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第二章
15 32Sランク銀魔導師
しおりを挟む魔導車から降りたリベルへと、少女はつかつかと歩み寄ってくる。
「いい度胸してるじゃない。私になんの挨拶もなく、こんなところにいるなんて」
「いや、その……」
「しかもなに? 今度は新しい女といちゃついているワケ?」
「いちゃついてない」
「ふーん、どうだか」
少女が目を細めると、馬車からぴょんと飛び降りてきたアマネが尻尾を揺らしながら、リベルの腕にぎゅっと抱きついた。
「実はそうなんだー」
「ちょ、ちょっとあなた! なにしているの!」
少女の銀色尻尾がピンと立ち、毛がぶわっと逆立った。
アマネの赤色尻尾は挑発するようにゆらゆらと揺れている。
「これくらい、いつものことだよね、リベルくん?」
「ち、違う」
「あたしとは遊びだったの? 一緒にいようって言ったのに」
「それはパーティメンバーとしての話で――」
「リベル! この……! どれだけ心配したと思ってるの! それなのに、こんなことって……もう、追ってきたのが馬鹿みたい」
少女は目に涙を湛えて、口を固く結んだ。
銀色尻尾はしょんぼりと垂れ下がり、肩はすっかり落ちている。
アマネはリベルの様子を見ながら尋ねる。
「……で、どちらさんなの?」
リベルはその問いに、ゆっくりと答える。
「彼女はクルルシア。俺の元パーティメンバーだ」
魔導車の中から、ゴルディとイーレンは、居場所がなさそうに彼らの様子を見ていた。
◇
「なんだ。そういうことだったの。早く言ってくれればよかったのに」
冒険者ギルドのホールで、クルルシアは上機嫌になっていた。
先ほどリベルが、懇切丁寧にことの経緯を話したのである。
「だから言っただろ。俺はなんにもしてないって。クルルが信じてくれなかったんじゃないか」
「普段の行いが悪いからよ」
「それは否定しないが……」
「ま、でもリベルが色恋に現を抜かすはずがないわ。剣を見てデレデレしてるほうが似合うもの」
「それはそれでどうなんだ……」
リベルが肩を落とすと、アマネも「確かに」なんて頷いている。
「それにしても……Sランク世界に来るとき、私に声くらいかけてくれてもよかったんじゃないの?」
「クルルまで巻き込んだら悪いだろ」
「嘘ばかり。私の性格知ってるでしょ」
「そうだけど、追ってくるかなあ、と薄々思ってはいたけれど、まさか本当に来るとは……」
「そんなに嫌なワケ? ずっとパーティから離れたいと思ってたワケ?」
「そうじゃないって。俺だけSSSランクだったんだ。力の差だってある。危険もあるし、妙なことに首を突っ込むことになるんだから、そりゃ気にするだろ」
「ふーん。じゃあもう関係ないってことね。私は32Sランク銀魔導師になったんだから」
クルルシアは胸を張る。
リベルはそんな彼女を見ながら……
「早くないか?」
「でしょ。ポテンシャルが違うの。そうでないと、リベルについていくのなんて、無理なんだから」
「確かにリベルくんと一緒にいると、大変だよね」
「戦闘狂なのよね」
「うんうん」
クルルシアとアマネが頷く姿に、リベルは眉をひそめるしかなかった。
そこにゴルディとイーレンがやってくる。
「リベルさん。私たちはそれじゃ、もう行きますね」
「ああ。今回の依頼、とても助かった」
「いえいえ。リベルさんのおかげで、たくさん報酬がもらえました。いやはや、得をしましたね」
そうして去っていく二人を見ていると、クルルシアがつついてくる。
「考えていること、当ててあげようかしら?」
「……どうせろくなこと言わないだろ?」
「わかってるじゃない。リベルでも、ろくでもない自覚があったのね」
「俺が言ってるのは、クルルの口のことなんだが」
「リベルくん、昔からろくでもないんだね」
