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第二十六話

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第二十六話

 奥様の部屋の前に行くと、エマさんが扉を開けてくれて、部屋に入るとご主人様ともう一人、見た事ない40代後半くらいの人が奥様のベッドの横に着いていた。

「ご主人様、奥様の容体が悪くなりましたか?」

「あぁ、医者の見立てでも身籠ってるのは間違いないそうだ。お前の言う通りだったな。
でも、医者に見せた所、マルムの実を食べさせただけでは、子を産むのは厳しいそうだ」

「あのゴールドリバー様、私に話させてもよろしいですかな?」

「あぁ、頼む。医者の方が説明しやすいだろうし任せる」


ご主人様の話を聞いていたら、横にいる医者らしき人が俺に話があると、医者と共に一度部屋から退出した。
退出して医者が俺に話し掛けてきた。


「お前が奴隷であるのはゴールドリバー様から聞いている、ある程度の知識と変わった力を持っているそうだな?」

ご主人様は魔法の事は言ってないのかな?


「はい、少しだけ知識と特殊な力を持ってます」

俺の知識と力を当てにして、手伝えとでも言われるのかな?


「ふむ、ならば話が早い、先程ゴールドリバー様が言っていた様に、このままマルムの実を食べさせていただけでは、奥様の容体は悪くなっても良くはならない。
だが、お前がどんな力があるか知らんが、奴隷風情が下手に口を出して、私の邪魔だけはするなよ?」


違った。ただの嫌な奴だった。
そして、俺も奴隷だし子供だから仕方ないけどこんな言い方ってないよな。


「私は家に道具と長期になりそうだから、着替えなどを取りに帰るが、くれぐれも余計な事をするなよ?」

医者はそれだけ言って一度部屋に戻ってご主人様に、家に道具と着替えを取りに戻るだけ言って出て行った。

出て行く時、もう一度俺に釘をさす様に余計な事をするなよ?とだけ耳元で言って行ってしまった。
でも、俺はあんな医者の言う事を聞く必要は無いと考えていた。

何故なら、昨日思いついた魔法を使おうと思っていたからだ。
俺は奥様の部屋に入ると、ご主人様は奥様に何か果物を食べさせていた。

「ご主人様、それは何を食べさせているのですか?」

「あぁ、アーテルか、これか?これはマルムの実だ。一欠片なら食べても良いぞ」


俺は「ありがとうございます。頂きます」そう言って一欠片を口にすると、滅茶苦茶に酸っぱい林檎って感じだ。
元々の果物の形がどの様な形か、気になって聞いてみる事にした。

「ご主人様、この果物の切る前の物はありますか?」

「ああ、あるぞ」

そう、ご主人様はご主人様の腰にぶら下げている布袋をゴソゴソと漁って、一個の果物を出した。

それは林檎か?見た目の形は林檎だけどヤケに細い。水分が抜けて干からびたみたいな、見た目の果物だ。

「あの、ご主人様コレはいつもこの様な形の果実でしょうか?」

「いや、違う。もっと瑞々しく本来ならもっと甘く美味しい物だが、時期的にこの様な物しか取れなくて、味も酸っぱい物になってしまっているんだ」


やっぱりそうか、もしかしたら昨夜見たあの夢はコレの事を示唆しての夢だったのかな?
ご主人様に虹の実の事を聞いてみるか?


「ご主人様、七色の果実は知っていますか?」

「あぁ、知ってはいるが、あれは中々取れない場所にあるぞ。市場に出ても高額で取引される代物だ」

「ご主人様は僕がジャイアントゴングに育てられた事は知っていますよね。

それで僕がジャイアントゴングと住んでいた場所の近くに、七色の果実が実る大樹があったんですが、アレを取って来る事が出来れば、奥様の体力も回復するかもしれません。

ご主人様の許可さえ下りれば、僕が取って来てみせます」


「でも、ジャイアントゴングは近づかなければ大人しいってだけで、近づけば他の魔物同様に凶暴な魔物だぞ?いくらお前があの魔物に育てられたと言っても、無理がないか?」

「それは分かりません。行ってみない限りは何とも言えません」

「よし!分かった。なら許可を出しても良いがどうやって行くつもりだ?」

「とりあえず、走ってと木々を使ってジャンプしたり、魔法使ったりして行こうかなって思います。
その前に、この屋敷からどちらの方向にジャイアントゴングの住処があるかとかって分かりますか?」

「いや、それは分からん。だが、お前が居た奴隷商の屋敷はどっち方面かは分かるぞ」


うーん、奴隷商人の所に寄ってから聞くかな?


