異世界に行ったら魔物使いになりました!

佐竹アキノリ

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3巻

3-3

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 前列から二番目といったところで、一番前にゴーレム、続いて俺たち、それから兵たち、学者と続く。ほかの魔物使いは、兵の中では一番後ろにいるため、俺だけが突出しているとも言えよう。

「もうすぐ行き止まりに到達します」

 俺は遠くを見通すスキル「神通力」で探った結果を伝える。奥まったところがあるほか、特に入り口らしきものはなにも見当たらない。
 はて、道を間違えたのだろうか。
 そんなことを思っていると、学者が壁の隙間になんらかの薬品をかける。すると、遺跡の壁だとばかり思っていた部分が左右に分かれていった。さらに作業を進めていくと、ガコンと大きな音が鳴って壁に亀裂きれつが走り、向こうが見えてきた。
 単純な仕掛けらしく、歯車が見える。どこかでモーターが動いているのだろう。
 向こうは闇の中ですっかり見えなくなっているが、学者連中がライトっぽいもので先を照らしていく。俺一人ならば炎魔法を使用して進むのだが、便利なものもあるようだ。
 探索が可能になると、ゴーレムたちが動き出す。そして俺も続かねばならない。
 何事もなく進んでいくかと思いきや、言われていた通りトラップは多いらしい。ゴーレムがなにかを踏んだようで、カタン、と音が鳴った。
 次の瞬間、こちらに飛来するものがあった。

「かわ――」
「受け止めろ!」

 俺の言葉をさえぎる強い命令。ゴーレムは微動だにしなかった。
 が、命令を無視したわけではない。その意味が明らかになる。
 巨大な矢がゴーレムの頭部を貫いていたのだ。俺は突然のことに驚きを隠せない。命令を断ることが、できなかったのか。
 ぐしゃぐしゃになるゴーレムの頭部。しかし、ゆっくりと元の形を取り戻すべく再生が始まる。ある程度以上に崩壊しない限り、死ぬことはないようだ。
 しかし、気分のいい光景ではない。
 俺は胸につっかえるものを覚えながら、神通力で行く先を探る。いくつか罠はあるが、脅し程度のものしかなく、あちこちに歯車が埋め込まれているばかりだ。
 学者が付近の調査を終えると、魔物使いを含め、何事もなかったかのように移動が再開される。
 そして俺たちは大部屋へと足を踏み入れた。そこには円形の空間があるばかり。
 十分なスペースがあるため、学者たちはここを第二の拠点にしたいようだった。俺たちは早速、部屋の中を調べていく。
 入り口付近には歯車が数個。とても重く動きそうもなかったので、俺たちの力でどうこうなるわけでもなさそうだ。それ以外の壁には、これといった仕掛けは見当たらない。
 学者たちは好奇心のおもむくままに、調査を行っていた。
 俺はその間、警護を続ける。しかし、魔物たちが妙にそわそわし始めた。

「上だ!」

 ナマクラ丸が叫ぶ。見上げれば、天上の一部分が垂れ下がるように盛り上がり、その塊は一つの顔を作り上げた。
 人の顔だ。のっぺりしたそれは、笑っているかのようにこちらを眺めている。
 さらに獅子の胴体が生じると、大きさは次第に増していって、人を踏み潰せるほどになる。
 ずるり、と敵が身を乗り出すと俺はすかさず鑑定を発動させる。 


《スフィンクス Lv‌20》

  ATK132 DEF62 MAT22 MDF42 AGI144

【スキル】
 「自己再生」

 「逃げろ――!」
 俺が叫ぶと同時、巨体が地面を揺らした。
 瞬間、ガラガラと音を立てて歯車が回り始め、入り口の扉が落ちた。やつを倒さない限り、開きはしないということだ。

「ゴーレム、隊列を組め!」

 命令が下されると、数体のゴーレムが取り囲んでいくが、スフィンクスは物怖ものおじもせずに咆哮ほうこうを上げる。びりびりと空気が震える中、俺たちも同時に戦う意思を固めた。
 ゴーレムがじりじりと距離を詰めていき、兵たちが剣を構える。遺跡内ということで、邪魔になる長槍や、壁面を傷つける可能性がある弓の類を持ってきている者はいない。
 それがあだとなった。
 スフィンクスはわずかなめの後、ゴーレム目がけて飛び込んだ。一瞬で距離を詰めると横薙よこなぎに前足を振るう。鋭い爪の餌食えじきとなった岩人形は頭が飛び、胴体が抉れ、やがて踏み潰されてしまった。
 上がる悲鳴。自然と退しりぞく足。
 遮るものがなくなったとき、兵たちはすでに戦意を失いつつあった。安全なところから戦うことに慣れすぎてしまっていたのだ。
 スフィンクスがぐっと前足を曲げて力を蓄える。今度の目標は、向こうで尻餅しりもちをついている学者連中だった。

