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第5章

第31話

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第31話

「もう!ミーツくん!なんで自分が怒られてるか分かってんの!」
「危うく、ギガ暴食竜での戦いで生き延びたのに、ミーツさんのせいで死ぬとこだったぜ」
「シロヤマ姉様に兄様。た、確かにミーツさんのせいかも知れないですけど、ミーツさんだって悪気があったわけじゃないと思います」
「うーん、難しいところだねえ。あたしたちはまた途中からおじさんに抱きかかえられちゃったしねえ」
「シロヤマさんも、その辺りで終わりにしようよ。いざとなったらミーツさんが助けてくれたと、僕はそう思うし」
「俺は良い訓練になって楽しかった」


 あれからしばらく歩いていたら、俺が想像魔法によって出した竜巻で吹き飛ばした森の木々や岩に、森に生息していたであろう小恐竜などが、空から降り落ちてきて、それらを避けながら進み、次の階層に繋がる魔法陣に辿り着いて早々に、シロヤマから怒られてしまっている真っ最中だ。
 ヤスドルだけが、良い訓練になったと喜んでいる。

「なんなんだよぉ。これじゃボクだけが悪いみたいじゃない。もういいよ!うわーん、シーバスゥ慰めてよぉ」

 シーバス以外のメンバーたちが俺を庇ったお陰で、彼女は責めるのを止めてシーバスに慰められている。
 仲間内で話し合った結果、今回は誰も悪くないという結論になり、白亜紀のような階層を抜けての次の階層について彼女が説明しだした。
 彼女の説明では、サキュバスとインキュバスといった魔物が現れ、男女問わず魅了するらしく、それらの魔物は人や魔族のような見た目だが心がなく、ただひたすらに獲物を魅了して、魅了された獲物は眠らされたり、起きたまま時間をかけて魔力を吸われて殺されるらしい。

 それらの対処法は心を強く持って進むことか、魔法で自身をコーティングして進むことか、魅了の耐性を身につけるか、それらの魔物を見ないよう素早く倒すしかないそうだ。
 この階層は下の階層とは違って大した広さはなく、ただひたすら真っ直ぐに進めばいいだけだそうだが、それらの魔物がそこら中に現れて倒しても、倒されたヤツはダンジョンに吸収されて、すぐ別のヤツが現れて襲われるとのこと。


「じゃあ、とりあえずボクは耐性が既にあるから大丈夫だけど、皆んな気を付けてね。
 ボクは耐性を付けさせる魔法もアイテムも持ってないから、仲間が魅了されてると思ったら、頭とか身体を殴って意識を取り戻し合うよ」

 彼女はそう言うと、魔法陣に乗って先頭を切って素早く歩きだした。
 次にシーバス、アマ、アミ、士郎にヤスドル俺の順番だが、俺が魅了されてしまったらどうしようと不安になったものの、とりあえず彼女に離されないように付いて進んでいたら、背中にコウモリの羽を生やした女性たちが現れた。
 これがサキュバスかと思いながらも、最後尾で観察していると、それぞれのスタイルの良い女性たちが宙を舞ったりしながら、エッチなポーズをしたり、手招きして微笑んでいて、見た目だけなら高級な所のキャバ嬢のようにも見えてくる。

 しかも、この階層に来て香りも、フルーティの甘いような匂いが全体的に広がっているように感じ、光の玉を出さなくても明るい。
 こちらが下手に手を出さなければ無害なのではないだろうかと、そう思っていたのだが、見ていると段々と好みの女性に見えてきて、頭がボーッとしだしたそのとき、シロヤマがサキュバスに炎の玉をぶつけて燃やした。
 それを皮切りに、サキュバスたちは豹変して柔らかそうな肌や手指が獣のような毛に変化し、指が鋭い爪に変わって攻撃をしたシロヤマに襲いかかってくるも、アマとアミによる魔法攻撃によってと、士郎とヤスドルが素早く前に出て撃退した。 シーバスはというと、俺と同じように呆然としていたようだ。
 倒した直後にシロヤマが振り向いて、彼の頭を杖で叩いて正気に戻した。


「ヤスドルもだけど士郎はよく、どうもならなかったね。俺はアレらに魅了されかけていたっていうのに」
「俺はまだ女に興味ないから」
「僕もですよ。だから男性のときは危ないかも知れないです」

 彼らがどうもならなかったのに納得したところで、アマとアミが杖でポカポカと叩いてきた。


「ちょっ、痛いって、何?今の俺は正気だよ」
「ミーツさん危なかったんですよね?だったらミーツさんと兄様は一緒に真ん中にいて下さい」
「そうだよおじさん。後ろでおじさんが連れて行かれたとか、笑い話にもならないよ」

 確かに彼女らの言う通り、ヤスドルと場所を交代したところで彼女らの目の届くところに居てもらなきゃ困ると言ったところで、彼女らの前であるシーバスの後ろに付くことになり、再度サキュバスが現れたとき、背後から二人に杖で叩かれた。

