底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

文字の大きさ
上 下
205 / 247
第5章

第22話

しおりを挟む
第22話

 翌朝、大の字になって眠っていたようで、起きたら俺の両腕を腕枕にしてアマとアミが横に眠っていた。 どうしてこういう状態になったのか、考えても思い出せない状況に困惑しながらも、彼女らが起きるのを待っていると、荷台の後方の幌の垂れ幕をバッサリと開けたドズドルの姿があり、彼はしばらく見つめたあと何も言わず開けた垂れ幕をそのまま閉じた。

「おおい!何か言ってくれよ」
「ううん、おじさんうるさい!」

 ドズドルが何も言わずに垂れ幕を閉じたから、つい条件反射でツッコミとして声を出したら横で寝ているアマから、うるさいと顔をバチンと叩かれてしまった。

「あ、おじさん、おはよ~。昨日は大変だったんだよ~」

 何が大変だったのだろうか、思い出せない分、聞くのが怖いと思ってしまうものの、聞かないと取り返しのつかないことになってしまうと思い、何があったか聞いてみたら大したことではなかった。 なんでも、昨夜は荷台で既に休んでいた彼女らの上に俺が覆い被さってきて、アミは夜這いされたとキャーキャー叫んで錯乱し、そんな彼女をアマが落ち着かせて、スヤスヤと眠る俺を叩いたりして起こそうにも、寝返りをするだけで起きる気配がなくて、仕方なく俺の両腕を枕代わりに空いたスペースで休んだとのこと。


「じゃあ、本当に何もなくて良かった良かった」
「あたしは別になんとも思ってないんだけど、アミは内心嬉しかったんだと思うから、おじさんはアミが喜ぶことを今度やってあげてよ」
「う~ん、まあ、無意識でやったこととはいえ、俺がやらかしたことなら仕方ないか。今は無理だけど、ヤマトに辿り着いたら、何かやってやるかな」
「おじさん、難しく考えなくてもいいんだよ?
おじさんが膝枕をしてやるとか、逆にしてもらうでもアミは喜ぶと思うよ?」

 アマはそう言ったあと、再び俺の腕を枕にして眠りだした。寝付きが良すぎるのではないかと思ったものの、彼女に言われたアミの喜ぶことを考えると頭が痛くなってくる。
 しかし、このまま彼女らの腕枕のままでいると、ドズドルが何のために来たか分からないままだ。そろそろ出発しなければならなくなるため、想像魔法で出した少し硬めの枕二つを瞬間転移で彼女らの頭の下に転移させるのと同時に、腕を素早く引いて彼女らを起こさずに、しかも枕も転倒せずにすんだ。

 ようやく自由に動けるようになって、荷台から降りるとドズドルが腕を組んで馬車から背を向けた状態で立って待っていた。

「え?さっきから待っていたのかい?」
「うむ、兄者に頼みたいことがあるのだ」
「あー、だから待っていたんだね。で?頼みって何だい?」
「うむ、ちょっと場所を変えよう」

 彼はそう言うと、スタスタと歩きだして村から出て森の中を進み、しばらく歩いたところで開けた広場に着いた。


「シロヤマにはもう話したが、彼奴には決定権がないからと断れてしまったのだ。彼奴が言うには兄者に了承を得よとのことでな。
頼みとは、うちの愚息を兄者たちと一緒に連れて行ってはもらえないだろうか?」

 広場に着くなり、彼は辺りを見渡したのち話し出した。

「愚息ってヤスドルをかい?」
「うむ、アレにはまだまだ世界を知るべきだと思ってな。俺が人族である兄者に負けたように、世界には強者が沢山いることを知ってもらいたいのだ。アレは鬼人族の族長に収まる器ではない。
 本当は俺もアレが皆を助け、最後に上がってきたことにとても誇らしいと思っていたのだ。
 だが、族長の立場と、古くからの規則を思い出してアレには少々辛い目に合わせてしまった。
 それにアレは今はまだ弱いが、いずれは俺を越える実力も持っておる」
「そうか。ドズドル、本当はキミも他の親みたいに抱き締めてあげたかったんだね。いいよ。俺の仲間たちにも聞いてみるけど、多分ヤスドルだったら大丈夫だと思うから、俺の旅の同行に許可するよ。と言っても、俺の目的地はヤマトだから直ぐに終わると思うけど、それでもいいかい?」
「無論だ。兄者と一緒なら心強い。例え、目的地が直ぐ辿り着くと言っても、目的地でも強者はいるのであうしな。沢山の強者と戦っていれば、すぐに俺は追い越されるだろう」

 彼は村の方角に視線を向けて微笑んだあと、俺に向けて深々と頭を下げた。

「でも、いいのかい?次の族長はヤスドルになってもらいたいんじゃないか?」
「フッ、俺もまだまだ族長は辞めんよ。
それに、族長はあんなヒヨッコな試練を合格したくらいではなる事ができん。族長や戦士になるための試練はまだまだあるのだ。
 兄者よ、ここなら大丈夫だと思って連れて来たのだが、兄者の本気の殺気を俺に向けて使ってはくれないだろうか」
「いいけど、大丈夫かな。俺も本気で使ったことないから、どうなるか分からないよ?」
「無論、覚悟の上だ。さあ、いつでも来い!」