「か、かかれ! やつを仕留めろ!」

 誰かが叫んだ。けれど、呼応する人物なんていない。
 そんなものだと俺は思う。たとえ人同士であっても、その絆が確かであるかどうかなんて、わからないのだから。
 恐怖に駆られて飛び込んでいった男が、スフィンクスの体当たりを受けて押し潰された。
 真っ赤な血が噴き出し、地面を濡らしていく。恐慌きょうこう状態となった兵士たちは、飛び込んできた巨体を受け止めることなんて、できやしなかった。
 スフィンクスは兵を蹴散らし、俺のところにまで迫ってくる。
 血肉を求める牙が俺の命を狩らんとする。だが――

「ライム!」

 俺の叫びとともに、距離を取っていた彼女が皮袋の口を敵に向ける。そして、すっぽりと皮袋に覆われていたケダマが勢いよく飛び出した。
 水魔法で撃ち出すことで初速を稼いだのだ。利用した水は再び彼女の袋へと戻り、再利用されることになる。
 ケダマはさらに風魔法で加速。ぐんぐんと距離を詰めていき、スフィンクスの頭部へと命中。
 敵は自身の勢いと相まって衝撃でった。その隙にクーナが飛び込み、巨大なハンマーを大きく振って腹を打つ。
 スフィンクスの勢いが落ちた瞬間、俺はゴブを投擲とうてき

「ゴブブブ!」

 投げられるのに慣れたとはいえ、ゴブは巨大な相手に目を白黒させていた。
 愛用の棍棒こんぼうでスフィンクスの顔面を殴打おうだすると、その勢いでふわりと宙に浮く。一瞬こちらと目が合ったゴブは、ひどい顔をしていた。
 そして地に降り立ったケダマがぱたぱたと走りながら逃げていく。訓練をさせた甲斐があったというものである。ゴブもそそくさとその場を離れ始める。
 だが、スフィンクスは受け身が取れずとも地を滑るようにして、執念深く向かってきた。
 俺は慌てて回避行動を取る。ぎりぎりのところを巨体が通り過ぎていくと、ぞっとせずにはいられなかった。あれに潰されたら、一たまりもない。
 俺の背後には先ほどまで学者たちがいたが、案ずる必要はない。白い狼はとっくに彼らを背に乗せ、あるいはくわえながら、俺のところに戻ってくる。

「よしよし、いい仕事するなあ」

 ウルフを撫でてやると、ウルフは嬉しげに眼を細める。学者たちは礼を言いつつ逃げ始めた。

「すまないね、わんこくん」
「助かったよ、お犬さん」

 それを聞いてウルフはちょっと複雑そうだ。孤高ここうとはすっかり程遠いが、狼だからなあ一応。
 俺は集まってきた魔物たちに声をかけてから、腰を抜かしている兵に一瞥いちべつをくれる。怪我をした者はともかく、無事な兵はまだ戦えるはず。もっともこうなっては、使い物にならないか。
 と、俺はその中に先の女性を見つけた。

に手柄を取られて恥ずかしくないのか? 自慢の策だったんだろう?」

 せせら笑うと、彼女は怒りをしにして、俺を睨みつけてくる。けれど、足腰も立たないんじゃ、逃げるのだって難しいだろう。
 あの態度は彼女に限ったことじゃない。この都市における魔物の扱いがこんなものなのだ。
 そしてほかの都市と比べると、傭兵たちも随分ずいぶんと貧弱だ。魔物の陰から戦うのが常だということもあるが、集団での戦闘しかせず、想定外の出来事と言えば罠くらいなので、突然の出来事に弱いのだろう。

「さてと、倒すぞ。俺たちは、俺たちのやり方でな」

 先の攻撃で、敵の意識はすっかりクーナに向いている。となれば、彼女が引きつけている隙に横から叩くのが最もまともな策だ。

「クーナ、悪いけれど頼む」
「お任せください!」

 彼女は身軽になるように武器を剣に替え、敵を見る。スフィンクスはすでに戦いの続行を決め込んでおり、容易たやすく追跡を逃れることはできないだろう。
 俺は学者たちに被害が出ないよう移動。なんとか立ち上がった兵たちも学者たちのところに駆けていく。護衛の役割を思い出したからじゃない。そのほうが安全な場所にいられるからだ。
 そうして立ち向かう中、向こうでゴーレムが再生を始めているのが見えた。

