異世界に行ったら魔物使いになりました!

佐竹アキノリ

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1巻

1-1

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 1


 そこは森の中だった。
 木々が鬱蒼うっそうしげっており、見通しがまったくきかない場所だ。

「どうなってんだ……」

 俺は思わずつぶやいた。こんなところに来た覚えはない。俺はインドア派だし、最後に山に行ったのだって、もう十年以上前のことだ。
 今日も学校からの帰り道、大人気ゲーム「モンスタークエスト」の最新作の発売日ということでゲーム屋に立ち寄り購入し、先ほど帰宅したところだったのだが……
 思い返すと、ゲームを起動したのが最後の記憶である。となれば、あのまま寝てしまったか、はたまたなんらかのやまいで倒れ、病院に運ばれている最中かで、ここは夢の中だろうか。
 体は思った通りに動く。いや、むしろ快適すぎるくらいだ。軽く跳躍ちょうやくすると、ふわり、と体がび上がる。
 俺はそんなに運動能力に優れているほうではなかったが、これなら女の子を抱きかかえて走ることだってできる気がする。もっともそんなシチュエーション、これまでもこれからも、無縁むえんなんだろうけれど。
 これならば人生も楽しかろうなあ。運動部に入って、ムカつくイケメンをすっと追い越してやるんだ。そして見た目じゃなくて中身で俺を選んでくれる女の子と付き合って……やめよう、むなしくなってきた。
 俺は改めて、自分の体をぼんやりとながめる。


《シン・カミヤ Lv1》

  ATK6 DEF6 MAT6 MDF6 AGI6

【スキル】
 「大陸公用語」「鑑定かんてい」「主従契約しゅじゅうけいやくLv1」「魔物合成」

 「うわ、なんだこれ!?」
 急に頭に流れ込んできたウィンドウは、モンスタークエストのシステムと似通にかよっている。
 ステータスがゲーム通りの意味を持つなら、ATKは攻撃力、DEFが防御力、MATが魔法攻撃力で、MDFが魔法防御力、そしてAGIが素早さということなのだろう。
 うーん、確かによく似ているんだが……これほど実感のともなった仮想空間を創り上げるだけのAR拡張現実技術は日本になかったし、数千円で買えるゲーム機にそんな機能があるとも思えない。
 なんにせよ、今の俺にできることといえば、このシステムを理解することくらい。夢だろうが現実だろうが、モンスターにおそわれて食われるのは御免ごめんだ。
 鑑定スキルを試してみるが、付近のものにはまったく反応がない。さっき見えたのはやっぱり偶然なのだろうかと手を見ると、再び同じ情報が流れ込んできた。物には使えず人間だけに使えるってことだろうか。
 スキル名に意識をかたむけてみると、その知識が入ってくる。
「大陸公用語」は、どうやら今俺がいる大陸で広く使われているものを指すらしい。
 そして「鑑定」。これは魔物と人、そしてスキルに対して使えるようだ。ということは、やっぱりいるんだな、魔物。
「主従契約」は、どうやら魔物を従えることができるらしい。スキルレベルに1を足した数だけ、従えられるようだ。レベルが上がればより多く、よりレベルの高い魔物を引き連れることができるようになる。モンスタークエストの主人公は魔物使いで、基本的に魔物を戦わせるゲームだから、ここがゲームに類似るいじした世界ならば、これが最も重要なスキルになるのだろう。
 と、そこまで見ていったところで、草陰に動く物体を見つける。
 なんか白いものが見え隠れしているんだが……


