底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

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第6章

第9話

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「お疲れ様です。ミーツ様でございますね。
私はこの先の案内を仰せつかった、魔導人形のサンと申します」

 空飛ぶ象が降りたあと、レインは着替えてくるとかで、瞬間移動で何処かに転移した。
 残された俺は象から降りると、サンと名乗るメイド型の魔導人形がやって来て、そう挨拶をし、俺を塔の前で待っていた魔導人形と同様に人間と変わらない見た目に、深々と頭を下げたあとに微笑む笑顔に一瞬ドキッと心臓が高鳴った気がした。

「ミーツ様は下の大陸出身でしょうか。私どものような自立型魔導人形が珍しいようですね。
この上大陸では私どものような、魔導人形は特に珍しくはないのです。
 と、申しましても私たちの型を所有しています方は、ごく少数の方々だけで、それ以外は量産型の魔導人形が一般的でございます。
 近いうちに街に出られると思いますので、その時にでもお分かりになられるとお思います」
「そ、そうなんだ。あんまり不躾にジロジロ見て悪かったね」

 彼女の微笑んだ表情が少し驚いたような表情に変化して、クスクスと笑い出した。

「塔の前まで迎えに来てた子といい、本当に人間みたいだね。俺の知ってる魔導人形は全く笑いもしないからさ。そのくせ、俺のことが第一で、俺のことに関することに我を忘れることもあるんだよ」
「ミーツ様の、原初の魔導人形の一体であるソルトでございますね。ソルトの調査と調整は終了してますので、もうしばらくしましたら再会できます」
「原初の魔導人形の一体って…」
「原初の魔導人形とは、私どもが造られる前に造られた十三体の魔導人形の総称でございます。 そのもっとも古く、一番最初に造られたとされる魔導人形をミーツ様によって、解放されたことにより、ヤマト国の魔導人形制作塔の者たちが興奮した様子でメンテナンスを行っております」

 彼女の言葉に出てきた最初の魔導人形って、いうのはゼロのことだろうが、どんなメンテナンスを行っているかが気になるものの、もうあまり考える時間がなく、案内された部屋に到着した。

 案内された部屋では沢山のメイドがおり、彼女の話では、これらのメイド全てが魔導人形だというのにまたも驚いた。
 その魔導人形のメイドは、銀色に輝く一つの指輪を持って来て、俺の小指に装着させた。

「さあミーツ様、着衣と唱えて下さい」

 そう彼女に言われて着衣と言ったら、全身が光って、ラメ入りの純白のキラキラと光るタキシードを着ている状態になった。

「元の服は指輪の中に収納されてますのでご安心下さい。その指輪さえあれば、幾つもの服装を登録すればいつでも着替えることができます。それでは次は髪も整えてましょう」

 この指輪があれば、わざわざあんな所で着替えなくても良かったのではないかと思ったものの、タダで衣服をくれたため、不満を言えばバチが当たるというものだ。
 複数のメイドたちの手によって、顔や髪も弄られて、しばらくなすがままにされていると、突然全身鏡が目の前に現れて自身の姿を見せられた。

 髪は後ろにオールバックに束ねられ、無精髭も綺麗に剃られ、顔も少し光沢が出る化粧をされた。靴もラメ入りの白で、蝶ネクタイだけ黒で目立ち、服装は先程のラメ入りのタキシードで、自身の姿を見て恥ずかしくて顔を手で覆ってしまった。

「ミーツ様、お似合いでございます。
 さあ、パーティーの主役ですので参りましょう」

 顔を覆った俺の手をサンが掴んで、他のメイドに指示を出す。
 彼女の指示に従う彼女たちは、俺の腕や脚を掴んで抱え、神輿のように運ばれていき、降ろされた場所は会場内を見渡せられるテラス席で、小雨やレインが座って集まる皇族の場で魔導人形たちは深々と礼をして退出し、皇族の皆んなに笑顔で拍手された。

「ふふふ、ミーツさんとてもお似合いです。
コーディネートはお婆姉さまです」
「レイン、その馬鹿にした言い方ですと、わたくしのセンスが悪いとでもおっしゃるのかしら?」
「いえいえ、とんでもありません!
ミーツさんも気に入ってますよね?ね?」

