49 / 64
4巻
4-1
しおりを挟む1
その日も俺シン・カミヤと仲間の魔物たちは、妖怪たちの街を歩いていた。
ここに来てから結構日がたっているため、着物を着た小鬼たちが歩いていたり、ねじり鉢巻きに褌の飛脚狐が走っていたりする光景にもすっかり慣れてきている。
昼間からぶらぶらしている俺であるが、遊んでいるわけではなく、大事な目的があるのだ。
「シン、あれは?」
俺を呼ぶのは、雪女とスライムが合成されたゆきんこスライムのライムだ。
白妙の和服がよく似合う彼女は、なにかを見つけたのかと思いきや――寿司の屋台を指差していた。
そういえば、お昼ご飯まだだったなあ。魔物使いたる俺にとって、魔物たちで大所帯になったパーティの食事管理も、立派な仕事の一つだ。決して、遊んでいるわけではないのである。
魔物使いの能力により共感覚を得ているため、俺の魔物たちの様子はすぐに伝わってくる。
スフィンクスが混じった魔物ハネツキケダマライオンのケダマは、食いしん坊ですでに涎を垂らしているし、そんなケダマと仲のいい大氷狼のウルフも鼻をひくつかせている。そしてゴブリンのゴブは勝手に動き回ろうとしているところを、機械型魔物のポンコツ丸に捕まえられていた。
「お昼にしましょう、シンさん」
天狐の少女クーナが尻尾を揺らしながら俺に提案してくる。
「じゃあそうしようか。あそこの屋台でいい?」
「はい。高くありませんし、最近は実入りがよくないのでちょうどいいでしょう」
クーナはしっかり者だから頼りになる。お財布の紐はすっかり握られてしまっているが、それだけ安心できるということでもある。なにしろ、俺の魔物たちの食費は馬鹿にならないから。
屋台にやってくると、俺は寿司を頼みつつ、スキルを用いて魔物たちを小型化する。
そして台の上でケダマたちがムシャムシャと食べ始めるのを見ながら、これからどうしようかと考え始めた。
「うーん。なんとかしてガッポリお金を稼ぐ方法はないものか……」
「親友、楽して稼げる方法なんざありゃしないぜ。地道に稼ぐことを考えな」
腰元の刀、ナマクラ丸が俺にお説教をしてくる。
そんなことは言われずともわかっているが、魔物たちがよく食べるから仕方ないのだ。そう、今だってこのように――
「おいっ! そんな高いネタばっかり食うなよ!」
俺が気付いたときには、ゴブは高級なものばかり選んで食べている。そしてケダマはいつの間にか、屋台を空にする勢いで貪っていた。
「あ、ああ……そんな……」
呆然とする俺の前で、ポンコツ丸がその二体を捕まえるが、食べたものは戻ってこない。
俺はお金が入った袋に視線を落とす。代金を払うと僅かしか残りそうもなかった。
「シンさん。見ていなかった私の不注意です」
「頑張って稼ごう? ね、シン」
クーナとライムが慰めてくれる。その優しさにジーンと来ていると、店主が声をかけてきた。
「なんだあんちゃん。金がないのか。それなら御前試合に出たらどうだ?」
「御前試合と言いますと?」
「知らないってこたあ、ここに来たばかりだな? 毎年、この時期になると将軍様の前で行われる試合があるんだ。もちろん、将軍様に拝謁する名誉のために戦うんだが、いくらかは賞金も出る」
そこで俺はふと、本来の目的を思い出した。
ライムと出会った遺跡にあった古文書には、旧世界と呼ばれる土地があると書かれていた。それが彼女の過去や俺に関わっているのではないかと、情報を求めて旅をしながらナマクラ丸の故郷であるここまでやってきたわけだが、そこでまた新たな謎が生まれた。
将軍と一緒にこの街を治めていた千年前の魔物使いが、俺によく似ていたのだ。将軍はナマクラ丸の知り合いとのことで、いかにもなにかありそうだ、と情報を集めていたところなのである。
「金が入って、しかも将軍様に会えるってことか」
「そういうこった。あんちゃんたち、強そうなんだから腕試しにいいんじゃねえか?」
「あ、やっぱり強そうに見える? 過酷な長い旅をしてきたからなあ」
「いや、そっちのわんこや鉄の人形のほうだ」
「……そんなことだろうとは思った」
俺はがっくりしつつも、こんな扱いには慣れてきている。魔物使いなんだから、そりゃ主役は俺じゃなくて魔物たちだろうさ。
だけど、やるときはやるのだ。俺にだって意地がある。
「よし、早速参加申し込みをして、特訓をするぞ!」