《ケダマウサギ Lv1》

  ATK6 DEF9 MAT4 MDF7 AGI6


 鑑定を発動させると、情報が流れ込んでくる。一部分だけでも認識できればいいらしい。
 どうやら魔物のようだ。いきなり高レベルのが出てこなくてほっとする反面、俺よりもステータスが高いのが気になる。というか、俺のステータスが低すぎるんじゃないか?
 奴は草叢くさむらからぴょんと飛び出し、その姿を見せつける。
 ……毛玉だ。
 ボールのように丸い体はふさふさの真っ白な毛でおおわれている。体自体はあまり大きくないようだが、毛の量が多いらしく、サッカーボールの倍は大きさがあった。
 口元を見ればウサギらしいところもあるが、足はほとんど隠れており、耳もあるんだかないんだかよくわからない。
 そんなナリとはいえ、多分魔物なんだから、油断すべきではない。
 どうすべきか迷っていると、奴が俺目がけて飛んできた。
 あわてて回避するも、ケダマウサギは反射するように木をって、向きを変えてくる。
 かわしたとばかり思っていたせいで、背後から迫られ一撃を食らってしまう。
 毛のおかげで衝突しょうとつの痛みはないが、結構重量があって、俺はそのまま押し飛ばされてしまった。

「くそ、このやろう!」

 俺を攻撃した反動でまだ宙にいるケダマウサギを、思い切り蹴り上げる。空に舞い上がったケダマウサギは、地に落ちると瀕死ひんしの状態になった。
 そういえば、使用制限もないようだから、試してみよう。
 俺はケダマウサギ目がけてスキル「主従契約」を発動させる。俺のてのひらに生じた魔法陣が、ケダマウサギへと向かっていく。そして全身を包み込んだ途端とたん――
 なにかが繋がる感覚があった。
 捕獲ほかくに成功したようだ。


 ケダマウサギは急に元気になって、俺の元にとことこと寄ってくる。おそらく服従ふくじゅうしているのだろう。感覚的なものだが、俺自身のステータスを閲覧えつらんしたときのように、こやつのステータスが閲覧できる。
 それだけでなく、魔物を見ていなくても、おそらく離れていてもステータスが閲覧できることにも気がついた。魔物使いは魔物と一心同体という扱いなのだろうか。
 俺はふと、そこで違和感を覚えたので、自身のステータスを確認する。


《シン・カミヤ Lv1》

  ATK7 DEF7 MAT7 MDF7 AGI7

【スキル】
 「大陸公用語」「鑑定」「主従契約Lv1」「魔物合成」「小型化」「ステータス還元Lv1」「成長率上昇Lv1」

 色々とスキルが追加されていた。
 俺のステータスが上がっているのは、この「ステータス還元Lv1」のおかげらしい。ケダマウサギのステータスのうち、スキルレベルに10を足した%だけ、俺のステータスに還元されるようだ。つまり、スキルレベル1だから11%になる。ATKを例に挙げると、計算通りなら0・66の上昇があったことになり、その結果、表記上は6から7になったのだろう。
 また、「成長率上昇Lv1」の説明によれば、通常は本体のレベルが1上がるごとに、ステータスは初期値の10%ずつ増えていくらしいが、このスキルがあることによって、レベルが上がったときの成長率がさらにスキルレベル分の%だけ増えるようだ。
 まあ、細かいことはいいや。ちょっとだけボーナス補正がかかるってことだ。
 それから「小型化」は文字通り、手なずけた魔物を小型化することができるものだ。俺は試しに、ケダマウサギに小型化を使用する。
 真っ白な毛玉はみるみるうちに小さくなって、掌に乗せられるサイズになった。
 これは持ち運ぶのには便利だ。しかし、この状態で蹴飛ばされたり踏み潰されたりすると、ちょっとまずいことになるだろう。
 というわけで、俺はすぐに小型化を解除する。
 最後に「魔物合成」だが、このスキルは魔物を二体以上合わせて使うものだから、後で考えよう。
 いつまでもこんなところに突っ立っていても仕方がないので、俺は当てもなく歩き始める。ぴょんぴょんとくっついてくる毛玉がいるので、少しはさびしさもまぎれよう。
 そうしていくと、向こうにまたケダマウサギが見えてきた。
 鑑定してみるとレベル2なので、さっきの奴よりもレベルが高い。
 こっちに乗り換えるか。
 俺は早速主従契約を発動。俺の掌から放たれた魔法陣は、ゆっくりとケダマウサギに近づいていき――躱された。
 必中じゃないのかよ! しかも遅いし!
 俺は躍起やっきになって、何度もスキルを使用。十回目くらいにして、ようやくケダマウサギに命中する。だが――
 キィン、と甲高かんだかい音を立てて、魔法陣がくだった。
 そこで俺は新たな情報を得る。どうやら主従契約で捕まえられる魔物は、現段階では同じレベルの相手までらしい。主従契約のスキルレベルが上がれば5レベルずつ上限にボーナスが入るようだが……
 くそ、今までのスキル発動がすべて無駄むだだったってことじゃないか。
 しかも、スキルはノーリスクで発動できるわけではなかったみたいだ。俺はどっと疲労ひろうが押し寄せてくるのを感じていた。
 少し休めば回復するだろうが、戦闘中に何度も何度も使うのは避けるべきだろう。