 この恥ずかしい服装は小雨のコーディネートかと思いながらも、レインの気に入ってますよねとの懇願するかの問いに、戸惑いながらも頷いたら小雨は頬を染めた。

「まあ、ミーツさんもお気に召したようで嬉しいですわ」

 急に頬が赤く染まったから、熱でもあるのかと思ったものの、単純に自分が考えたコーディネートに俺が気に入ったから嬉しくなったようだ。 こんなタキシードを着なきゃいけないようなパーティーというから、ある程度身構えていたものの、特に何かをしなければいけないといったことはなく、レインに紹介された皇族の親戚の面々の他、まだ紹介されてない見知らぬ人もいるものの、その全てが笑顔で出迎えてくれた。

「ああ、第二妃の母上と、第二妃の子である弟たちの紹介がまだでしたね。それに、残りの親戚の紹介をこの場でします。
 本当はもう一人第二妃の母上の子であります姉がいるのですが、今日のこの時まで間に合わなかったようです」
「第二妃のマリノアリアと申します。
 それでこちらが、わたくしの子の長男のノウムと次男のキリです。
 レインが仰った通り、あともう一人いますのですが、お恥ずかしいことながら少々お転婆で、皇都内で冒険者をしてまして、間に合えばパーティーの最後に到着すると思いますわ」
「母からのご紹介されました長男のノウムです。
こう見えても男ですので、その辺りは気を付けて下さいませ」
「ぼぼ僕、僕は、じじ次男のキリといいます。僕も男です」

 椅子に座っていた第二妃とその子である第二妃の女の子に見える息子たちの紹介が始まって、そのあと何人かの紹介をされたものの、正直紹介されたばかりだが、似たような名前の人ばかりで、毎日会わないとすぐに忘れそうだ。

 そして、パーティーとは名ばかりで、皇族がテラス席に座って軽い挨拶のあと、食事を楽しみ下の会場では、貴族らしき人たちがダンスと音楽を披露する団体を見て楽しんでいるといった感じで、特に俺が踊ったり挨拶をしなければいけないようなことはないようで安堵した。

 食事も音楽も終盤になってきた所で、レインの父親である陛下が手を挙げたことにより、近くに待機していた魔導人形のメイドが金色の鈴を鳴らした。
 それにより下にいる貴族たちが椅子から床に這いつくばり、音楽も止んだ。

「今宵は突然のパーティーの招待に応じてくれた他国の王族及び貴族の皆に感謝する。
 今回急遽パーティーを開いたには訳がある。
 今回のパーティーでとある一人の男を紹介したいからである。
 その者はミーツという者だ。その者は冒険者ではあるものの、我ら皇族の家族の一員であると思ってもらいたい」

 彼は下の者たちにそう話したのち、俺に目配せをした。
 それにより、立ち上がって彼の横に並んだら下が騒ついた。

「この顔を覚えて帰っていただこう。
この者に手出しする者は、国内の貴族は勿論のこと、例え他国の王族貴族でも、我らが黙ってはいないことを先に言っておく。
 例え友好国でさえも、このミーツ殿に無礼なことがあれば戦争をしても問題ないさえ思っておる。これは私だけの判断ではない、私の祖母の小雨、前皇帝で私の父上の稲妻、皇太子のレインも同意していることだ」

 彼が俺の背中に手を回すと、俺の巨大な立体映像が下のフロアの中央部に現れた。
どこにでもいるような普通のおっさんの姿に何故、皇族が家族の一員であることを不思議に思っていることだろう。
 彼の言葉に俺を含め、下にいる皆が驚いた。
 この場で彼にどういうことか問い詰めたい気持ちがあるものの、今発言ができる状況でないため、何も言うことが出来ない。


「ミーツ殿。軽く自己紹介でもよろしいかな。
 転移者であることは、この国では特に珍しくないものだから、そのことを軽く紹介してやるといい」

 パーティーでは何もしなくてもいいと思っていただけに、突然自己紹介でもしろと言われて、頭の中が真っ白になるものの、自身の頬を両手で張り手して少し考え、俺がこの世界に転移し、この国に来るまでの経緯を簡潔に話したら、下の者たち一斉に拍手をしだし、しばらく拍手が鳴り止まない。

