SSSランク冒険者から始めるS級異世界生活

佐竹アキノリ

文字の大きさ
上 下
17 / 20
第二章

17 60Sランクオーガ

しおりを挟む
 冒険者たちが剣を振るうたびにオーガは血を噴き出し、鬼が手にした石柱を振るえば男たちの骨が砕ける。

 両者が対峙する中、リベルとアマネ、クルルシアの三人も一体の鬼を前にしていた。

「捕まるなよ」
「リベルくんこそ。無理して突っ込まないでね」
「彼にそんな期待するほうが間違ってるわ」
「確かに、そうかも」
「……わかってるさ。気をつければいいんだろ」

 リベルは一足でオーガとの距離を詰めると、相手はひねり潰そうと手を伸ばしてくる。武器はなく無手のまま。

 握り潰すつもりだろう。

 片手で握り潰せそうなほどの太い腕を目にしつつ、リベルはギリギリまで引きつけ――

「ふっ!」

 オーガの腕が伸びきるタイミングで地を蹴った。
 風が胸先を掠めていくと同時に剣を振るい、敵の腕を走らせ、赤い筋を作っていく。

「グォオオオオオ!」

 鬼が慌てて手を引き、懐に入ろうとするリベルから距離を取ろうとする。
 が、そのときにはアマネが背後に回り込んでいた。

「行くよ!」

 手にした二振りの剣は炎を纏って目立つとともに、華麗な軌跡を描く。
 舞うように弧を描き、炎が踊る。強靱な肉体は一瞬にして焼け焦げ、皮膚は黒く変化する。

 オーガが仰け反り、リベルが剣を叩き込む。
 動かなくなったところへ――。

「とどめよ!」

 クルルシアが杖の先端を向けるや否や、銀の粒子が放たれた。
 それは一カ所に寄り集まって槍を形作ると、鬼の顔面に襲いかかった。

 パァン、と音がすると、銀の槍は粒子となって付近に飛び散っていく。そこには血肉が混じっていた。

 オーガの頭部はなくなり、胴体がゆっくりと倒れていく。

「これより城壁に移る。さあ、敵を追い出すぞ」

 すでに冒険者たちの中には、壁にひっついている者もいる。
 だが、オーガは上から巨岩を投げつけてくるため、ゆっくりとよじ登っていたものは、岩に落とされ、地上で押し潰されてしまっていた。

「支援するわ。先に行って、市壁の上を確保してくれる?」
「ああ。俺が――」
「あたしが行くよ。この中で一番、早いでしょ」
「頼む」
「任せて!」

 市壁が近くなると、クルルシアが杖を振り、銀の粒子が集まってくる。それはさっと壁の間近まで移動すると、薄く広がって、いくつもの足場を作り上げた。

 アマネはしなやかな動きでその上を飛び移っていく。市壁の上のオーガが狙いを定めるなり、

「させるかよ!」

 リベルは剣に魔力を集め、一気に解き放つ。
 透明の刃は勢いよく風を切りながら、アマネを睨んでいたオーガの腕を切り裂いた。

「グオアアアアア!」

 距離があるため、腕を落とすには至らない。
 だが、その一瞬だけ隙ができた。アマネにとって、それだけで十分。

 彼女はさっと市壁に飛び移ると、オーガの背後に回り込んだ。

「えいっ!」

 後ろから剣を突き刺し、慌てて仰け反ったオーガを蹴飛ばし、市壁から巨体を突き落とす。

 そして付近が空いた直後、剣をくるりと回した。

 炎がそれにともなって撒き散らされ、彼女の近くは誰もが近づけなくなる。

「リベルくん!」
「よし、行くか!」

 彼はクルルシアを抱きかかえると、一気に跳躍。
 足場を飛び移り、炎を飛び越えてアマネのところへ。

「……お姫様抱っこだ!」
「迎えの言葉がそれかよ」
「えっと……リベルって、たまに大胆なところがあるから……」
「なんの話だ」

 リベルは呆れつつ、視線を右に左に動かす。
 アマネの張った炎の勢いが落ちると、オーガがじりじりと詰めてきている。

 都市の内部には、あまりオーガは見られない。

「こいつらを片づけて、あとは隠れているやつらを仕留めれば終わりか」
「転移門を使えるようにしないとね」

 なんらかの理由で使えなくなっていたが、都市の中心にある建物は健在だ。
 大規模な破壊を受けたとは考えにくい。ならば、比較的早く復旧させることもできるだろう。

「リベルくん、急ごうよ。一番乗り、ほかの人に取られちゃうよ」
「これ、そういう依頼じゃないからな」
「二人とも、まずはこっちを睨んでいる鬼を見てくれないかしら?」

