異世界でスローライフを送りたいと願ったら、最強の投擲術を手に入れました

佐竹アキノリ

文字の大きさ
上 下
4 / 10

4 頭大丈夫?

しおりを挟む

「俺の目的は――」

 男たちが息を呑む。そしてクルルも剣を構えた。
 そんな中、伊吹は告げる。

「スローライフを送りたいんだ」
「……は?」
「だから、こんな時給800ゴールドの皿洗いなんかじゃなくて、まともな給料が出る仕事について、ゆったり過ごしたい。あったかい飯を食って、ふっかふかの寝床で昼過ぎまで寝ていたい」
「オークを皆殺しにしておきながら、そんな平和な言葉が通じるとでも?」
「あれをやったのは俺じゃない」
「水晶は嘘をつかない」
「いや、確かに俺だけど、ただの事故なんだ」
「つまり、あんたは事故であんな大爆発を起こす危険人物だということね?」
「……君、性格悪くない?」
「なんとでも言いなさい」

 これでは埒が明かない。

「ともかく、もうあんなことにはならない。俺はこの皿洗いで金を稼いで、それからまともな仕事につくんだ。邪魔をしないでくれ」、

 はっきりと言い切った。

(これであの性悪尻尾も、わかったはずだ。俺がなににも屈しないと!)

「……月給50万ゴールド」
「なに?」
「完全週休二日制!」
「!」
「残業なし!」
「ば、馬鹿な……残業のない仕事場など……」
「あんたが素直に言うこと聞くなら、雇ってあげないこともないけど」
「くっ……そんな脅しが効くと思うのか!」
「効かないの?」
「俺にだってプライドがある!」

 彼はさっと頭を下げた。

「お願いします!」
「……めちゃくちゃ効いてるじゃない」
「なんとでも言うがいい」
「さっき、金になんて屈しないって言ってたのは?」
「世の中は綺麗事だけじゃ回らないんだ」
「そう。じゃあ契約は成立ね」

 クルルは尻尾を揺らしながら、満足そうに笑みを浮かべる。

「というか、俺になにをやらせるつもりなんだ?」
「掃除でもしてもらうわ」
「まさか……誰もやりたがらない豚小屋の掃除を……」
「違うわ。あんたの中の私はどうなってるのよ」
「性悪尻尾」
「月給、40万にしようかな」
「すみませんでしたァ!!」

 ビシッと頭を下げる。

「ま、そういうわけだから、よろしくね」

 クルルはにっこりと微笑むのだった。

「ああ、よろしく」
「というわけで、オークを全滅させた方法について教えなさいよ」
「教えた途端に、お前は用済みだって切り殺したりしない?」
「そんな極悪人じゃないわ」
「危険だから、幽閉してしまうとかは……」
「場合によるかも」
「あるのかよ!」
「細かいこと言ってないで、さっさとしなさいよ」
「なんで俺が怒られてるんだよ……」
「今から一つ数えるごとに、月給が一万ずつ減りまーす。いー」
「待て! それは――」
「ち。にーい。さー」
「異世界から来るときに、もらったんだよ!」

 伊吹が正直に告げる。
 だが――

「あんた頭大丈夫?」
「ひどい! 正直に話したのに」
「そういう設定なのね。それで?」
「ものを投げると、すごく速い」
「ふんふん」
「オークに命中するとあまりの速さに吹っ飛ぶ」
「へえ」
「納得してくれた?」
「意味がわからないわ」
「俺もだよ」

 こればかりはどうしようもない。

「つまり、両手を切り落とせばその力は使えないってことね」
「ちょおおおおおっと!!」
「大丈夫、死ぬまで不便がないように、使用人をつけてあげるから」
「どこも大丈夫じゃない! 不便だよ!」
「一流だから、あなたごときより、よほど快適なはずよ」
「さりげなく俺を蔑むのやめて! もっと穏便にいこうよ!」
「わがままね」
「お願いしますッ!!」

 ビシッと頭を下げる。

(今は耐えろ、耐え忍ぶときなんだ……!)

 彼は必死に感情を抑え込む。

(たとえこの性悪尻尾が、ちょっと可愛いからって、傍若無人でわがまま放題でも、お金をもらってしまえばこっちのものだ!)

 ある程度貯金を貯めたら、こんな国出ていってやればいい。
 そう考えていると、クルルはにっこりと微笑んだ。

「それじゃ、現状維持で。変な動きしたら両手を落とすから。大人しくしていてね」
「ああ、わかった」

(案外いい子なのでは?)

 彼がそう思った直後、クルルはさらさらっと契約書を書く。
 月給、48万ゴールド。しっかり2万ゴールド引いてある。

(やっぱり、性悪尻尾だ)

 伊吹はうなだれるのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...