「よし、突撃だ!」

 手なずけたケダマウサギに命令を出すと、奴は丸い体にぐっと力を溜め込み、跳躍する。レベルの差もなんのその、相手のケダマウサギを弾き飛ばして、すたっと着地。
 俺は近くにあった木の枝を拾って、思い切り敵目がけて叩きつけた。
 とどめだけで卑怯ひきょうな気がしないでもないが、まあよかろう。
 すると、敵のケダマウサギの体はゆっくりと散っていき、後には毛皮が残った。どうやら、魔物を倒すとこうして一部分だけ残るようだ。
 俺は毛皮をさっと拾い上げると、感触を確かめる。
 すげえ、ふわふわだ。高級カーペットなんかにも負けない手触り。
 ふと俺はしゃがみ込んで、近くにいるケダマウサギの頭に手を置いて、でてみる。当然だが感覚は変わらない。ずっと触っていたいくらいだ。

「よし、とりあえず人のいる場所を探すか」

 一頻ひとしきりケダマウサギを堪能たんのうすると、俺は立ち上がって再び出発することにした。



     ◇


 森の中を進んでいくうちに、ケダマウサギとの交戦が数度。相手のステータスはばらばらだったが、どうやら種族としての最大値は決まっているらしく、それを超えることはないようだ。
 そうしていつの間にか、俺のレベルは一つ上がって2になっていた。
 といっても、ステータス上の変化はない。一応強化されたような気がしないでもないから、多分見えないだけで上がってはいるのだろう。
 そんなことを考えていると、向こうにケダマウサギが見えた。鑑定するとレベル2である。
 丁度いい。二体目の魔物が欲しいところだったのだ。
 手持ちのケダマウサギと挟撃きょうげきするため、俺は相手の背後に回る。そして主従契約を発動。
 同胞の姿に気を取られていたケダマウサギは、俺の放った魔法陣を背後から浴びた。そして全身に絡みついた魔法陣は……そのまま砕け散っていった。
 あれ、だめなのか。
 なんでだろう? 確率の問題?
 仕方がないので敵の攻撃を躱しつつ何回か試してみるが、どうにも効かない。
 ……弱らせたところを捕まえる必要があるということか。
 よし、じゃあほどほどにダメージを与えるとしよう。

