異世界に行ったら魔物使いになりました!

佐竹アキノリ

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4巻

4-1

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 1


 その日も俺シン・カミヤと仲間の魔物たちは、妖怪たちの街を歩いていた。
 ここに来てから結構日がたっているため、着物を着た小鬼たちが歩いていたり、ねじり鉢巻はちまきにふんどし飛脚狐ひきゃくぎつねが走っていたりする光景にもすっかり慣れてきている。
 昼間からぶらぶらしている俺であるが、遊んでいるわけではなく、大事な目的があるのだ。

「シン、あれは?」

 俺を呼ぶのは、雪女とスライムが合成されたゆきんこスライムのライムだ。
 白妙しろたえの和服がよく似合う彼女は、なにかを見つけたのかと思いきや――寿司すしの屋台を指差していた。
 そういえば、お昼ご飯まだだったなあ。魔物使いたる俺にとって、魔物たちで大所帯になったパーティの食事管理も、立派な仕事の一つだ。決して、遊んでいるわけではないのである。
 魔物使いの能力により共感覚を得ているため、俺の魔物たちの様子はすぐに伝わってくる。
 スフィンクスが混じった魔物ハネツキケダマライオンのケダマは、食いしん坊ですでによだれを垂らしているし、そんなケダマと仲のいい大氷狼だいひょうろうのウルフも鼻をひくつかせている。そしてゴブリンのゴブは勝手に動き回ろうとしているところを、機械型魔物のポンコツ丸に捕まえられていた。

「お昼にしましょう、シンさん」

 天狐てんこの少女クーナが尻尾を揺らしながら俺に提案してくる。

「じゃあそうしようか。あそこの屋台でいい?」
「はい。高くありませんし、最近は実入りがよくないのでちょうどいいでしょう」

 クーナはしっかり者だから頼りになる。お財布のひもはすっかり握られてしまっているが、それだけ安心できるということでもある。なにしろ、俺の魔物たちの食費は馬鹿にならないから。
 屋台にやってくると、俺は寿司を頼みつつ、スキルを用いて魔物たちを小型化する。
 そして台の上でケダマたちがムシャムシャと食べ始めるのを見ながら、これからどうしようかと考え始めた。

「うーん。なんとかしてガッポリお金を稼ぐ方法はないものか……」
「親友、楽して稼げる方法なんざありゃしないぜ。地道に稼ぐことを考えな」

 腰元の刀、ナマクラ丸が俺にお説教をしてくる。
 そんなことは言われずともわかっているが、魔物たちがよく食べるから仕方ないのだ。そう、今だってこのように――

「おいっ! そんな高いネタばっかり食うなよ!」

 俺が気付いたときには、ゴブは高級なものばかり選んで食べている。そしてケダマはいつの間にか、屋台を空にする勢いでむさぼっていた。

「あ、ああ……そんな……」

 呆然あぜんとする俺の前で、ポンコツ丸がその二体を捕まえるが、食べたものは戻ってこない。
 俺はお金が入った袋に視線を落とす。代金を払うとわずかしか残りそうもなかった。

「シンさん。見ていなかった私の不注意です」
「頑張って稼ごう? ね、シン」

 クーナとライムがなぐさめてくれる。その優しさにジーンと来ていると、店主が声をかけてきた。

「なんだあんちゃん。金がないのか。それなら御前試合ごぜんじあいに出たらどうだ?」
「御前試合と言いますと?」
「知らないってこたあ、ここに来たばかりだな? 毎年、この時期になると将軍様の前で行われる試合があるんだ。もちろん、将軍様に拝謁はいえつする名誉のために戦うんだが、いくらかは賞金も出る」

 そこで俺はふと、本来の目的を思い出した。
 ライムと出会った遺跡にあった古文書には、旧世界と呼ばれる土地があると書かれていた。それが彼女の過去や俺に関わっているのではないかと、情報を求めて旅をしながらナマクラ丸の故郷であるここまでやってきたわけだが、そこでまた新たな謎が生まれた。
 将軍と一緒にこの街を治めていた千年前の魔物使いが、俺によく似ていたのだ。将軍はナマクラ丸の知り合いとのことで、いかにもなにかありそうだ、と情報を集めていたところなのである。

「金が入って、しかも将軍様に会えるってことか」
「そういうこった。あんちゃんたち、強そうなんだから腕試しにいいんじゃねえか?」
「あ、やっぱり強そうに見える? 過酷な長い旅をしてきたからなあ」
「いや、そっちのわんこや鉄の人形のほうだ」
「……そんなことだろうとは思った」

