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第二章 本編へ至る道編
41 鑑定の儀式へ
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――その日は、今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。
「アイリスー!そろそろ行くよー」
「ちょっと待ってよ!あ、お兄ちゃん傘は」
「アイリスの分も持ってるよ」
――ぱたぱたぱた
私の返答が聞こえたのか、軽快な足音が家の中から近づいて来る。
「お待たせ!」
「そんなに待ってないよ。じゃ教会へ行こうか」
私の差し出した手を取るアイリスは、目を細めて隣の公爵家に視線を向ける。
目を細めているのは、お隣といってもかなりの距離があるからだ。
「ん~見えないけど、テルルももう向かったのかなぁ」
アイリスの言葉に私も彼女の家に顔を向ける。
「馬車が無いからもう向かったのかもね」
「あちゃ~、乗せてもらえば良かった。今にも雨が降りそうなのに残念」
「アイリスがいくらテルルと仲良しでも一緒には行けないよ。彼女は公爵家の人だしね」
「ん~、そうよね。そう言う所も気を付けないといけないのよね」
少し貴族社会を気にしだしたのでしょう。兄としては嬉しい限りです。
「――お兄ちゃん、ちょっと忘れ物しちゃったから先行ってて」
唐突に何かを思い出したかのような彼女の行動。
最近は頻繁にこの様な事があります。
たぶんトイレが近いお年頃なのでしょう。
「そっか、じゃ先に行っとくからいっトイレ」
「何故親父ギャグ?それとトイレじゃないからね!」
私はニコリと微笑み、片手を上げながら後ほどアイリスと教会の前で合流する事にした。
――そう言えば昔、と言うか前世の子供の頃は、この道でテルルとよく走り回ってたのを思い出します。
「っと、降りだしましたか」
眼鏡に雫が落ちた。
空からこの雨粒が私の眼鏡に落ちて来る確率は……男女が出会う確立と何方が低いのでしょうか。
前回私はこの世界で15年を生きました。
幼きあの日にテルルと出会い、それは幸せな日々です。
決して今の新しく出会えた妹に不満がある訳ではありません……。
いえ、嘘ですね。
私は今回の人生に不満を抱いています。
テルマイル・ハイネケン。今回の人生で彼女が心を開いているのは私ではなく、妹のアイリスです。
ご近所に住む同じ歳の女の子が、男の子と女の子のどっちと仲良くなるかと言えば、同性の女の子でしょう。
それは理解出来ます。
出来ますが……このまま過ごせば、いずれ私とテルルとの接点はと言えば、ただの学園の同級生。
それが今回の人生での不満です。
私は前回、王子を殺そうとする程に彼女の事が好きになっていた事を理解しています。
初めてこの世界へ送られる前、神様に自分が恋愛マスターだと嘘を言いました。
「本物の恋愛マスターは、こんなに切ない気持ちになるんでしょうか……」
いつのまにか雨は強くなりはじめ、午後の師匠との稽古は諦めようと、その足を教会へ向けました。
――――
――
教会へ到着すると。
「お兄ちゃん遅い!」
既にアイリスが教会の長椅子に座っています。
「どうやって僕を抜かしたんだい?」
「へ?あ、あぁ~すっごい走ったから気付かない間に抜かしちゃったかも?」
「かも?って、まぁいいです。それより順番はまだですか?」
アイリスは跳ねる様に長椅子椅子から立ち上がると。
「今丁度テルルの番。私達は次の次くらいかな」
言いながら教会の奥の部屋を見つめます。
「スキルは本人以外知られちゃいけないし、あの部屋で鑑定の儀式ってのをしてるみたいね」
「そうですね――」
テルルが何かのスキルを授かる。
もしそれが私を必要としないスキルなら……もう本当にただの同級生になってしまいますね。
「どったの?……テルルのスキルがそんなに気になる?」
「いえ。彼女がどんなスキルを得たとしても祝福するつもりですよ」
「ふ~ん(そろそろかな)」
「アイリス?どうしました?」
「いやぁ~なにも?」
――カラ~ン、コロ~ン!カラ~ン、コロ~ン!