俺は共感覚を用いて優勝したあとのことを伝える。ケダマには食べ放題のイメージ、ゴブにはかっこよくてモテモテの姿、ウルフには俺たちの信頼、そしてポンコツ丸には立派な機械パーツを。
張り切る魔物たちとともに、俺は優勝に向けて動き始めた。
◇
御前試合の予選当日、俺たちは会場にやってきていた。
そこかしこから住人が集まっているらしく、本戦は後日だというのに辺りには様々な出店が立ち並び、妖怪でごった返している。その中には選手もいるのだろう。
俺は彼らの姿を見ながら、腰に佩いたナマクラ丸を掴んだり放したり、何度も繰り返す。握っている間はナマクラ丸の能力で歴戦の剣士さながらの技術と実力であるが、手放したら凡人の域にまで落ちてしまう。なんとか技術を維持できないかと試してみるも、そんなことができたなら俺はとっくに名剣士になっていることだろう。つまり、才能がないのだ。
しかし、そうとわかっていても、ナマクラ丸なしで戦わねばならない理由がある。今回の戦いは個人戦だが、ナマクラ丸は魔物だから一体とカウントされてしまうのである。
そして千年前の魔物使いにちなんで剣技を競うそうで、ケダマは論外だし、ウルフは向いていない。ナマクラ丸は自身だけで動くことなんかできやしないし、ライムは接近戦が得意ではない。
ゴブでは参加費をドブに捨てるようなものだし、今回は俺とクーナ、ポンコツ丸が参加することにした。
だから責任重大なのである。
俺は少し緊張しつつ、辺りを窺う。あらかじめ参加登録しておくことが推奨されており、自信がある選手はとっくに準備運動をしている。飛び込み参加もできるそうだが、そんなお祭り気分でやってくるようじゃ話にならないだろう。
俺はこれまで頭を使って切り抜けてきたのだ。今回だって、魔物はいないが知恵で切り抜けてみせる。
そう意気込みながら周りの参加者を観察する俺の服を、陽気に鼻歌を歌っていたゴブが引っ張る。緊張していた俺は気付かなかったのだが、ゴブが次第にぷんぷんと怒り始めたところで、ようやくその存在を認識できた。
「……なんだよ。屋台でなにか食いたいのか? 金なら渡すから、俺のことは放っておいてくれ」
とてもゴブの相手をしている気分ではない。
お金を入れた袋を渡すと、ゴブは元気に走っていった。なにか問題を起こしそうだが……まあいいか。
受付では、支払いを済ませている者はすぐに通ることができた。飛び入り参加のほうは長蛇の列ができているので、あらかじめ手続きを済ませておいてよかったなあと感じる。
それから予選の内容を確認する。予選はいくつかのブロックに分けて行われ、数十人がまとめて戦い合い、制限時間を生き残った者が勝者となるようだ。
俺とクーナ、ポンコツ丸は別のブロックなので、予選で当たることはないだろう。
ひとまずクーナに叩きのめされる心配はなくなったので一安心だ。もっとも、強い魔物はほかにもたくさんいる可能性が高いが。
その後刃引きされた武器を選ぶことになると、俺が刀、クーナは剣、そしてポンコツ丸は無数の腕を取り出して片っ端から掴んでいく。後ろに並んでいた魔物の分がなくなった。
「重くて動けなくなりそうだな。半分くらいにしておけば?」
俺が告げると、ポンコツ丸は重量バランスを確認してから、取捨選択を済ませた。こういった計算は非常に速いのだが、いかんせん、こやつはなかなかにドジである。どうなることか。
やがて時間が近づくと、選手と観客では待機場所も異なるため、ここで別れることになる。
「シン、頑張ってね。でも、怪我しちゃダメだよ」
俺の手をぎゅっと握って微笑むライム。彼女が応援してくれるのだから、頑張らねばなるまい。
俺はナマクラ丸を掴んだり放したりしていたが、それをライムに預けた。
「親友、緊張するなよ。リラックスしねえと、刀は振れねえからな」
そんな助言を貰うと、俺は一つ深呼吸するのだった。
一方、ケダマとウルフがポンコツ丸をせっせと磨いている。ぴかぴかになったポンコツ丸はガシャンガシャンと全身から音を立てて彼らの期待に応えた。
そうして俺はクーナ、ポンコツ丸とともにそれぞれの控室に向かう。
俺はたった一人になり、屈強な魔物たちの中に沈黙して座していた。決してクールを気取ってるわけではない。ここにいる魔物たち、筋骨隆々で切り傷だらけでどうみてもヤバいのだ!
