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生徒会・消えた優勝旗
9月10日(3)
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「だからといって、岩崎さんが関わる必要は——」
「たった今、会長から依頼されたじゃないですか。それにほら、タイムリミットまで時間がないですよね? 何にしても二人で手分けするのがベストな選択だと思いますよ」
岩崎さんはニコニコしながら、しかし圧は強めに僕に迫る。
「……はあ、もう、仕方ないですね」
僕はそれ以上の抵抗を諦めた。確かに、時間は限られているし、手分けした方が色々便利なのも確かだ。彼女が僕に近づこうとする理由はさっぱりわからないけど、今、このタイミングで彼女の協力を拒絶するメリットは何もない。
「はい! じゃあ、まず何から取りかかりますか? やはり目撃者捜しでしょうか?」
「そうだな。これだけ人がいるんだ。誰も見ていないということはないと思う」
「はい、じゃあ、本部テントに一番近い古沼高三年応援席の聞き込みは私やりますね。太陽君は反対側、放送席と、その向こうの用具係をお願いします」
岩崎さんはテキパキと方針を定め、何かあれば無線で、と言い残してさっさと駆けていった。
◆◆
「いや、悪いが気付かなかったな。競技開始の直前だったから、正直それどころじゃなかったというか……」
「そうですか、お忙しいところ、どうもありがとうございました」
僕は三十回近くも繰り返した同じやりとりに、落胆しながらその場を離れた。
放送部、競技用具係のテントで聞き込みを続けてみたものの、これという証言は得られなかった。というか、競技が再開されたためにどちらも目の回るような忙しさで、ろくな証言が取れなかったという方が正しい。
「こうなると、向こう側にどの程度目撃者がいるかにかけるしかないか……」
僕は本部テントの向こう、岩崎さんの向かった古沼高校の応援席を透かし見る。クラス旗が激しく打ち振られ、ほとんど全員が立ち上がって熱心に声援を送っているところを見ると、どうやら白熱しているらしい。
「こういうイベントって、当事者じゃないとすごく寂しく感じるものなんだな」
なんとなく疎外感を感じ、思わずつぶやきが漏れる。
僕は今回、写真係を担当するために生徒会から競技への参加を止められていた。中学時代は運動オンチなりに綱引きや騎馬戦などの集団競技には出てたから、まったく競技に関わらないのは小学校入学以来、今回が生まれて初めての経験だ。
それなのに、今は写真係からも外されて……。
「先輩は……」
僕は不意に優里先輩のことを思う。
彼女は、理不尽な暴力で日常を奪われて以来、ずっと孤独に過ごしてきたのだ。本来、先輩は入学後すぐ生徒会に推薦されるほど優秀で、それなりに人望もあったはず。それなのに……。
『先輩、今からそっちに行ってもいいですか?』
気がつくと、僕は思わずそんなメッセージを送っていた。
『突然何を言い出すんだ? 優勝旗の行方を追うんじゃなかったのか?』
即座に、言われて当然のメッセージが戻って来る。だが、今日の僕には口実がある。音声通話に切り替えて、ぐいぐい押す。
「図書館のビデオ、先輩なら再生する手段をお持ちですよね?」
『……ないこともないが、それよりも今はまず目撃者を探すべきじゃないのかな?』
岩崎さんと同じような主張に内心少し驚く。捜査のセオリーを説いているのか、それとも頭の切れる人は誰しも同じようなことを思いつくものなのか。
「いえ、それは岩崎さんがやってますから、僕は——」
『ちょっと待て……君は彼女と一体どういう関係なんだ? なぜ彼女が君の手伝いをしてるんだい?』
「とりあえずそっちに迎えに行きます。出かける準備をして待っていて下さい」
『あ、ちょ——』
僕は強引に通話を打ち切ると、スマホの代わりに今度はトランシーバーを取り出してトークボタンに指をかける。
