底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

文字の大きさ
上 下
158 / 247
第4章

第39話

しおりを挟む
第39話

「おい!おっさん!いい加減起きろよ!」


何やら遠くでグレムの声が聞こえるが、瞼が重くて目を開けられない。それで目を開けられないでいると、顔に冷たい物をかけられた。

それでようやく目を開ける事ができ、目を開けると木桶を片手に持ったグレムがいた。


「ようやく起きたか。おっさん随分と寝てたな!
もう、昼になるところだったぜ。
もう俺達はいつでも出立できるから、おっさん待ちだ。金があれば馬でも買えたけど、おっさんにそこまで甘えられねぇからな」

「え?金さえあれば馬は買えるのか?」

「あ、ああ、そりゃあ、買えるさ。
でも高いぜ?俺達みたいな身なりの者が買おうとすると足元見られるから、かなり高くなると思うぜ。それに馬が買えても馬が引く荷車は中々売って無いし、どちらにしても歩くしかないな」

「いや、グレム、馬が買えるなら直ぐに買おう!
荷車については問題ない。俺が何とかする」

「何とかってどうするんだよ。
ま、でも雇い主のおっさんがそう言うなら良いぜ。馬があれば荷物くらいは乗せれるしな。
どうする?おっさんも一緒に行くか?」

「行く。グレムに買って来て貰っても良いけど、此処に居ても仕方ないし、どんな場所で買うかも見たい」

「ああ、いいぜ。直ぐ行くから起きろよ」


寝起きで未だに寝そべったままだった俺はゆっくりと起き上がり、のそのそとグレムに付いて行く。

「おっさん!遅い!早く行こうぜ」

寝起きの状態でスタスタと先を歩いていくグレムに付いて行くのは辛いが、グレムは先に行っては俺を待つを繰り返してくれて助かった。そして、馬を買える所は意外と近くだったようで、馬小屋がチラホラと見え出した。


「ほら、着いたぜ」


グレムの立ち止まった所は馬とは縁がなさそうな小さなボロ小屋だった。
周りには馬を販売しているような店もあるのに、何故こんな所なのだろうと、小屋に入って行くグレムに続いて小屋に入ると中は薄暗く、今にも消えそうな小さなランプが一つ壁に掛かっていて、見るからに汚い親父が小屋の壁際に置かれている椅子に座り、木の枝をしゃぶりながらチョークのような物で壁に何かを書いていた。


「おう、親父!馬を買いに来たぜ」

「チッ、ウルセェのが来たな。俺は忙しいんだ。お前みたいな貧乏兵士に売る馬なんてねぇよ」

「おい親父、誰が貧乏だ!まぁ、今は確かに金ねぇけどよ。それに兵士はもう辞めたぜ。
それでこの国を出るから馬を買いに来たぜ」

「金がねぇのに買いにだと?馬鹿かオメェはよ」

「正確には俺じゃなくて、このおっさんだよ」

「あ?オメェより金が無さそうな親父連れてきてどうするんだ馬鹿が」


グレムの背後にいる俺を親父の前に出すと、金が無い親父に見られた。上半身裸の今の姿では仕方ない事だ。汚い親父はグレムに馬鹿と言った後、再び壁に向かってブツブツと言いながら再び何かを書き出した。


「おい、おっさん。金を出してくれよ。このままじゃ、あの親父こっちを見てくれもしないぜ」


グレムに言われるままに片手を前に出して、I.Bから金貨を10枚目程取り出し、壁に向かっている親父の目の前に金貨を見せてやった。


「むおぉぉ!な、なんて物を出しやがる!
おい!誰だこのおっさんは!
どっかの貴族か?オメェの仲間に身ぐるみを剥がされたのか?」

「ちげぇよ。俺の雇い主だ。
この国を出る為に馬を買いに来たんだぜ?
他の店じゃ俺達みたいな奴が馬を買いに来たとか言えば、相手にしないし、仮に金を見せても出所を探られて兵士に報告されるだけだからな。
だから親父の所に来たんだぜ」

「ふん!オメェ分かってるじゃねぇか。
まぁいい、欲しいのは何頭だ?
あまり融通がきくのがいねぇけどよ」

「おっさん、何頭買う?」

「そうだな。普通に荷車を引ければいいから二~四頭で良いと思っているよ」

「四頭か、ふん!オメェ運が良いな。
丁度用意できるのが四頭だ。それで金額は、その親父が今手にしている金貨全部だ」

「おいおいおい親父!そりゃあ足元見過ぎだろうがよ」
「ふん!嫌なら無理して買わなくても良いんだぜ。他の店で買いな」


汚い親父はニヤニヤしながら俺の持っている金貨を見つめている。そんな親父にグレムは歯軋りをして親父を睨んでいる。
俺は溜息を一息つくと、親父のチョークまみれの手を取って持っている金貨を手渡した。

