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第5章
第25話
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第25話
「ねえねえ、ミーツくんのステータス見せてくれない?ミーツくんが強いのは分かっていたけど、まさか単独でギガ暴食竜を倒せるまでとは思わなかったよ。大体そもそもさあ、普通の暴食竜でも単独じゃ勝てないんだよ?」
皆に抱きつかれて倒れてしまったあと、シロヤマが起き上がってそう言っ放った。
この世界のティラノサウルスは、暴食竜と呼ばれているのかと思うと、なんとなく分かるような気がするものの、彼女は先程まで凄い凄いと言いながら興奮していたのに、もう冷静になっている。
「そんなこと言われても、俺はいつも魔物は単独で倒してるしなあ。逆にパーティとしての複数戦闘に慣れてないよ。それに、いくら仲間でもステータスは見せられない」
「ふーん、それは残念。じゃあ次からもっと弱い魔物から、皆んなで戦う戦法を取った方がいいね。このままじゃ、ミーツくんのパーティは誰も居なくなっちゃうよ?だってそうでしょ?一人でなんでも解決しちゃうんだから、パーティを組む必要がなくなっちゃうんだもん」
確かに彼女の言う通りだと思った。
弱い敵だけ仲間たちに任せて、強敵のときだけ俺が単独で対処していたら、仲間が自分たちの不必要性を感じて、いずれは離れていく可能性がある。
「分かった。これからは俺もパーティを率いるリーダーとして、仲間たちと共に戦うことにする。それで仲間たちにも手が負えない敵が現れたら逃げよう。それでどうしても逃げられないときは、俺が今まで通りやっていたように倒すけど、それでいいかい?」
彼女に言われて考え方に、戦い方をも変える必要があると思い、未だに俺の上にいる仲間たちを退けてから胡座をかき、自分の気持ちを彼女と仲間たちに伝えた。
「うん!それで良いよ。今回のギガ暴食竜は、このダンジョンでは実力不足の彼らが連れて来たってのもあるけど、多分ミーツくんの運の悪さも関係してるんだと思うんだよね。それもちゃんと理由があってね、この階層は一つの大陸と変わらないくらい広いと言われてるんだよ。それでここの階層に至るまでの道のりも、多数存在する。でもボクたちが通ってきた道は、どの入口や通路からも遠く離れているし、今回ボクの選んだところでは、他の冒険者とこんなところで会うことはあり得ないんだよね」
「まあ、でも絶対にゼロパーセントじゃないんだろ?だったら、確率は低くても遭遇することだってあるさ」
「うーん、でもなぁ…」
彼女は腕を組んでしばらく考えだした。
「もし、今回みたいに冒険者たちと遭遇して、助けを求めてきたら、俺は何度でも助けるよ。
そのあとで、どんな冒険者かを見定めたって良いんじゃないかな?」
未だに考えている彼女にそう言うと、リーダーのミーツくんがそう言うならと、渋々だが了解して、この階層について改めて説明を受けた。
この階層では地上と同じように、日が傾いて夕方みたいになって暗くなったりするらしく、先程に聴いた通り、膨大な広さがあるらしく、シロヤマ自身もどれほどの広さかは分からないようだ。
それに驚くことに、この階層には海までもがあるそうだ。
ただ海があるからといっても、この恐竜がいる階層では、普通の海の生き物がいるわけではなく、海ならではの巨大な海竜がいるらしく、下手に海に近づこうものなら、いとも簡単に海から引き込まれるらしい。
淡々とこの階層について話す彼女の言うことを聴いていたら、俺の元の世界での白亜紀そのものといって言いくらいの階層のようだ。 この階層に来るまでの入口が数多くあるように、上にあがるための入口も数多く存在するとか…。
「これで大体の説明が終わったかな。
気になることがあれば、今のうちに聞いておくけど、無いならここでお終いにして、安全に休憩できる所に移動するよ」
シロヤマはそう言うと、少し質問の時間を取って待ってみて、誰も質問する者が現れないところで、彼女を先頭にここまで来るときと同じ並びで移動を開始しだした。 ギガ暴食竜をI.Bに収納し忘れてて、ダンジョンに吸収されたかと思って倒した奴を見てみたら、まだ横たわっていたところで、急いでI.Bに収納して列の最後尾に付いて行く。
しばらくの間、沈黙の中、皆で警戒しながら歩いていき、小さな穴倉がいくつも空いた岩山に辿り着いた。
「ここまで来れば一安心だよ。入口は狭いけど中は広いから一人ずつ入ろっか」
シロヤマはそう言うと、小柄な彼女だからか、普通に少し屈む程度で入って行った。
彼女の次に小さい順で入ることになり、小柄なアマとアミに士郎までは難なく入れたものの、シーバスからは這いつくばっても、鎧を脱いでも入れないところで彼が入ることが出来ないなら、体格のいい鬼人のヤスドルにメタボな俺は無理だろうってことで、俺たち男三人は野営をするということで別の所で休むことになった。
既に中に入った仲間たちには、俺たちは外で野営をすることを伝えると、アマとアミが俺と共に野営をしたそうな声が聴こえてくるも、シロヤマが彼女らを説得して止めて、俺とシーバスとヤスドル以外のメンバーは穴倉の中で休むことに決まった。
「ミーツくんなら大丈夫だと思うけど、夜間はとても危険だから気を付けてね」
シロヤマが穴倉の入口付近から声を掛けてきて、そう言ったあと、すぐに彼女らの入っている穴倉の入口が萎んで閉じた。
「とりあえず、俺たちはこの岩山を登ってみよっかね。こんな所で野営をするよりはマシだろうし」
俺がそう言うと、彼らは頷き、頂上が見えない岩山をそれぞれのペースで登り始めてみたら、穴倉の開いた入口が所々にあって、手を使わなくても足を引っ掛けるだけで登れてしまうことにヤスドルが気付いて、ピョンピョンと飛び跳ねて登っていくのを俺も真似て登って行っていると、ゆっくりと登っているシーバスを置いて行っているのに気付き、彼の元に戻ろうとしたら、突然上を見上げたまま先に安全な場所を確保してくれと言ってくれて、そのままヤスドルを追い掛けるように飛び跳ねながら登っていくと、先を行く彼が上を見上げながら突然立ち止まった。
彼の下で見上げているものが何なのかを追い越して見てみると、頂上には炎が天に向かって噴き出している。
【お前さん、俺様をあの炎の中に入れてみろよ。
面白いことが起こるぜぇ】
炎熱剣があの炎を見て、あの中に入れろと言うのに拒否したい気持ちがあるなか、どうなるか見てみたい気持ちもあり、炎の中に炎熱剣を投げた。
【うほほほほ、なかなか美味な炎だぜぇー!