『四持より岩崎さん、悪いけど、四十分ほどはずすよ』
『はぁ? 太陽君、優勝旗はどうするんですか? 証言はどうするんです——』
『事件解決のために、頼りになる援軍を連れてくるんだ』
僕は力強く答えて通話を打ち切った。
校門の前には、体育祭の観客を運んできたタクシーがちょうどUターンをしようとしていた。僕は大きく手を振ってそのまま後部座席に乗り込むと、「桜木町まで!」と言いながらシートベルトを締める。
会長は僕を評価していると言ってくれたけど、いつだって僕一人で解決できた事件はない。影で色々と道具をそろえ、推理を働かせ、僕を立ててくれた優里先輩がいたからこそ成果を上げることができたのだ。
それだけは勘違いしたくない。
◆◆
通話では明らかに気乗りしない様子だったけど、僕がマンションのドアを開けると、玄関の上がり框には、初めて袖を通したらしい学校指定ジャージ姿の優里先輩が座り込んで僕を待っていた。
「へえぇ」
「何だ?」
「いえ、制服以外の服装を初めて見ました。けっこう似合ってますよ」
「何を言い出すんだ。前にもここで部屋着とか色々見てるじゃないか」
「それはそれ、これはこれです」
「ふん!」
先輩はわずかに顔を赤らめる。むっとした表情で抱えていたジュラルミン製のトランクを僕に押しつけると、すいと立ち上がり、真新しいトレーニングシューズの爪先でトントンと土間のタイルを突いた。
「あれ、そんな靴、持ってましたっけ?」
「うるさいなあ君は。そんな細かいことどうでもいいだろう?」
ますます顔を赤くしてそっぽを向いてしまったので、これ以上からかうのはやめておく。
「タクシー、待たせてますからどうぞ」
仏頂面はそのままだが、それを聞いた先輩は少しだけホッとした様子で僕を押しのけるように表に出た。
「何をしてるんだ? 早く行くぞ」
玄関を出るまでにひと悶着あるもんだと内心覚悟していた僕は、素直に出てきた先輩に拍子抜けする。
「何だ?」
「いえ。意外だな、と。先輩は引きこもりですから、相当手間がかかるだろうと思ってました」
「さっきから色々と鬱陶しいぞ君は。ボクはとっとと事件を解決して、とっとと戻って来たいだけだ。ほら、どこだタクシーは?」
肩をいからせてエレベーターに向かう先輩を追いかけながら、迎えに来て本当に良かったと思った。
「ところで先輩、先輩はもう犯人の見当がついていたりするんですか?
タクシーの車内。窓枠に肘をついてつまらなそうにしていた先輩は、僕に向き直ると小さく首を振る。
「さあ、どうだろうな。ただ、ボクは、優勝旗自体は結構あっさり見つかるんじゃないかと思ってる」
「え? どうしてです?」
「犯人にとって負担にしかならないからだよ。優勝旗、名前は仰々しいが、実体は特定の用途にしか使えない古ぼけた布切れだ。古物商に持ち込むこともネットオークションに出すこともできない」
「どうしてですか?」
「そんなことをすれば足がつくからだよ。それに、旗竿に一本だけ残っていたペナント、これはどう考えても犯人からのメッセージだ。犯人は優勝旗を盗むのが目的なのではなく、ペナントに残されていた〝第三回緑古戦〟について何か言いたいことがあるんだ」
「ああ、だから記録を調べろ、と?」
「そう。司書先生が石頭なのには困ったもんだが、まさかプレーヤーを持ち込むなとまでは言わないだろう」
「ああ、これのことですね」
僕は膝の上に載せたジュラルミンのトランクをポンと叩く。
「ああ、ビデオに一体何が映ってるのか、楽しみだよ」
◆◆
「太陽君、待ってました!」
タクシーを降りると、すぐに岩崎さんが駆け寄ってきた。ところが、僕の後に降りてきた優里先輩を見てかすかに表情を曇らせる。
「太陽君?」
「あ、遅くなってごめん。こちら比楽坂先輩」
「あ、あの……」
岩崎さんは気後れしたようにわずかに後ずさった。
「どうした? それより、目撃者は?」
「いえ、それが残念ながら……犯人はよほど慎重にタイミングを選んだようで……」
