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第一章
7 Sランクパフェ
しおりを挟む魔力が高まると、光の糸が現れる。
ガイルとリベルの間でそれが動くなり、リベルはさっと距離を取り、ガイルは鬱陶しそうにそれを押しのける。
そしてすかさず、女性は割り込んだ。
「ここまでよ。二人とも、十分強かったわ。ガイルは逞しかったし、リベルも運が味方した。それでいいわね」
リベルはさっと剣を退く。
「俺に異論はない」
「ちっ……ここまでにしといてやる。まぐれで当たったからっていい気になるなよ」
ガイルはドスドスと足音を鳴らしながら、部屋を出ていく。
転生者三人がついていき、ティールは三人とリベルを何度も見比べた後、ガイルのあとを追っていった。
そうして室内に残されたリベルはため息をつく。
「リベルくんは優しいね」
「なんのことだ?」
「手加減してたんでしょ」
「そんなことはないが。運が味方したんだろ?」
「あの男、千切れそうなほど怒りで血管が浮き上がっていたし、なだめるための文句だよ」
「そうは見えなかったが」
「リベルくんもまだまだだね」
「なんだそりゃ」
「言ってみただけ。ところで、『とっておきは残しておく』だっけ。とっておき、何個あるの?」
「魔力が使えないから、たいしたものじゃないさ」
大幅に力を底上げするような技術は使えない。
あるのは、磨き続けた剣技のみ。小さな技術の積み重ねがあるだけだ。
「まあいいや。おめでとう。お祝いに、奢ってくれていいよ」
「いや逆だろ。なんで俺が奢るんだよ」
「細かいことは気にしないの。とりあえず、街に行こうよ」
「その前に、少しだけギルドで話をしたい」
「じゃあ、待ってるね。一人でこっそり出かけたらダメなんだからね」
「わかったわかった。約束しよう」
そうして二人は出かける準備を始めるのだった。
◇
「ねえリベルくん。どこに行くの?」
冒険者ギルドで待っていると、アマネがぱたぱたと駆け寄ってきた。
髪を結んで、ちょっとお洒落にしている。準備に時間がかかったのは、このためだろうか。
「街に行って情報収集する。あと、モージュから借りた武器もギルドのものだから返却したし、新しいものが必要になる」
「いいところ知ってるの?」
「ギルドの関連施設は聞いてきたからハズレではないと思うが、当然ながらこっちの事情には詳しくない」
「じゃあ、頼りにするね」
「……話、聞いてたのか?」
「バッチリなんだよね」
「どこをどう考えたらそうなるんだ……」
リベルは肩を落とした。
「そういえば、俺のところに来ていていいのか? ティールたちも街に行くみたいで、集まってるのを見たぞ」
「えー。愚痴を聞かされたり、八つ当たりされたりしそう。言ったでしょ。あーいう男は尻尾ばっかり見てくるし、ろくでもないんだよ」
アマネは尻尾をぎゅっとする。
彼女の言葉には、ただ尻尾を見ること以外に意味合いがありそうだ。嫌がらせでもされた経験があるのだろうか。
(なんにせよ、詳しく聞くような仲でもない)
「せっかく誘ってあげたのに、あたしと一緒に行くのは嫌?」
アマネはちょっぴり拗ねてみる。
「嫌ということはないが」
「じゃあ決まりねっ!」
そういうことになると、二人は冒険者ギルドを出て街中に溶け込む。
「街にいて、誰からも注目されることがないというのは、なかなか気楽なものだな」
「まったく、そのとおり。ホント、それだけでもこの世界に来た甲斐があるね」
Sランク以上の冒険者となれば、野次馬に囲まれることもある。ろくに街を歩くこともできなかった。
あれでは見世物のようだった、と思い返す。
一度話題が切れると、リベルはふと思い出して、本題を切り出すことにした。
「それにしても、昼食のときのあれ、綺麗なもんだったな」
「美人さんだったね」
「いや、人じゃなくて水晶の映像の話だったんだが……」
リベルはあまり口がうまくなかった。
「まあいいや。ミレイとは、誰も知り合いじゃなかったみたいだな」
この言葉には二つの意味がある。
気軽にミレイと呼んだことから、「自分は知り合いである」というニュアンスが含まれていること。
そして「アマネもまた、知り合いであろう」と問いかけているということだ。