力が漲って来るぅー!】
炎の中に入った炎熱剣は、テンション高めで興奮している。しかしそんな炎熱剣も段々と声を出さなくなっていき、次第に苦しそうな声をあげだした。
【お前さん、俺様を引き上げろ!これを吸収しきるのは、今の俺様にはまだ無理みたいだ】
炎熱剣は悲鳴めいた声をあげて、引き上げろと言ってきたものの、炎の中にいる剣を掴むことなど不可能である。
「こんな炎の中に手を突っ込めと言うのか?
俺には無理だ。せめて炎の外に一部でも出てくれないか」
【無理だ!動けねえ!早く俺様を助けろ!
このままじゃ壊れちまう】
こんなところで炎熱剣を失ったらこの先、ギガ暴食竜の刃を使うか、素手で進まなければならない。この先どんな魔物がいるか分からないところで、炎熱剣を失うわけにはいかないと思い、ギリギリに炎に近付けられるところまで行くと、剣は炎の中心で青く輝いて垂直でいた。
【は、や、くし…】
炎熱剣は本当に限界のようで、喋る力も残っていないようだ。そんな状況に俺も覚悟を決めて、想像魔法で自身の身体全体にシールドの膜を覆って、炎の中に腕を入れみたら、身体に覆ったシールドの腕の部分が簡単に溶けて、腕が炭のように黒く焼け焦げていくのに焦って、最大限に身体の回復の想像魔法をしてみたら、焦げた腕が元通りになるも、元に戻ってもすぐさま焦げて黒くなってしまう。
それに、腕だけをいれても炎熱剣まで届かなく、身体全体を炎の中に入って、常に回復し続ける想像魔法を使いながら、炎の中心にいる炎熱剣を掴んで、素早く炎から脱出したが、脱出するさい一瞬だが炎の中心に浮かぶ拳大の玉を見えて気になったものの、脱出するのが先だと思い、玉を手に取ることなく炎の中から脱出して岩山から転げるように落下中に、シーバスに腕を掴まえてもらって岩山の中腹で止まった。
「ミーツさん大丈夫か!上でなにがあったんだ!
