10 / 10
10 この尻尾、ふかふかだ!!
しおりを挟む「はあ、今日は疲れた……」
伊吹は部屋に帰ってくると、ぐでんと横になった。
風呂でも王の話を聞かされて、疲れ切ったのだが、それはまあいい。クルルの弱みを握ることができたのだから。もっとも、それを口にした瞬間、思い切りぶん殴られてしまう可能性が非常にたかいのだが。
それから、王に気に入られた彼の成果は、正式に認められることになり、いろいろと話し合いなどがあった。
彼の存在はできるだけ表沙汰にならないよう結論づけられると、やっぱり、王城の一室で過ごすことになる。
つまり、この生活が続くということだ。
「あー、しんどい……」
今日一日で、いろいろなことがあった。
ドラゴンを倒したり、国をオークから救ったり。
なんとも忙しかった。こんな忙しい人間が、ほかにいるのかと疑いたくなるほどだ。
そんな彼はもう疲れ切ったので寝ようと思うのだが……
「ベッドがない」
この部屋には、投げられそうなものは一つもないのだ。
王も「生活はクルルに一任する」と言ってしまったので、待遇はほとんど改善していない。
その元凶であるクルルは、彼の隣で告げる。
「あんた、どうせ自分の能力うまく制御できないんでしょ?」
「いや、そんなこともないと思う。皿洗いのときは、特に問題なかったし……」
「でも、城を吹っ飛ばされたらたまらないから」
「とはいえ、硬い床で寝ろというのは……」
「仕方ないわ。ちょっと待ってなさい」
クルルが連絡すると、兵がやってきて床を加工して、あっという間に備え付けのベッドを作ってしまう。もちろん、持ち上げたり出来ないようにしっかり加工されている。
これなら、うっかり寝ぼけて投げる事故も起こらないだろう。
伊吹は喜んで、ベッドに飛び込み、ごろごろと転がる。
「どう?」
「ふかふかだ」
「満足したようね」
「でも、これじゃあ寒いなあ……」
伊吹が呟くと、クルルがその隣に寝ころがり、そっと尻尾を差し出した。
「寒いからなんだからね。仕方ないからなんだからね!」
「え、いいの!?」
「涎つけたら、承知しないから」
「やった! この尻尾、ふかふかだ!!」
伊吹は早速、クルルの尻尾をぎゅっと抱きしめる。
ふわふわである。最高にふわふわである。
前に触ったときと比較しても、すごい。お風呂上がりだから、毛はさらさらしているし、普段よりも膨らんで見える。
「あったかくて、ああ幸せだ……」
「もう、嬉しそうにしちゃって」
クルルはされるがままになりながら、すっかり顔を赤らめるのだ。恥じらう乙女である。
伊吹はそんな彼女に告げる。
「……あのさ、クルル」
「なに?」
「いろいろあったけど……ありがとう。おかげで、なんとかこの世界でもやっていけそうだ」
「どういたしまして。これからも、しっかりしてね」
「善処するよ」
そんな二人がいい雰囲気になっていると、
「お邪魔だから退散したほうがいい?」
と、ロリナ。
一応、見張りなのだ。片時も目を離すわけにはいかないのである。
伊吹はそんな彼女にも告げる。
「ロリナもこっちに来て寝ようぜ」
「わかった」
彼女はとことことやってきて、伊吹を挟んでクルルの反対側に来る。そして自分の尻尾をぎゅっと抱きしめた。
「ロリナの尻尾もあったかそうだな」
「えっち」
「なんでそうなるんだ」
伊吹が困るも、反対側ではクルルも頬を膨らませている。
「早速、他の子の尻尾に興味を示すなんて、いい度胸じゃない」
「いや、そういうわけじゃ……」
「えっち」
「……伊吹の馬鹿っ!」
二つの尻尾に挟まれながら、伊吹はすっかり困り果ててしまうのだった。
けれど、悪いことばかりでもないかもしれない。
あまり当てにならないが、王によればロリナも普段より楽しそうとのことだ。きっと、この関係は悪くない。
この波瀾万丈のスローライフがこれからも、ずっと続いていけばいい、と願う自分もどこかにいる。
「ねえ、伊吹」
「うん?」
「……どこにも行かないでね」
「10000万ゴールドの借金があるからな。簡単には出て行けないさ」
「そうね。うん。よろしくね」
今度はクルルから、ぎゅっと伊吹に抱きついた。
伊吹はドギマギしてしまう。女の子にこんなことをされるのなんて、初めてだから。
いかに鈍い伊吹であっても、ここまでされたら好意には気がつく。
(これはもしや……大人の階段を上ってしまうのでは!?)
ドクドクと心臓がうるさくなる。
伊吹はどうしていいのかわからなくなりながらも、なんとか気持ちを落ち着かせる。
それからクルルを見るのだが――
「すぅ……すぅ……」
彼女はすっかり眠っていた。
反対側に視線を向ければ、監視のはずのロリナも心地よさそうに眠っている。
(本当に、今日はいろんなことがあった)
きっと、そう思うのは伊吹だけではないだろう。
おてんばなお姫様を見ながら、彼は微笑み呟く。
「おやすみ。また、明日」
落ち着かない日々はこれからも続きそうである。
0
お気に入りに追加
742
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。


巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完…結?
『人にだけ無害』
。。。人でないモノは衣服だけでなく体内からも吹っ飛んでそう、なイメージ。
(病気とか毒も消えそう。 怪我は無理かもだけど)
主人公の交渉能力のなさ( ´ ▽ ` )