「立て、ゴーレム。動け、敵を倒せ!」

 絶叫にも近い命令を聞いて振り返ると、青白い顔をしたライルの姿があった。彼にも矜恃きょうじというものがあったのかもしれない。
 砕け散ったゴーレムは復活し、スフィンクスに飛び掛かっていく。予想外の状況に、敵も慌てたようだ。懐に入られたのが大きく、うまく立ち回れていない。
 となれば、今が好機。
 正面をクーナが駆けていくと、スフィンクスはそちらにばかり気を取られ、まとわりつくゴーレムを蹴飛ばしながら動き始めた。
 俺はライムとともにウルフに乗って、やつへ接近。そしてケダマを投擲する。
 風魔法で加速していったケダマは、踏み出したばかりのスフィンクスの前足を弾き飛ばし、体勢を崩す。その隙に俺とライムは炎魔法で側方から攻撃。
 胴体が燃え上がってもがき苦しむ巨体へと、人化を解除し狐の姿になったクーナがゴブを乗せて駆け出した。一瞬で距離を詰め、そのままの勢いで人化するとゴブを投擲し、自身は槍を棒高跳びの要領で用いて跳び上がる。
 そして二体の魔物は同時に、敵の目を打った。
 これで敵が学者連中を狙うことはなくなるはず。
 そう思いながら、俺は放火の手を休めずに敵を見る。一度はまぶたを閉じたスフィンクスだが、次の瞬間にはかっと目を見開き、頭を大きく振る。
 その衝撃でクーナとゴブは弾き飛ばされ、さかさまに落ちていく。が、地面に落ちる前に、真っ黒なケダマが滑り込んだ。
 ケダマクッションの上で起き上がった二体はスフィンクスを見上げる。共感覚にて俺もその光景を見た。
 すでに眼球についた傷は再生しており、ますます怒りのこもった目で見下ろしていたのだ。
 これほど早く治るなら、どうすればいいというのか。一撃で首を断つには、サイズが違いすぎる。再生は無限に続くわけではないだろうが、敵が力尽きるまで切り続けるのも難しい。
 スフィンクスがクーナのほうに一歩踏み出すと、ケダマは慌てて飛び跳ね、俺のところへと戻ってくる。
 狙われてるのがクーナなんだから、頭に乗せている以上、こっちに来たって同じことだろうに。
 しかし、俺が頼られているということでもある。
 だから打開せねばならない。その方法を考えるのは、俺の役目だ。
 俺はスフィンクスを眺める。すると、火傷やけどの治りが遅いことがわかる。魔法防御が低いからというだけでなく、皮下まで及んでいるのが理由か。
 となれば、いずれにせよ、そこを突いていくことになる。

「よし、やるぞ」

 俺が魔物たちに指示を出すと同時。スフィンクスはこちらに向かって、絡みつくゴーレムをものともせずに跳躍ちょうやくした。
 クーナは小型化したゴブとケダマをむんずと掴み、思い切り地に伏せた。
 頭上を鋭い爪が通過していくと、立て続けに尾が地面を払うように迫ってくる。けれどクーナは跳躍して見事に回避してのけた。
 スフィンクスは床に爪を突き立てると、勢いを殺して素早く反転し、空中で身動きの取れないクーナに獰猛どうもうな瞳を向ける。
 頭を掴まれているゴブがじたばたと暴れ、ケダマが羽をぱたぱたと動かす。ケダマの風魔法は一応発動するが、そんなに有効なものでもない。
 だから俺たちは彼女と敵の間に割り込んだ。
 ウルフが颯爽さっそうと駆ける中、俺とライムが炎魔法で敵を牽制けんせいする。
 スフィンクスは前のめり気味になりながらも、突進を中断。そのまま突っ込んでいれば、クーナのところには行けるだろうが、頭から炎に突っ込むことになったのだから。
 すると、敵の狙いは俺たちに切り替わる。その反応の早さに、驚かずにはいられなかった。
 ウルフがいかに速いといえども、体格の差がある。敵は見る見るうちに迫ってくる。
 俺は素早くウルフとライムを小型化して安全なところに放り投げると、地面へと放り出される。彼女と俺との間を、鋭い爪が通過していき、またしても尻尾が俺目がけて振るわれる。
 俺はクーナのように素早くもないし、小型化もできないからとても回避できそうもない。
 ナマクラ丸に手をかけると抜刀ばっとう。こちらに向かってくる尾を切り上げる。刃は深々と食い込んでいくが、切断するよりも早く、俺は突き飛ばされていた。