服も焼け焦げてボロボロじゃねえか!」
「ミーツさん無事ですか!急に武器を炎の中に入れたと思えば、中に入るなんて死ぬ気ですか!」
「ははは本当だよね。死ぬかと思った。
でもシーバスありがとう、助かったよ」
シーバスが俺を片手で掴まえているところ、上から降りてきたヤスドルが心配して俺の現状を聞いてきたが、シーバスは炎の中にだと?と、混乱しているようだ。
「シーバスには後で説明してやるけど、上は全然安全じゃなかったし、そろそろ暗くなってきてるし、下に降りて休もうかね」
彼らにそう言うと、彼らは黙って頷いた。
俺も自身の身体の回復を終わらせて、彼の腕の中から抜け出して岩山を下っていたら、彼らや俺でも余裕で入ることができそうな穴倉を見つけて、穴倉に向かって入ると、ものすごく広くて、岩山の大きさに合わない空間に驚いた。
俺の後ろに付いてきた彼らも驚いていて、ここならゆっくり休むことができそうだと思い、想像魔法で出した食事を彼らと沈黙のまま食し、沈黙のまま休もうとしたら、シーバスに先程の出来事の説明を求められ、仕方なく炎熱剣の声が聞こえることは伏せて、炎の中に剣を入れたことを話したら、何考えてんだ頭がイカれているのかと言われて驚かれた。
多分、剣が話すとか言えば完全に危ない人扱いされるだろうと思って、剣のことは言わない方がいいと判断したのだった。
それからは炎の中に入れたことによって、真っ赤な剣だったのが、青く輝く炎熱剣に変わった剣を彼らに見せた。
反応はそれでどうなったんだと言われ、俺もどうなったんだろうと剣を見るが、分からずに首を傾げると、俺のわけ分からない行動は今に始まったことじゃないとシーバスは首を振って、離れた場所で横になって眠った。
俺も休もうかと思っていると、これだけの広さの安全地帯があるのだからとヤスドルに手合わせをお願いされて、仕方ないと思いつつも、これきっかけで彼ともっと仲良くなれるかもと思いながら承諾して、手合わせをしたが、彼の格闘センスは中々のものだった。
拳の強さは父親であるドズドルほどではないものの、フェイントを混ぜつつ攻撃してくるものだから、格闘経験が素人の俺は少し戸惑った。
しかし、物凄いステータスのお陰で、フェイントでも当てようとする攻撃でも関係なく躱せるだけの身体能力で難なく躱したり、振り上げた拳や蹴りを軽く叩き落としたりをしていたら、次第に疲れてしまったのだろうか、こちらからは全く攻撃してないのに突然大の字に仰向けになって倒れてしまった。
「突然どうした?大丈夫か?」
「ははは、ミーツさんが凄すぎて勝つ想像が出来なくなってしまった。父さんとなら一方的に殴られて終わりなのに、ミーツさんは小さな子供を相手するみたいにあしらうんだもんなぁ」
彼は悔しそうに腕を目元に当てながらそう言った。終わりの方はよく聴こえなかったが、多分独り言のように呟いたのだろう。
「ミーツさん、父さんと戦ったときみたいに俺とも戦って下さい」
しばらく倒れていた彼は急に立ち上がって、手を差し出して握手を求めてきた。
「ドズドルと同じだと大怪我を負わせちゃうけど、本当にいいのかい?」
「勿論、それが目的で俺とミーツさんはどれだけの力の差があるかを確かめたいんです」
「おい、止めた方がいいぞ。ミーツさんが本気になったら死んじまうぞ」
彼との手合わせを眠っていたはずのシーバスが近くにいて、彼を止めようとするも、彼の気持ちは変わらず、手を差し出したままだ。
鬼人の握手は決闘の申し込みや、本気の手合わせなどに使われることの意味があると、シロヤマが言っていたのを思い出し、それだけ彼は本気で戦いたいのだと思い、彼の真剣な眼差しに、ここで応えなければ、いくら仲間でも失礼に当たると思い握手した。
「本気の本気でやると多分殺してしまうと思うから、なるべく本気に近い力でいかせてもらうよ」
「それなら本気を出させる!」
彼はそう言って、先程よりも攻撃を繰り出す速度が上がり、人体の急所を狙い始めるものの、どの攻撃も単調でフェイントのあった先程より、躱しやすくなった。
「それがキミの本気か、まださっきの方が良かったよ」
俺はそう言うと、思いっきり彼の腹を平手して叩き飛ばした。平手だが骨が折れる感触があり、思いっきりだが手加減をしたつもりだったものの、叩き飛ばした先で腹を押さえて悶え苦しんでいる。
内臓破裂でもさせたかもと焦って彼に駆け寄り、腹に手を当てて癒しの想像魔法を使っていると、腹に当てている手を掴まれて、そのまま捻り倒されてしまい、仰向けに倒れた俺の腹の上に乗られ、顔面に向けて拳を振り下ろしてきたところで俺も頭に血が上ってカッとなり、彼の拳を握り潰して隙ができたところで、彼の腹を殴って怯んだところをアイアンクローをして力を込めていたら、泡を吹いて白目になって気絶したところで止めた。
「ミーツさん!いくらなんでもやり過ぎだ!
