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2巻
2-1
しおりを挟む第一話
俺は真島光流――ミーツ、どこにでもいるメタボ体型の四十歳独身だ。だがあるとき、若者七人とともに異世界に飛ばされる。召喚したのはクリスタル王国という国の王様で、勇者を召喚しようとしたところに、俺も巻き込まれただけだった。
年齢が高かった俺だけ追放され、おまけに初日に身ぐるみはがされる。だが、冒険者のシオンや冒険者ギルドの副マスターのダンクと出会えたおかげで、どうにか一人で生きていけるようになった。
あと、俺のスキル――想像魔法も役に立っている。想像したことが魔法で出せたりできたりするんだが、珍しすぎるスキルなので、持っていることはなるべく内緒にしている。
そのうち、一緒に召喚された七人のうち五人が王様のもとを離れて俺と再会した。だが、正直なところ世話をする義務はないわけで、俺はすでに受けていた護衛の仕事に出かけるつもりだ。一応、シオンには彼らの面倒を見てやってくれと頼んでおいた。そうは言っても、俺がいない間に何かあったら、夢見が悪いからな。
この世界のことを考えていてあまり眠れないまま、とうとうやってきた護衛の仕事の日。
街の門に向かう前に、宿の女将に数日留守にするからと、荷物の預かりと部屋の予約をした。予約は原則できないが、部屋代を俺がいない間も払い続けることで解決した。
そして、今所持しているものを確認する。短槍にナイフ、貴族からもらった服に非常食数点とスマホ、風呂敷数枚――それらを、さらに大きな風呂敷でまとめて包み、担いだ。
短槍だけはいつでも取り出せるように、布を細くねじって腰に巻き、そこに差しておくことにした。剥き出しの刃で歩行中に足を斬ってしまうのを防ぐため、布と紐でカバーを作って被せてある。
準備を終えて意気揚々と門へ向かったが、門前の広場にはいくつも馬車があって、どれが依頼の馬車か分からなかった。仕方なく一つ一つの馬車のそばに行き、ギルドでもらった木札を見せるも、ことごとく俺の依頼主の馬車ではない。
とある馬車では、たとえ実力者でもGランクなんか絶対雇わないと馬鹿にされたものの、代わりに、護衛対象の馬車に近付けば木札に数字が浮き出るからすぐに分かることも教えてくれた。
馬鹿にされたときは恥ずかしかったが、アドバイスは助かった。
そして、広場にある馬車に近付いては、木札の反応を確かめていく。しかし、広場に俺の依頼主の馬車はなかった。
もしかしたら、木札に数字が出るなんて嘘で、騙されたのではないかと思いはじめていたとき、新たにやってくる馬車が見えた。諦め半分で近付いてみると、持っている木札がポワッと温かくなって、じんわりと『94』という数字が浮かぶ。
『94』――『苦しんで死ぬ』。不吉な数字だが、考えないことにしよう。正直、この馬車で反応がなければ、諦めて帰ろうと思っていた。
「おはようございます。ギルドの依頼で参りました、Gランクのミーツと申します。今日から護衛を務めますので、よろしくお願いします」
Gランクなんて使えないと思われないように、馬車を操っていた護衛対象である商人に元気よく挨拶し、ギルドでもらった木札を渡すと、なぜか驚かれた。この世界の人たちはよく驚くなと思いつつ詳しく話を聞くと、普通冒険者はこんな丁寧な挨拶をしないそうだ。
だが、数日とはいえ寝食をともにするし、何より依頼主なのだから、最低限の礼儀はわきまえないといけないのではないか? 他の冒険者はどんな態度をとるのだろう? 俺は商人と、どんな道を通るのかといった雑談をして、他の冒険者が来るのを待つことにした。
しばらくしたら、こちらの馬車に若者たちがやってきた。一緒のパーティらしくまとまって歩いている少年二人と少女一人の三人と、少し離れたところに見覚えのあるやつが一人だ。一人の方は、ゴブリン討伐のときに知り合ったニックだ。