 俺はがっくりしつつも、こんな扱いには慣れてきている。魔物使いなんだから、そりゃ主役は俺じゃなくて魔物たちだろうさ。
 だけど、やるときはやるのだ。俺にだって意地がある。

「よし、早速参加申し込みをして、特訓をするぞ!」

 俺は共感覚を用いて優勝したあとのことを伝える。ケダマには食べ放題のイメージ、ゴブにはかっこよくてモテモテの姿、ウルフには俺たちの信頼、そしてポンコツ丸には立派な機械パーツを。
 張り切る魔物たちとともに、俺は優勝に向けて動き始めた。


     ◇


 御前試合の予選当日、俺たちは会場にやってきていた。
 そこかしこから住人が集まっているらしく、本戦は後日だというのに辺りには様々な出店が立ち並び、妖怪でごった返している。その中には選手もいるのだろう。
 俺は彼らの姿を見ながら、腰にいたナマクラ丸を掴んだり放したり、何度も繰り返す。握っている間はナマクラ丸の能力で歴戦の剣士さながらの技術と実力であるが、手放したら凡人ぼんじんの域にまで落ちてしまう。なんとか技術を維持できないかと試してみるも、そんなことができたなら俺はとっくに名剣士になっていることだろう。つまり、才能がないのだ。
 しかし、そうとわかっていても、ナマクラ丸なしで戦わねばならない理由がある。今回の戦いは個人戦だが、ナマクラ丸は魔物だから一体とカウントされてしまうのである。
 そして千年前の魔物使いにちなんで剣技を競うそうで、ケダマは論外だし、ウルフは向いていない。ナマクラ丸は自身だけで動くことなんかできやしないし、ライムは接近戦が得意ではない。
 ゴブでは参加費をドブに捨てるようなものだし、今回は俺とクーナ、ポンコツ丸が参加することにした。
 だから責任重大なのである。
 俺は少し緊張しつつ、辺りをうかがう。あらかじめ参加登録しておくことが推奨すいしょうされており、自信がある選手はとっくに準備運動をしている。飛び込み参加もできるそうだが、そんなお祭り気分でやってくるようじゃ話にならないだろう。
 俺はこれまで頭を使って切り抜けてきたのだ。今回だって、魔物はいないが知恵で切り抜けてみせる。
 そう意気込みながら周りの参加者を観察する俺の服を、陽気に鼻歌を歌っていたゴブが引っ張る。緊張していた俺は気付かなかったのだが、ゴブが次第にぷんぷんと怒り始めたところで、ようやくその存在を認識できた。

「……なんだよ。屋台でなにか食いたいのか? 金なら渡すから、俺のことは放っておいてくれ」

 とてもゴブの相手をしている気分ではない。
 お金を入れた袋を渡すと、ゴブは元気に走っていった。なにか問題を起こしそうだが……まあいいか。
 受付では、支払いを済ませている者はすぐに通ることができた。飛び入り参加のほうは長蛇ちょうだの列ができているので、あらかじめ手続きを済ませておいてよかったなあと感じる。
 それから予選の内容を確認する。予選はいくつかのブロックに分けて行われ、数十人がまとめて戦い合い、制限時間を生き残った者が勝者となるようだ。
 俺とクーナ、ポンコツ丸は別のブロックなので、予選で当たることはないだろう。
 ひとまずクーナに叩きのめされる心配はなくなったので一安心だ。もっとも、強い魔物はほかにもたくさんいる可能性が高いが。
 その後刃引はびきされた武器を選ぶことになると、俺が刀、クーナは剣、そしてポンコツ丸は無数の腕を取り出して片っ端から掴んでいく。後ろに並んでいた魔物の分がなくなった。

「重くて動けなくなりそうだな。半分くらいにしておけば?」

 俺が告げると、ポンコツ丸は重量バランスを確認してから、取捨選択を済ませた。こういった計算は非常に速いのだが、いかんせん、こやつはなかなかにドジである。どうなることか。
 やがて時間が近づくと、選手と観客では待機場所も異なるため、ここで別れることになる。

「シン、頑張ってね。でも、怪我しちゃダメだよ」

 俺の手をぎゅっと握って微笑ほほえむライム。彼女が応援してくれるのだから、頑張らねばなるまい。
 俺はナマクラ丸を掴んだり放したりしていたが、それをライムに預けた。