俺は不安を払拭すべく、自分のステータスを確認する。
《シン・カミヤ Lv22》
ATK105 DEF80 MAT83 MDF71 AGI102
【スキル】
「大陸公用語」「鑑定」「主従契約Lv6」「魔物合成」「小型化」「ステータス還元Lv4」「成長率上昇Lv3」「バンザイアタック」「スキル還元」「スキル継承Lv3」「血の代償」「炎魔法Lv7」「風魔法Lv1」「水魔法Lv5」「氷魔法Lv6」「幻影術Lv4」「神通力Lv2」
攻撃力と素早さは三桁に突入してるし、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力の数字も低くはない。そんじょそこらの魔物には到底負けるはずがない能力値だ。
確かに俺自身は強くないかもしれないが、「ステータス還元」のスキルにより、いつだって仲間の魔物たちの力とともにある。
俺はあいつらの期待に応えなければならない。だからこんなところで負けていられない。
そんな俺を鼓舞するかのように歓声が上がった。どうやら第一試合が始まったようだ。共感覚を通じてライムの視界を得ると、クーナが一瞬で魔物どもを蹴散らす姿があった。
やっぱりクーナは頼もしい。俺も負けていられない。
「よし、やるぞ」
いよいよ出番が来ると、立ち上がって気合を入れる。
ほかの選手たちとともに、眩しい日の光に出迎えられながら俺はステージに上がる。そして開始の鐘が鳴ると一斉に魔物たちが動き始めた。
肉がぶつかり合い、鉄と鉄が音を奏でる。
その中で俺は激しく剣を切り結ぶ――なんてことはなく、一回戦で敗退した。
◇
俺たちはその晩、豪華な食事を取り囲んでいた。
新鮮な刺身や、山菜類がたっぷり入った混ぜ込みご飯。しっかり出汁の利いた汁ものなど、たくさんの和食が膳の上に並んでいる。
「クーナとポンコツ丸の勝利に乾杯!」
俺が告げるなり、魔物たちが喜びの声を上げる。ウルフとケダマは一緒になって肉球をぽんぽんと打ち合わせた。
まだ予選とはいえ、クーナもポンコツ丸もあっさりと勝利を決めてきた。そう、あっさりと。
クーナがもてはやされる中、俺はポンコツ丸に給油してやる。今回の油はちょっと奮発しているので、ポンコツ丸は嬉しげだ。
「にしても親友、ありゃあねえよ。もう少しよお、粘ってから負けるならともかく――」
「うるせえな。俺だって負けたくて負けたんじゃねえ」
ナマクラ丸の食事を抜くことを心に決めながら、俺はそっぽを向く。するとゴブがやってきて、俺の肩をぽんぽんと叩いてきた。
なにこれ。俺、ゴブにすら慰められてるの? 正直、落ち込む。
へこみながら自分の席に戻るとケダマがいた。俺の食事を旨そうに食っているケダマが。
「自分のところに戻れよ!」
ケダマを掴んで、元の席に投げる。すると、そこにあったはずの食事がない。もう食べ終わったから、俺のを食べていたらしい。
歯型が付いてしまった料理をケダマに与えつつ、俺は自分の料理を食べ始める。皆が勝利に浮かれる中、俺だけは敗戦を噛み締めながら食うのだ。無念。
そんな俺にライムが微笑み、そっと箸を持ってくる。摘まんでいるのは、先ほどケダマに食われてしまったせいで俺が食えなかった蕎麦だ。
「いいの?」
「うん。シンと一緒に食べたほうがいい」
そんな嬉しいことを言ってくれるライム。
俺はそれすら欲しがるケダマをぐいぐいと押しのけ、ありがたく一口。なんとも美味である。キンキンに冷えた蕎麦は、喉元をつるりと滑っていく。
「シンさん、このお蕎麦あったかくて美味しいですね」
と、クーナ。見れば、彼女の蕎麦は湯気を立てている。
俺はライムの手を取った。ほんのりと顔を赤らめる彼女。
彼女はひんやり冷えていて、相変わらずゆきんこスライムらしい。
俺はクーナの言葉に返すこともできず、茶を啜った。
「ああ、温かくて美味しいな」