「よう、ミーツのおっさん。あんたもこの依頼を受けたんだな。あんたがいると思うと心強いぜ。依頼主の商人さんよ、俺はニックだ。よろしくな」
ニックが挨拶を簡単に済ませたことに驚いた。そんな簡単でいいのか。まだ若いからだろうかと思っていると、三人組も商人に挨拶をする。
「俺はモブだ、よろしくな。ニックも久しぶりだな」
二人の少年のうち年長の方の彼は、見た目十代後半ってところか。一緒に召喚されたあの高校生たちと変わらない年頃に見える。
「僕はポケです。モブの弟です。よろしくお願いします」
おそるおそるといった様子のこの子は、可愛い感じだ。多分、歳は十四~十五くらいだろう。
「私はビビです。二人とは幼馴染で、みんなランクはEです。パーティ名はまだ決めていません」
ボーイッシュな女の子は、モブと同じくらいの歳だろうか。彼よりも丁寧に話してはいる。それにしたって、どの子も依頼主への挨拶が簡単すぎた。依頼主の商人も特に気にしていないようなので、やはりこういう態度が普通なのかもしれない。だが、俺は変わらないでおこう。
「先程、依頼主の商人さんには挨拶したけど、君たちにはまだだね。俺はGランクで、ミーツと言います。護衛の期間よろしくね」
ニックも含めてみんなに挨拶をすると、三人組が「こんなおっさんがGランクだって」とクスクス笑い出す。まあ護衛がしっかりできさえすれば関係ないかと、口にしているのを無視した。
「おっさん、Gランクだったのかよ。あれだけのことができるのに、本当にGなのか? というか、その格好はなんだ。イカレてんのか」
「ほれ、ランクを示す首飾りだって、Gランクの灰色だよ。この服イカスだろ。気に入ってるんだ」
服で隠れていた首飾りを出してみせると、ニックが少し引きつった笑顔になる。どうやら本当にGランクだということに驚いているようだ。
「あ、ああ。とにかく俺はあんたの実力を知ってるから、頼りにしてるぜ! ちなみに俺はCランクだ。あ、護衛中はいいけど、それ以外のときはあまり近くに寄らないでくれよ。行った街や村で、おっさんと仲間だと思われたくないからな」
ニックの言葉に少しショックを受けたが、彼とは会って間もないし仕方のないことだと気持ちを切り替えた。
ふと三人組を見れば、その言葉を聞いて目を丸くしている。おそらく、俺が使いものにならないと思っていたんだろう。Gランクと聞けば、そう思うのは無理もない。
そうして挨拶が終わったところで、依頼主は馬車に乗り込み手綱を握る。俺たちは馬車と並走しながら、冒険者の門を何事もなく通過し、まっすぐな道を進んだ。
しばらくは景色を眺めたりしつつ走っていたが、だんだんと退屈になってきた。何も変化が起きずただひたすら走るだけなので、時々あくびが出てしまう。
いっそのこと魔物でも出てくれないかな、などと不謹慎なことを考えていたら、ニックが背後から肩を指先でトントンと叩いてきた。
「おっさん、暇だろ? 多分、もう少ししたら休憩になるから、組み手に付き合ってくれよ」
少しでも眠気を解消できたらいいと思って、二つ返事でOKした。実は俺は、異常に上がったステータスのせいで、小走りをしていてもあまり疲れなくなっていたのだ。
「では、そろそろ休憩にしましょうか」
先程ニックの言った通り、依頼主が馬車を止めて休憩をとろうと言い出した。その言葉を聞いた若者三人は息を切らし、地面に座り込む。
俺とニックは余裕綽々で、組み手のために馬車からある程度距離を取った。
「さて、どうするんだ?」
「普通に素手でいいんじゃねえか?」
「そうか、それならいつでもいいよ」
「お、おっさん言うねえ。じゃあ、まずは小手調べから行かせてもらうぜっ!」
ニックは俺との距離をだいぶ空けてから、ダンク姐さんほどではないが、ダダダダダッと左右に小刻みに走って撹乱しながら近付いてきた。
俺の顔面を狙って拳を振り上げてきたので軽く避けると、ニックは「えっ?」という顔をした。この程度だったら余裕で対処できそうだ。お返しにダンク姐さんばりのデコピンで、額を軽く弾いてやる。
