瞬間だけは紅真にシゴかれていて良かったと、マルコは心から思った。
「あ、あっぶねぇ!」
 だが、危機はまだ去っていない。
 最悪の結末をひしひしと感じ取り、後ろを向いてわき目も振らずに逃げ出す。

 そんなマルコを花瓶の破片が追い抜かしていく。
 後ろから投擲されているらしい。

「俺が悪かったから助けてぇぇぇぇぇ!」
 特殊なスキルを持っているのか、避けなければ致命傷になりかねない部分を狙いたがわず投げてくる。
 結局、マルコに心休まる休日なんてものは訪れる事がなかった。
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