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第三章
19 757Sランクロックバード
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リベルは瞑想していた。
微動だにせず、すべての意識は体を流れる魔力に向かっている。
その感覚は掴めたかと思いきや、その手の中からふっと消え去っていく。
(……またか)
ジャイアントオーガとの戦いから一ヶ月。
あのとき、ミレイが見せた力を模倣しようとするが、うまくいかない。
そも、彼の固有の能力として、誰かが使った力を我が物にできるというものがある。圧倒的な成長をもたらす力と合わせて、これが彼をSSSランクたらしめた根源である。彼自身の技量と相まって、非常に強力だ。
おかげで次々と成長してきた彼だが、いまだにミレイの力の底は見えてこない。
「リベルくん、もうそろそろつくよ」
考え事をしていると、アマネが部屋に入ってきた。
リベルは立ち上がると彼女と一緒に外に出る。
通路を歩きながら、リベルはあちこちをまじまじと眺める。すべて金属でできている立派なものなのだが、普通とは決定的に異なる部分がある。
「こんな金属の塊が空を飛ぶとはな……信じられない」
「いつもいってるね。いい加減慣れたら?」
彼らは今、飛行船内におり、魔物退治に向かっている途中である。
100Sランク階層で移動に使われるのは飛行船が多い。
高出力の魔石を仕込み、それによって時間を操る魔術的効果を得ており、超高速での移動が可能のメリットがある。もちろん、その分値段も効果なのだが。
都市との移動もあっという間に終わるため、発ったと思えばすぐに到着だ。
やがて到着のアナウンスが入るとともに、リベルは搭乗口に到着。クルルシアはすでに来ており、彼の到着を待っていた。
「遅かったわね」
「ちょっと手こずってな」
「まだ戦いは始まってないのに、気が早いのね」
「そっちはすぐに終わるだろ」
「油断しないの」
リベルは飛行船を下りると、どこまでも広がる荒野に目を向ける。はるか遠く、豆粒のように見えるのがロックバード。全体が石でできており、非常に硬い特徴がある。その上群れており、上空から岩石を振らせてくるため、相手にするのが難しい。
が、今の彼の敵ではない。
「757Sランクだったか」
「格下だからって、油断しないでよ」
「わかってるさ」
すでにリベルたち三人は1000Sランクに到達している。ミレイの技を見たこともあって、突破は容易かった。
「さあ、やろう」
リベルは剣を抜くと、時間を操り加速し、一気にロックバードへと接近。
距離が近くなると跳躍する。さらに魔力を操作して付近の空間に干渉。自然現象をも自在にし、空を軽々と移動することができた。
まさか空を飛ぶ人がいるとは思ってもいなかったロックバードは、狼狽え反撃が遅れた。
そのときにはリベルは魔力を纏わせた剣を一振り。
魔力は広がっていき、大半の敵を包み込む。ロックバードはその中から抜け出そうともがくが、移動することはかなわない。やがてその岩の肉体はボロボロと朽ちていく。
魔力により対象の空間における自然法則を操り、意のままに書き換えてしまうこと。それが1000Sランクの条件である。
この能力が強すぎるがゆえに、リベルはなかなか上の階層に上がる気にはなれなかった。1000Sと9000Sランクでは力の差が歴然としている。
もう少し習熟してから行くべきだと考えていたのである。
「詰めが甘いね」
いつしかやってきたアマネとクルルシアは彼が討ち漏らしたロックバードを仕留めていく。
あっという間にすべての魔物が片づいた。あとは帰るだけである。
飛行船に乗ってしまえば、帰りもくつろいでいればいい。
一室にて三人は一息つく。
「それにしても……リベルくんなら早く次に行きたがると思ってた。この依頼、退屈じゃない?」
「退屈ではあるが……10000Sランク階層の情報がなかなか入ってこないんだ。迂闊に次の階層には行けないだろ」
「ふうん。リベルにもとうとう慎重さが芽生えたのね」
「9000Sランクならまだいい。力の差があるといっても、絶望的じゃない。というか、俺が勝つ。勝ってみせる」
「はいはい。それで?」
子供をあしらうように対応するアマネ。
リベルは眉をひそめた。