 拍手の音を止めたのはまたも鈴の音で、陛下はいつの間にか数歩下がっており、代わりに俺の横には小雨とレインが俺を挟む形で立っていた。

「現皇帝である豪雨が言った通り、この者ミーツは、いずれは皇族の中の誰かと婚姻関係を持つ事が決定しています。
 ですから、先に警告しておきます。ミーツを我が家に取り入れて囲い込むような王族貴族がいれば、わたくしが黙っておりません。
 それをここで宣言いたします」
「曾祖母さまである小雨様が仰る通り、私のミーツさんはどの家にも渡しません。
 ミーツさんに手を出す家系がいれば、陛下が仰った通り、それ相応の罰や戦争も行うことがあると、今ここで覚えておくといいです」

 鈴が鳴り止んだあと、静まり返ったフロアで先に小雨が話し、次にレインが話す。
 静まり返った貴族たちの生唾を飲む音が聞こえてくるほどの静寂に包まれ、最後に豪雨こと陛下が軽く、こういう事だから皆、気を付けるようにと言ってパーティーはお開きになった。

 終わりの合図はトライアングルのチーンと鳴り響く音と共に、陛下を挟んだ形で第一妃と第二妃が最初に退出して、次に小雨とレインが俺の腕に絡み付いた状態で移動した。
 それからは、他の皇族や親戚にあたる人たちも続々と後から付いてきて、移動中にレインから下の者たちも皇族が退出後に誰も居ないテラス席に一礼をして、退出するのだと聞いた。

「今宵のパーティはいかがでしたかな?ミーツ殿は緊張されてましたな」

 先に退出した皇帝であるレインの父親、豪雨が移動してる先で待ち構えていた。

「ははは、そうですね。最初こそは、ただのお食事会のようでしたが、挨拶をしなければいけないと分かった時は頭の中が真っ白になっちゃいましたね。皇帝陛下は豪雨様と仰るのですね。不敬ですが、私は腫れ物扱いされたくないですね」
「ちょっ!ミーツ殿、私が名乗らなかったのは悪いですが、恐らく私とミーツ殿は同年代。
 気軽に豪雨と呼び捨てにして、話し方もいつもお仲間と話しているように話してくだされ!
それに、腫れ物扱いも当然ではありますぞ。
 我ら皇族の身内が他国で馬鹿にされることがあれば、即座に戦争を起こし、馬鹿にした者に死よりも恐ろしい目に合わせて来ましたのですぞ」

 彼のさぞ当たり前に言う言葉に背筋がヒヤリとした。
 ここまで言われてしまえば、この問題について反論することが出来なくて、次の呼び捨てについて反論する。

「そうは言われましても、豪雨様はこの国の皇帝陛下で私は一冒険者。いつも通り話すなんて、とてもじゃないですが話せません」
「父上。そうですよ。ミーツさんと普通に話せるのは皇族でも私だけですよ。私はミーツさんに呼び捨てされてる仲なんですからね」

 レインが横で俺との仲の進展についてドヤ顔で話しに入ってきた。

「なんですって!ミーツさん、わたくしも小雨と呼び捨てに呼んでくださいまし。レインだけズルイですわ」
「その通りですぞ!私も豪雨と呼んでくだされ!」

 レインの言うことに反応した二人が俺に詰め寄ってくるのに苦笑いしながらも、二人の名前を呼び捨てにしたら、レインは口を尖らせて面白くないといった表情をし、小雨は頬を紅く染め、豪雨はこれからもそれで頼みますぞ!と俺の背中にをバンバンと叩く。

 他の皇族の身内たちは驚愕した顔で俺を見ている中、通路の邪魔になりますよと、豪雨の腕に絡み付いた第一妃と第二妃のリファレンとマリノアリアがそう言ったら、豪雨はそうだなと言いながらも、堂々と通路の真ん中を歩き始める。

「さあ、わたくしたちも豪雨に続きましょう」

 小雨は俺の腕に絡み付いた手に力を入れて、豪雨に付いていく形で歩きだし、俺も釣られて歩み始めたら、レインも負けじと俺の腕に絡み付く力を強くする。後方を歩いていた皇族の身内たちはしばらく歩いたあと、小走りに豪雨の前に整列して礼をしたあと、彼の許すとの言葉の後、一つの扉の中に全員入って行った。

