異世界に行ったら魔物使いになりました!

佐竹アキノリ

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1巻

1-2

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 パキッと乾いた音がした。ケダマゴブリンが、俺のほうに近寄ってこようとして、を踏んづけたのである。
 草叢くさむらから、ゆっくりと巨体が現れた。
 真っ黒な毛に覆われた胴体。頑丈がんじょうそうな牙を生やした口元。そして小さな瞳が明らかになった。
 熊なだけあって視力は低いものの、聴力は優れているようだ。
 時間をかけて俺たちを見つけるなり、奴はゆっくりと動き出す。
 ケダマウサギとケダマゴブリンは、気圧けおされたのか、慌てて俺のほうに駆け寄ってくる。
 声の出せないケダマウサギはまだいい。しかしケダマゴブリンはぎゃあぎゃあとわめいており、それがブラックベアーを余計に刺激しげきすることになった。
 奴はがばっと体を広げて威嚇いかくしつつ、俺のほうへと向かってくる。
 このまま仲よく握手あくしゅ、なんて雰囲気ふんいきじゃない。腕をつかんだら、そのまんま胃袋に突っ込まれてしまう。
 こうなってしまっては、どうしようもない。威嚇しつつ後退、なんて普通の熊にするようなセオリーは通じない。第一、ステータスに差がある以上、奴に脅しなんて効かないだろう!
 くそ! なんでこんなことになった!
 ぴょんぴょんとあとをついてくる魔物たち。
 おかげで目立ってしまう。ブラックベアーはそれらを捕食ほしょくすべく、動き出していた。

「ケダマゴブリン! 突撃だ!」

 ぶるり、と震えると、ケダマゴブリンは命令を拒否した。

「突っ込め! 早く!」

 俺は自身の中で、なにか変化が起きるのを実感しながら、命令を下した。瞬間、ケダマゴブリンは弾かれるように、ブラックベアーへと飛んでいった。
 しかし、ぶち当たった直後、その爪の餌食えじきとなる。ほとんど時間は稼げなかった。このままでは、奴はまた追ってくるだろう。

「ケダマウサギ、体当たりだ! 頭を狙え!」

 俺の命令通り、ケダマウサギは勢いよく飛び出した。
 そしてケダマゴブリンにかじりついているブラックベアーに命中。奴の意識がそちらに向く。
 その隙に、俺は木々の合間あいまに飛び込んだ。そして射線上に木を置くようにしながら、一目散いちもくさんに駆ける。後ろからは、けたたましい鳴き声が聞こえてきた。
 けれど、振り返る余裕なんてない。俺は俺だけのことで精いっぱいだった。
 足がもつれて倒れそうになるのをこらえて、ひた走る。走って走って走って、後ろから物音が聞こえなくなってもまだ走った。
 これが夢ならめてくれ。そんな願いは聞き届けられない。
 わかっていた。ここに来てからかなりの時間がたっている。だから、これは夢なんかじゃない。
 息が切れて、足がうまく動かなくなると、俺はそのまま木々の隙間すきまに倒れ込んだ。
 とっくに奴は追ってきてはいない。けれど、いつまでも追われているような気がして、気が気でなかった。
 なんだよ、くそ。なんなんだよあれ!
 思わず地面を叩きつけるが、すぐに怒るだけの気力もなくなって、ぼんやりと森を眺めた。木々は太く、しっかりと天に伸びている。
 人が手入れをしていれば、こんな無造作むぞうさに伸びることはないだろう。
 ここにきてようやく、異世界に来てしまったんだ、と実感が湧いてくる。
 俺が魔物を倒すことがあるように、俺が魔物に倒されることだってあるだろう。これから先、どうなるんだろうか。
 そこで俺は唐突な倦怠感けんたいかんの訪れから、あいつらの死を実感した。
 自分のステータスを確認すると、さっきから大幅に下がっていることがわかる。魔物によるステータス還元の効果がなくなったからだ。
 そして新しいスキル「バンザイアタック」が追加されていた。俺が先ほど行った命令の結果だろう。動かぬ魔物に攻撃を強制するスキル。最低のスキルだ。
 ……でも。これがなければ、間違いなく俺は死んでいた。あの行為は、俺が生き延びるためには間違いじゃなかった。
 わかってはいるけれど、あまり後味はよくない。
 一つ、息を吐き出す。もう動ける程度には落ち着いてきた。となれば、いつまでもこうしているわけにはいかない。まだ震えている手をぐっと握りしめて、俺は立ち上がった。
 奴に対抗するすべを身につける。
 そうすることでしか、ここで生き残っていくことはできないのだ。
 俺は周囲を警戒しながら、再び歩き出した。また、一から育て直しである。けれど、そこらの魔物はもう怖くはなかった。とんでもない魔物を目にしてしまったのだから。
 そう考えると、少しだけ気が楽になった。

