異世界でスローライフを送りたいと願ったら、最強の投擲術を手に入れました

佐竹アキノリ

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7 300万ゴールド

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 ドラゴン討伐を終えて帰ってくると、伊吹は元の部屋に戻ってきていた。

「伊吹、あんたもなかなかやるじゃない」
「そりゃどうも」

 クルルはなんとも上機嫌である。
 ドラゴン討伐がうまくいったからだろう。

「おかげでコーヤン王国の平和は守られたわ」
「よかったね」
「もっと喜びなさいよ」
「わーすごーい、うれしーなー」
「……なに? 嬉しくないの?」
「いやだってほら、コーヤン王国は守られたけど、俺がこれからどうなるのか、まだわからないわけでして」

 あれほどの大成功を収めたが、危険人物と認定される可能性もある。
 クルルはそうした話をなにもしてこなかったのだ。彼女がいきなり、「あんたなんて用済みよ」と言ってくる可能性がある。

 なにしろ、この性悪尻尾には二度も騙されたのだ。
 一度目は、水晶を見ればわかるという嘘。そして二度目は、この部屋に軟禁したとき。

 彼とて、身構えずにはいられない。

「そうね……。心配はしないで。私がなんとしてでも、身の安全は確保するから」

 クルルは真面目な表情で言う。

(……あれ、やっぱり、案外いい子なんじゃ?)

 と思ってしまう辺り、伊吹もなかなかチョロかった。

 そんな二人を見ていたロリナは、ふっと笑う。

「大丈夫、利用価値があるうちは生きていられる」
「それ、いらなくなったら捨てるって言ってるも同然じゃないか!」
「せいぜい頑張ることね」
「辛辣過ぎない?」
「応援してあげているのに、人の好意を素直に受け取らないくず野郎ね」
「いい加減、その呼び方やめて。傷つくんだけど」

 伊吹がため息をついていると、クルルが困ったように見てきている。
 けれど、なにを言っていいのかわからないようだ。

 だから、彼はここで言わねばならない。いい加減、なあなあでやっていくわけにもいかないことがあるのだ。世の中には、はっきりさせないといけないことがある。

「クルル」
「なに?」
「大事な話があるんだ」

 彼はクルルへと近寄っていく。
 そして手が届く距離になる。じっと見つめていると、彼女は顔を赤らめ、尻尾をぱたぱたする。

「えっと……その……ロリナもいるんだけど……」
「大丈夫、問題ない」
「そ、そういうものなの?」
「ああ。俺たちの思いが通じ合ったことを、保証してくれる人がいたほうがいい」
「あうぅ……ちょ、ちょっと、まだ早くない?」
「こういうのは、できるだけ早いほうがいいんだ。そのほうが、後々困らない」
「そうなのね、うん、わかった」

 クルルがすっかり顔を真っ赤にしながら、彼の言葉を待つ。

 そして伊吹は言い放つ。

「俺のボーナス、どうなったの? ちゃんと払われるんだよな?」
「………………へ?」
「だから、ドラゴン討伐の報酬100万ゴールド!」
「……………………は?」

 クルルはぽかんとした顔で伊吹を見ている。

「どこが大事な話なのよ!」

 ベチン。

「痛い! お前なあ! 金の話は大事なんだぞ! そういうところ、しっかりしておかないから、あとから契約違反が起きたり、条件を悪くされたり、ひどい目に遭うんだ!! 労働者の気持ちをもっと知るべきだ!!」
「な、なんかよくわからないけど……そ、そうなのね?」
「当たり前だ!」

 伊吹に気圧されてしまうクルル。詰め寄る伊吹。
 面白おかしく眺めるロリナ。

「わー、クルル様が押し倒されそう」
「そ、そんなこと……」
「ちゃんとお金は払ってもらうぞ」
「わかってる。100万ゴールド払うから」
「さすがクルル! 話がわかるっ!」
「調子がいいのね」

 呆れつつも、クルルは人を呼んで100万ゴールドを持ってこさせる。
 伊吹はそれを一つ一つ数えながら、にっこり。

「……そんなにお金が欲しかったの?」
「俺には身よりもないし、この世界の知識もない。特に優れた技術があることもない。なんにもないんだ」
「異世界から来たって話、本当だったの」
「だからそう言ってるだろ。生きていくためには、金がいる。そして安定して金を稼ぐには、やっぱり元手がいるんだ」
「……そっか」

 クルルはしんみりとしてしまう。
 彼女は少し考えてから、一つ頷いた。

「わかった。あんたのお給料、もっとよくしてあげる」
「本当か!?」
「これ以上は、私の一存ではどうしようもないから……ちょっと掛け合ってみる」
「さすがクルル! 素敵だ! なんと魅力的なんだ!」
「え、えへへ……そんな、そんなことないもん。うふふ」

 浮かれるクルル。そして浮かれる伊吹。

「お金を貯めて、さっさとこんな城出ていってやる!」
「………………は?」
「こんななんもない部屋で暮らしていられるか!」
「……………………伊吹」
「はい?」
「300万ゴールド」
「くれるの?」
「私の鎧、壊したでしょ。修理費。弁償して。300万ゴールド」
「いや、あれは事故というか……」
「壊したでしょ」

 ずいと詰め寄るクルル。ロリナが「きゃっ大胆」などと茶化した。

「えっと……その……」
「300万ゴールド」
「わかった! 払えばいいんだろ! 金が貯まったら返すから!」

 伊吹はもはや投げやりに返す。
 こんなところは、彼は律儀過ぎるかもしれない。とはいえ、彼も悪いと思っているのだ。

(よっぽどお気に入りの鎧だったんだろう。壊して悪かった)

 そう思わなくもないのである。
 もちろん、金があるんだから自分で直せよ、と思わなくもないが。

「そうね、そうするといいわ。いい心がけね。お金が貯まるまで、ずっとここにいるといいわ」

 クルルは尻尾を揺らしながら、ご満悦である。

(はあ、やっぱり性悪尻尾だ。いい子だなんて思った俺が馬鹿だった)

 そうして伊吹の生活はまだまだ続くことが確定したのである。

 そんな賑やかな三人のところに、慌てて駆け込んでくる者があった。
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