付加魔法は自分のために

仙堂レイ

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第一章:日常の終わり

新たな自分-1

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 いつも通りの朝、いつも通りの大学、いつも通りの講義……いつも通りの繰り返しに改変をもたらすのは中々難しい。
 しかし、いつも通りであるはずの昼休みに、それは起こった。

『自分だけの生き方で、第二の世界を謳歌しよう!』
 どこからともなく大音量で謎のフレーズが流れてきた。あまりにも大きかったので数秒間耳が機能しなかったくらいだ。
 しばらくして原因を探ってみると、講義中だったからと電源を切っていたはずの携帯が光っていた。どうやら、こいつのせいらしい。

 慌てて画面を見てみると、真っ白な背景にスーツを着た男性が立っている。もちろん、こんなものを待ち受けにした覚えなんぞはない。

『諸君、突然のことに困惑しているだろう。しかし、これを見ればそんな驚きは些細なことに感じるはずだ』
 俺が画面を見たのを見計らったように喋り出したと思ったら、すぐに画面が切り替わり動画が流れてきた。

 石造りの街並み、鎧やローブを着た人々、吟遊詩人に曲芸師、二足歩行の猫や蜥蜴に髭が立派な子供位の背丈のおっさん、街を囲む壁より向こうには、広大な海に大きな山々、開けた草原には半透明の動く物体に狼の群れ、他にも森には人程の大きさの蜂やどこかの洞窟には人形の溶岩が動いていたりと、ファンタジーといえばこのような世界を指すのだろうといった景色が流されていた。

 それだけならばそれこそ在り来たりなファンタジー系のゲームの宣伝なのだが、問題はその映像のクオリティだ。
 まるでその世界に……とかそんなレベルじゃない位の、ハリウッド映画とか最新のテレビなんかが霞んで見えるほど臨場感溢れる映像だったのだ。

 さらにおかしいのは、この携帯では絶対に画素数が足りていないことだ。
 特別古い機種ではないが、最新の物でもここまでの映像は絶対に見れないだろう。
 それにも関わらず、そんな制限を無視して流れてくる映像に俺の心は完全に奪われた。

 やがて最初に聞こえたフレーズが再び流れた後に映像は終わり、先ほどの男が現れた。
『さて、楽しんで頂けただろうか?今の映像は、我が社が独自に開発した最新の体験型ゲーム『SecondDiary』だ。このゲームは、専用の機体を使って脳に直接作用し、ゲームの中に入ったかのような体験が出来るバーチャルリアリティロールプレイングゲーム……略してVRRPGという新ジャンルのゲームになっている。まさに、ゲームの世界に新しく君は生まれ変わるのだ。第二の世界を存分に楽しんで貰えるように作っているので、是非遊んで……いや、生まれ変わって新たな世界を一から味わって貰いたい。ちなみに、発売日は3日後の午前9時だ』

 この時、俺はいつも通りから抜け出す術を知った。
 第二の世界まであと3日……これから忙しくなりそうだ。
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