異世界に行ったら魔物使いになりました!

佐竹アキノリ

文字の大きさ
表紙へ
上 下
3 / 64
1巻

1-3

しおりを挟む

◇◇◇

「————というのが、今回の事件の経緯けいいだ」

 エリオットが立ち去った後、生徒会と風紀委員会を始めとした、委員長会の会議を行っていた。
 先日行われた新入生歓迎会についての情報交換の会議であり、エリオットが巻き込まれた事件についての経緯いきさつを説明していた。

「でもさぁ、僕ずっと思ってたんにゃ」

 アランの事の経緯いきさつの説明が終わると、リルが口を開いた。

「用意した膨大の料理が破棄されるからって、新入生歓迎会を中止しなくていい理由にはならないと思うにゃ。どう考えても、人の生命の脅かす事件があったのなら中止するのがだと思うというのに、どうしてアーくんはその正常な判断が出来なかったのかにゃ?」

 鋭い眼光が、アランに向けられる。
 リルが言うことはもっともだ。
 だというのに、俺様はその判断を下すことは出来なかった。
 被害者が悪くないとしても中止になった原因が露呈してしまえば糾弾され、せっかく復学してくれたというのにまた休学まで追い込まれてしまう。
 それに対処するために生徒会が関与してしまえば、ディアナが言う通り親衛隊が動き出してしまう可能性も無きにしも非ず。
 被害者のことを考えると、どうしても中止という答えが出せなかった。
 料理が破棄されてしまうからという理由は、ただのカモフラージュにしか過ぎない。

「……まぁ、僕はアーくんの考えてることは解るから別にいいんだけど」

 じっとアランを凝視していたリルは、息を吐くように呟いた。
 もし『俺様の力があれば大丈夫だ』と、キリッとした表情でそんな戯言を言い出したら、寝不足が原因で頭がおかしくなったという記事でも書こうと思ってたんだけどにゃぁ……。いや、それは僕が炎上するからやめておいた方が吉かにゃ。

「僕からはもういいかにゃ。他の委員長たちは何か言いたいことがあったりするのにゃ?」

 リルは両の手の甲に顎を乗せると言葉を発した。

「べつに、強いていえば今すぐ水に浸かりたい」
「水に……って、ハーくんは相変わらず水に浸かりたがるね~」

 双葉のようなアホ毛を生やしている彼は、ハイド・クルシアナシンシア。緑化委員会の委員長である、3年生。
 毎日のように光合成や水に浸かって瞑想するのが日課……というか、いつ見ても噴水に浮かんでいる謎の人物だ。
 水を操る能力に長けていて、よくその力で花たちに水やりしているのを見掛けたりしている。

「それなら、体育祭のことでも話そう!! そうだ!! 今年こそ、ボディービルダーコンテストでもするべきだ!!」
「昨年も言っただろ。需要がお前にしかない、却下だ」

 アランに却下されたこの人物は、ニコラス・ノルドランデル。体育委員長であり、筋肉馬鹿。
 厚い胸板に、発達した上腕二頭筋を始める筋肉。
 僕はこっそり筋肉ダルマと呼んでいるのにゃ。
 とにかく暑苦しく声が大きくて脳筋。
 脳筋に関しては、風紀副委員長であるジェラールといい勝負である。

「…………で、ラディリアス。いい加減起きてくれ」

 ディランが声を掛けると、ゆっくりもそもそと動き出す人物。
 クマの抱き枕から顔を出すと、口を開く。

「……何? もう、終わった?」
「まだ終わってない。せめて会議中くらいは起きてくれ」

 彼の名前はラディリアス・アールクヴィスト。保健委員長である。
 相棒と呼べるほど持ち歩いているクマの抱き枕に、アイマスクを身に付けている。
 いつ見掛けてもアイマスクを付けており、その下の素顔は誰も見た事がないと言われている。
 ……まぁ、僕は一度見たことがあるんだけどね。
 一応自分ととして、興味深いが、ああいうぽけ~としている人物こそ要注意だったりする。
 あまり深く関わって地雷でも踏んでしまえば、一大事になりそうだ。

「じゃあ、終わったら起こして……」

 ラディリアスは、また再度抱き枕に突っ伏して寝息を立てた。

「ラディリアスっ」
「ディラン、もう今日は終了にしよう。一応新入生歓迎会についての会議は出来たからな」
「……アランがそれでいいなら」

 こうして一応会議は終了し、委員長たちは会議室を後にする。

「リル」

 アランは、この場を後にしようとしているリルを引き止めるように声を掛けた。

「ん? なんだい、アーくん」
「あの事件の一件だが、お前が言った通り被害者に処分を一任させた」
「お! そうかそうか、で? 結果はどうなったんだ!!」

 きらきらとした真っ直ぐな目で此方を正視しているリルに、アランは不思議そうに首を傾げる。
 どう考えても、リル本人に全て伝わっていると思っているからだ。

「被害者は今回の一件を不問にするようだ」
「————え?」

 豆鉄砲を食らったかのように、リルは目を丸くした。

「それだけだ。じゃあな、俺様は仕事に戻る」

 そんなリルの表情には気が付かず、アランは生徒会室へと戻って行った。

「……おかしいなぁ……。てっきり国の衛兵を呼び寄せ、事件化させると思ってたんだけどにゃぁ……」

 自分の予想が大ハズレし、顎に手を添える。
 すると、いい事を思いついたと言わんばかりの笑顔を浮かべた。

「それなら、この広報委員会委員長である僕が直々に取材するべきにゃ!!」

 それは名案だと、軽くスキップしながら廊下を歩いて行った。
しおりを挟む
表紙へ
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。