「いかんいかん、どのサキュバスも俺の彼女に見えてエロいポーズをとるから魅了されちまうぜ」


 シーバスにはそう見えるようだが、俺にはボンキュッボンのグラビアアイドル並みの良いスタイルのキャバ嬢やセクシー女優にしか見えないところ、魅了される人によって見え方が違うようだ。
 
 俺はというと、最初の方こそサキュバスに魅了されていたものの、段々と耐性が付き始めて、次第に戦闘に参加できるほどになり、最後尾に移動し直そうとしたら、アマとアミに反対されて仕方なく最後尾はヤスドルのままで、俺は彼女らの背後に付くことで納得してもらえた。
 シーバスは毎回魅了されて耐性が付かずに、ふらふらとサキュバスの元に行こうとしたりして、毎回妹たちから叩かれている。

「さて、そろそろアマとアミに士郎くんは気を付けなよ。インキュバスのご登場だよ」


 シロヤマはそう言って身構えると、サキュバスが沢山いる中に一人か二人、胸板を露にしたパツパツのスパッツのような穿き物を着た男が現れた。 これがインキュバスかと思い、インキュバスの姿を観察したら、見た目は背中に生えているの翼の形と、着ている服がサキュバスと違うだけだ。 生えている羽がサキュバスと違って、コウモリの羽ではなく、カラスのような漆黒の翼を生やしている。


「あわあわあわ、ミーツさんが沢山いる~。
誰が本物のミーツさんですか~」
「えっ、ちょっとアミがいる前で困るよ…」
「うわっ、シオンさんがいっぱい」

 アミにはインキュバスが俺に見えるようで、それだけ俺が魅力的に見えるようでありがたいが、そんなに沢山いるように見えるのか。
 アマは珍しく恥ずかしそうに俯いて、ぶつぶつと独り言を呟いてインキュバスの中にフラフラと入りそうになった所で、インキュバスを殴り飛ばした。

「この化け物!私のミーツさんに何をするんですか!」

 インキュバスを殴ったらすぐに、アミが俺のことを化け物と言って、本気ともいえるほどの強さの力で杖を振り上げて叩き始め、彼女がどうかしてしまったと思って杖を取り上げて暴れる彼女を脇に挟むと、腕や腹に噛みつき始め、痛みに耐えながらも現状を考えていたら、今度はアマまで俺のことを化け物と言いながらアミと同様に俺に攻撃をしかけてきた。


「あ、ミーツくん、言うの忘れてたけど、インキュバスは幻惑も使ってくるから、さっさと叩いて正気に戻しちゃって」

 彼女らの対応に困っていたら、シロヤマが戦いながらそう言ってきたことにより、彼女らを一度地面に落として、それぞれの額にデコピンで弾いて気を失わせてすぐさま、幻惑を使うインキュバスとその周りを囲んでいるサキュバスを焦熱剣を使って焼き払った。

「う~ん、え!あ、ミーツさん、いつの間に…。
さっきまで化け物に捕まっていましたのに…」
「ほんとだね。なんか、オーク王みたいな凄い化け物だったのにね」


 インキュバスを倒したあと俺にデコピンされて気を失った二人の元に駆け寄ると、気が付いた彼女らは俺のことがオークに見えていたようだ。


「ミーツくん!まだ後ろにもいるから!
あーもう、士郎くんがインキュバスに付いてっちゃったよ!」

 アマとアミに気を取られている間に、士郎がインキュバスに付いて行ったと、シロヤマが言って後ろを振り向いたら、彼はサキュバスたちに揉みくちゃにされながら、服を脱がされ身体中を舐められていた。
 彼も幸せそうにヘラヘラ笑っている。
 ヤスドルはどうしたかと思ったら、しゃがみ込んで頭を抱えてブルブルと震えていた。

 そんな中にシーバス兄妹もフラフラと向かって行っていたら、シーバスはシロヤマに力強く杖で殴られて壁に激突して気絶してしまい、アマとアミについては、また捕まえてデコピンするのがもう面倒だと思って、想像魔法で作った岩壁で、彼女らを囲って身動きが取れない状態にしておき、士郎を助けるべく背後のサキュバスを焦熱剣にて叩き斬ろうとしたら突然、あれだけ全身舐め回していた士郎をぽいっと捨てた。

「そんな~、シオンさんまで僕を捨てるんですか!」

 まだ幻惑に掛かっているのか、士郎はサキュバスの群れの中に突っ込むも、鋭い爪で腹を突き刺されてしまって正気に戻った。

「痛たたた。うわああ!ミーツさん、た、助けて下さい!」

 サキュバスの前で腹を押さえながら後退りしている彼に、すれ違いざまに想像魔法で彼を治療し、サキュバスの群れを倒して全滅させた。

「ミーツくん!まだまだこれから湧き続けるからアマとアミを連れて走るよ!」

 シロヤマがサキュバスとインキュバスがまだまだこれから湧き続けると言ったところで、アマとアミの囲ってある壁を壊して、それぞれにデコピンを与え、いつものように脇に挟んで進む。