「おい、おっさん! この前ゴブリンと戦ったときの動きと全く違うじゃねえか! あれは手加減して戦っていたのか?」
「いや、あのときはまだレベル1だったし、全力でやってたよ」
「は? あれでレベル1? 冗談言ってんじゃねえよ! 俺が若僧だからって舐めてんな!」
怒ったニックは、拳を握りしめ、また同じダッシュで迫ってきた。
彼こそ先程は本気ではなかったのだろう。動きが速くなっていた。
だが、ダンク姐さんと比べればまだまだ遅い。動きがハッキリと見える。
今度は顔面を殴ると見せかけてボディブローをしようとしているのか、ニックの拳は顔の方に向かっていたが、目線が俺の腹に向いている。少しずつ拳の軌道が変わり、腹に当たろうという瞬間、俺はニックの拳を掴んだ。
そのままゆっくり力を入れて握ると、ニックはもう片方の手で顔を殴ろうとしてきた。だが、それも掴み取り、同じように力を入れて握りしめた。
「痛たたたた、参った! 降参だ!」
「え? もう終わり?」
「なんだよ、その力! 俺の拳を見てみろよ、おっさんの力で真っ赤になってるだろうが! ほら、くっきりと指の痕がついてる。今回は俺の負けだけど、この依頼が終わるまでには絶対に勝ってやるからな!」
「え、今日だけじゃないの?」
「勝ち逃げは許さない!」
正直、このレベルの組み手だったらあまりやりたくないのだが、勝ち逃げは許さないと言われれば、明日か明後日にでも再挑戦を受けざるを得ない。さすがに、ニックもあの程度で終わるはずはないだろう。俺も自主的に筋トレと、あとは一人で魔物でも倒しておこう。
「おっさん、もう俺とやりたくないと思っているな? 考えてることが分かるのが、なおさらムカつくぜ。俺の実力はまだこんなもんじゃねえからな! 絶対、俺と組み手をしてよかったと思わせてやる! ……って、そろそろ休憩が終わりそうだな」
ニックの言う通り、馬車から降りて腰を伸ばしたり屈伸運動をしていた商人が、馬車に乗り込んで出発の準備を始めていた。そして少しすると、こちらにやってくる。
「この先に森があります。そこをこれから休憩なしで通り抜けますので、魔物や盗賊の襲撃に注意しながらついてきてください」
商人はCランクであるニックにではなく、一番ランクが下の俺に言った。ランク的に初めての護衛依頼である俺が何も知らないはず、と配慮してくれたのだろう。
「分かりました。ニック、聞いた通りだ。もしニックの手に負えなそうな魔物が出たら、俺が相手をするから、そのときは馬車と商人さんの護衛を頼むな」
「言われなくてもそうするぜ。おっさんと違って、モブたちと俺は何度も護衛の依頼をこなしてきてんだからな」
ニックは余裕な様子だが、人間こういうときこそ気をつけないといけないことを元の世界で経験しているから、しっかり警戒していようと気を引き締めた。
しばらくして、何事もなく森の入口に着くと、御者をしている商人が、ここから少しスピードを上げると言った。俺は了解し、すぐに追いつくので先に進んでいてほしいと断りを入れてから、森の入口でストレッチをした。
今までは小走りだったが、体力的には早歩きするのとあまり変わらないため、使っていない筋肉が多い。何か起きたときに、この若くない身体が瞬時に動かないと困るしな。念入りに五分ほど身体をほぐしてからダッシュすると、三十秒ほどで馬車に追いついた。
そこは鬱蒼とした森で外の光もあまり入ってこず、それまでの道よりも薄暗かった。
「え! おっさん、ついさっきまで後ろにいなかったよな? あんた何者なんだ?」
「しがないただのおじさんですよ」
俺があっという間に追いついたことに、馬車の後ろを走っていたモブが驚きの声を上げる。しかしそんな驚きも、突然魔物が馬車を挟むかたちで両側から現れたことで、うやむやになった。
現れたのは、ゴブリン四体とホブゴブリン三体だ。