「よし、やるか」

 俺はつとめて明るく宣言し、ケダマウサギを見つけては飛びかかっていく。
 そうした戦いの中、弱らせても捕獲できない魔物もいることに気がついた。どうやら、相手の意志一つで主従契約は断れるものらしい。
 やはり死を突きつけることで、脅して服従させていたのだろう。まあ、わかっていたことではあるが。
 ともかく、俺の行為が倫理的であろうとなかろうと、やらねばならないのだ。
 そうして新しく二体のケダマウサギを従えたところで、主従契約がレベル2に上がった。これで、三体の魔物を取り扱えるようになる。
 戦いは数だ。たとえ弱くとも、束になれば時間稼ぎくらいはできる。
 俺は早速、もう一体のケダマウサギを捕まえるべく、ぶらぶらと森を彷徨さまよう。ゴブリンはだめだ。あいつは叫んでうるさいから。そのせいで俺は死にかけたのだから、もう御免だ。
 どうやら繁殖はんしょくしている場所には差があるらしく、ここらではケダマウサギがよく見つかった。ゴブリンはあんまりいないため、こちらのほうが捕獲場所としては適切だろう。
 木々の向こうに真っ白な背中を見つけると、早速、手持ちのケダマウサギ二体をけしかけた。
 背後からの奇襲きしゅうを受けた野生のケダマウサギが倒れ込むと、俺はすかさず主従契約を発動させる。
 もう意識もほとんどなくなっていたのだろう、一瞬で契約が成立した。
 俺は三体のケダマウサギを見ながら、合成しようとしたところで、ふと気がついた。三体まとめて合成できることに。
 どうやら鑑定によれば、まとめて合成するとちょっとだけお得なようだ。といっても、たいした差にはならないようだが。以前、ケダマウサギ同士を混ぜたとき、変わらずケダマウサギになってしまったのは、別の魔物になるのに要素が足りなかったからであり、合成した成分は残っているみたいだ。
 要するに、色々混ぜていくうちに、条件を達成したら変化するようだ。ケダマウサギでも百匹も混ぜれば変わるのだろうか?
 俺はなんとなく、三体のケダマウサギを合成した。