「僕の方も全然だったよ。とりあえずこれ以上目撃者捜しに時間を費やすのは時間のムダだと思う」
「……ですが……」
「図書館に行くぞ!」
その時、突然優里先輩が口を挟んだ。
「犯人は何か目的があって優勝旗を盗んだ。だったら、こちらが意図をくんでアクションを起こせばいいんだよ。そうすれば、黙っていてもそのうち向こうから姿をあらわすさ」
「そう簡単にいくものでしょうか?」
岩崎さんは疑うような目つきで先輩を睨む。
「岩崎さん、とりあえず先輩の策に乗ってみようよ。僕らは目撃者を見つけられず、このままでは手詰まりだ」
「確かにそうですが……」
目の前のやりとりを聞きながら、僕は岩崎さんが先輩を見る目つきが何となく気になっていた。
言葉使いは丁寧だ。それなのになんだかけんか腰に見える。その理由が良くわからない。
「時間が惜しい。四持、行くぞ」
イライラと貧乏ゆすりをしていた先輩は、もう我慢しきれないといった様子でさっと身を翻す。慌てて後を追う僕を見やる岩崎さんの表情は何だか恨めしげに見えた。
「太陽君、助手なら私がいますのに、なぜ比楽坂先輩を呼ばれたんですか?」
階段を駆け上がりながら、先を行く先輩に聞こえない程の小声で問われて面食らう。
「え? 助手? 違うよ。むしろ僕が先輩の助手なんだ。小間使いみたいなもんだよ」
「小間使い?」
「あ、えーっと、アシスタントって言えばわかる? ごめんね、ウチの両親は言葉遣いが古風なんで移っちゃうんだ」
「違います。私は太陽君が凄い人だと知っています。会長さんだってそう言ってたじゃないですか。なぜ自分から自分の価値を下げるような言動をされるんですか?」
「へ?」
「ひゃっ!」
僕は思わず足を止め、後ろから来た岩崎さんが背中にぶつかって悲鳴をあげた。
「どういうこと、それ? 岩崎さんって、今回が初対面じゃないの?」
「たった今、会長から依頼されたじゃないですか。それにほら、タイムリミットまで時間がないですよね? 何にしても二人で手分けするのがベストな選択だと思いますよ」
岩崎さんはニコニコしながら、しかし圧は強めに僕に迫る。
「……はあ、もう、仕方ないですね」
僕はそれ以上の抵抗を諦めた。確かに、時間は限られているし、手分けした方が色々便利なのも確かだ。彼女が僕に近づこうとする理由はさっぱりわからないけど、今、このタイミングで彼女の協力を拒絶するメリットは何もない。
「はい! じゃあ、まず何から取りかかりますか? やはり目撃者捜しでしょうか?」
「そうだな。これだけ人がいるんだ。誰も見ていないということはないと思う」
「はい、じゃあ、本部テントに一番近い古沼高三年応援席の聞き込みは私やりますね。太陽君は反対側、放送席と、その向こうの用具係をお願いします」
岩崎さんはテキパキと方針を定め、何かあれば無線で、と言い残してさっさと駆けていった。
◆◆
「いや、悪いが気付かなかったな。競技開始の直前だったから、正直それどころじゃなかったというか……」
「そうですか、お忙しいところ、どうもありがとうございました」
僕は三十回近くも繰り返した同じやりとりに、落胆しながらその場を離れた。
放送部、競技用具係のテントで聞き込みを続けてみたものの、これという証言は得られなかった。というか、競技が再開されたためにどちらも目の回るような忙しさで、ろくな証言が取れなかったという方が正しい。
「こうなると、向こう側にどの程度目撃者がいるかにかけるしかないか……」
僕は本部テントの向こう、岩崎さんの向かった古沼高校の応援席を透かし見る。クラス旗が激しく打ち振られ、ほとんど全員が立ち上がって熱心に声援を送っているところを見ると、どうやら白熱しているらしい。
「こういうイベントって、当事者じゃないとすごく寂しく感じるものなんだな」
なんとなく疎外感を感じ、思わずつぶやきが漏れる。