「皆さんは転移魔法陣の部屋に入って、それぞれの向かう先に行ったんですよ」

 レインがこちらが質問する前に皆が入った部屋について教えてくれた。

「パーティーが終わって付いて来てたから、これから雑談とかするんだろうと思ってたけど、そういうのはしないんだね」
「はい。身内と言っても、私にとってほとんどが他人です。
 お婆姉さまにとっては身近な方々ばかりでしょうが、父上にとっても左程仲の良いわけではないようですので、定期的な報告会以外で話すことは滅多にないみたいですね」
「あら、わたくしも別に親しいわけでわないですわ。あの子たちの祖父母たちなら、知ってる子が多かったですけど、今の世代の子たちはわたくしを避けていきますもの。親戚でもわたくしを慕っています子たちなら、まだ何人かいますけれど、今の子たちからは皇族の籍を外しても構わないと思っていますわ。
 何か不祥事でも起こしてくれれば、直ぐにでも皇族の籍を外して貴族街からも追い出しますのに」

 彼女はあの人らのことを気に食わないようだ。 皇族が不祥事を起こすとは、どんなことだろうかと思うものの、冷たい目で彼らが入って行った扉を見つめ続ける彼女に聞くのは、いささか怖くて聞くに聞けないでいると、後方から俺の名前を呼ぶ聞き覚えのある声が聴こえてきた。

「ミーツ様、ご無事でなによりでございます。
随分と前になりますが、私のメンテナンスが終了し、ミーツさまとの再会までの間、スリープモードに入ってました。ミーツさまに再会できてとても嬉しいです」

 声の主はソルトだった。
 彼女は俺の背中に寄り添ってシャツから手を差し入れ、胸を触ってきた。

「ちょっと!この女はなんなのかしら?
ミーツさんに馴れ馴れしいではありませんの!
立場と場所を弁えなさい」
「お婆姉さま、これはソルトといって、ミーツさんがとあるダンジョンで見つけた、原初の魔導人形の一体なんです」

 ソルトが抱き着いたことにより、小雨はヒステリック気味に叫んだら、すかさずレインがソルトの説明をしてくれた。

「ミーツさま。この者は何ですか?
 私との再会を邪魔をするこの者は排じょ…。
 これは申し訳ございませんでした。
 この国の皇族の方でしたか。
 私はそこのレイン殿下の仰る通り、ミーツ様の魔導人形のソルトと申します。
 今後もう会う機会はあまりないでしょうが、万が一会う事があったときはよろしくお願い致します」

 ソルトは小雨に喧嘩でも売っているのだろう、排除と言い掛けるも、淡々と皇族に対する礼をしながらも、小雨を睨みながらそう言った。

「ソルト!この人はこの国の陛下である豪雨のお婆さまだ。そんな言い方したら失礼だろう。  
 小雨、済まない。ウチのソルトがとても失礼なことを言ってしまって」

 彼女の言葉に俺が代わりに謝ると、彼女は眉間に皺を寄せて彼女を睨む。

「主であるミーツさんに謝らせるなんて、なんてダメダメな人形なんですこと。
 でも貴女の言う通り、貴女とは今後は会う事がないでしょう。皇宮にはミーツさん以外の者は入られないようにしますからね。
 それと、ミーツさん、早速呼び捨てにしてくれてありがとうございます。とても親しい関係になれたみたいで嬉しく存じます」
「お婆姉さま!それはいくらお婆姉さまの言葉でも、私がそれを許しません。
 いずれは私はミーツさんのお仲間たちも、この皇宮に招き入れて父上との謁見許可をとる予定でありますし、パーティーにもご招待をする予定ですので」

 両腕に絡み付く二人の手の力が強くなって来ているのが分かる。俺を挟んでバチバチと音が鳴るように睨みあっていたところで、後方から抱き着いているソルトのシールドによって、腕に絡み付いた二人は引き離された。

 シールドはソルトと俺だけ赤色の薄い膜で包まれて、小雨とレインは突然引き剥がされたことに少々呆然としていたものの、すぐに何が起こったか理解し、再び俺の腕を掴もうとした時、ソルトのシールドに触れて電気でも走ったかのようにバチンと音が鳴って、出した手を引っ込めて指を摩った。