「親友、緊張するなよ。リラックスしねえと、刀は振れねえからな」

 そんな助言をもらうと、俺は一つ深呼吸するのだった。
 一方、ケダマとウルフがポンコツ丸をせっせと磨いている。ぴかぴかになったポンコツ丸はガシャンガシャンと全身から音を立てて彼らの期待に応えた。
 そうして俺はクーナ、ポンコツ丸とともにそれぞれの控室に向かう。
 俺はたった一人になり、屈強な魔物たちの中に沈黙して座していた。決してクールを気取ってるわけではない。ここにいる魔物たち、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで切り傷だらけでどうみてもヤバいのだ!
 俺は不安を払拭ふっしょくすべく、自分のステータスを確認する。


《シン・カミヤ Lv‌22》

  ATK105 DEF80 MAT83 MDF71 AGI102

【スキル】
 「大陸公用語」「鑑定」「主従契約Lv‌6」「魔物合成」「小型化」「ステータス還元Lv‌4」「成長率上昇Lv‌3」「バンザイアタック」「スキル還元」「スキル継承けいしょうLv‌3」「血の代償だいしょう」「炎魔法Lv‌7」「風魔法Lv‌1」「水魔法Lv‌5」「氷魔法Lv‌6」「幻影術げんえいじゅつLv‌4」「神通力Lv‌2」

 攻撃力ATK素早さAGIは三けたに突入してるし、防御力DEF魔法攻撃力MAT魔法防御力MDFの数字も低くはない。そんじょそこらの魔物には到底負けるはずがない能力値だ。
 確かに俺自身は強くないかもしれないが、「ステータス還元」のスキルにより、いつだって仲間の魔物たちの力とともにある。
 俺はあいつらの期待に応えなければならない。だからこんなところで負けていられない。
 そんな俺を鼓舞こぶするかのように歓声が上がった。どうやら第一試合が始まったようだ。共感覚を通じてライムの視界を得ると、クーナが一瞬で魔物どもを蹴散けちらす姿があった。
 やっぱりクーナは頼もしい。俺も負けていられない。

「よし、やるぞ」

 いよいよ出番が来ると、立ち上がって気合を入れる。
 ほかの選手たちとともに、眩しい日の光に出迎えられながら俺はステージに上がる。そして開始の鐘が鳴ると一斉に魔物たちが動き始めた。
 肉がぶつかり合い、鉄と鉄が音をかなでる。
 その中で俺は激しく剣を切り結ぶ――なんてことはなく、一回戦で敗退した。


     ◇


 俺たちはその晩、豪華ごうかな食事を取り囲んでいた。
 新鮮な刺身や、山菜類がたっぷり入った混ぜ込みご飯。しっかり出汁だしの利いた汁ものなど、たくさんの和食がぜんの上に並んでいる。

「クーナとポンコツ丸の勝利に乾杯!」

 俺が告げるなり、魔物たちが喜びの声を上げる。ウルフとケダマは一緒になって肉球をぽんぽんと打ち合わせた。
 まだ予選とはいえ、クーナもポンコツ丸もあっさりと勝利を決めてきた。そう、あっさりと。
 クーナがもてはやされる中、俺はポンコツ丸に給油してやる。今回の油はちょっと奮発しているので、ポンコツ丸は嬉しげだ。

「にしても親友、ありゃあねえよ。もう少しよお、粘ってから負けるならともかく――」
「うるせえな。俺だって負けたくて負けたんじゃねえ」

 ナマクラ丸の食事を抜くことを心に決めながら、俺はそっぽを向く。するとゴブがやってきて、俺の肩をぽんぽんと叩いてきた。
 なにこれ。俺、ゴブにすら慰められてるの? 正直、落ち込む。
 へこみながら自分の席に戻るとケダマがいた。俺の食事を旨そうに食っているケダマが。

「自分のところに戻れよ!」

 ケダマを掴んで、元の席に投げる。すると、そこにあったはずの食事がない。もう食べ終わったから、俺のを食べていたらしい。
 歯型が付いてしまった料理をケダマに与えつつ、俺は自分の料理を食べ始める。皆が勝利に浮かれる中、俺だけは敗戦をめながら食うのだ。無念。
 そんな俺にライムが微笑み、そっとはしを持ってくる。まんでいるのは、先ほどケダマに食われてしまったせいで俺が食えなかった蕎麦そばだ。

「いいの?」
「うん。シンと一緒に食べたほうがいい」

 そんな嬉しいことを言ってくれるライム。
 俺はそれすら欲しがるケダマをぐいぐいと押しのけ、ありがたく一口。なんとも美味である。キンキンに冷えた蕎麦は、喉元をつるりと滑っていく。