「これで良いか?馬はいつ用意できる?
なるべく早く欲しいんだけど」

「へい、毎度!あ、あの早くというと?
どのくらい早くだ?ですはい」


親父に金貨を渡した瞬間、親父の態度と言葉遣いが変わった。


「できれば今日中が良いけど、無理なら徒歩で国を出る」

「いえいえいえ、大丈夫だぞ。ですはい。
今すぐにでも用意するぞ。ですはい」


小汚い親父は手に持っていたチョークを床に放り投げ、直ぐ小屋から走って出て行った。
そんな親父をポカーンとして見送った後、グレムが俺に頭を下げた。


「あんな親父初めて見たぜ。おっさん、悪かったな。余計な金を出させてしまって」

「いや良いさ。金はまだまだあるし、そのうちまた稼ぐさ。それより馬を用意するのって、どのくらい掛かるんだろうね」

「多分あの親父の急ぎようだと、そう掛からないと思うぜ。おっさん、どうする?此処で待ってるか?それとも、特に面白い物はないけどこの辺りを適当に歩くか?」

「そうだな。こんな所にいたって仕方ないし、見て回るかな。あ、そうだ。ここにギルドはあるか?」

「ギルドはこの国には無いぜ。今までは雑用は奴隷に魔物退治は兵士が戦闘用の奴隷とでやってきたからな。雑用でもそれを仕事にしている人もいるしな。おっさん、ギルドに何か依頼したかったのか?」

「いやなに、消費した分の金を稼ごうと思ったんだけど。この国には無いのか」

「は?おっさん、おっさんの服じゃギルドに入れないだろうがよ。もし入れても登録とか出来ないだろうぜ」

「グレム、俺が首から下げている首飾りが見えないのか?俺はこれでも冒険者なんだぞ」

「え?それって飾りじゃないのか?冒険者に憧れていてとかと思っていたぜ。じゃあ、その色の紫は本物でおっさんはBランクなのか?」

「お、この国にギルドはないのにランクの色をよく知っていたな。俺でも忘れかけていたのに」

「あ、ああ、そりゃあな。兵士としての遠征で偶に他所の国に行く事もあったし、俺も冒険者登録はしているんだぜ。ただし、登録だけでまだランクを上げてないんだけど」

「え?登録してるの?じゃあ、カードか首飾り持っているのか?あ、でもお前が裸の時、何も身につけてなかったよ」

「おっさん知らねぇの?カードは身体の一部に貼り付ける事が出来るんだぜ。で、使いたい時に取り出せるんだ。ほれ」


グレムは自身の服をめくって腹を見せ、腹からぺりぺりっと見覚えがあるカードを取り出した。

【グレム】
レベル10
HP80     MP10
筋力10 体力20 魔力3
敏捷度20 運10

カードにはグレムのステータスが記載されているが本当に元兵士か?そう疑いたくなるほど弱かった。

「あ?おっさんどした?」

「いや、まぁ、グレム、強く生きろよ。国を出る時、時間あれば俺が鍛えてやるよ」

「はぁ?なんで俺がおっさんに励まされなきゃいけないんだよ!鍛える?何言ってんだよ。おっさんがBランクなのも強い仲間とかがいたからだろうがよ!」

「ありゃ、怒らせてしまった。まぁ、このステータスでもゴブリンと頑張ればオークくらいは倒せるし大丈夫だな。悪かったなグレム」

「いや、ゴブリンは倒せるんだけどよ。
オークは一人じゃ無理なんだよな。て、もうこの話は止めだ止めだ!話は切り替えるぜ。おっさん、行きたい所か見てみたい物はあるか?」


グレムはギルドカードを再び自分の腹に貼り付けて、俺が行きたい場所を聞いてきたが、初めて来た場所だし、兵士に見られると厄介な事になるの間違いないだろうしで、どうしようと考えたのちグレムに付いて行く事にした。

「いや、ないよ。グレムに付いて行くからグレムの行きたい所に行ってくれよ。それで気になる事があればその都度聞くからさ」

「おっさんがそれで良いなら良いんだけどよ。
俺に付いて来ても面白くないぜ?」

「いいよいいよ。行こっか」


グレムは微笑んでいるいる俺に苦笑いして、歩き出した。

しおりを挟む
感想 302

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。