「ケダマウサギ、奴に体当たりだ!」

 俺の命令を聞いて、ケダマウサギが動く。どうやら、単純な命令なら聞いてくれるようだ。といっても、多分、こいつは体当たりしかできない。
 思い切り突っ込んでいくも、相手のほうが一枚上手だった。俺のほうに向かって飛んでくることで、その攻撃をやり過ごしつつ、俺への攻撃に転じることに成功したのである。
 しかし、俺とてやられるばかりじゃない。
 向かってくるケダマウサギに対して、腰を落として構える。そしてレシーブの要領ようりょうで、宙へと打ち上げた。
 回転もかかっておらず柔らかいため、痛みはほとんどなくやり過ごせる。そして打ち上がった奴が落ちてくるのに合わせ、俺は木の枝を振る。
 直撃すると、大きな音を立てて枝のほうが折れた。
 が、それがこうそうしたようだ。ケダマウサギはへろへろと地に落ち、ぐったりと横たわった。やりすぎず、適度なダメージだ。
 俺はずんずんと近づいていくと、ケダマウサギに主従契約を使用。
 奴はおびえたように俺を眺めていたが――やがて魔法陣がすっと溶け込んでいくと、元気になった。
 ……あれ、これっておどして仲間にしてるだけじゃ。死か服従か、選べと。
 早速契約したケダマウサギのステータスを見ると、レベルが1に戻っている。主従契約をするとこうなるらしい。育てるの面倒だなあ。
 とはいえ俺がなにもせずとも、魔物が敵を倒すだけで俺にも経験値が入るらしく、レベルは上がっていくようだ。あんまり離れると、経験値も入らなくなるみたいだから、同行する必要はあるのだけれど。
 ゆくゆくは、俺は魔物の背中に乗って寝ているだけで、魔物どもがあちこち移動して代わりに戦ってくれるという生活も、夢じゃないかもしれない。
 自分で剣を取って戦うより、そのほうがいいな。魔物使い最高だ。
 二体のケダマウサギは俺を挟むようにして、なにやら指示を待っている。ああ、そうか。こいつらウサギだから、鳴かないのか。大人しくていいな。
 俺はスキルの説明を改めて見ていく。
 どうやら「魔物合成」の効果は二つに分けられるようだ。ベースとなる魔物に素材となる魔物を組み込むことで、現在のレベルを引き上げる――要するに経験値が入る――ものと、二つの魔物を組み合わせて新たな魔物を合成するものである。
 とりあえず、戦っているうちにレベルは上がっていくから、経験値にするほうは別に試す必要はない。なにより今は新しい魔物を合成するというのが気になる。というわけで挑戦。
 俺は二つのケダマウサギを合成する。魔法陣が浮かび上がり、その中に二体が入っていく。
 そして魔法陣が強く輝き――
 現れたのは、一体の真っ白な毛玉だった。
 変わってねえ! なんも変わってねえよ!
 レベルは1に戻ってるし、一体減ったし最悪だ!
 ……まあいいか、ケダマウサギくらい、何体でも捕まえられるだろう。気を取り直して俺は再び歩き始めた。
 それからもう一体ケダマウサギをゲットして、しばらく歩いていくと、別の魔物が現れるようになった。
 俺の腰くらいまでしかない、小さな緑の肉体。とんがった耳に、小物っぽくもあり、しかし邪悪そうな顔。まさしく小鬼であった。


《ゴブリン Lv2》

  ATK13 DEF12 MAT4 MDF4 AGI11


 ケダマウサギよりも、攻撃と防御が高いようだ。
 そういえば、「主従契約Lv1」だと二体までしか捕獲できないけど、その状態で確保するとどうなるんだろう。試してみようか?
 俺は小石を拾って投げつける。ゴブリンに命中すると、奴は鋭い牙をしにして、こちらへと襲いかかってきた。

「ケダマA、突撃!」

 真っ白な塊が飛んでいき、ゴブリンの土手どてぱらにぶつかってひるませた。
 しかし敵は、すぐに立ち直って向かってくる。

「ケダマB、突撃!」

 真っ白な毛玉が放たれる。こちらはゴブリンの足元に命中して、転ばせた。
 俺はすかさず敵との距離を詰め、一気に蹴り上げる。ゴブリンはうめき声を上げて、倒れ込んだ。
 連携れんけいはうまくいったな。といっても、本当に単純な命令しか出せないんだけど。
 そもそも、ケダマたちは俺の言葉を理解してるんだろうか? なんとなく、スキルのおかげで雰囲気だけが伝わっているような気がしないでもない。
 ともかく、俺はぐったりしているゴブリンに主従契約を使用した。
 奴は抵抗することもなく、契約が成立する。
 だが、魔法陣は消えず、足元に広がったままだった。
 どうやら、仮契約の状態のようだ。このまま合成するか、解放するかしないといけないらしい。ケダマたちを合成することで、余った枠に組み込むこともできるみたいだ。
 これは大変便利なシステムである。というのも、普段から最大数の魔物を連れていると、合成用の魔物の枠がなくなってしまうからだ。
 しかしこのシステムでは別枠でそいつを用意できるため、育てたいお気に入りの魔物たちを手持ちから外すことなく、どこまでも強くできるのだ。
 さて、ケダマウサギ同士を混ぜるのはさっき試したばかりだ。となれば、今回はケダマウサギとゴブリンで混ぜるべきだろう。
 俺は早速、そいつらを混ぜる。
 ケダマウサギがぴょんぴょんとゴブリンのいる魔法陣の中に入っていく。そして、まばゆい光とともに新たな魔物が誕生たんじょうした。