「これまでSランク、10Sランク階層では、一つ上の階層の魔物が流れ込んでくることがあった。強いとはいえあの程度ならなんとかなるが、10000Sランクの化け物が来たら、その瞬間に消し飛ぶ危険性がある」
「今までも危なかった自覚はあるのね。……確かに、上は危険すぎるわね」
「そしてなにより、本当に情報が入ってこないんだ。少しでも知っている人がいれば、そこから噂でも広がるものだが……」
「上に行った人がいない可能性は?」
「何人か確認されている。そのまま下の階層に戻ってこなかった可能性はあるが」
「死んじゃったらどうしようもないもんね」
「ああ。だが、生きて行き来しているやつを、少なくとも一人、俺は知っている」
「ミレイさんね」
「彼女ならなにか知っているはずだ。しかし、話そうとはしていない。なにかあるんじゃないかと疑うのも無理もないだろ」
「うーん……情報が統制されている?」
「可能性はあるな」
リベルはミレイとの出会いを思い出す。
初めてミレイにあったとき、選ばれたという言葉があった。
そしてこないだはリベルに会いに来たという。その理由はいまだに明らかにされていない。
強くなって、というのが本心であれば、ヒントくらいくれてもいいだろう。そうしないのは、できない理由があるから。
だとすれば、ジャイアントオーガを倒したのは、間接的に見せてくれたということでもあるのかもしれない。
「なんにせよ、だからといっていつまでもくすぶってもいられない。いつかは行かないといけないんだ」
「ええ。先のことも考えておかないとね」
やがて飛行船は都市に到着した。
金属光沢のある高層建造物が多く、地上は魔導車がひしめいている。街明かりは眩しく、これまでの街並みとはがらりと変わっている。
リベルは鉄の街に足を踏み入れながら、やはり慣れないものだと苦笑するのだった。
それから依頼達成の報告をギルドにて行っていると、近づいてくる者がある。
「お前は――」
「よお、お三方。お困りのようじゃねーか」
現れたのは盗賊ティール。
リベルたちと一緒にこのSランク世界にやってきた同期である。
「……階層間違えたのか。仕方ないな。送ってやろう」
「ええー。ティールのためにそこまでしなくていいよ」
「どうやったらうっかり間違えるのかしら」
三人の呆れた視線が向けられるティールは憤慨した。
「ちげーよ! お前ら、この1032Sランク大盗賊ティール様に向かって、なんて口の利き方だ!」
「え……?」
「マジ? ティールが?」
「確かに身なりは綺麗ね」
「リベルくんよりもね」
そんな話をすると、ティールは得意げになった。
「へっへ。なんてったって、俺様は天才だからな。魔術道具もたっぷり持ってるんだぜ」
「なるほど。魔術道具で魔物を倒してきたのか」
「うわ、せこい」
「うるせえ!」
「で、なにしに来たんだ?」
「せっかく、お前らのほしい情報を持ってきてやったってのに……」
「ありがとうティール」
「お、おう。へへ……素直じゃねーか」
「それで、どんな情報なの?」
「おっと、ただじゃ教えられねーぜ。条件がある」
「1032Sのケチね」
「うるせえ」
「で、条件は?」
「俺と一緒に1000Sランク階層に来るんだ」
「……そうか、寂しかったのか」
「パーティからハブられてたもんね」
「可哀想」
「ちげーっての! 周りが俺様の優秀さについてこられなかっただけだ」
「はいはい。仕方ないから付き合ってあげるよ。で、情報は?」
「あの女のことだ」
リベルたちの顔色が変わったのを見ると、ティールは口の端を上げた。
ここじゃなんだから、と場所を個室に移すと、ティールは魔術を用いて音が外に漏れないようにする。
盗賊なので、そういった魔術が得意らしい。
「さて、本題だ。あの女――ミレイだが、10000Sランク階層の住人らしい」
「だろうな。あの強さは尋常じゃなかった」
「そしてその階層にいる者はほとんどが原住民らしい」
「……というと?」
「この階層にも、異世界から来ていない住民がいるが、その祖先はやはり異世界からの住人だ。つまり、元々住んでいたわけじゃねーのよ」
「移住者たちの末裔ってことか」
「つまり、10000Sランク階層だけが、元々存在した連中の住む世界で、それ以外は移住者のためにあとから作られたってわけだ」
「しかし……そうすると、名前が矛盾するな。最初にある世界を基準にすべきだろう」
基準を10000Sにしたというのも、奇妙な感じがするし、そういうわけでもないだろう。
最初に降り立ったのがSランク階層ということは、そこで異世界のSランクとこちらのSランクを合わせているのではないか。