「ぐえっ!」

 衝撃で地面を転がり、起き上がろうとするも痛みで体がうまく動かない。共感覚でクーナたちの視界から敵を探ると、すでに俺に狙いを定めていた。
 刀を構えるか、それとも炎を投げつけるか。いや、そのどちらでもない。
 人化を解除して駆け寄ってきたクーナの背に飛び乗った俺は、またしてもこちらに向かってくる敵を見て、なにもしなかった。いや、する必要はなかった。
 すさまじい勢いで飛ぶケダマが、スフィンクスの胸部を弾く。突進の軌道がずれ、俺たちは転がり込むようにして、なんとか回避。
 そしてケダマに張りついていたゴブが跳躍とともに棍棒を振り上げ、スフィンクスを打たんとする。が、見当違いのところに跳んだため、そこにあったのは尻尾であった。
 ゴブはとりあえず尻尾を掴むと、スフィンクスの勢いそのままに、引っ張られていく。

「ゴッブブブブー!」

 叫び声が遠くなっていく……あいつなにしに来たんだ。
 スフィンクスが体勢を崩しながらも、着地せんと足を地に伸ばす。が、そのときすでに、床の表面を水が覆っていた。ライムが水魔法で仕組んだことだ。
 爪は滑ってしまい、スフィンクスはそのまま壁面目がけて突っ込んでいった。
 遺跡を揺らす衝撃。壁面にぶつかって、スフィンクスは仰向けに倒れ込んでいた。
 俺たちはすぐさま駆け寄り、追撃に転じる。ライムとケダマを連れてウルフに乗り、その横をクーナが並走する。
 俺はナマクラ丸にありったけの力を注ぎ込む。こいつの攻撃力をもって全力の一撃を叩き込めば、致命傷を与えられるかもしれない。
 しかし、敵が起き上がる方が早かった。スフィンクスはぱっと四足を地面につけると、俺たち目がけて爪を振るった。
 こちらに真っ直ぐ近づいてくる鋭利えいりな先端。
 ――避けられない。
 死を予感した瞬間、叫び声が上がる。

「ゴーレム、引っ張れ!」

 途端、こちらに向かってきていたスフィンクスの動きが鈍る。後肢こうしのところにゴーレムが見えた。これならばなんとか死はまぬがれるかもしれない。
 そう思うも、回避する余裕はなかった。

「くそっ!」

 苛立ちのまま叫んだ瞬間、スフィンクスがあたかも引っ張られるかのように動きを止めた。
 なにが起きたのか。そんなの決まっている。やつがやったのだ。
 スフィンクスの尻の陰から、ゴブがひょいと顔を覗かせた。石柱にスフィンクスの尻尾を結びつけていたのである。
 そしてゴブは自慢げな顔をする。今回ばかりは称賛しょうさんするしかない。やつの働きっぷりは本物だから。

「助かった、ゴブ!」

 俺はここを好機と見て、攻めに転じる。
 暴れるスフィンクス目がけて、人化したクーナを乗せたウルフが跳ぶ。一方で俺が敵の懐に潜り込み、首目がけて跳び上がりナマクラ丸を一閃。
 いかに強力な再生力を持っていようが、首を断たれては生きていられまい。
 刃はしかと敵に向かっていく。が、敵もまた反撃に転じる。
 なりふり構っていられなかったのだろう。自身に刃が突き刺さるのもいとわずに、俺目がけてあごを叩きつけた。

「ぐぅ……!」

 俺は地面へと飛ばされていく。しかし、まだ俺の役目は終わっていない。
 ナマクラ丸を思い切り上へと投擲すると、スフィンクスはさっと首をひねり回避する。
 しかし、それでいい。それこそが俺の目的だ。
 もう受け身を取る余裕なんかない。叩きつけられる衝撃を覚悟していると、柔らかなケダマが俺を受け止め、そのままひた走る。
 毛に隠れていて見えないが、ハクチョウが水面下で必死に足を動かすように、このケダマものんびりした外見にもかかわらず、必死で足を動かしているんだろう。
 ゴブもケダマも、先ほどから俺の指示を受けずに動いている。さすがに全員に逐一ちくいち指示を飛ばすことはできないからだが、そこにはやつらの意思がある。俺と一緒に戦ってくれる、とても心強い思いがある。
 俺はケダマのおかげで離脱すると、頭上を見上げた。そこにはウルフを足場に高く跳躍したクーナが、ナマクラ丸を掴んでいる姿があった。
 スフィンクスは俺に気を取られているから、クーナがナマクラ丸を掲げていることに気づかない。そして俺とライム以外に、炎を扱える者がいることを知らなかった。