突然教会の鐘の音が響き渡ります。
「この鐘の音は……」
「あー、テルルちゃんのスキルが国への報告が必要な重要スキルだったって事ね」
アイリスのその言葉に、私は奥の部屋へと駆けていました。
「アイリスー!そろそろ行くよー」
「ちょっと待ってよ!あ、お兄ちゃん傘は」
「アイリスの分も持ってるよ」
――ぱたぱたぱた
私の返答が聞こえたのか、軽快な足音が家の中から近づいて来る。
「お待たせ!」
「そんなに待ってないよ。じゃ教会へ行こうか」
私の差し出した手を取るアイリスは、目を細めて隣の公爵家に視線を向ける。
目を細めているのは、お隣といってもかなりの距離があるからだ。
「ん~見えないけど、テルルももう向かったのかなぁ」
アイリスの言葉に私も彼女の家に顔を向ける。
「馬車が無いからもう向かったのかもね」
「あちゃ~、乗せてもらえば良かった。今にも雨が降りそうなのに残念」
「アイリスがいくらテルルと仲良しでも一緒には行けないよ。彼女は公爵家の人だしね」
「ん~、そうよね。そう言う所も気を付けないといけないのよね」
少し貴族社会を気にしだしたのでしょう。兄としては嬉しい限りです。
「――お兄ちゃん、ちょっと忘れ物しちゃったから先行ってて」
唐突に何かを思い出したかのような彼女の行動。
最近は頻繁にこの様な事があります。
たぶんトイレが近いお年頃なのでしょう。
「そっか、じゃ先に行っとくからいっトイレ」
「何故親父ギャグ?それとトイレじゃないからね!」
私はニコリと微笑み、片手を上げながら後ほどアイリスと教会の前で合流する事にした。
――そう言えば昔、と言うか前世の子供の頃は、この道でテルルとよく走り回ってたのを思い出します。
「っと、降りだしましたか」
眼鏡に雫が落ちた。
空からこの雨粒が私の眼鏡に落ちて来る確率は……男女が出会う確立と何方が低いのでしょうか。
前回私はこの世界で15年を生きました。
幼きあの日にテルルと出会い、それは幸せな日々です。
決して今の新しく出会えた妹に不満がある訳ではありません……。
いえ、嘘ですね。
私は今回の人生に不満を抱いています。
テルマイル・ハイネケン。今回の人生で彼女が心を開いているのは私ではなく、妹のアイリスです。
ご近所に住む同じ歳の女の子が、男の子と女の子のどっちと仲良くなるかと言えば、同性の女の子でしょう。
それは理解出来ます。
出来ますが……このまま過ごせば、いずれ私とテルルとの接点はと言えば、ただの学園の同級生。
それが今回の人生での不満です。
私は前回、王子を殺そうとする程に彼女の事が好きになっていた事を理解しています。
初めてこの世界へ送られる前、神様に自分が恋愛マスターだと嘘を言いました。
「本物の恋愛マスターは、こんなに切ない気持ちになるんでしょうか……」
いつのまにか雨は強くなりはじめ、午後の師匠との稽古は諦めようと、その足を教会へ向けました。
――――
――
教会へ到着すると。
「お兄ちゃん遅い!」
既にアイリスが教会の長椅子に座っています。
「どうやって僕を抜かしたんだい?」
「へ?あ、あぁ~すっごい走ったから気付かない間に抜かしちゃったかも?」
「かも?って、まぁいいです。それより順番はまだですか?」
アイリスは跳ねる様に長椅子椅子から立ち上がると。
「今丁度テルルの番。私達は次の次くらいかな」
言いながら教会の奥の部屋を見つめます。
「スキルは本人以外知られちゃいけないし、あの部屋で鑑定の儀式ってのをしてるみたいね」
「そうですね――」
テルルが何かのスキルを授かる。
もしそれが私を必要としないスキルなら……もう本当にただの同級生になってしまいますね。
「どったの?……テルルのスキルがそんなに気になる?」
「いえ。彼女がどんなスキルを得たとしても祝福するつもりですよ」
「ふ~ん(そろそろかな)」
「アイリス?どうしました?」
「いやぁ~なにも?」
――カラ~ン、コロ~ン!カラ~ン、コロ~ン!
突然教会の鐘の音が響き渡ります。
「この鐘の音は……」
「あー、テルルちゃんのスキルが国への報告が必要な重要スキルだったって事ね」
アイリスのその言葉に、私は奥の部屋へと駆けていました。
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