僕は今回、写真係を担当するために生徒会から競技への参加を止められていた。中学時代は運動オンチなりに綱引きや騎馬戦などの集団競技には出てたから、まったく競技に関わらないのは小学校入学以来、今回が生まれて初めての経験だ。
それなのに、今は写真係からも外されて……。
「先輩は……」
僕は不意に優里先輩のことを思う。
彼女は、理不尽な暴力で日常を奪われて以来、ずっと孤独に過ごしてきたのだ。本来、先輩は入学後すぐ生徒会に推薦されるほど優秀で、それなりに人望もあったはず。それなのに……。
『先輩、今からそっちに行ってもいいですか?』
気がつくと、僕は思わずそんなメッセージを送っていた。
『突然何を言い出すんだ? 優勝旗の行方を追うんじゃなかったのか?』
即座に、言われて当然のメッセージが戻って来る。だが、今日の僕には口実がある。音声通話に切り替えて、ぐいぐい押す。
「図書館のビデオ、先輩なら再生する手段をお持ちですよね?」
『……ないこともないが、それよりも今はまず目撃者を探すべきじゃないのかな?』
岩崎さんと同じような主張に内心少し驚く。捜査のセオリーを説いているのか、それとも頭の切れる人は誰しも同じようなことを思いつくものなのか。
「いえ、それは岩崎さんがやってますから、僕は——」
『ちょっと待て……君は彼女と一体どういう関係なんだ? なぜ彼女が君の手伝いをしてるんだい?』
「とりあえずそっちに迎えに行きます。出かける準備をして待っていて下さい」
『あ、ちょ——』
僕は強引に通話を打ち切ると、スマホの代わりに今度はトランシーバーを取り出してトークボタンに指をかける。
『四持より岩崎さん、悪いけど、四十分ほどはずすよ』
『はぁ? 太陽君、優勝旗はどうするんですか? 証言はどうするんです——』
『事件解決のために、頼りになる援軍を連れてくるんだ』
僕は力強く答えて通話を打ち切った。
校門の前には、体育祭の観客を運んできたタクシーがちょうどUターンをしようとしていた。僕は大きく手を振ってそのまま後部座席に乗り込むと、「桜木町まで!」と言いながらシートベルトを締める。
会長は僕を評価していると言ってくれたけど、いつだって僕一人で解決できた事件はない。影で色々と道具をそろえ、推理を働かせ、僕を立ててくれた優里先輩がいたからこそ成果を上げることができたのだ。
それだけは勘違いしたくない。
◆◆
通話では明らかに気乗りしない様子だったけど、僕がマンションのドアを開けると、玄関の上がり框には、初めて袖を通したらしい学校指定ジャージ姿の優里先輩が座り込んで僕を待っていた。
「へえぇ」
「何だ?」
「いえ、制服以外の服装を初めて見ました。けっこう似合ってますよ」
「何を言い出すんだ。前にもここで部屋着とか色々見てるじゃないか」
「それはそれ、これはこれです」
「ふん!」
先輩はわずかに顔を赤らめる。むっとした表情で抱えていたジュラルミン製のトランクを僕に押しつけると、すいと立ち上がり、真新しいトレーニングシューズの爪先でトントンと土間のタイルを突いた。
「あれ、そんな靴、持ってましたっけ?」
「うるさいなあ君は。そんな細かいことどうでもいいだろう?」
ますます顔を赤くしてそっぽを向いてしまったので、これ以上からかうのはやめておく。
「タクシー、待たせてますからどうぞ」
仏頂面はそのままだが、それを聞いた先輩は少しだけホッとした様子で僕を押しのけるように表に出た。
「何をしてるんだ? 早く行くぞ」
玄関を出るまでにひと悶着あるもんだと内心覚悟していた僕は、素直に出てきた先輩に拍子抜けする。
「何だ?」
「いえ。意外だな、と。先輩は引きこもりですから、相当手間がかかるだろうと思ってました」
「さっきから色々と鬱陶しいぞ君は。ボクはとっとと事件を解決して、とっとと戻って来たいだけだ。ほら、どこだタクシーは?」
肩をいからせてエレベーターに向かう先輩を追いかけながら、迎えに来て本当に良かったと思った。
「ところで先輩、先輩はもう犯人の見当がついていたりするんですか?