「では、奴隷商人の屋敷に寄って聞いてから向かいます」

「今から行くか?行く準備が整い次第行って良いぞ?」


あれ?俺が外に出るって言ってるのに、首輪はしないのかな?


「あの、ご主人様?首輪はしないんでしょうか?このままの状態で、奴隷商人の所に向かうと逃げて来たと、勘違いされる恐れがあるんですけど」

「あ!そ、そうだな。奴隷の首輪はメイドに取りに行かせよう。決して忘れてた訳じゃないからな?」

こりゃ、完全に忘れてたな。


「あと、出来ればで良いのですが、ご主人様の命令で果実を取ってくる様にしたとかで、何か一筆書いて貰えると有り難いです」

「う、うむ、良かろう。
一筆書いて準備をして来よう」

「僕は奥様の状態が気になるので、昨日思いついた魔法を使いたいと思います。決して危険は無いですから使ってもいいですか?」

「うむ、それは私が見ていても大丈夫なのか?」

「良いですよ。見られても分からないと思いますので。奥様、これから奥様に魔法を使いますが普通にしていて下さいね」

「ええ、分かりました。
ではお願いします」

奥様の了承も取れたし魔法を使う事にした。

「それでは使いますね。
メディカルチェック」

体調、栄養失調気味、貧血
状態、妊娠7ヶ月
体力、10段階中3


俺が使った『メディカルチェック』は俺の知りたい、その人の健康状態の項目が見える魔法だ。
しかし、妊娠7ヶ月って、もうすぐ産まれるじゃないか!

あまり、猶予はないな。
急いで、虹の実を取って来ないと間に合わないかも知れない。


「なぁ、アーテル、今使った魔法はどの様な魔法なんだ?」

ご主人様が俺が唱えてジッと黙って宙を見ているから、不思議に思ったのか俺が使った魔法を聞いてきた。

今使った魔法は、俺だけにしか見えない様に考えた魔法だから、俺以外の人には何が起きたか分からない仕組みになっている。

「ご主人様、一筆の方はなるべく早くお願いします。奥様は妊娠7ヶ月みたいですから、女性は10ヶ月で子を産みます。
ですので、ご主人様の奴隷の首輪と一筆が出来次第、出発します」

「いや待て待て、説明がなってないぞ?何で妻が7ヶ月だと分かるんだ?先に説明しろ」


あー、説明面倒だな。
でも説明しないと一筆書くのがドンドン遅れそうだし、面倒だけど説明するか。


「ご主人様、今僕が使った魔法は相手の健康状態が分かる魔法です。
奥様の体調は栄養失調気味で貧血と出ました。
そして、妊娠7ヶ月で体力が10段階中3と出たので早めに行動を起こしたいと思ってます」


「うむ、そう言う事なら私も直ぐに動こう」


ご主人様はそれだけ言って、部屋から走って出て行った。
俺は残って奥様に安心する様に言葉を掛けてあげる事にした。

「奥様、僕が急ぎで虹の実を取って参りますので、気を強く持って居て下さい。
念のため気休めでしか無いと思いますが奥様に魔法を使っていきますね」

それだけ言って「ヒール」を唱えて気持ちを楽にさせた。
そして、もう一つ考えていた魔法
『ウォーターヒール』を声に出さずに、奥様のベッドの脇に置いてある空の水差しに入れた。

『ウォーターヒール』は水に傷を癒すヒールをくっ付けただけだけど、水自体に傷を癒す成分を入れて、ついでに入っているかどうかは分からないけど、栄養が入っているイメージを追加で入れたけど、こればかりは飲んで見ないと分からない物だ。

「奥様この水差しに入れたお水を飲んでみて下さい」

そう言いながら、水差しからコップに移し入れて飲んで貰った。

「あら、ほんのり甘いわ」

成功したかは分からないけど甘いなら、成功したって事で良いかな?

「奥様この水は後で樽に入れてご主人様に伝えておきますので、ご食事が出来なければ最低でもこれを飲んで下さい。
僕も出発する為に、シャルロット様に出掛ける事を伝えて参りますので退出します」


俺は奥様にお辞儀をして部屋から退出した。



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