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4 頭大丈夫?
しおりを挟む「俺の目的は――」
男たちが息を呑む。そしてクルルも剣を構えた。
そんな中、伊吹は告げる。
「スローライフを送りたいんだ」
「……は?」
「だから、こんな時給800ゴールドの皿洗いなんかじゃなくて、まともな給料が出る仕事について、ゆったり過ごしたい。あったかい飯を食って、ふっかふかの寝床で昼過ぎまで寝ていたい」
「オークを皆殺しにしておきながら、そんな平和な言葉が通じるとでも?」
「あれをやったのは俺じゃない」
「水晶は嘘をつかない」
「いや、確かに俺だけど、ただの事故なんだ」
「つまり、あんたは事故であんな大爆発を起こす危険人物だということね?」
「……君、性格悪くない?」
「なんとでも言いなさい」
これでは埒が明かない。
「ともかく、もうあんなことにはならない。俺はこの皿洗いで金を稼いで、それからまともな仕事につくんだ。邪魔をしないでくれ」、
はっきりと言い切った。
(これであの性悪尻尾も、わかったはずだ。俺がなににも屈しないと!)
「……月給50万ゴールド」
「なに?」
「完全週休二日制!」
「!」
「残業なし!」
「ば、馬鹿な……残業のない仕事場など……」
「あんたが素直に言うこと聞くなら、雇ってあげないこともないけど」
「くっ……そんな脅しが効くと思うのか!」
「効かないの?」
「俺にだってプライドがある!」
彼はさっと頭を下げた。
「お願いします!」
「……めちゃくちゃ効いてるじゃない」
「なんとでも言うがいい」
「さっき、金になんて屈しないって言ってたのは?」
「世の中は綺麗事だけじゃ回らないんだ」
「そう。じゃあ契約は成立ね」
クルルは尻尾を揺らしながら、満足そうに笑みを浮かべる。
「というか、俺になにをやらせるつもりなんだ?」
「掃除でもしてもらうわ」
「まさか……誰もやりたがらない豚小屋の掃除を……」
「違うわ。あんたの中の私はどうなってるのよ」
「性悪尻尾」
「月給、40万にしようかな」
「すみませんでしたァ!!」
ビシッと頭を下げる。
「ま、そういうわけだから、よろしくね」
クルルはにっこりと微笑むのだった。
「ああ、よろしく」
「というわけで、オークを全滅させた方法について教えなさいよ」
「教えた途端に、お前は用済みだって切り殺したりしない?」
「そんな極悪人じゃないわ」
「危険だから、幽閉してしまうとかは……」
「場合によるかも」
「あるのかよ!」
「細かいこと言ってないで、さっさとしなさいよ」
「なんで俺が怒られてるんだよ……」
「今から一つ数えるごとに、月給が一万ずつ減りまーす。いー」
「待て! それは――」
「ち。にーい。さー」
「異世界から来るときに、もらったんだよ!」
伊吹が正直に告げる。
だが――
「あんた頭大丈夫?」
「ひどい! 正直に話したのに」
「そういう設定なのね。それで?」
「ものを投げると、すごく速い」
「ふんふん」
「オークに命中するとあまりの速さに吹っ飛ぶ」
「へえ」
「納得してくれた?」
「意味がわからないわ」
「俺もだよ」
こればかりはどうしようもない。
「つまり、両手を切り落とせばその力は使えないってことね」
「ちょおおおおおっと!!」
「大丈夫、死ぬまで不便がないように、使用人をつけてあげるから」
「どこも大丈夫じゃない! 不便だよ!」
「一流だから、あなたごときより、よほど快適なはずよ」
「さりげなく俺を蔑むのやめて! もっと穏便にいこうよ!」
「わがままね」
「お願いしますッ!!」
ビシッと頭を下げる。
(今は耐えろ、耐え忍ぶときなんだ……!)
彼は必死に感情を抑え込む。
(たとえこの性悪尻尾が、ちょっと可愛いからって、傍若無人でわがまま放題でも、お金をもらってしまえばこっちのものだ!)
ある程度貯金を貯めたら、こんな国出ていってやればいい。
そう考えていると、クルルはにっこりと微笑んだ。
「それじゃ、現状維持で。変な動きしたら両手を落とすから。大人しくしていてね」
「ああ、わかった」
(案外いい子なのでは?)
彼がそう思った直後、クルルはさらさらっと契約書を書く。
月給、48万ゴールド。しっかり2万ゴールド引いてある。
(やっぱり、性悪尻尾だ)
伊吹はうなだれるのだった。
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