《オオケダマウサギ Lv1》

  ATK13 DEF18 MAT10 MDF17 AGI10


 でっかくなった! 俺の背丈せたけくらいある!
 ステータスもかなり上がってるし、これ成功なんじゃないか?
 ちょっとはばを取るけれど、これなら柔らかくて、夜寝るときに最高だな。今晩はなんとか凍死とうしせずに済みそうだ。今の季節はよくわからないが、夏だろうが野外で寝ているのは危険だから。
 なんにせよ、これは僥倖ぎょうこうである。ケダマウサギ三体で作れるなら、もう一体もすぐに作れるだろう。しかし問題は、その先だ。オオケダマウサギ同士を混ぜて、さらに進化するには何体必要なのか、ということだが……
 やめておこう。たぶん、これまで以上に時間がかかりそうな気がする。
 素直に、このまま使っていくことにしよう。こいつだって、レベルを上げれば、さっきのブラックベアーに太刀打たちうちできるだけの魔物にきっとなる。
 ステータス的にはそのはずなんだが……のほほんとしたこのオオケダマウサギを見ていると、だめな気がしてきた。
 それに多分、こいつの系統で上げていっても、上がるのは防御なんだよなあ。
 ゴブリンも混ぜていけば、バランスよくなるだろうか?
 やはり、大人しいという理由だけで選んでいてはまずい。間違いなく、叫ぶ魔物のほうが多いんだから、それを避けていたらこれから先の選択肢がせばまってしまう。
 とりあえず、魔物を片っ端から混ぜてみよう。だめだったら、オオケダマウサギのレベルを上げるのに使おう。
 そう思って、俺は歩いていく。
 ケダマウサギに遭遇そうぐうするも、慣れたものでさっさと捕獲、そしてオオケダマウサギをベースに混ぜて、経験値を上げる。この方法だと、俺に経験値は入らないものの、魔物自体のレベルは素早く上がるようだ。
 完全に契約が成立する前段階である仮契約の状態では、魔物のレベルはリセットされないため、そこで合成すれば、効率よくレベルを上げることができる。
 そうしていくうちに、オオケダマウサギは次々レベルアップしていく。しかし、ケダマウサギよりは上がりにくいようだ。初期ステータスが高いほど、上がりにくいんだろうか。
 このやり方だと俺のレベルは上がらないが、どうせたいして変わらないんだから、これでいいや。
 そうしてオオケダマウサギと、捕獲したてのケダマウサギ二体を引き連れて進んでいくと、向こうに緑色の小鬼が見えてきた。
 俺はケダマウサギをけしかけて、ゴブリンを弱らせる。レベルの上がったオオケダマウサギを使った場合、勢いで倒してしまう可能性もあったからだ。
 主従契約を済ませると、ケダマウサギ一体をオオケダマウサギに混ぜる。レベルリセット後なので経験値はたいして上がらないが、解放するよりはいいだろう。そうして空いた枠にゴブリンを入れた。
 そこで俺は、契約または合成以外で魔物を回復させるすべを持っていないことに気がついた。つまり合成なしでメンバーを維持するには、自然回復を待つ以外ないのだ。
 多少弱くとも使い捨てながらやっていくのと、どちらが効率的だろうか。
 まだ経験も浅く決定的なことは言えない。とりあえず、傷つけないようにするしかないか。
 新しくゴブリンを見つけると、そちらに捕まえたばかりのゴブリンをけしかける。こいつは後程のちほど合成するため、多少怪我けがを負っても問題ない。
 やや戦いが長引くも、俺は予定通り、ゴブリンを捕獲して混ぜる。
 そんなことを三体ほど続けると、変化が起きた。


《ホブゴブリン Lv1》

  ATK18 DEF17 MAT8 MDF7 AGI13


 やや大柄になって、顔つきが凛々りりしくなった。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど、賢い顔つきになったような気がしないでもない。いや、気のせいか。
 けれど、行動は明らかに違うようだ。それまで注意力散漫さんまんだったのが、今回はよく反応する。ステータスだけでなく、確実に戦闘能力も上がっているはずだ。
 あとはどんどんレベルを上げていこう。
 そう思うなり、辺りのゴブリンを片っ端から倒していく。
 一つ、二つとホブゴブリンのレベルが上がっていき、なにもかも順調に思われた頃。
 茂みの向こうに、動くものがあった。またゴブリンだろうと思った瞬間、黒い毛が揺れる。
 まさか、ここでブラックベアーが出たのかと、慌てて鑑定スキルを使用した。


《ダークウルフ Lv8》

  ATK28 DEF16 MAT10 MDF12 AGI30


 ブラックベアーではない。そのことにほっと胸を撫で下ろしながらも、油断できない相手であると気をめる。
 こちらはオオケダマウサギとホブゴブリン、ケダマウサギの三体であるが、向こうは一体。ステータスは相手のほうが上とはいえ、集団で取り囲めばいけるはず。
 ダークウルフは、こちらの匂いにかんづいたのだろう。ゆらりと、俺たちの前に現れた。闇夜やみよを思わせる真っ黒な毛で覆われた体の中、青い目だけが爛々らんらんと輝いていた。

「まだだ、まだ行くなよ」

 俺は魔物たちの中央に行き、ケダマウサギとホブゴブリンを左右に分ける。そして俺が一番前に出た瞬間、ダークウルフは飛びかかってきた。
 食いついた!