 市壁の左右から、二体のオーガが迫ってきている。

「よし、じゃあクルルは盾を張って防いでくれ」
「持つのは少しだけよ」
「すぐに切り伏せるからそれでいいさ」

 クルルシアが銀の粒子をかき集めて広げ、一体のオーガが見えなくなる。
 途端、リベルは駆け出した。

 一気にオーガとの距離を詰め、

「食らえ!」

 剣に魔力を纏わせ一振り。

「グォオオオオオ!」

 たったの一撃でオーガの胴体は切り裂かれ、深い傷を作っていた。

「足りないか。これくらいで届くと思ったんだが……」
「調子に乗らないの」

 アマネは彼の隣から飛び出すと、剣を傷口に突き刺す。
 次の瞬間、一気にそこから炎が噴き出した。

 中から焼かれたオーガは、口から煙を吐き出しながら倒れていく。

 同時、クルルシアの銀の盾がガンガンと音を立てる。
 リベルとアマネは急ぎ、そちらに駆け出した。

「もう持たない!」
「十分だ!」

 オーガが壁を突き破り、吠えたとき、リベルとアマネは勢いよく跳躍していた。
 敵の頭上に躍り出た二人は、すでに狙いを定めている。

 魔力を高めた剣を一振り。

「今度こそ!」
「やぁっ!」

 二つの軌跡が敵を断つ。
 オーガは勢いのまま、滑り込んでいく。

 クルルシアはパッと距離を取ると、目の前で鬼の頭が動きを止めた。もう、動くことはない。

「これで近くの個体の討伐は終わりだ」
「冒険者たち、すでに転移門のところに向かっているけれど、私たちはどうするの?」
「行こうよ、ほかにやることもなさそうだし」
「ああ。そうするか――」

 意見がまとまり、皆がそちらに視線を向けた直後。
 ドォン、と大きな音が響く。転移門のある建物が破壊され、近くにいた冒険者ががれきの下敷きになっていた。

 そして現れたのは――。

「でかいオーガが出てきたよ!?」
「ジャイアントオーガか。あれは……100S階層の魔物じゃなかったか?」
「なんでこの10S階層に……まさか、転移門を通ってきた!?」
「だとすれば、転移門が使えなくなっていた理由は」
「あいつが占拠してたからってこと?」
「一体だけじゃないかもしれない」
「そうだとすれば、厄介ね。勝てない可能性のほうが高いわ」

 クルルシアが冷静に告げる中、リベルは気持ちを落ち着けていく。
 ランクが一桁上がると、力の差は歴然とする。彼もそのことがわからないわけではない。

「だが、退く道理もない」
「……もう、ほんと馬鹿なんだから」
「そう言いつつ、クルルちゃんもやる気だね」
「放っておくわけにいかないから。仕方なくだからね」
「リベルくんが心配なんだね。ひゅーひゅー」
「……茶化さないでくれる?」
「おっけー。真面目な愛なんだね」
「そういうところよ、まったく……」

 ため息をつくクルルシア。尻尾を揺らしながら、悪戯っぽい顔のアマネ。
 そして……。

「行くぞ。気を引き締めろ!」

 リベルは市壁から飛び降りると、暴れ回り冒険者を潰していくジャイアントオーガへと走り出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

最強願望~二度目の人生ハードライフ〜

平涼
ファンタジー
異世界転生を果たした主人公は夢を叶えるため魔法剣士として、チートなしで異世界最強を目指す。 そんな中色んな困難があり、何度も挫折しそうになるが、それでも頑張る物語です。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ
ファンタジー
 中年男の真田蓮司と自称一万年に一人の美少女スーパーアイドル、リィーナはVRMMORPGで遊んでいると突然のブラックアウトに見舞われる。  蓮司の視界が戻り薄暗い闇の中で自分の体が水面に浮いているような状況。水面から天に向かい真っ直ぐに登る無数の光球の輝きに目を奪われ、また、揺籠に揺られているような心地良さを感じていると目の前に選択肢が現れる。 [未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか? ちなみに今なら豪華特典プレゼント!]  と、文字が並び、下にはYES/NOの選択肢があった。  ゲームの新しいイベントと思い迷わずYESを選択した蓮司。  ちよっとお人好しの中年男とウザかわいい少女が織りなす異世界スローライフ?が今、幕を上げる‼︎    

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い

竹桜
ファンタジー
 主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。  追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。  その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。  料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。  それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。  これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

処理中です...