 村から出て、こんな所にきた意味はそんな理由かと思ったものの、本気で殺気を放てとか、どうかしてると思った。
 だけど、俺自身も興味はあった。人に対して軽く使っただけで気絶させてしまうのに、それを本気で使ったら恐らく、殺気だけで殺してしまうかも知れない。


「いきなり本気でやったら殺してしまうかも知れないし、試しに軽めの殺気から使うよ」
「兄者よ。俺にそのような配慮は不要だ」


 軽めの殺気を使うことを言ったら、彼は余程自信があるのか、腕組みをしたまま睨み返してきた。だが、先ずは自身の気持ちの問題もあって、軽めの殺気を使うと、鼻で笑われてしまって、殺気の強さを段々と上げていくと、次第に目が泳ぎだして本気で殺す気持ちになる前に彼は腕組みをしたまま白目を剥いて後方に倒れてしまった。

 脈はあることで死んでないことが確認でき、しばらく起きるのを待っていたら、この辺りではよく現れる魔物だろうか、金色に輝く大狼がのっそりと背後から現れた。
 中々の大きさで、全長十メートルはあるように見える。しかし、俺を見つめるなり腹を見せて服従のポーズを取った。

 こちらとしては戦わずに済んでよかったのだが、見た目よりも弱いのか拍子抜けしてしまったものの、元々俺は犬好きなため、敵意が無ければ魔犬でも可愛がりたいと思っていただけに、服従のポーズの金狼の腹を撫でながらドズドルが起きるのを待っていたら、彼の驚いた声が後方から聞こえた。


「兄者!それはこの辺りの主の金爆狼武(きんばくろうぶ)だ!俺でもこれに勝つのは無理だったやつだ!って…。兄者?これはどういう状況だ?」
「うん。俺もよく分からないけど、俺を見るなり腹を見せてきたんで、ドズドルが起きるまでの間、腹を撫でながら時間を潰していたんだよ」


 俺がそう言うと、彼は口を半開きにしてポカーンと呆けた表情になった。

「おーい。大丈夫かー?思考が停止しちゃったか?」
「ゴホン。だ、大丈夫だ。ははは、流石兄者だ!
俺でも五分五分の戦いでしかできない金爆狼武を手懐けるとは、全く恐れ入った!俺では兄者に勝てない筈だ!しかも、兄者は先程の殺気は本気では無かったであろう?」
「うん。そうだね。本気じゃなかったよ。
でもね。本気で殺すつもりのちょっと前くらいにはなっていたよ」
「うむ、それはよかった。我らの子でも出来る殺気から始まって、途中までは兄者のことを見れていたのだが、次第に兄者のことを見ることが出来なくなってしまった。兄者に本気を出させるのは無謀の試みであったようだ。そして先程の息子のことについてだが、頼む」

 ドズドルはスッキリとした顔になって、再度息子のことを頼むと言って頭を下げた。


「うん。その事については任してよ。仲間に聞いてからって思ったけど、俺の判断でうちのパーティに入れてあげるよ。一応、聞いておくけどヤスドルはまだ冒険者じゃないんだよね?」
「うむ、アレはまだ他の町に行ったことすらない。俺は何度か町には行ったことあるし、若いときは色んな種族と戦ったこともある」
「へー、そうなんだ。じゃあ、ヤマトに無事に着いたら冒険者にならせて大丈夫かな?」
「それについてはシロヤマに一任してあるが、兄者の好きなようにしてくれ、兄者が鍛えるのが一番なのだがな」
「分かった。それなら責任もって預かるよ」


 ドズドルと固い握手をしたあと、モフモフを堪能した金爆狼武は解放して、村に戻ったら村中の者たちが白目を剥いて泡を吹いて倒れていた。

「な、なにがあったんだ!毒か!それともとんでもない魔物でも現れたか!」
「いやいやいや、ミーツくんの所為だよ。ボクたちのパーティのメンバーはギリギリ守れたけど、村の人たちまでは間に合わなかったね」

 村人の状態を確かめながら何があったかを、推測していたら、シロヤマが目の前に現れて俺の所為だと言った。しかし、俺には心当たりがない。
どういうことだろうかと、首を傾げた。

「あ!」
「ん?どうしたドズドル」
「先程、兄者が俺に使った殺気ではないだろうか。あれがここまで到達したのだろう」
「族長が正解だよ。今ここにいる人で、あんな殺気を放てるのはミーツくんくらいなんだからね!
なんで当の本人のミーツくんが分からないかなあ」

 ドズドルが先程の殺気だと言ったあと、シロヤマも彼の殺気が正解と言い、正座をさせられて説教タイムとなった。その説教が終われば、今度は俺の殺気の所為で気絶した鬼人たちに、ドズドルと共に謝りに行った。
 ドズドルは族長の俺が何で!とか言っていたものの、俺に殺気を使わせたのは彼だから、兄者と呼ぶ俺が謝るんだから弟分のお前も謝れと彼のみに殺気を放つと、素直に頷いて謝りに加わったのだ。


しおりを挟む
感想 302

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。