「いくらミーツさんの魔導人形だからって、これはやり過ぎではないかしら?」
「申し訳ございませんが、私の主であるミーツさまが困っているようでしたから、勝手ですが守らせて頂きました次第です。
決してやり過ぎではございません」
「ふふふ、流石。原初の魔導人形なだけはありますね。原初の魔導人形は最初の一体を除いてそれぞれが、とある分野に特化していると書物塔の主から聞いてますが、ソルトは子育てと守りに特化しているようです。
 ミーツさんのことを主と言いながら、子供を護っていると勘違いしているのでしょう。
 守りの機能が強いのは、そこからきているのでしょうね」

 レインがソルトの特性について説明をしてくれた。

「へえ、ソルト。そうなのか?
 じゃあ、家事が万能なのか」

 俺に抱き着いたまま、背中にグリグリと顔を押し付けるソルトにそう聞いたら、子供については否定された。
 子育てと守りに特化しているとはいえ、主たる俺のことは子供のように見たことは一度もないそうだ。彼女にその機会を与えたことが無かったのもあるが、彼女の家事力は万能らしい。

 それを聞いて安堵し、俺に触る事が出来ずに複雑そうな表情をしているレインに他の魔導人形たちはどのように特化しているかを聞いたところ、他の魔導人形たちは、戦闘に特化した人形や、守護に特化した人形などがいると言う。
 それに加えて、普段はそのような特化型を使用する場合は、今回行われたパーティーや、城から出る時が多いのだそうだ。ついでにいえば、そのような特化型でも当たり前にメイド型の魔導人形としても使えるため、襲われる時に特化型と普通の魔導人形かの違いが守られる本人たちも分かるのだとか。

 そもそも原初の魔導人形たちは、何処に眠らされているかの情報はあるものの、皇族か極々一部の者しか知らないという。それらを目覚めさせることができるのは、神スキル所有者で尚且つ実力者でないと再起動の条件に当てはまらないとか。
 皇族は原初の魔導人形のうちの二体所有していて、絶対的な守りに特化したのと攻撃に特化した魔導人形らしく、代々皇帝となる者を守るようになっているらしい。現在の皇帝は豪雨だから、豪雨に何か危険なことが起これば瞬時に魔導人形が守ってくれるそうだ。
 だが、その守りに特化した人形は、かなり変わったように作られているため、普段から豪雨に付きっきりではないそうだ。

 他はどのように特化しているか聞きたかったものの、流石にこんな状況の中、しかも廊下の真ん中で話す内容でもないことから先に、俺に抱き着いたままのソルトを引き剥がそうと、ソルトに命令口調で離れろと言うと、瞬時に床に土下座をした形で離れた。

「主たるミーツさまに不快な気持ちにさせて申し訳ございません」
「うん。ごめんね。俺自体は不快に思ってはいなかったけど、場合と場所を考えようね。
 本当に危険な場合だったら仕方ないけど、今回に関しては違うからね」

 反省するソルトになるべく優しくフォローするつもりでそう言うと、それくらいにして下さいとレインに言われ、再び腕に絡み付いてくるレインと小雨。

「ミーツさん、このままずっと、わたくしの伴侶としてわたくしが統治してます領地で暮らしましょう。もし、幻想的で質素な生活がお希望でしたら、わたくしの生まれ故郷でもありますエルフの領地に来て下さいまし」
「お婆姉さま!いくらなんでもそれは許されません!私もミーツさんをお慕いしているんですから!ミーツさんのためなら、性転換の泉に浸かることも厭(いと)わないんですからね」

 再び二人にプロポーズめいたことを言われたことに驚いていたら、豪雨が小雨には軽めに小突いて、レインには強めの拳骨を与えた。

「ミーツ殿の意見も聞かずに何を言っているのだ!小雨婆さまもだ!ミーツ殿が魅惑の魔法でも使ったかと疑いたくなるほど、お前はいつもに比べて豹変し過ぎだ!
 ミーツ殿は誰にも縛られない自由な冒険者だ。この世界に来て冒険者になるしか選択肢が無かったのもあるが、ミーツ殿の意見を尊重すべきだろうが」