こんなにも心温まる日々を送れるのだから、俺は幸せである。
食事が終わり、今後の試合も頑張ると、クーナとポンコツ丸が決意を述べる。そうして一日が終わっていく中、俺は鬼の将軍の姿を思い浮かべる。本当に会えたとき、なにを言えばいいものかと。
◇
試合本戦の日、俺は観客席にいた。
ナマクラ丸を携えた俺の隣にはケダマを抱きかかえたライムとウルフがいる。ポンコツ丸とクーナは控室に行っていた。ゴブはどこかに飛んでいった。たぶんトイレかなんかだろう。
第一試合は、大きな鬼と小柄なクーナの試合だ。
本戦ではトーナメント形式で試合が行われていくが、全試合がこの会場で行われるため、丸一日使って試合が進んでいく。
「美しき狐の姫君、クーナ! 予選では華麗なる戦いを見せてきたが、果たしてこの巨体には通用するのか!?」
司会が煽る。
俺はそんな言葉を聞きながらも、クーナなら大丈夫だろうと確信していた。なんせ、俺はあの大きな鬼の力を知っている。この身をもって殴られて弾き飛ばされたんだから、知らないはずがない。かなりのパワーだが、クーナの技量が上回るだろう。
いよいよ試合が始まると、鬼がクーナに棍棒を振り下ろすが、クーナはあっさりと回避し、鬼を何度も何度も切りつけていく。
「いいぞ、やっちまえ、クーナ!」
俺は予選の恨みも込めて叫ぶ。
その応援に勢いづいたクーナは一気に攻め込んだ。相手の力を利用してぶん投げ、さらに剣を突き立てる。一瞬で全身をしたたかに打たれた鬼は、もう立ち上がることなどできやしなかった。
試合の終了とともに小鬼たちがやってきて、倒れた鬼を運んでいく。
クーナの見事な戦いぶりに観客は沸き立つ。無理もないことだ。なんといってもうちのクーナは強いだけじゃなく可愛いから。ちょっと歩いているだけでも見惚れてしまう魅力があるのに、こんな凜とした姿を見せられたらファンクラブができかねない。そうなったらどうしよう。
俺が浮かれていると、クーナがこちらを向いて手を振ってきた。
予選敗退の俺は、本戦の初戦を勝利した彼女に手を振り返す。なんとも情けない図である。
次に試合が行われたポンコツ丸も難なく勝ち残って、観客に数十の手を振るのだった。
しばらく俺の魔物が出る試合はないからと、食事を買いに立ち上がりかけたとき、二体の魔物が入場してきた。
一体は鬼の体に牛の頭を持つ魔物、牛鬼である。もう一体は、小さな緑の肉体で、顔には布を巻き付けている。
小さいほうはステージに上がると棍棒をぶんぶんと振り回し、なんだか見覚えのあるポーズを決める。
「小さな体に秘められた力は果たしていかほどのものか! 謎の覆面小鬼、ボブ!」
紹介されるとますます調子に乗って棍棒をぶん回している姿は、どこをどう見ても見間違えようがない。
ボブっていうのは、世を欺く仮の姿……なんかではなく、単にスペルを間違えたんだろう。あいつ間抜けだから。
「なんであいつが……っていうか、ゴブですら予選は通ったのに、俺は通らなかったのか……」
落ち込む俺の頭をケダマがぽんぽんと叩くと、ウルフが一緒になって俺を撫でる。
俺は非常に人望がある、ということにしておこう。泣けてくる。
やがて試合が始まると、牛鬼が鉞を振り回す一方、ゴブはちょこまかと逃げ回っては棍棒を打ち付けていく。
俺はその姿を見ながら、ゴブも成長したんだなあと思う。思い返すのは、ゴブを投げるといつも敵の群れから逃げ帰ってきた姿だ。
そうだよなあ、ゴブだってあれから戦い続けてきたんだ。強くなるのが道理だ。
そんなことを考えていると、空を舞うゴブリンが見えた。
ああ、だめだったか。そりゃそうだよな、ゴブだし。
◇
何食わぬ顔で戻ってきたゴブは、負けたというのに鼻高々であった。
まあ、少しは見直したのは間違いない。空を飛んでたけど。
昼飯を食って休憩してから、二回戦が始まる時間になった。クーナは微笑み、ポンコツ丸はちょっと調子が悪そうにしながら会場に向かう。