「ミーツくん、この階層は階段があるから、そこまでは一気に行くよ!階段まで辿り着けば、階段に近寄らないから!」
「僕はなんで、捕まったのにお腹を刺されたんだろう」

 このサキュバスたちは階段には近寄らないのかと、思いつつ、正気に戻ったヤスドルはあとで頭を抱えていた理由を聞くとして、後方はヤスドルと士郎とシロヤマに任せて俺は、前方に現れるインキュバスを含む、サキュバスらを素早く殲滅して行く。

 魅了され続けるシーバス兄妹の対処は何もしないで、サキュバスもインキュバスも無限には湧かないだろうと思い、目に入るヤツらを倒し続けて少しづつ前に進んでいたら、前方からは湧かなくなったところで、一気にアマとアミを抱きかかえて前に出ると、階段に足を引っ掛けて転びそうになりながも、彼女らは怪我しないように階段の上に乗せることができたが、俺は顔面から階段の角にぶち当たってしまって、顔中熱くなっているところ顔中が血だらけなのだろうと安易に想像ができる。
 しかし、まだ後方のサキュバスとインキュバスの群れを対応しているシロヤマたちが残っており、現在戦っているのは彼女ただ一人だ。

「待ってろ!今行く!」

 手前で魅了されてヘラヘラと笑っているシーバスと、しゃがみ込んでいるヤスドルを階段の方に投げてから、またも連れて行かれたであろう姿が消えた士郎を捜しつつ、彼女に助太刀してサキュバスとインキュバスの群れを殴り飛ばしながら倒していると、地面に倒れている士郎を発見した。
 彼は死んだような目をしてうつ伏せに倒れており、手足に大きな穴を開けられた状態で大怪我を負っている状態だ。


「ミーツくんごめん。ボクだけじゃ、三人も守れなかったよ」
「いやいいよ。まさかヤスドルが戦えない状態になるとは思わなかったしね。ここは俺に任せて君も階段に避難して休憩取ってな」
「うん。そうしたいのは山々なんだけど、どうやら中々、そうはさせてくれないみたいだよ」

 後方のサキュバスの群れに気を取られていたら、今度は前方にもサキュバスの群れが現れて完全に挟み討ちの形になってしまったが、先に倒しやすそうな階段がある方のサキュバスを倒そうと、焦熱剣で焼き払うと階段の方から熱いと声が聴こえた。

 焼き残ったサキュバスを倒して階段を見ると、正気に戻ったであろうシーバスが殺す気かと、かなり怒った様子で怒鳴り散らしているも、倒された隙に階段まで行ったシロヤマに頭を杖で殴られて怒られている。
 後は士郎のみの救出をすれば良いだけなのだが、地面に横たわって動けない彼を救出するのは困難だろうが、このままでは出血多量かサキュバスたちに踏まれて死んでしまうと思い、ここで焦熱剣を使えば彼ごと燃やしてしまう。
 とりあえずのところ、彼の所に行き着くまでサキュバスもインキュバスも殴る蹴るをしながら、地道に進んで行き、彼の側まで辿り着くと、ぶつぶつと何かを呟いているのに気が付いて耳を澄ませて聴いた。

「僕はダメな男だ。誰にも必要とされない使い道がない役立たずだ。好きな人にも捨てられ、男娼にもなることができないカスでゴミクズだ」


 何やら酷い見せられた幻覚によってだろうか、自棄になってぶつぶつと呟いているところに往復ビンタを彼に与えてやっても、独り言が止まらず、手足の傷を癒やして安全な場所に移動してもらおうと、手足の治療をした。

「シーバス!受け取めてくれ!」

 階段ではまだ、シロヤマに怒られているシーバスに向かって士郎を投げて受け止めろと叫ぶと、彼はすぐに受け止める体制を取って投げられた士郎を受け止めた。
 危ねえじゃねえかと声が聴こえてくるも、文句はあとで聞くと俺も声を張り上げて、ついでにもう少し上まであがっていろとも言ったあと、この階層のサキュバスたちを全滅させるべく、焦熱剣に俺の考えていることを伝えてMPを剣に吸わせた。

【へへへ、お前さんのそういう派手なところ俺様は好きだぜ!じゃあ、俺様を地面に突き刺せ!そうしたら俺様が全てやっつけてやる!】

 焦熱剣はすぐに理解した。俺の考えとは、焦熱剣に俺のMPを吸わせて、この階層にいる全てのサキュバスとインキュバスたちに、地面や横壁に天井からも、炎の剣が生えてきて突き刺すというものだ。それも、一体につき一本ではなく、一体一体に滅多刺しする鬱憤ばらしのような攻撃だ。

 俺の考えに焦熱剣は嬉しそうにしながら、想像以上の展開を見せてくれた。
 一見、残酷そうにも見えるが、ヤツらもこちらを殺そうとしていたんだからと自分に言い聞かせて、新しいヤツが現れる前にダンジョンに吸収されていくヤツらの上を歩いて階段の方に向かって行った。






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