「シンさん、このお蕎麦あったかくて美味しいですね」

 と、クーナ。見れば、彼女の蕎麦は湯気ゆげを立てている。
 俺はライムの手を取った。ほんのりと顔を赤らめる彼女。
 彼女はひんやり冷えていて、相変わらずゆきんこスライムらしい。
 俺はクーナの言葉に返すこともできず、茶をすすった。

「ああ、温かくて美味しいな」

 こんなにも心温まる日々を送れるのだから、俺は幸せである。
 食事が終わり、今後の試合も頑張ると、クーナとポンコツ丸が決意を述べる。そうして一日が終わっていく中、俺は鬼の将軍の姿を思い浮かべる。本当に会えたとき、なにを言えばいいものかと。


     ◇


 試合本戦の日、俺は観客席にいた。
 ナマクラ丸をたずさえた俺の隣にはケダマを抱きかかえたライムとウルフがいる。ポンコツ丸とクーナは控室に行っていた。ゴブはどこかに飛んでいった。たぶんトイレかなんかだろう。
 第一試合は、大きな鬼と小柄なクーナの試合だ。
 本戦ではトーナメント形式で試合が行われていくが、全試合がこの会場で行われるため、丸一日使って試合が進んでいく。

「美しき狐の姫君、クーナ! 予選では華麗なる戦いを見せてきたが、果たしてこの巨体には通用するのか!?」

 司会があおる。
 俺はそんな言葉を聞きながらも、クーナなら大丈夫だろうと確信していた。なんせ、俺はあの大きな鬼の力を知っている。この身をもって殴られて弾き飛ばされたんだから、知らないはずがない。かなりのパワーだが、クーナの技量が上回るだろう。
 いよいよ試合が始まると、鬼がクーナに棍棒こんぼうを振り下ろすが、クーナはあっさりと回避し、鬼を何度も何度も切りつけていく。

「いいぞ、やっちまえ、クーナ!」

 俺は予選の恨みも込めて叫ぶ。
 その応援に勢いづいたクーナは一気に攻め込んだ。相手の力を利用してぶん投げ、さらに剣を突き立てる。一瞬で全身をしたたかに打たれた鬼は、もう立ち上がることなどできやしなかった。
 試合の終了とともに小鬼たちがやってきて、倒れた鬼を運んでいく。
 クーナの見事な戦いぶりに観客はつ。無理もないことだ。なんといってもうちのクーナは強いだけじゃなく可愛いから。ちょっと歩いているだけでも見惚みほれてしまう魅力があるのに、こんなりんとした姿を見せられたらファンクラブができかねない。そうなったらどうしよう。
 俺が浮かれていると、クーナがこちらを向いて手を振ってきた。
 予選敗退の俺は、本戦の初戦を勝利した彼女に手を振り返す。なんとも情けない図である。
 次に試合が行われたポンコツ丸も難なく勝ち残って、観客に数十の手を振るのだった。
 しばらく俺の魔物が出る試合はないからと、食事を買いに立ち上がりかけたとき、二体の魔物が入場してきた。
 一体は鬼の体に牛の頭を持つ魔物、牛鬼である。もう一体は、小さな緑の肉体で、顔には布を巻き付けている。
 小さいほうはステージに上がると棍棒をぶんぶんと振り回し、なんだか見覚えのあるポーズを決める。

「小さな体に秘められた力は果たしていかほどのものか! 謎の覆面ふくめん小鬼ゴブリン、ボブ!」

 紹介されるとますます調子に乗って棍棒をぶん回している姿は、どこをどう見ても見間違えようがない。
 ボブっていうのは、世をあざむく仮の姿……なんかではなく、単にスペルを間違えたんだろう。あいつ間抜けだから。

「なんであいつが……っていうか、ゴブですら予選は通ったのに、俺は通らなかったのか……」

 落ち込む俺の頭をケダマがぽんぽんと叩くと、ウルフが一緒になって俺をでる。
 俺は非常に人望がある、ということにしておこう。泣けてくる。
 やがて試合が始まると、牛鬼がまさかりを振り回す一方、ゴブはちょこまかと逃げ回っては棍棒を打ち付けていく。
 俺はその姿を見ながら、ゴブも成長したんだなあと思う。思い返すのは、ゴブを投げるといつも敵の群れから逃げ帰ってきた姿だ。
 そうだよなあ、ゴブだってあれから戦い続けてきたんだ。強くなるのが道理だ。
 そんなことを考えていると、空を舞うゴブリンが見えた。
 ああ、だめだったか。そりゃそうだよな、ゴブだし。