試合はどんどん進んでいき、クーナは順調に勝利を収めていく。一方でポンコツ丸は、準決勝でネジが外れて動けなくなったところをやられた。やはりメンテナンスをしっかりしなければだめなんだろう。自動修復が追い付かなくなるまで酷使させてはならないことを学んだ。
そんなわけで、決勝戦まで残っているのはクーナただ一人。
けれど俺は心配することもなく、試合の成り行きを眺める。あと一回で優勝するところまで来たんだから、最後だって決めてくれるだろう。
決勝戦の相手はダイダラボッチ。巨人である。軽く足を動かすだけで対戦相手を蹴散らしてきた強者で、クーナの十倍近い背丈がある。
あんなのにどうやって勝てというのか、と観客の間にも諦めムードが漂っている。が、クーナを応援する者がいないわけではない。クーナのチャーミングな姿を見れば、応援せざるを得ないのだ。
俺はちょっと自慢げにクーナを見ている。彼女は普段と変わらない様子で、たくさんの剣をぶら下げていた。
数十本もの手があるわけでもないのに、なにに使うのかと思っていると、試合が始まる。ダイダラボッチの動きは早くないが、緩慢な動作も大きさの差があるせいで素早く感じられる。
クーナはダイダラボッチに飛び乗ったり、しがみ付いて移動したり、なんとかやり過ごしているが、それだけでは勝てるはずもない。
観客もダイダラボッチも、終わらない試合に焦れてくる。
そうなると、クーナは素早く移動して、ダイダラボッチに剣を突き立てた。大したサイズではないはずの剣の攻撃に、巨人は悲鳴を上げる。
見れば、剣が爪の間に刺さっていた。思わず片足を上げた隙に、クーナはもう一方の足を攻撃。
跳び上がったダイダラボッチの着地点を予想するなり、クーナは剣を地面に並べた。
足に剣山が突き刺さると、もはや体重を支えきれずダイダラボッチが倒れてくる。そう、観客のところへ!
ルールには場外負けが設定されているため、それを狙ったのだろう。さすがは俺のクーナ、実に賢い。
そんなことを思っていると、影が俺を包み込んだ。見上げれば巨大なダイダラボッチ。
……潰される!
俺は咄嗟にケダマの小型化を解除する。
「いけ! ケダマ!」
むくむくと大きくなったケダマは、のほほんとした顔のままダイダラボッチの下敷きになる。すっかり潰れてしまったケダマだが、その時点になって慌て始めた。
「がおー、がおー!」
鳴きながら動こうとするケダマだが、潰れて座席の間に挟まっているため動けない。
「オレニマカセロ!」
ポンコツ丸が宣言すると、飛行形態になって助走をつけ離陸、速度を上げていく。
その間に俺たちは邪魔にならないところへと避難。
やがてポンコツ丸はターンしてきて、ケダマへと近づいていく。ぐんぐんと近づいて、間近になった瞬間、俺はケダマを小型化する。
支えを失ったダイダラボッチが倒れ始めると同時に間に滑り込んだポンコツ丸がアームを出してケダマをキャッチし、座席すれすれのところを一気に通り過ぎた。
ポンコツ丸は倒れるダイダラボッチの陰から抜け出すと、俺のところにケダマをぽんと放り投げた。それからゆっくりと速度を落として着陸。
俺はポンコツ丸を称賛しつつ、潰れたケダマを押して元の形に戻していく。不満げにしているケダマだが、お詫びに美味しい晩飯を約束すると、途端に嬉しげに俺の周りをころころ転がり始めた。
ダイダラボッチもようやく体を起こし始めると、試合がすべて終わった雰囲気になる。遅れて歓声が上がると、クーナは応えるように剣を掲げた。なんとも勇ましく誇り高い姿である。
やはり俺の魔物たちは素敵だ。ほかの誰にも勝るとも劣らない。
そうして俺たちは、将軍に会うための切符を手に入れたのだった。
◇
0
お気に入りに追加
362
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。