もちろん、転生時にミレイに会っていなければ、そのように解釈はしないだろう。全員知り合いでもなかったと判断するはずだ。
しらを切ることもできるとはいえ、さあどうなるか。
アマネはチラリと視線を向けてくる。
「その話だけど、転生者でもミレイさんに会った人はほとんどいないみたいだよ」
「なるほど。用がある相手にだけってことか」
「……ねえ、腹の探り合いはやめにしない?」
彼女が鋭い視線を向けてきた。SSランク炎巫女の顔だ。
誤魔化してもどうしようもないだろう。
「わかったよ。腹を割って話そう」
「そうそう。探るのは、腹具合にしてね。あのパフェ、おいしそーだね!」
アマネは店の中を覗きながら、打って変わって、楽しそうな顔をする。
「さっき昼飯にしたばかりじゃ……」
「せっかく女の子が誘ってあげているんだから、喜んでよね」
「……ありがとう」
「よろしい」
(……なんだか調子が狂うな)
振り回されているように感じつつも、悪くないような気がしてしまうリベルであった。
そしてパフェを頼むなり、二人は向き合う。
「えっとね、大事な話があるんだ」
アマネが告げると、リベルは息を呑んだ。
大事な話がある、とアマネは言った。
であれば、内容は明らかだ。
「パフェにかけるのはやっぱりイチゴソースだと思うの」
「いや知らんがな」
すっかり出端をくじかれてしまうリベルである。
空気を読んだのか店員がやってきて、
「お待たせしました」
と二人の前にパフェを置く。Sランクのパフェだけあって、見た目も綺麗だ。
そうなると、真剣な雰囲気も霧散してしまう。
「いただきます! うんうん、デザートは別腹だよね。……んー! 甘くておいしい!」
アマネはパフェを頬張ると、尻尾を揺らす。
なにを考えているのか、とリベルが悩んでいると、アマネは続ける。
「ミレイさんには、あたしのほかにもう一人、会う予定の転生者がいるって聞いたんだ。リベルくんでしょ?」
「随分さらっと言うな」
「腹を割って話すって言ったじゃない」
「そうだけどさ」
いきなり言われて戸惑いを隠せないものだ。
とはいえ、彼も切り替えは早い。
「俺はたいしたことは言われてないぞ。俺のことを知っている、そして見込んでいるということだな」
「……惚気?」
「そんなわけあるか」
「随分、期待されてるね。あたしは強くなってね、って感じかな」
「それは俺もあったな。強くなって、会いに来てって」
「うわあ、リベルくん、女たらしだね」
「なんでだよ。まったく身に覚えがないぞ」
「そこまで夢中にさせておいて無自覚なんて、ひどい男もいたものだね」
リベルは眉をひそめるも、アマネは気にした風でもなく、スプーンをくわえて笑顔になっている。
「そういえば、最年少でSSSランクになったと言われたな」
「そうなんだ。頂点を目指すなら組むといいって言われたけど、それが理由かな?」
「……アマネとミレイの会話だってのに、俺の話が多くないか?」
「うん。だから頼りになるのかなって思って。でも実際に会ってみると」
「情けなかったわけか」
「あまり男らしくはないかも」
「悪かったな」
「でも大丈夫。今すぐ頼りがいのある男になれる方法を教えてあげる」
アマネはとっておき、とでも言いたげな顔で――すっと伝票を差し出してくる。
「無収入にたかるなよ」
リベルはさっとその手を止めた。
半年分の生活費があるとはいえ、装備を買ったらあっという間になくなってしまう。豪快に使ってもいられない。
前の世界にいた頃とは違うのだ。
「ともかく、理由はわからないが、俺たちに戦ってほしいようだ」
「リベルくんはそのためにこの世界に来たんでしょ?」
「ああ。アマネは?」
「えーと……まあ、そんなとこ」
彼女はあまり言いたくなさそうにしていたから、リベルも追及はしなかった。
なんにせよ、これ以上話してもわかることはなさそうだ。
「食べ終わったら、装備を探しに行くか」
「そうしよう。これからどんどん、活躍しちゃうんだからね」
リベルはアマネを見つつ、パフェを頬張る。
二人で食べると、それは甘かった。
そしてまた、これで装備を買いに行けると思ったリベルの見込みもまた、甘いのであった。
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