実力差を考えろよ」
シーバスの言う通り少々やり過ぎたと思ったものの、とりあえず治療はせずに気付くのを待ちつつ、薪を想像魔法で出して焚き火をして彼の身体が冷えないようにした。
「こんなボロボロで大丈夫だよな?」
「うん、あとで治療するよ。彼は俺が見てるから先に休んでなよ」
シーバスには先に休んでもらって、体感時間で一時間ほど経ったころ、彼は頭を振って起き上がり、潰された拳で口元を拭おうとしたときに、潰されているのを思い出して痛そうに悲鳴も上げずに蹲った。
「起きて治そうと思って、そのままにしておいたんだ。気絶している間に治してもよかったけど、起きたときに、拳を潰されたのが夢だったのではないかと思われるのもどうかと思ったからね」
バキバキに折れ曲がった指を治そうと手を向けると、それを拒否するように潰されてない手で制された。
「必要ないです。俺は回復力高いんです。
こうやって潰されたりすることによって、前よりも更に硬く頑丈になるんです」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、放っておいた方が良いってことかい?それに魔物との戦いも、これからは積極的に参加するかい?」
「はい。もう少し経てば痛みは感じますけど、この手は治ります。魔物との戦いも死なない程度に盾代わりにしてもらっていいです」
彼はそう言いきる前に折れ曲がった指が、音を立てて元に戻っていった。先程アイアンクローによって、俺の指の形がくっきりと顔面に付いていた跡もいつの間にか綺麗に消えていた。
それからは彼の鬼人の村でどのように育ったのかや、どのような生活をしていたのかを話したあと、切りのいいところで休んだ。
しかし、眠っているとヤスドルの呻き声が聴こえ、悪い夢でも見ているのかと思いながらも、そのまま目を瞑っていたら、炎熱剣の起きろという言葉で目を覚まして起きてみると、彼は巨大な蛇に絡まれていた。
「これはいったい、安全地帯じゃなかったのか…」
【お前さんが入口を閉じてなかったからさ。
大きく開いた入口から入ってきたのさ】
「そうだったのか、だったらさっさと倒してこれを朝メシにしよう」
大蛇に絡まれている彼は苦しそうにしながらも、目は諦めてはおらず、締め付けられている間でも助けを求めずに締め付けから抜け出そうとしている。
「今助けるから待ってろ!」
「だ、大丈夫です!こ、これくらいなんとかなります」
彼を助けようと大蛇に近寄ると、彼は助けを拒否した。だが、どう見ても一人では抜け出せない様子に炎熱剣を手に取って大蛇の頭に斬りかかると、大蛇は頭を身体の中に隠れて胴体に剣が当たった。しかし、胴体は思ったよりも斬れないで大蛇の皮が斬れた程度だった。
【ほう、このトカゲ野郎は熱にかなり強いみてぇだな。お前さん悪いが、俺様とコイツとじゃ相性が悪いみてぇだ】
「え!そんなこと言うなよ!このままじゃヤスドルが死んじまう」
「ミ、ミーツさん、俺は大丈夫ですから、み、見ててください!」
ヤスドルはこんな状況でも何か勝機があるのだろうか、頑なに助けを拒んだ。
「見てろってこんな状況でどう勝つって言うんだよ!」
彼からの返事が無くなったことで、手遅れになる前に助けようと蛇に手を翳して、熱に強いならば蛇なだけに冷気に弱いはずだと思い、想像魔法で凍らせようとしたら、魔法を使う前に辺りが冷んやりと寒くなっていき、彼を締め付けてトグロを巻いている蛇の身体に霜が降りて凍りだした。
彼の見ていて下さいってのはこういうことだったのだ。
ただし、ガチガチに凍るわけではなく、大蛇の身体に薄っすらと薄い氷の膜が張っている感じである。
「俺を信じて手を出さないでくれてありがとうございます」
彼は力が無くなったであろう蛇のトグロの中から出てきて頭を下げた。
「父のドスドルは炎だけど、ヤスドルは氷を操ることができるんだね」
「はい、そのせいで父さんに嫌われているんです」
彼は自分の氷を出せることで、父親に嫌われていると思っているようだが、父親のドズドルのヤスドルに対する不器用な対応のせいで、彼は父親に嫌われていると勘違いをしている。
まさに親の心子知らずというものだ。
「それは違うよ。ドズドルはキミのことを嫌ってなんかない。それどころか誇りに思っていると思うよ。口に出してはいないけど、それがちょっと話しただけで分かった。不器用な彼だけど、キミのことを本当に心配しているんだ。
村から出して俺たちに付いて来させたのも、キミが鬼人なのに心優し過ぎるってのもあるのだろうけど、キミの強さを見込んでのことだ。
世界には、俺やドズドル以外の強者がたくさんいることを知ってもらいたいみたいなんだよ」
「それを父さんは俺には話さないで、ミーツさんには話したんですか?」
「そうだね。息子に話すのは照れくさかったのかもね」
「うゔゔ、そんな。父さんが俺を嫌ってなんかないって、それどころか誇りに思っているなんて…」
ヤスドルは口がニヤけているのに涙を流して俯いた。そんな彼の背後から大蛇が彼を頭から丸呑みしようと大口を開けたところで、大蛇の頭が地面に転がった。
「ミーツさん、これはどういうことだ?
なんでビックバイパーがこんなところにいるんだ?」
大蛇頭を胴体から斬り離したのはシーバスだった。
「シーバスって弱いと思っていたけど、案外やるんだね」
「こ、これくらいなら俺でも倒せるぜ。
この階層に来るまでの間、雑魚とはいえ倒した魔物たちでレベルがいくつか上がったからな。
それに、俺の彼女に予め装備を強化してもらっていたってのもあるがな」
「なんだ。完全にシーバスの実力じゃないのか。
まあでも助かったのも事実だし、これはシーバスが収納しなよ」
「マジックバックに入れたいのは山々だが、俺のは生憎こんな大きい物を入れられる容量がないんだ。だからミーツさんが貰ってくれないか?