「俺らみたいな異世界からきたやつらのために、いろいろと設定したみてーだが、その目的がわからん」
「英雄になってくれと言っていたな。この前は強くなれとも。やはり……10000Sランクまで上がってくるのを期待しているようだった」
「ああ。そこまではいい。だが、その先がわかんねーんだよ。情報がない。育ててから取って食う、ってんじゃ笑えねー」
「まったく、そのとおりね。リベルはいつ食べられるかわからないもの。あの女狐に」
クルルシアは目を細める。
「ってなわけで、1000Sランク階層で味方がほしいんだ。少しでも危険を減らしておきたいからな」
「情報を聞いたからには約束は守らないとな」
「そうこなくちゃな! いいか、1000Sランク階層からは時間の流れが違う。常に魔力で時間の制御をしてないと、あっという間に流されちまうぞ」
「ミレイもそんなことを言っていたな」
「あ、そっか。時間を制御してるから、ミレイさんは高齢でも若々しい姿のままなんだね」
「単純に若いんじゃないのか?」
「時間の流れが違うなら、なんとも言えないけど、これまで何人もこっちの世界に来る人たちを見てきたなら、結構前からだよね。大英雄ザッハは三百年前にこっちに来てるし、口ぶりからするとそのときもミレイさんが担当だったんじゃないかな?」
「なるほど」
リベルは頷く。
三百年もあれば、確かにあれほど強くてもおかしくはない。
そう納得していると、ティールが呆れる。
「おいおい、そんな話はどうでもいいだろ。行くと決まったら、さっさと行こうぜ。今なら向こうの安全な情報も持ってるが、時間がたったらどうなるかわからねえ」
「よし、行くか」
リベルはさっさと歩き出す。
アマネとクルルシアは呆れつつも彼に続いた。
「唐突だけど、仕方ないね」
「リベルだもの」
すでに準備はしていたから、いつでも行ける。
「よし、ティール様親衛隊、出陣!」
「どこにいるの親衛隊?」
「え、そりゃお前ら――」
「はあ?」
「すみませんでした」
「うんうん。じゃ、行こっか」
一人加わって、四人は転移門に向かう。
ここから先は移動する者が少ないらしく、移動する者が来るたびに門は起動するらしい。そのためすぐに1000Sランク階層に向かえるとのこと。
「さあ、出発だ」
彼らはまばゆい光の中に進んでいった。
微動だにせず、すべての意識は体を流れる魔力に向かっている。
その感覚は掴めたかと思いきや、その手の中からふっと消え去っていく。
(……またか)
ジャイアントオーガとの戦いから一ヶ月。
あのとき、ミレイが見せた力を模倣しようとするが、うまくいかない。
そも、彼の固有の能力として、誰かが使った力を我が物にできるというものがある。圧倒的な成長をもたらす力と合わせて、これが彼をSSSランクたらしめた根源である。彼自身の技量と相まって、非常に強力だ。
おかげで次々と成長してきた彼だが、いまだにミレイの力の底は見えてこない。
「リベルくん、もうそろそろつくよ」
考え事をしていると、アマネが部屋に入ってきた。
リベルは立ち上がると彼女と一緒に外に出る。
通路を歩きながら、リベルはあちこちをまじまじと眺める。すべて金属でできている立派なものなのだが、普通とは決定的に異なる部分がある。
「こんな金属の塊が空を飛ぶとはな……信じられない」
「いつもいってるね。いい加減慣れたら?」
彼らは今、飛行船内におり、魔物退治に向かっている途中である。
100Sランク階層で移動に使われるのは飛行船が多い。
高出力の魔石を仕込み、それによって時間を操る魔術的効果を得ており、超高速での移動が可能のメリットがある。もちろん、その分値段も効果なのだが。
都市との移動もあっという間に終わるため、発ったと思えばすぐに到着だ。
やがて到着のアナウンスが入るとともに、リベルは搭乗口に到着。クルルシアはすでに来ており、彼の到着を待っていた。
「遅かったわね」
「ちょっと手こずってな」
「まだ戦いは始まってないのに、気が早いのね」
「そっちはすぐに終わるだろ」
「油断しないの」
リベルは飛行船を下りると、どこまでも広がる荒野に目を向ける。はるか遠く、豆粒のように見えるのがロックバード。全体が石でできており、非常に硬い特徴がある。その上群れており、上空から岩石を振らせてくるため、相手にするのが難しい。
が、今の彼の敵ではない。
「757Sランクだったか」
「格下だからって、油断しないでよ」