ホブゴブリンとは大きいゴブリンの種で、普通のゴブリンは身長百二十センチほどしかないが、ホブゴブリンは百六十五センチくらいある。小学生と大人くらいの身長差だ。
また、見た目も少し異なる。ゴブリンは歪な鼻にボロボロの歯で、いつも口を開けて涎を垂らしているが、ホブゴブリンは筋肉質で、佇まいも成人男性とほぼ変わらない。知能が高いのだ。
だけど、どちらも肌の色が緑色をし、白目のない真っ赤な瞳が特徴的だ。もちろん、ホブゴブリンの方がはるかに強い。初めて戦うのがホブゴブリンだったらヤバかったかもしれない。
ゴブリンは素手か、木から折ったばかりのような枝を持ち、ホブゴブリンは錆だらけの剣を握りしめ、俺たちに襲いかかってきた。
ゴブリン四体を若者パーティとニックに任せ、俺はホブゴブリン三体の相手をする。
ゴブリンもホブゴブリンも馬車の進行方向からやってきていた。馬車は一時停車して、商人には中に入ってもらう。
「さて、ニックたちからこっちは見えてないだろうから、魔法を使っても問題ないだろう」
想像魔法でホブゴブリン二体の周囲の空気を圧縮して、見えない檻を作る。残り一体は自由にさせておく。実力で倒そうと考えたのだ。
まず、短槍を素早く腰紐から抜き、ホブゴブリンの身体を軽く突いた。短槍の刃はすんなりその胴体を貫く。ホブゴブリンは断末魔の叫びを上げて息絶えた。
あっさり一体倒してしまったので、残り二体もさっさと片付けようと振り返ったところ、二体とも苦しそうに顔を歪めて死んでいた。
「え? なんで?」
空気を圧縮した檻は中が真空になっていると後で気が付いたが、このときは不思議でしかたがなかった。
第二話
初の護衛依頼での戦闘が終わって馬車へ戻ったら、少年の一人がまだ戦っていた。あの子は確かポケと言ったな。その可愛らしい男の子はゴブリンと一対一で戦っていて、残り三体は既に倒されていた。ポケの兄モブは腕を組んで戦いを見守り、ビビは眠そうにあくびをしながら、モブ同様ポケを見ている。
加勢してあげようかとも考えたが、仲間の様子からすると、おそらくポケを鍛えようとしているのだろう。だから、ひとまず見守ることにした。
しかしこういうことって、護衛の依頼中じゃなく、自分たちだけで行動しているときにやるものじゃないのか?
とりあえず馬車にいる商人に外から声をかけて、ホブゴブリンは倒し終え、ゴブリンももう少しで片付くだろうと伝えた。
馬車のすぐそばで待機していたところ、ニックが少し驚いた表情をして近寄ってきた。
「おっさん、もう終わったのか? ホブゴブリン三体なんて、俺でもそんな短時間じゃ倒せないのに、どうやったんだよ」
「一体はこの槍で倒して、でも残りの二体はなんで死んだか分からなかった。魔法は使ったけど、致命傷を与えるようなものではなかったんだけどな」
「なんだそれ、どんな魔法を使ったんだ。次に魔物が現れたら見せてくれ」
ニックは、俺が魔法を使えることを知っている。
「うーん、じゃあ次の組み手のときにでも、ニックに使ってやるよ」
「いや、ホブゴブリンが死ぬほどの魔法を人に使っちゃダメだろ!」
ニックにもっともな突っ込みをされた。それじゃあ次に魔物が出たときに、覚えていたら見せてみることにしようか。そんな話をしているうちに、あたりが静かになった。
「お、ポケがやっと倒せたみたいだ。いつもは兄貴のモブが魔物を弱らせてから倒していたみたいだけど、今日は最初から自力で戦っていたんで、こんなに時間がかかったんだな。こんな戦いは依頼を受けてないときにやってほしいもんだぜ」
「あ、やっぱり? 俺も同じことを考えてたんだけど、俺が知らないだけでこういう戦いはよくあるんだと思ってたよ」
「んなわけねえよ。普通は護衛対象の安全を最優先に考えて、早く魔物を退治しなきゃいけないに決まってるだろ」
さすが、伊達にCランクではない。考え方がしっかりしている。
ポケがゴブリンを倒して一息ついた頃を見計らって、商人は鞭を打ち再び馬を走らせた。