こんなもんでチャラにしようっては思ってないけど、ミーツさんには命を救ってもらった恩があるしな」
「シーバスがそれでいいならありがたく貰うよ」
大蛇に手を翳してI.Bに収納したのち、出入口を想像魔法で閉じて今度こそ休もうかと思いきや、ヤスドルから盛大な腹の音が聞こえ、シーバスと共に大笑いしたのち、カレーライスを想像魔法で出して食わせた。
深夜なのに彼らは何度もおかわりをしたことで、途中で何度も一杯分づつ想像魔法で出すのが面倒で、カレーのルーを寸胴ごとと、米を大鍋一杯に出して勝手に食ってくれと言い、俺は彼らから離れた場所で横になって休んだ。
「ねえねえ、ミーツくんのステータス見せてくれない?ミーツくんが強いのは分かっていたけど、まさか単独でギガ暴食竜を倒せるまでとは思わなかったよ。大体そもそもさあ、普通の暴食竜でも単独じゃ勝てないんだよ?」
皆に抱きつかれて倒れてしまったあと、シロヤマが起き上がってそう言っ放った。
この世界のティラノサウルスは、暴食竜と呼ばれているのかと思うと、なんとなく分かるような気がするものの、彼女は先程まで凄い凄いと言いながら興奮していたのに、もう冷静になっている。
「そんなこと言われても、俺はいつも魔物は単独で倒してるしなあ。逆にパーティとしての複数戦闘に慣れてないよ。それに、いくら仲間でもステータスは見せられない」
「ふーん、それは残念。じゃあ次からもっと弱い魔物から、皆んなで戦う戦法を取った方がいいね。このままじゃ、ミーツくんのパーティは誰も居なくなっちゃうよ?だってそうでしょ?一人でなんでも解決しちゃうんだから、パーティを組む必要がなくなっちゃうんだもん」
確かに彼女の言う通りだと思った。
弱い敵だけ仲間たちに任せて、強敵のときだけ俺が単独で対処していたら、仲間が自分たちの不必要性を感じて、いずれは離れていく可能性がある。
「分かった。これからは俺もパーティを率いるリーダーとして、仲間たちと共に戦うことにする。それで仲間たちにも手が負えない敵が現れたら逃げよう。それでどうしても逃げられないときは、俺が今まで通りやっていたように倒すけど、それでいいかい?」
彼女に言われて考え方に、戦い方をも変える必要があると思い、未だに俺の上にいる仲間たちを退けてから胡座をかき、自分の気持ちを彼女と仲間たちに伝えた。
「うん!それで良いよ。今回のギガ暴食竜は、このダンジョンでは実力不足の彼らが連れて来たってのもあるけど、多分ミーツくんの運の悪さも関係してるんだと思うんだよね。それもちゃんと理由があってね、この階層は一つの大陸と変わらないくらい広いと言われてるんだよ。それでここの階層に至るまでの道のりも、多数存在する。でもボクたちが通ってきた道は、どの入口や通路からも遠く離れているし、今回ボクの選んだところでは、他の冒険者とこんなところで会うことはあり得ないんだよね」
「まあ、でも絶対にゼロパーセントじゃないんだろ?だったら、確率は低くても遭遇することだってあるさ」
「うーん、でもなぁ…」
彼女は腕を組んでしばらく考えだした。
「もし、今回みたいに冒険者たちと遭遇して、助けを求めてきたら、俺は何度でも助けるよ。
そのあとで、どんな冒険者かを見定めたって良いんじゃないかな?」
未だに考えている彼女にそう言うと、リーダーのミーツくんがそう言うならと、渋々だが了解して、この階層について改めて説明を受けた。