「わかってるさ」
すでにリベルたち三人は1000Sランクに到達している。ミレイの技を見たこともあって、突破は容易かった。
「さあ、やろう」
リベルは剣を抜くと、時間を操り加速し、一気にロックバードへと接近。
距離が近くなると跳躍する。さらに魔力を操作して付近の空間に干渉。自然現象をも自在にし、空を軽々と移動することができた。
まさか空を飛ぶ人がいるとは思ってもいなかったロックバードは、狼狽え反撃が遅れた。
そのときにはリベルは魔力を纏わせた剣を一振り。
魔力は広がっていき、大半の敵を包み込む。ロックバードはその中から抜け出そうともがくが、移動することはかなわない。やがてその岩の肉体はボロボロと朽ちていく。
魔力により対象の空間における自然法則を操り、意のままに書き換えてしまうこと。それが1000Sランクの条件である。
この能力が強すぎるがゆえに、リベルはなかなか上の階層に上がる気にはなれなかった。1000Sと9000Sランクでは力の差が歴然としている。
もう少し習熟してから行くべきだと考えていたのである。
「詰めが甘いね」
いつしかやってきたアマネとクルルシアは彼が討ち漏らしたロックバードを仕留めていく。
あっという間にすべての魔物が片づいた。あとは帰るだけである。
飛行船に乗ってしまえば、帰りもくつろいでいればいい。
一室にて三人は一息つく。
「それにしても……リベルくんなら早く次に行きたがると思ってた。この依頼、退屈じゃない?」
「退屈ではあるが……10000Sランク階層の情報がなかなか入ってこないんだ。迂闊に次の階層には行けないだろ」
「ふうん。リベルにもとうとう慎重さが芽生えたのね」
「9000Sランクならまだいい。力の差があるといっても、絶望的じゃない。というか、俺が勝つ。勝ってみせる」
「はいはい。それで?」
子供をあしらうように対応するアマネ。
リベルは眉をひそめた。
「これまでSランク、10Sランク階層では、一つ上の階層の魔物が流れ込んでくることがあった。強いとはいえあの程度ならなんとかなるが、10000Sランクの化け物が来たら、その瞬間に消し飛ぶ危険性がある」
「今までも危なかった自覚はあるのね。……確かに、上は危険すぎるわね」
「そしてなにより、本当に情報が入ってこないんだ。少しでも知っている人がいれば、そこから噂でも広がるものだが……」
「上に行った人がいない可能性は?」
「何人か確認されている。そのまま下の階層に戻ってこなかった可能性はあるが」
「死んじゃったらどうしようもないもんね」
「ああ。だが、生きて行き来しているやつを、少なくとも一人、俺は知っている」
「ミレイさんね」
「彼女ならなにか知っているはずだ。しかし、話そうとはしていない。なにかあるんじゃないかと疑うのも無理もないだろ」
「うーん……情報が統制されている?」
「可能性はあるな」
リベルはミレイとの出会いを思い出す。
初めてミレイにあったとき、選ばれたという言葉があった。
そしてこないだはリベルに会いに来たという。その理由はいまだに明らかにされていない。
強くなって、というのが本心であれば、ヒントくらいくれてもいいだろう。そうしないのは、できない理由があるから。
だとすれば、ジャイアントオーガを倒したのは、間接的に見せてくれたということでもあるのかもしれない。
「なんにせよ、だからといっていつまでもくすぶってもいられない。いつかは行かないといけないんだ」
「ええ。先のことも考えておかないとね」
やがて飛行船は都市に到着した。
金属光沢のある高層建造物が多く、地上は魔導車がひしめいている。街明かりは眩しく、これまでの街並みとはがらりと変わっている。
リベルは鉄の街に足を踏み入れながら、やはり慣れないものだと苦笑するのだった。
それから依頼達成の報告をギルドにて行っていると、近づいてくる者がある。
「お前は――」
「よお、お三方。お困りのようじゃねーか」
現れたのは盗賊ティール。
リベルたちと一緒にこのSランク世界にやってきた同期である。
「……階層間違えたのか。仕方ないな。送ってやろう」
「ええー。ティールのためにそこまでしなくていいよ」
「どうやったらうっかり間違えるのかしら」
三人の呆れた視線が向けられるティールは憤慨した。
「ちげーよ! お前ら、この1032Sランク大盗賊ティール様に向かって、なんて口の利き方だ!」
「え……?」
「マジ? ティールが?」
「確かに身なりは綺麗ね」