「ケダマウサギ、ぶっ飛べ!」

 横からダークウルフへと突っ込んでいく真っ白な塊。狼は素早く跳躍して回避しようとするも、ぎりぎり間に合わずに巻き込まれ、姿勢を崩す。

「ホブゴブリン、突入!」

 俺の号令に従って、ホブゴブリンが飛び込んでいく。ダークウルフをなぐり飛ばした瞬間、

「オオケダマウサギ、踏み潰せ!」

 勢いよく転がっていったオオケダマウサギは、ダークウルフをしたきにした。大きくなった分、敏捷性びんしょうせいはなくなったが、押し潰すことができるようになったのだ。
 俺はその隙に、すかさず主従契約のスキルを使用。魔法陣はオオケダマウサギをすりぬけて、ダークウルフに絡みついた。
 それからしばらく、呻くような声が上がり続け、じれったい時間が過ぎていく。
 まだかまだかと待っていると、やがて魔法陣が広がることで、従属に成功したことを知る。
 このまま経験値にするのも悪くないが、それより戦力の補強だろう。ケダマウサギをホブゴブリンの経験値にし、空いた枠にダークウルフを入れた。


《ダークウルフ Lv1》

  ATK20 DEF12 MAT9 MDF10 AGI21


 初期ステータスがかなり高い。敏捷性と攻撃力に優れているのが特徴的だ。
 オオケダマウサギの下からのそのそと出てきたダークウルフは、尻尾を足の間にはさみ、おずおずと近づいてくる。それから腹を見せた。どうやら、降伏したあかしらしい。
 おそらく、今連れている魔物の中で、こいつが一番賢いだろう。
 頭を撫でてやるとうれしそうにする辺り、中々可愛い奴だ。
 俺は魔物メンバーの強化に成功したので、すっかり気が大きくなってきた。
 なんせ「ステータス還元」のおかげで今の俺は、そこらのゴブリンと同じくらいのステータスがあるのだ!
 ……あれ、すげえ弱くね?
 やっぱりだめだな、大人しくしておこう。
 これまで通り、慎重に進むことにした。ブラックベアーに見つかったら、やはりどうしようもない差があるのは確かなのだから。



 2


 夜。すっかり日が暮れると、もはや探索たんさくは難しくなる。
 松明たいまつなんかがあればいいんだが、そう都合よくはいかない。そもそも、この森に人が入った気配がほとんどないのだから。
 隠れるのに都合がよく、いざというとき逃げられる場所を見つけたので、俺は木ののあたりにオオケダマウサギを押し込んで、その上に寝転がった。
 地面を何度も転がってきたため、オオケダマウサギはすっかり茶色くなっている。一応、小型化して泥はぬぐったのだが、やはり水洗いしないと汚い。
 地面に寝転がるよりはましなので、こうしているのだが、茶色い見た目に反して寝心地はいい。元々柔らかいのもあって、多少汚れたくらいではごわごわしなかったのだ。
 しかし、これからどうなるんだろうなあ。
 もしかして、この辺には人間がいないのだろうか。人のいない世界だったら泣いても泣き切れないや。そもそも生きていける自信がない。
 結局、そこらにあるものを食べる気にもならず、俺は今日、なにも口にしていない。
 キノコとかはあったんだけど、毒々しい見た目のものばかりで、勇気が出なかった。しかし、この鑑定スキルは不便だな。人と魔物以外に対しては、まったく使えないんだから。
 あー、腹減ったなあ。
 ……ん? そうだ。ケダマウサギ食えばいいんじゃないか?
 俺は自身が寝転がっているオオケダマウサギを見る。毛は確かに多いが、肉の部分はある。
 いやでもなあ、魔物だよ、魔物。
 倒した後に残った毛皮とかは集めているが、食えるんだろうか。焼いたらうまそうではある。
 でも腹壊したら困るしなあ。動けないでいるところに、ブラックベアーがやってきたら、最悪だ。
 はあ、どうなるんだろうなあ。
 俺が寝返りを打つと、オオケダマウサギがもぞもぞと動いた。
 今はダークウルフが見張りをしてくれているため、近くではホブゴブリンが寝ている。
 三交代で見張りをしようと思ったのだが、オオケダマウサギとホブゴブリンではちょっと安心できないため、実質、しっかり休めるのはこの時間だけだ。
 だからできるだけ早く寝てしまおうと思うのだが、全然寝つけない。体は疲労感でいっぱいなのに、頭は妙にえているのだ。
 明日困ることになるから早く休みたくても、こうなってしまうと、意識すればするほどに眠りから遠のいていく。
 結局、ほとんど寝ることはできず、うとうとし始めた頃には日が昇ってきていた。
 夜行性やこうせいらしきダークウルフは、今は眠っている。魔物にはこうした生活リズムがあるから、単純にステータスだけで選ぶわけにもいかないんだろうなあ。面倒だが、考えるべきことは多そうだ。
 俺も朝からそんなに活発に動く気はしなかったので、すぐに出発することはなく、軽く体を動かすだけに留めておく。
 風呂に入ってないせいでかなり汚くなっていたのだが、さいわいにも今日は雨天だった。雨水を飲んだり、体の汚れを落としたり、オオケダマウサギを洗ったりしているうちに、ダークウルフが起きてくる。
 しかし雨が降れば飲み水の心配がいらなくなるとはいえ、視界は悪くなるし、足元はぬかるむ。
 慣れと疲労のせいで、ミスも犯してしまいそうだ。気をつけていかなければ。
 そうして再び歩き始めると、しばらくは魔物に遭遇せずに済む。寝る前に安全を確保すべく、近くの魔物は昨夜のうちに片づけておいたのだ。
 が、やがて木々の向こうに青白い犬の頭を見つけた。胴体は人の体をしているが、ゴブリンとあまり差がない。色違いと言われても違和感はないほどだ。