この階層では地上と同じように、日が傾いて夕方みたいになって暗くなったりするらしく、先程に聴いた通り、膨大な広さがあるらしく、シロヤマ自身もどれほどの広さかは分からないようだ。
それに驚くことに、この階層には海までもがあるそうだ。
ただ海があるからといっても、この恐竜がいる階層では、普通の海の生き物がいるわけではなく、海ならではの巨大な海竜がいるらしく、下手に海に近づこうものなら、いとも簡単に海から引き込まれるらしい。
淡々とこの階層について話す彼女の言うことを聴いていたら、俺の元の世界での白亜紀そのものといって言いくらいの階層のようだ。 この階層に来るまでの入口が数多くあるように、上にあがるための入口も数多く存在するとか…。
「これで大体の説明が終わったかな。
気になることがあれば、今のうちに聞いておくけど、無いならここでお終いにして、安全に休憩できる所に移動するよ」
シロヤマはそう言うと、少し質問の時間を取って待ってみて、誰も質問する者が現れないところで、彼女を先頭にここまで来るときと同じ並びで移動を開始しだした。 ギガ暴食竜をI.Bに収納し忘れてて、ダンジョンに吸収されたかと思って倒した奴を見てみたら、まだ横たわっていたところで、急いでI.Bに収納して列の最後尾に付いて行く。
しばらくの間、沈黙の中、皆で警戒しながら歩いていき、小さな穴倉がいくつも空いた岩山に辿り着いた。
「ここまで来れば一安心だよ。入口は狭いけど中は広いから一人ずつ入ろっか」
シロヤマはそう言うと、小柄な彼女だからか、普通に少し屈む程度で入って行った。
彼女の次に小さい順で入ることになり、小柄なアマとアミに士郎までは難なく入れたものの、シーバスからは這いつくばっても、鎧を脱いでも入れないところで彼が入ることが出来ないなら、体格のいい鬼人のヤスドルにメタボな俺は無理だろうってことで、俺たち男三人は野営をするということで別の所で休むことになった。
既に中に入った仲間たちには、俺たちは外で野営をすることを伝えると、アマとアミが俺と共に野営をしたそうな声が聴こえてくるも、シロヤマが彼女らを説得して止めて、俺とシーバスとヤスドル以外のメンバーは穴倉の中で休むことに決まった。
「ミーツくんなら大丈夫だと思うけど、夜間はとても危険だから気を付けてね」
シロヤマが穴倉の入口付近から声を掛けてきて、そう言ったあと、すぐに彼女らの入っている穴倉の入口が萎んで閉じた。
「とりあえず、俺たちはこの岩山を登ってみよっかね。こんな所で野営をするよりはマシだろうし」
俺がそう言うと、彼らは頷き、頂上が見えない岩山をそれぞれのペースで登り始めてみたら、穴倉の開いた入口が所々にあって、手を使わなくても足を引っ掛けるだけで登れてしまうことにヤスドルが気付いて、ピョンピョンと飛び跳ねて登っていくのを俺も真似て登って行っていると、ゆっくりと登っているシーバスを置いて行っているのに気付き、彼の元に戻ろうとしたら、突然上を見上げたまま先に安全な場所を確保してくれと言ってくれて、そのままヤスドルを追い掛けるように飛び跳ねながら登っていくと、先を行く彼が上を見上げながら突然立ち止まった。
彼の下で見上げているものが何なのかを追い越して見てみると、頂上には炎が天に向かって噴き出している。
【お前さん、俺様をあの炎の中に入れてみろよ。
面白いことが起こるぜぇ】
炎熱剣があの炎を見て、あの中に入れろと言うのに拒否したい気持ちがあるなか、どうなるか見てみたい気持ちもあり、炎の中に炎熱剣を投げた。
【うほほほほ、なかなか美味な炎だぜぇー!