「行け! クーナ!」

 彼女はスフィンクス目がけてナマクラ丸を振り下ろす。綺麗な刀線を描き、刃が触れた瞬間、炎が溢れ出した。
 それは切り口からとめどなく噴き出しつつ、中から敵を焼き尽くしていく。
 首に一文字に赤い筋が走る。
 さっと着地したクーナにぎょろりとした目が向けられるが、スフィンクスは側方から炎を浴びて、もだえるばかりであった。炎の出所に目を向けると、そこにいたのはライムだった。

「ライム、ばっちりですね」
「クーナも。かっこよかった」

 そんな二人の会話を聞きながら、仲良くなったなあ、などと思う。始めはあんまりうまくいってなかったのに。性格が合わないわけでもないのに、なんでだったんだろう。
 そんなことを考えていたが、俺にはまだやるべきことがある。ちらりとケダマに一瞥をくれると、学者やほかの魔物使いから見えないように主従契約のスキルを使用。
 死の間際になったスフィンクスは拒まなかった。転がっていったケダマとともに眩い光に包まれていく。
 やがて一体の魔物が姿を現した。今回もまん丸いケダマである。全体的にサイズが大きくなり、金色から茶色に近い毛で覆われている。頭の付近はちょっとたてがみっぽく見えなくもない。
 顔はたぶん、ライオンなのだろう。しかし、凛々りりしいところはなく、つぶらな瞳は愛らしい。あのスフィンクスにライオンの顔はなかったから、ケダマの想像の産物なのかもしれない。そして側面には、あっても役には立ちそうもない羽。


《ハネツキケダマライオン Lv‌1》

  ATK39 DEF85 MAT13 MDF41 AGI30

【スキル】
 「風魔法Lv‌1」

 うーん、ライオンかあ。でも尻尾がないぞ。
 俺はケダマの尻のあたりの毛に手を突っ込んで確かめてみる。するとなにかがある。
 尻尾というよりは、毛の塊がくっついている感じだなあ。ライオンの尻尾の先端と言えば、はたきみたいになってるが、ケダマだからそれが毛の塊なんだろう。
 しかし……この尻尾、なんの意味があるんだろうか。

「がおー」

 ケダマが鳴くが、まったく迫力がない。これならまだ以前の鳥のほうが迫力あったかもしれない。まあステータス上がったし、これでいいや。
 そうして俺たちがじゃれ合っていると、ライルがやってきたので、頭を下げておく。

「さっきは助かった」
「自分の仕事をしただけだ……シン。お前の魔物の力は認めるが、そのようなやり方はいつまでも続かないぞ」
「……わかってる」

 それは俺自身、自覚していることだ。これといった才能のない俺がやっていけているのは魔物たちのおかげである。剣を使おうが魔法を使おうが、一流とは程遠いだろう。
 けれど、だからといって魔物の陰に引っ込んでいるわけにはいかないし、やるべきことはある。足を止めることはできないし、仲間との絆を諦めることだってできやしない。俺と魔物たちの関係はこれからもっと深いものになっていくと信じているから。

「いい魔物だ」

 ライルはそれだけ言うと、ゴーレムのところに向かった。
 すでに足取りは覚束おぼつかない。彼自身に魔物を修復するスキルがあるようで、無理をしているのが見て取れる。粉々になったゴーレムのうち、ライルが従えていた五体だけは無事に残っていた。
 彼自身、魔物との付き合い方を悩んでいて、それでもどうしようもないと諦め、人間とパーティを組むことを選んだのかもしれない。彼なりの結論を、俺には否定することなどできやしない。

「親友、なんも言わなくてよかったのかい」
「いいのさ。俺にはこいつらがいるんだから」

 ゴブの頭を軽くぽんと叩き、それからウルフを撫でる。ケダマがとことこ歩いてきて、そいつらを咥えたり、クーナとライムが俺の隣にやってきて微笑んだり。

「さあ、仕事に戻ろうか。よくやってくれたよ、皆」

 混乱していた場も収拾がつき始めている。
 俺たちもまた、護衛の任務を再開するのだった。

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