     ◇


 何食わぬ顔で戻ってきたゴブは、負けたというのに鼻高々であった。
 まあ、少しは見直したのは間違いない。空を飛んでたけど。
 昼飯を食って休憩きゅうけいしてから、二回戦が始まる時間になった。クーナは微笑み、ポンコツ丸はちょっと調子が悪そうにしながら会場に向かう。
 試合はどんどん進んでいき、クーナは順調に勝利を収めていく。一方でポンコツ丸は、準決勝でネジが外れて動けなくなったところをやられた。やはりメンテナンスをしっかりしなければだめなんだろう。自動修復が追い付かなくなるまで酷使こくしさせてはならないことを学んだ。
 そんなわけで、決勝戦まで残っているのはクーナただ一人。
 けれど俺は心配することもなく、試合の成り行きを眺める。あと一回で優勝するところまで来たんだから、最後だって決めてくれるだろう。
 決勝戦の相手はダイダラボッチ。巨人である。軽く足を動かすだけで対戦相手を蹴散けちらしてきた強者つわもので、クーナの十倍近い背丈せたけがある。
 あんなのにどうやって勝てというのか、と観客の間にも諦めムードがただよっている。が、クーナを応援する者がいないわけではない。クーナのチャーミングな姿を見れば、応援せざるを得ないのだ。
 俺はちょっと自慢げにクーナを見ている。彼女は普段と変わらない様子で、たくさんの剣をぶら下げていた。
 数十本もの手があるわけでもないのに、なにに使うのかと思っていると、試合が始まる。ダイダラボッチの動きは早くないが、緩慢かんまんな動作も大きさの差があるせいで素早く感じられる。
 クーナはダイダラボッチに飛び乗ったり、しがみ付いて移動したり、なんとかやり過ごしているが、それだけでは勝てるはずもない。
 観客もダイダラボッチも、終わらない試合にれてくる。
 そうなると、クーナは素早く移動して、ダイダラボッチに剣を突き立てた。大したサイズではないはずの剣の攻撃に、巨人は悲鳴を上げる。
 見れば、剣が爪の間に刺さっていた。思わず片足を上げた隙に、クーナはもう一方の足を攻撃。
 跳び上がったダイダラボッチの着地点を予想するなり、クーナは剣を地面に並べた。
 足に剣山が突き刺さると、もはや体重を支えきれずダイダラボッチが倒れてくる。そう、観客のところへ!
 ルールには場外負けが設定されているため、それを狙ったのだろう。さすがは俺のクーナ、実に賢い。
 そんなことを思っていると、影が俺を包み込んだ。見上げれば巨大なダイダラボッチ。
 ……潰される!
 俺は咄嗟とっさにケダマの小型化を解除する。

「いけ! ケダマ!」

 むくむくと大きくなったケダマは、のほほんとした顔のままダイダラボッチの下敷したじきになる。すっかり潰れてしまったケダマだが、その時点になって慌て始めた。

「がおー、がおー!」

 鳴きながら動こうとするケダマだが、潰れて座席の間に挟まっているため動けない。

「オレニマカセロ!」

 ポンコツ丸が宣言すると、飛行形態になって助走をつけ離陸、速度を上げていく。
 その間に俺たちは邪魔にならないところへと避難。
 やがてポンコツ丸はターンしてきて、ケダマへと近づいていく。ぐんぐんと近づいて、間近になった瞬間、俺はケダマを小型化する。
 支えを失ったダイダラボッチが倒れ始めると同時に間に滑り込んだポンコツ丸がアームを出してケダマをキャッチし、座席すれすれのところを一気に通り過ぎた。
 ポンコツ丸は倒れるダイダラボッチの陰から抜け出すと、俺のところにケダマをぽんと放り投げた。それからゆっくりと速度を落として着陸。
 俺はポンコツ丸を称賛しょうさんしつつ、潰れたケダマを押して元の形に戻していく。不満げにしているケダマだが、おびに美味しい晩飯を約束すると、途端に嬉しげに俺の周りをころころ転がり始めた。
 ダイダラボッチもようやく体を起こし始めると、試合がすべて終わった雰囲気になる。遅れて歓声が上がると、クーナは応えるように剣を掲げた。なんとも勇ましく誇り高い姿である。
 やはり俺の魔物たちは素敵だ。ほかの誰にも勝るとも劣らない。
 そうして俺たちは、将軍に会うための切符を手に入れたのだった。


     ◇


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