力が漲って来るぅー!】
炎の中に入った炎熱剣は、テンション高めで興奮している。しかしそんな炎熱剣も段々と声を出さなくなっていき、次第に苦しそうな声をあげだした。
【お前さん、俺様を引き上げろ!これを吸収しきるのは、今の俺様にはまだ無理みたいだ】
炎熱剣は悲鳴めいた声をあげて、引き上げろと言ってきたものの、炎の中にいる剣を掴むことなど不可能である。
「こんな炎の中に手を突っ込めと言うのか?
俺には無理だ。せめて炎の外に一部でも出てくれないか」
【無理だ!動けねえ!早く俺様を助けろ!
このままじゃ壊れちまう】
こんなところで炎熱剣を失ったらこの先、ギガ暴食竜の刃を使うか、素手で進まなければならない。この先どんな魔物がいるか分からないところで、炎熱剣を失うわけにはいかないと思い、ギリギリに炎に近付けられるところまで行くと、剣は炎の中心で青く輝いて垂直でいた。
【は、や、くし…】
炎熱剣は本当に限界のようで、喋る力も残っていないようだ。そんな状況に俺も覚悟を決めて、想像魔法で自身の身体全体にシールドの膜を覆って、炎の中に腕を入れみたら、身体に覆ったシールドの腕の部分が簡単に溶けて、腕が炭のように黒く焼け焦げていくのに焦って、最大限に身体の回復の想像魔法をしてみたら、焦げた腕が元通りになるも、元に戻ってもすぐさま焦げて黒くなってしまう。
それに、腕だけをいれても炎熱剣まで届かなく、身体全体を炎の中に入って、常に回復し続ける想像魔法を使いながら、炎の中心にいる炎熱剣を掴んで、素早く炎から脱出したが、脱出するさい一瞬だが炎の中心に浮かぶ拳大の玉を見えて気になったものの、脱出するのが先だと思い、玉を手に取ることなく炎の中から脱出して岩山から転げるように落下中に、シーバスに腕を掴まえてもらって岩山の中腹で止まった。
「ミーツさん大丈夫か!上でなにがあったんだ!
服も焼け焦げてボロボロじゃねえか!」
「ミーツさん無事ですか!急に武器を炎の中に入れたと思えば、中に入るなんて死ぬ気ですか!」
「ははは本当だよね。死ぬかと思った。
でもシーバスありがとう、助かったよ」
シーバスが俺を片手で掴まえているところ、上から降りてきたヤスドルが心配して俺の現状を聞いてきたが、シーバスは炎の中にだと?と、混乱しているようだ。
「シーバスには後で説明してやるけど、上は全然安全じゃなかったし、そろそろ暗くなってきてるし、下に降りて休もうかね」
彼らにそう言うと、彼らは黙って頷いた。
俺も自身の身体の回復を終わらせて、彼の腕の中から抜け出して岩山を下っていたら、彼らや俺でも余裕で入ることができそうな穴倉を見つけて、穴倉に向かって入ると、ものすごく広くて、岩山の大きさに合わない空間に驚いた。
俺の後ろに付いてきた彼らも驚いていて、ここならゆっくり休むことができそうだと思い、想像魔法で出した食事を彼らと沈黙のまま食し、沈黙のまま休もうとしたら、シーバスに先程の出来事の説明を求められ、仕方なく炎熱剣の声が聞こえることは伏せて、炎の中に剣を入れたことを話したら、何考えてんだ頭がイカれているのかと言われて驚かれた。
多分、剣が話すとか言えば完全に危ない人扱いされるだろうと思って、剣のことは言わない方がいいと判断したのだった。
それからは炎の中に入れたことによって、真っ赤な剣だったのが、青く輝く炎熱剣に変わった剣を彼らに見せた。
反応はそれでどうなったんだと言われ、俺もどうなったんだろうと剣を見るが、分からずに首を傾げると、俺のわけ分からない行動は今に始まったことじゃないとシーバスは首を振って、離れた場所で横になって眠った。
俺も休もうかと思っていると、これだけの広さの安全地帯があるのだからとヤスドルに手合わせをお願いされて、仕方ないと思いつつも、これきっかけで彼ともっと仲良くなれるかもと思いながら承諾して、手合わせをしたが、彼の格闘センスは中々のものだった。
拳の強さは父親であるドズドルほどではないものの、フェイントを混ぜつつ攻撃してくるものだから、格闘経験が素人の俺は少し戸惑った。
しかし、物凄いステータスのお陰で、フェイントでも当てようとする攻撃でも関係なく躱せるだけの身体能力で難なく躱したり、振り上げた拳や蹴りを軽く叩き落としたりをしていたら、次第に疲れてしまったのだろうか、こちらからは全く攻撃してないのに突然大の字に仰向けになって倒れてしまった。
「突然どうした?大丈夫か?」
「ははは、ミーツさんが凄すぎて勝つ想像が出来なくなってしまった。父さんとなら一方的に殴られて終わりなのに、ミーツさんは小さな子供を相手するみたいにあしらうんだもんなぁ」
彼は悔しそうに腕を目元に当てながらそう言った。終わりの方はよく聴こえなかったが、多分独り言のように呟いたのだろう。
「ミーツさん、父さんと戦ったときみたいに俺とも戦って下さい」
しばらく倒れていた彼は急に立ち上がって、手を差し出して握手を求めてきた。
「ドズドルと同じだと大怪我を負わせちゃうけど、本当にいいのかい?」
「勿論、それが目的で俺とミーツさんはどれだけの力の差があるかを確かめたいんです」
「おい、止めた方がいいぞ。ミーツさんが本気になったら死んじまうぞ」
彼との手合わせを眠っていたはずのシーバスが近くにいて、彼を止めようとするも、彼の気持ちは変わらず、手を差し出したままだ。
鬼人の握手は決闘の申し込みや、本気の手合わせなどに使われることの意味があると、シロヤマが言っていたのを思い出し、それだけ彼は本気で戦いたいのだと思い、彼の真剣な眼差しに、ここで応えなければ、いくら仲間でも失礼に当たると思い握手した。
「本気の本気でやると多分殺してしまうと思うから、なるべく本気に近い力でいかせてもらうよ」
「それなら本気を出させる!」
彼はそう言って、先程よりも攻撃を繰り出す速度が上がり、人体の急所を狙い始めるものの、どの攻撃も単調でフェイントのあった先程より、躱しやすくなった。
「それがキミの本気か、まださっきの方が良かったよ」
俺はそう言うと、思いっきり彼の腹を平手して叩き飛ばした。平手だが骨が折れる感触があり、思いっきりだが手加減をしたつもりだったものの、叩き飛ばした先で腹を押さえて悶え苦しんでいる。
内臓破裂でもさせたかもと焦って彼に駆け寄り、腹に手を当てて癒しの想像魔法を使っていると、腹に当てている手を掴まれて、そのまま捻り倒されてしまい、仰向けに倒れた俺の腹の上に乗られ、顔面に向けて拳を振り下ろしてきたところで俺も頭に血が上ってカッとなり、彼の拳を握り潰して隙ができたところで、彼の腹を殴って怯んだところをアイアンクローをして力を込めていたら、泡を吹いて白目になって気絶したところで止めた。
「ミーツさん!いくらなんでもやり過ぎだ!