ため息をついたリベルに、クルルシアが顔を近づけ、小声で呟く。
「自分の力で得られなかったものを喜んでも仕方がない。上を目指すには、それだけじゃ足りないんだ」
「……嫌味なほどわかってるじゃないか」
リベルは思わず顔をしかめた。
ゴルディとイーレンたちにとって、あの戦いは棚からぼた餅であったのだろう。リベルがいたから、予想外の成果が上げられた。
だが、そこで喜んでいては停滞しか待ち受けてはいない。
自分の力で勝ち取らねば、戦いの中で常に向上心を持たなければ、決して上に辿り着くことはできないだろう。
彼らも昔は、世界の最先端、SSSランクだったのかもしれない。
だが、この世界に来て彼らは、自分たちが特別ではないことを知った。いや、それどころか落ちこぼれと言ってもいいかもしれない。
その中で彼らは気概を失っていったのだろう。
常に走り続けること、そして尖り続けていることを。
「人それぞれだとは思うさ。だが、俺たちは上に行く。いつまでも一緒にはいられないと思っただけだ」
「そんなリベルに朗報があるわ。この私がパーティを組んであげる」
クルルシアは胸を張る。
銀色尻尾はぱたぱたと揺れていた。
「……どういう流れだ?」
「私はリベルについていけるし、腕も知ってるでしょ」
「一人でここまで来るくらいだからな」
「だから、組んであげるって言ってるわけ。不満なの?」
「そういうわけじゃないが、今はアマネと組んでいるんだ。俺の一存では決められない」
「別にいいよ」
「そう。ありがと、アマネちゃん」
「いえいえ」
「…………あっさり決まったな」
「よかったじゃない。二人だけだとこれから先、大変だって悩んでたところでしょ?」
「よくわかるな」
「リベルのことなんてお見通しよ」
クルルシアは自慢げにするのであった。
「それで、次の依頼はどうするのかしら?」
「早速だな。俺たちは帰ってきたばかりだってのに」
「だって、私はまだなにもしてないし、時間がたったらリベルが行っちゃうから、急いでここまで来たのよ。お金なんて貯まる暇もなかったんだから」
クルルシアが不満げな顔をすると、リベルは「すまなかった」と素直に頭を下げた。
「でも、クルルちゃんが入ったら、もっと大がかりな依頼も受けられるね」
「そうね。しっかり援護するから、背後は任せて」
彼女は杖を見せる。
遠距離からの魔法攻撃を得意とする職業であり、判断力もある。
彼女が後ろにいれば、リベルも安心できる。
「さて……それなら大きな依頼を受けるか」
「当てがあるの?」
「ついこの前、75Sランク小都市ブーモーの奪還作戦に対する人員が募集されていた」
「……75Sランク?」
「そうだ。小さな都市だが、芸術に優れた都市らしく、ランクが高いのだとか。しかし、魔物の襲撃を受けて今は占拠されている」
「リベルくん、そういうことじゃなくて……」
「75S、というところが気になるんだけど」
「ちょうどいいだろ? 格上の相手と戦っていれば、ランクも上がりやすい」
「……」
「……」
アマネとクルルシアは二人顔を見合わせてから、ため息をついた。
「はあ」
「ほんと、リベルって」
「どうしようもないね」
「……なんだよ。普通の考えじゃないか」
「そうかもね。100Sランク冒険者たちからすれば」
「仕方ないから、付き合ってあげるわ」
釈然としないリベルであるが、意見がまとまったならそれでいい。
「行くか。75Sランク都市へ」
「うん。近くで準備しよっか」
「転移門を使うのよね? 歩いて移動なんて嫌よ」
「もちろんだ。時間が惜しい。向こうに行ってから、作戦も練ろう」
三人はそうして話をまとめると、いよいよ動き出す。
彼らの動きはいつもながら早かった。
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