《ケダマゴブリン Lv1》

  ATK10 DEF12 MAT7 MDF6 AGI11


 うわー、ステータス下がったよ。
 というか、見た目もケダマウサギとあんまり変わっていない。どこだろう、変化は?
 ……あった。顔だけゴブリンっぽくなってる。そこかよ。
 可愛くないなあ、こいつ。しかも、ゴブリンの声で鳴くし。
 もっといい魔物がいればそちらに乗り換えて、こいつは合成して経験値にしてしまおう。
 俺はケダマウサギとケダマゴブリンを従えて、再び森の中を行く。
 あーあ、なんかいい魔物いねえかなあ。セクシーなサキュバスとか、美人のラミアとか。そういうのが俺の求める魔物なんだよ。
 でも、多分レベル高いんだろうなあ。だったらこんな雑魚がたくさんいるエリアにはいるはずもない。今会ったら、俺が殺されてしまいそうだ。
 俺はとりあえずケダマウサギで我慢しながら、村を探すのだった。


     ◇


 そうして進んでいくうちに、俺自身のレベルは4にまで上がっていた。しかし、そもそも俺の初期ステータスはかなり低い。スキルによる補正がなければ、ケダマウサギの半分程度しか成長しないんだから、雑魚中の雑魚と言っていいはずだ。多分、魔物のステータスを還元することで強くなるんだろう。
 ……なるよな?
 ならなかったらどうしよう。
 今の時点ですでに結構な差がついてきている。レベル1のケダマウサギと変わらないとか、ちょっとへこむ。
 おそらく、「主従契約」のレベルが上がって、たくさんの魔物を従えていかない限り、魔物使いの未来はない。
 もっとも、そのうち俺自身が戦う必要はなくなるだろうから、たいして強くなくともいいのかもしれない。でも主従関係に胡坐あぐらをかいていれば、暗君あんくんとみなされて反逆されることもあるのか? 直接攻撃できずとも、間接的にできることもあるから……
 そんなことを考えていたので反応が遅れた。ガサガサとしげみが動いている。このかたは、ゴブリンでもケダマウサギでもない。生態について詳しいわけでもないが、何度も見ているので、なんとなくわかる。
 新しい魔物か!?
 枝葉の隙間すきまから、わずかに黒い毛皮がのぞいていたので、俺はすかさず「鑑定」を発動させる。


《ブラックベアー Lv24》

  ATK76 DEF82 MAT22 MDF33 AGI32

【スキル】
 「鋭い爪」

 ……うおおおおおお!?
 いやいやいやいや、ちょっと待てちょっと待てよ。
 ステータスおかしいだろ!? 高すぎだろ!? 俺なんてまだ一桁ひとけたなんだけど!
 っていうかレベル24ってなんだよ。どう考えても初心者向けエリアにいていい魔物じゃないだろこいつ!
 やばいぞ……このレベルでこのステータスってことはおそらく、初期ステータスだけでゴブリンの倍はある。そしてレベルもかなり高いから、こちらとの差が半端はんぱないことになっている。
 逃げないと……
 じわり、と汗が浮かぶ。気づかれたらお終いだ。おそらく、一瞬で距離を詰められ、ああ、きっと俺ははらわたを弄繰いじくり回され、生きたまま食われていくのだろう。
 ……そんなの嫌だ。こんなわけのわからない状況で、なにも知らずに人生を終えるなんて! 死んでなるものか。なんとしても生き延びてやる。
 後ろを素早く確認。
 息を殺して引き返していく。できるだけ音を立てないように、存在感を消しながら。
 たった一歩。それだけの間に、途方とほうもない時間がたってしまったように感じる。そしてこの進む先に、あいつが待っているんじゃないか、そんな気さえして体が震え出す。
 でも……立ち止まったら、そこで終わりだろう。奴は間違いなく、こちらに気がつくはずだ。俺のほかに、二体の魔物がいるんだから。
 慎重しんちょうに下がっていく。ただ、それだけのことだった。しかし――
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