実力差を考えろよ」
シーバスの言う通り少々やり過ぎたと思ったものの、とりあえず治療はせずに気付くのを待ちつつ、薪を想像魔法で出して焚き火をして彼の身体が冷えないようにした。
「こんなボロボロで大丈夫だよな?」
「うん、あとで治療するよ。彼は俺が見てるから先に休んでなよ」
シーバスには先に休んでもらって、体感時間で一時間ほど経ったころ、彼は頭を振って起き上がり、潰された拳で口元を拭おうとしたときに、潰されているのを思い出して痛そうに悲鳴も上げずに蹲った。
「起きて治そうと思って、そのままにしておいたんだ。気絶している間に治してもよかったけど、起きたときに、拳を潰されたのが夢だったのではないかと思われるのもどうかと思ったからね」
バキバキに折れ曲がった指を治そうと手を向けると、それを拒否するように潰されてない手で制された。
「必要ないです。俺は回復力高いんです。
こうやって潰されたりすることによって、前よりも更に硬く頑丈になるんです」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、放っておいた方が良いってことかい?それに魔物との戦いも、これからは積極的に参加するかい?」
「はい。もう少し経てば痛みは感じますけど、この手は治ります。魔物との戦いも死なない程度に盾代わりにしてもらっていいです」
彼はそう言いきる前に折れ曲がった指が、音を立てて元に戻っていった。先程アイアンクローによって、俺の指の形がくっきりと顔面に付いていた跡もいつの間にか綺麗に消えていた。
それからは彼の鬼人の村でどのように育ったのかや、どのような生活をしていたのかを話したあと、切りのいいところで休んだ。
しかし、眠っているとヤスドルの呻き声が聴こえ、悪い夢でも見ているのかと思いながらも、そのまま目を瞑っていたら、炎熱剣の起きろという言葉で目を覚まして起きてみると、彼は巨大な蛇に絡まれていた。
「これはいったい、安全地帯じゃなかったのか…」
【お前さんが入口を閉じてなかったからさ。
大きく開いた入口から入ってきたのさ】
「そうだったのか、だったらさっさと倒してこれを朝メシにしよう」
大蛇に絡まれている彼は苦しそうにしながらも、目は諦めてはおらず、締め付けられている間でも助けを求めずに締め付けから抜け出そうとしている。
「今助けるから待ってろ!」
「だ、大丈夫です!こ、これくらいなんとかなります」
彼を助けようと大蛇に近寄ると、彼は助けを拒否した。だが、どう見ても一人では抜け出せない様子に炎熱剣を手に取って大蛇の頭に斬りかかると、大蛇は頭を身体の中に隠れて胴体に剣が当たった。しかし、胴体は思ったよりも斬れないで大蛇の皮が斬れた程度だった。
【ほう、このトカゲ野郎は熱にかなり強いみてぇだな。お前さん悪いが、俺様とコイツとじゃ相性が悪いみてぇだ】
「え!そんなこと言うなよ!このままじゃヤスドルが死んじまう」
「ミ、ミーツさん、俺は大丈夫ですから、み、見ててください!」
ヤスドルはこんな状況でも何か勝機があるのだろうか、頑なに助けを拒んだ。
「見てろってこんな状況でどう勝つって言うんだよ!」
彼からの返事が無くなったことで、手遅れになる前に助けようと蛇に手を翳して、熱に強いならば蛇なだけに冷気に弱いはずだと思い、想像魔法で凍らせようとしたら、魔法を使う前に辺りが冷んやりと寒くなっていき、彼を締め付けてトグロを巻いている蛇の身体に霜が降りて凍りだした。
彼の見ていて下さいってのはこういうことだったのだ。
ただし、ガチガチに凍るわけではなく、大蛇の身体に薄っすらと薄い氷の膜が張っている感じである。
「俺を信じて手を出さないでくれてありがとうございます」
彼は力が無くなったであろう蛇のトグロの中から出てきて頭を下げた。
「父のドスドルは炎だけど、ヤスドルは氷を操ることができるんだね」
「はい、そのせいで父さんに嫌われているんです」
彼は自分の氷を出せることで、父親に嫌われていると思っているようだが、父親のドズドルのヤスドルに対する不器用な対応のせいで、彼は父親に嫌われていると勘違いをしている。
まさに親の心子知らずというものだ。
「それは違うよ。ドズドルはキミのことを嫌ってなんかない。それどころか誇りに思っていると思うよ。口に出してはいないけど、それがちょっと話しただけで分かった。不器用な彼だけど、キミのことを本当に心配しているんだ。
村から出して俺たちに付いて来させたのも、キミが鬼人なのに心優し過ぎるってのもあるのだろうけど、キミの強さを見込んでのことだ。
世界には、俺やドズドル以外の強者がたくさんいることを知ってもらいたいみたいなんだよ」
「それを父さんは俺には話さないで、ミーツさんには話したんですか?」
「そうだね。息子に話すのは照れくさかったのかもね」
「うゔゔ、そんな。父さんが俺を嫌ってなんかないって、それどころか誇りに思っているなんて…」
ヤスドルは口がニヤけているのに涙を流して俯いた。そんな彼の背後から大蛇が彼を頭から丸呑みしようと大口を開けたところで、大蛇の頭が地面に転がった。
「ミーツさん、これはどういうことだ?
なんでビックバイパーがこんなところにいるんだ?」
大蛇頭を胴体から斬り離したのはシーバスだった。
「シーバスって弱いと思っていたけど、案外やるんだね」
「こ、これくらいなら俺でも倒せるぜ。
この階層に来るまでの間、雑魚とはいえ倒した魔物たちでレベルがいくつか上がったからな。
それに、俺の彼女に予め装備を強化してもらっていたってのもあるがな」
「なんだ。完全にシーバスの実力じゃないのか。
まあでも助かったのも事実だし、これはシーバスが収納しなよ」
「マジックバックに入れたいのは山々だが、俺のは生憎こんな大きい物を入れられる容量がないんだ。だからミーツさんが貰ってくれないか?
こんなもんでチャラにしようっては思ってないけど、ミーツさんには命を救ってもらった恩があるしな」
「シーバスがそれでいいならありがたく貰うよ」
大蛇に手を翳してI.Bに収納したのち、出入口を想像魔法で閉じて今度こそ休もうかと思いきや、ヤスドルから盛大な腹の音が聞こえ、シーバスと共に大笑いしたのち、カレーライスを想像魔法で出して食わせた。
深夜なのに彼らは何度もおかわりをしたことで、途中で何度も一杯分づつ想像魔法で出すのが面倒で、カレーのルーを寸胴ごとと、米を大鍋一杯に出して勝手に食ってくれと言い、俺は彼らから離れた場所で横になって休んだ。
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