「リベルくんよりもね」
そんな話をすると、ティールは得意げになった。
「へっへ。なんてったって、俺様は天才だからな。魔術道具もたっぷり持ってるんだぜ」
「なるほど。魔術道具で魔物を倒してきたのか」
「うわ、せこい」
「うるせえ!」
「で、なにしに来たんだ?」
「せっかく、お前らのほしい情報を持ってきてやったってのに……」
「ありがとうティール」
「お、おう。へへ……素直じゃねーか」
「それで、どんな情報なの?」
「おっと、ただじゃ教えられねーぜ。条件がある」
「1032Sのケチね」
「うるせえ」
「で、条件は?」
「俺と一緒に1000Sランク階層に来るんだ」
「……そうか、寂しかったのか」
「パーティからハブられてたもんね」
「可哀想」
「ちげーっての! 周りが俺様の優秀さについてこられなかっただけだ」
「はいはい。仕方ないから付き合ってあげるよ。で、情報は?」
「あの女のことだ」
リベルたちの顔色が変わったのを見ると、ティールは口の端を上げた。
ここじゃなんだから、と場所を個室に移すと、ティールは魔術を用いて音が外に漏れないようにする。
盗賊なので、そういった魔術が得意らしい。
「さて、本題だ。あの女――ミレイだが、10000Sランク階層の住人らしい」
「だろうな。あの強さは尋常じゃなかった」
「そしてその階層にいる者はほとんどが原住民らしい」
「……というと?」
「この階層にも、異世界から来ていない住民がいるが、その祖先はやはり異世界からの住人だ。つまり、元々住んでいたわけじゃねーのよ」
「移住者たちの末裔ってことか」
「つまり、10000Sランク階層だけが、元々存在した連中の住む世界で、それ以外は移住者のためにあとから作られたってわけだ」
「しかし……そうすると、名前が矛盾するな。最初にある世界を基準にすべきだろう」
基準を10000Sにしたというのも、奇妙な感じがするし、そういうわけでもないだろう。
最初に降り立ったのがSランク階層ということは、そこで異世界のSランクとこちらのSランクを合わせているのではないか。
「俺らみたいな異世界からきたやつらのために、いろいろと設定したみてーだが、その目的がわからん」
「英雄になってくれと言っていたな。この前は強くなれとも。やはり……10000Sランクまで上がってくるのを期待しているようだった」
「ああ。そこまではいい。だが、その先がわかんねーんだよ。情報がない。育ててから取って食う、ってんじゃ笑えねー」
「まったく、そのとおりね。リベルはいつ食べられるかわからないもの。あの女狐に」
クルルシアは目を細める。
「ってなわけで、1000Sランク階層で味方がほしいんだ。少しでも危険を減らしておきたいからな」
「情報を聞いたからには約束は守らないとな」
「そうこなくちゃな! いいか、1000Sランク階層からは時間の流れが違う。常に魔力で時間の制御をしてないと、あっという間に流されちまうぞ」
「ミレイもそんなことを言っていたな」
「あ、そっか。時間を制御してるから、ミレイさんは高齢でも若々しい姿のままなんだね」
「単純に若いんじゃないのか?」
「時間の流れが違うなら、なんとも言えないけど、これまで何人もこっちの世界に来る人たちを見てきたなら、結構前からだよね。大英雄ザッハは三百年前にこっちに来てるし、口ぶりからするとそのときもミレイさんが担当だったんじゃないかな?」
「なるほど」
リベルは頷く。
三百年もあれば、確かにあれほど強くてもおかしくはない。
そう納得していると、ティールが呆れる。
「おいおい、そんな話はどうでもいいだろ。行くと決まったら、さっさと行こうぜ。今なら向こうの安全な情報も持ってるが、時間がたったらどうなるかわからねえ」
「よし、行くか」
リベルはさっさと歩き出す。
アマネとクルルシアは呆れつつも彼に続いた。
「唐突だけど、仕方ないね」
「リベルだもの」
すでに準備はしていたから、いつでも行ける。
「よし、ティール様親衛隊、出陣!」
「どこにいるの親衛隊?」
「え、そりゃお前ら――」
「はあ?」
「すみませんでした」
「うんうん。じゃ、行こっか」
一人加わって、四人は転移門に向かう。
ここから先は移動する者が少ないらしく、移動する者が来るたびに門は起動するらしい。そのためすぐに1000Sランク階層に向かえるとのこと。
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