《コボルト Lv3》

  ATK14 DEF10 MAT4 MDF5 AGI15


 どうやら、コボルトはゴブリンよりも素早さが高いようだ。とはいえ、全体的には同じようなものである。ここで、無理にコボルトを混ぜていく必要性は感じない。それより経験値だ。
 というのも、レベルは高くなるほど上がりにくくなるからだ。つまり、1から2にはすぐ上がるが、10から11には上がりにくい。しかし、ステータスの上昇する量は一定なので、低レベルのときほど早く強くすることができる。
 俺がそんなことを考えながら呑気のんきに指示を出すと、配下の魔物が襲いかかる。コボルトはあっけなく撃沈げきちん
 しかし、こいつら強くなったなあ。俺じゃ、一対一になると勝てないな多分。
 一応、武器として木の棒を持っているが、歩いているとき邪魔な枝をけるのに使うくらいだ。
 そもそも人間は弓などの遠距離攻撃ができるようになったから、強さを発揮はっきしたのだ。つまり、まともな武器もなしに、魔物の相手などできるはずがない。
 俺たちはコボルトたちを倒しながら進んでいく。しかし、どうにもコボルトのレベルが高い。
 合成のときに確認した初期ステータスがゴブリンのそれと変わらなかったから弱い魔物のはずなのに、なぜレベルが上がったのだろう。
 そうしていると、ダークウルフが小さくえた。なにか見つけたようだ。

「……ん?」

 そこにはかまがあった。山菜さんさい採りに使うようなものだが、ややびている。普段から使うわけではないので詳しくはないが、少なくとも放置されてから一年はたっていないだろう。
 となれば、希望が見えてきた。この近くに人里があるかもしれない。
 もちろん、魔物しかいない可能性もある。だが、冶金技術やきんぎじゅつを持っている程度には知能が高いはず。
 このままなにもせずにいるよりはましだ。危なくなれば、引き返して森に入ればいい。

「お手柄てがらだ、よくやった」

 ダークウルフは尻尾をふりふり、喜びを表す。
 俺は鎌をベルトに差す。どこの誰の物だか知らないが、ありがたく頂くことにしよう。丸腰よりは、まだましである。
 そうしてコボルトたちを蹴散けちらしていくと、木の枝を切った跡など、人の手が入っていることがうかがえる場所が多くなってきた。そちらに向かって進むこと数時間。昼下がりには雨もやんでいて、視界がよくなっていた。
 草木をけて、人工的に作られた道――といっても人が草を踏みつけた程度のものだが――を辿たどっていくと、急に視界が開ける。
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