それからは鬱蒼とした森を何事もなく通り抜けることができた。その間も、商人は何度も馬を鞭で持った。途中で何度かゴブリンやホブゴブリンを見かけたが、馬車の後方を走っていた俺がその辺に落ちている石や枝を投げつけて倒した。
森を出たところで、全力で走っていた馬はさすがに疲れたらしく、ひどく辛そうに息をしながら、なおも鞭を打つ商人を無視して道から外れた。
馬についていくと、川にたどり着いた。馬は川に顔を突っ込んで、ゴフゴフと水を飲み出す。
俺たちも、あたりを警戒しつつ軽く休憩を取ることに。すると商人が、今夜はこの場所で野営をすると伝えてきた。依頼主側としてはもう少し進みたかったようだが、馬が言うことを聞かないので諦めたそうだ。
野営といっても、商人と冒険者全員が一緒に行動するわけではなく、それぞれが勝手に食事を取って休むかたちだ。商人は馬車の中で革の水筒を片手に硬そうなパンをかじっており、モブたち三人は干し肉を薄くスライスしてパンに載せ食べていた。ニックは薬草を干し肉で包んだものを食べている。
俺も一応パンを持ってきているが、干し肉などはない。だが魔法でプリンやゼリーが出せるなら、メシも出せるのではないかと考え、岩の陰に隠れて想像魔法を使ってみた。
想像したのは、某有名な安くて美味いハンバーガーである。
最近は歳のせいか、食べると胃もたれすることが多くて敬遠していたが、たまに猛烈に食べたくなるときがある。
今がまさにそのときだった。だからリアルに想像はできたが、魔力が足りるかどうかが問題だ。
魔力を循環させつつ練るが、まだ出てくる気配がない。前にギルマスのグレンに言われて万能薬を出そうとしたときは、今の実力では出せそうにないのが早々に感触で分かった。
でも、今回はどうにか出せそうな手応えがある。両の手の平を上に向けて構えていたら、手の平の上にパァーッと薄く青白い光が生まれた。光が収まったあたりで見てみると、二枚のチーズが入ったハンバーガーが、手の平から次々に出てきた。
慌てて風呂敷を広げて置いていくが止まらない。どうしよう、魔力を練りすぎたんだろうか? 原因が分からないままに焦った。
「おーい、ニック、来てくれないか? ニックだけでいい、急いで来てくれ!」
思わず大声で呼ぶと、上手くニックだけ来てくれた。よかった、若者たちが俺に無関心で。
「どうしたんだ、おっさん。クソでもして、手に付いたか? って、なんだこりゃ」
ニックが岩の上から俺を覗き込み、この現状を見て目を丸くした。それはそうだ。
「とりあえず、これを片っ端から食ってくれないか? 味は保証する」
なるべく平気な顔でお願いしたつもりだが、俺の頬は引きつっていたに違いない。ポコポコと増え続けるハンバーガーは、百個くらい出たところでようやく止まった。
残りのMPが、ギルドの訓練場で倒れたとき以来のヤバさになっている。ニックはハンバーガーを次から次へと食べていくが、三十個くらいでついにギブアップした。
俺も食べるが二個で腹一杯になってしまったため、残りの七十個近くを風呂敷に包み、仕方なく商人と若者たちに食べてもらうことにした。
商人と若者たちは顎が外れるんじゃないかと思うくらいに口を開けて驚愕している。もう面倒くさくなったので、色々聞かれる前に、先に伝えておく。
「同じ依頼を受けてるよしみで、よかったらあげるよ。商人さんも、どうぞ食べてください。ちなみにこれについては説明する気はないので、詮索しないでくださいね。ニックも同じだからな?」
「あ、ああ、分かった」
ニックは苦しそうに腹をさすりながら答える。若者たちもコクコクと頷き、そしてハンバーガーに手を伸ばすと、勢いよく食べはじめた。あんなにたくさんあったのがあっという間になくなった。若者は食欲旺盛でありがたい。
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