 豪雨の言葉にレインは勿論のこと、小雨も黙り込んで見るからに落ち込んでしまった。

「ありがとう豪雨。でも、今の俺はこの国に来て何がしたいかについては、今のところ分からないから、しばらくは冒険者として暮らして行こうと思う。 
 金銭的に余裕はあるから、身体を休めてのんびりとヤマトでの観光するのもいいね。
 それに婚姻も別に全く嫌って訳ではないけど、今は俺の仲間たちと使い魔たちに再会して安心させたいってのが望みだ。
 俺は女性しか興味ないから、悪いけどレインとはどれだけ気が合って慕ってくれても結婚は出来ない」

 俺の気持ちをハッキリと話したら、落ち込むかと思ったレインは落ち込むどころか、ニコニコと笑顔で俺を見つめているのに帰って怖くなった。

「それでしたら、最初からミーツさんとは男性として婚姻する気はありませんでしたよ。
 この国では性転換の泉という男性を女性に、女性を男性に性転換できる一生で二回しか使用することが許されない神聖な泉があるんです。
 ですから、ミーツさんは何の心配もしなくて大丈夫ですよ」
「あらあらレイン。ミーツさんは性別としては勿論のこと、現在男性の身体であるうえ、心も男性であるレインとは婚姻できないと仰っているのですよ。いくら性転換の泉に入ったからといっても、元が男性だと知っていますからミーツさんもお嫌でしょうし。
 その点わたくしなら、なんの問題もございませんわ。夫は数十年前に亡くなりましたし、子も、もうじき亡くなりそうでございますので、何の問題もございません」
「そんなことないです!ミーツさんはそんなこと気にしませんよ!
 ミーツさんそうですよね?それに、お婆姉さまなんかのコブ持ちの大年増なんて論外でしょう。いくら見た目が若いからって、歳はミーツさんの何十倍も上じゃないですか!」


 今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうなくらい、小雨とレインが見つめ合ってお互いの気にしているであろう欠点を罵りあったことで、豪雨がレインにのみに再び拳骨をして二人には頭を冷やす時間が必要だということで、彼は小さなベルを懐から取り出して鳴らしたら、沢山の魔導人形が現れ、彼らを引きずるように連れて行った。

「ミーツ殿、度々ウチの者たちが済まなかった。
ミーツ殿はまだこの国の街も見てないのではないか?」
「そうだね。まだ見てないね。ダンジョンの魔法陣があったギルドの地下から、レインと一緒に、この城に転移したから、まだこの国では城と書物塔しか知らないかな」
「いやいや、本当に申し訳ない。
 この国の街の案内や制度などを説明ができる魔導人形を付けるから、これで満喫してくだされ」

 豪雨が再びベル鳴らしたら、複数の魔導人形がまたも現れ、案内用のは…。
と、言い始めたところでソルトが俺と豪雨の間に入り込んで必要ありませんと言った。

「ああ、そうだったな。お前は原初の魔導人形とはいえ、調整を受けて、この国の基礎となるもの全てを記憶されたのだな。
 それなら私の魔導人形など必要はないな。
 ミーツ殿。もし、街で貴族や他国の王族に絡まれることがあれば、コレを見せるといい。
 私の権限が通用する国なら、有無をいわさずに処罰を決行することができる品物だ」

 彼がそう言って、濃い青色の石の首飾りを手渡して来た。
 受け取って石を見つめたら、石に紋章らしきものが刻み付けられていて、光が当たると角度によっては色が薄くなったり、石の中に小さな宝石が入っているのかキラキラと光ったりして不思議な石だと思いながらも、いつまでも見ていたくなった。

「おっと、これに血を垂らすのを忘れていたな。それとミーツ殿にも、少々血を垂らして貰いたい」

 彼は両隣にいる皇妃から、指に小さめのナイフで切ってもらい、俺が持っている石に血を数滴垂らした。言われるがままに、俺も手渡されたナイフで手を斬って石に血を垂らした。
 彼と俺の血が混ざり合って石に吸収されていったのを確認したあと、彼は満足そうに頷いた。血が吸収された石に何か変化が起こるわけでもなく、満足そうに頷いたあと笑顔の彼は大事な客用の転移部屋まで見送ろうと共に歩き始める。







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