タクシーの車内。窓枠に肘をついてつまらなそうにしていた先輩は、僕に向き直ると小さく首を振る。
「さあ、どうだろうな。ただ、ボクは、優勝旗自体は結構あっさり見つかるんじゃないかと思ってる」
「え? どうしてです?」
「犯人にとって負担にしかならないからだよ。優勝旗、名前は仰々しいが、実体は特定の用途にしか使えない古ぼけた布切れだ。古物商に持ち込むこともネットオークションに出すこともできない」
「どうしてですか?」
「そんなことをすれば足がつくからだよ。それに、旗竿に一本だけ残っていたペナント、これはどう考えても犯人からのメッセージだ。犯人は優勝旗を盗むのが目的なのではなく、ペナントに残されていた〝第三回緑古戦〟について何か言いたいことがあるんだ」
「ああ、だから記録を調べろ、と?」
「そう。司書先生が石頭なのには困ったもんだが、まさかプレーヤーを持ち込むなとまでは言わないだろう」
「ああ、これのことですね」
僕は膝の上に載せたジュラルミンのトランクをポンと叩く。
「ああ、ビデオに一体何が映ってるのか、楽しみだよ」
◆◆
「太陽君、待ってました!」
タクシーを降りると、すぐに岩崎さんが駆け寄ってきた。ところが、僕の後に降りてきた優里先輩を見てかすかに表情を曇らせる。
「太陽君?」
「あ、遅くなってごめん。こちら比楽坂先輩」
「あ、あの……」
岩崎さんは気後れしたようにわずかに後ずさった。
「どうした? それより、目撃者は?」
「いえ、それが残念ながら……犯人はよほど慎重にタイミングを選んだようで……」
「僕の方も全然だったよ。とりあえずこれ以上目撃者捜しに時間を費やすのは時間のムダだと思う」
「……ですが……」
「図書館に行くぞ!」
その時、突然優里先輩が口を挟んだ。
「犯人は何か目的があって優勝旗を盗んだ。だったら、こちらが意図をくんでアクションを起こせばいいんだよ。そうすれば、黙っていてもそのうち向こうから姿をあらわすさ」
「そう簡単にいくものでしょうか?」
岩崎さんは疑うような目つきで先輩を睨む。
「岩崎さん、とりあえず先輩の策に乗ってみようよ。僕らは目撃者を見つけられず、このままでは手詰まりだ」
「確かにそうですが……」
目の前のやりとりを聞きながら、僕は岩崎さんが先輩を見る目つきが何となく気になっていた。
言葉使いは丁寧だ。それなのになんだかけんか腰に見える。その理由が良くわからない。
「時間が惜しい。四持、行くぞ」
イライラと貧乏ゆすりをしていた先輩は、もう我慢しきれないといった様子でさっと身を翻す。慌てて後を追う僕を見やる岩崎さんの表情は何だか恨めしげに見えた。
「太陽君、助手なら私がいますのに、なぜ比楽坂先輩を呼ばれたんですか?」
階段を駆け上がりながら、先を行く先輩に聞こえない程の小声で問われて面食らう。
「え? 助手? 違うよ。むしろ僕が先輩の助手なんだ。小間使いみたいなもんだよ」
「小間使い?」
「あ、えーっと、アシスタントって言えばわかる? ごめんね、ウチの両親は言葉遣いが古風なんで移っちゃうんだ」
「違います。私は太陽君が凄い人だと知っています。会長さんだってそう言ってたじゃないですか。なぜ自分から自分の価値を下げるような言動をされるんですか?」
「へ?」
「ひゃっ!」
僕は思わず足を止め、後ろから来た岩崎さんが背中にぶつかって悲鳴をあげた。
「どういうこと、それ? 岩崎さんって、今回が初対面じゃないの?」
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