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1章 入学編
第8話 退学の条件!
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ガーネットに退学を迫られた翌日、アレクは早くに目覚めた。なんだか懐かしい夢を見ていたような気がする。ぼーっとする頭を抱えて洗面所に移動し、顔を洗う。
『お前には魔法の才能があるんだからな』
夢の中で聞いた身に覚えのある言葉――やはり、退学はしたくない。その決意を胸に身支度をすると職員室へと向かった。職員室は2号館の1階にあり、職員室の奥には校長室と接客室がある。始業前であるが、ほとんどの教員がすでに授業の準備に取り掛かっていた。その中で、アレクはガーネットを見つける。
「先生!」
「なんだお前……まだ居たのか。退学届けは出したのか?」
「その事でお話が……。俺、退学はしません」
その言葉を聞いたガーネットの眉が吊り上がる。先生の返事は聞かなくても分かった。先生はその紅く鋭い眼光で睨んでくる。
「で、何だって?」
分かってるよな?と言わんばかりににらみつけながら先生が聞き返してくるが、ここで怯むアレクではない。すでに覚悟は決めてある。
「退学はしません!」
先ほどよりも声を張り上げて言う。職員室の中で声を張ったせいで、周りの教師からも視線を集めてしまった。しかし、これは想定内だ。他の教師の目があれば先生だって強くは言えなくなる。現に睨むという手段を取った事からもその事は明らかだった。
「お前……」
注目を浴びてしまったガーネットはアレクの両肩に手を置き、その瞳を睨みつける。アレクも怯むことなくまっすぐな視線で先生を見返す。
「ちょっといいかな?」
そこに別の教師がやってきた。ガーネットは振り返り、アレクは視線を上げる。リットマン・フォーティ学院長――彼の手がガーネットの肩に置かれている。一部始終を聞かれてしまったかもしれないとガーネットは焦りを隠せない。
「この学院の学費や維持費は公費で賄われる。つまり、王立学院へ入学した以上は学生としての責務を果たす必要があるということだ。やむを得ない自主退学なら認めるが、それ以外は公費分の清算が必要になる。覚えておきたまえ」
「は、はい」
リットマンの威圧感はガーネットの比ではなかった。その金色の瞳からは誰も逃げられない――そう錯覚させるほどだ。
「それと、話の途中で悪いんだが、職員会議の時間だ。生徒は教室に戻りなさい」
ガーネットの肩に手を置いたままの学院長はそれだけ告げると顎で行きなさいと合図する。アレクはお辞儀をして職員室を後にした。去り際に「覚えとけよ」と聞こえたのは気のせいではないだろう。
◇
教室に入るとレイが出迎えてくれた。他の生徒はひそひそ何かを話している様子だった。
「アレク。大丈夫か?朝起きたらお前がいなかったから心配してたんだぞ」
「なんでだ?今までだっていない事もあっただろ」
後から聞いた話によると、昨日補習を受けた生徒が学院を去ったらしい。レイは朝起きたらアレクが居なかったせいで、アレクも学院を去ったと勘違いをしていたらしい。
「荷物は置いてあっただろう」
「そうだっけか?焦ってみてなかったぜ」
レイはほっと一安心といった様子で席に着く。アレクも続いて席に着いた。
「ちぇ。最下位で魔法も使えない無能くんが学院をやめるって聞いたのによ」
ミゼットグループの一人がそう言葉を漏らす。
「ほんとほんと。魔法が使えないなら学ぶことなんて何もないじゃん」
「学院に居ればタダ飯を食えるからだろ?あいつ孤児院出身らしいし」
「うわ。最低……」
「人間の屑じゃん」
彼のグループは好き勝手にアレクの悪口を言っている。アレクは相手にしないようにしていたが、それがミゼットを刺激したようだ。彼が机をバン!と叩いて叫ぶ。
「いい加減にしろ。魔法が使えない時点で、お前の居場所はねーんだよ。さっさと消えろ、目障りなんだよ」
「そんな言い方はないだろ」
アレクが無視を決め込んでいたら代わりにレイが反応した。
「お前も似たようなもんだろ」
「んだと?」
レイが立ち上がり、ミゼットに向かおうとしたが、教室の扉が開き、ガーネットが入ってくる。ミゼットのグループも各々の席に戻っていく。
「全員席に着いたな。伝達が2件、1つは皆も気づいているだろうが、C組から2名退学になった。もう1つは夏の競技大会の事だ。参加種目を決めておけ。以上だ」
それだけ言うとガーネットは教室を出ていく。C組から退学したのは補習を受けた2人だった。夏の競技大会とは夏季のイベントで、選択種目と必須種目がある。いずれの競技も魔法による得点を競う競技なので、魔法が使えないアレクには不利というか、無理な種目ばかりだ。
とりあえず退学は免れたが、早速次の難題がアレクを待ち受けるのだった。
『お前には魔法の才能があるんだからな』
夢の中で聞いた身に覚えのある言葉――やはり、退学はしたくない。その決意を胸に身支度をすると職員室へと向かった。職員室は2号館の1階にあり、職員室の奥には校長室と接客室がある。始業前であるが、ほとんどの教員がすでに授業の準備に取り掛かっていた。その中で、アレクはガーネットを見つける。
「先生!」
「なんだお前……まだ居たのか。退学届けは出したのか?」
「その事でお話が……。俺、退学はしません」
その言葉を聞いたガーネットの眉が吊り上がる。先生の返事は聞かなくても分かった。先生はその紅く鋭い眼光で睨んでくる。
「で、何だって?」
分かってるよな?と言わんばかりににらみつけながら先生が聞き返してくるが、ここで怯むアレクではない。すでに覚悟は決めてある。
「退学はしません!」
先ほどよりも声を張り上げて言う。職員室の中で声を張ったせいで、周りの教師からも視線を集めてしまった。しかし、これは想定内だ。他の教師の目があれば先生だって強くは言えなくなる。現に睨むという手段を取った事からもその事は明らかだった。
「お前……」
注目を浴びてしまったガーネットはアレクの両肩に手を置き、その瞳を睨みつける。アレクも怯むことなくまっすぐな視線で先生を見返す。
「ちょっといいかな?」
そこに別の教師がやってきた。ガーネットは振り返り、アレクは視線を上げる。リットマン・フォーティ学院長――彼の手がガーネットの肩に置かれている。一部始終を聞かれてしまったかもしれないとガーネットは焦りを隠せない。
「この学院の学費や維持費は公費で賄われる。つまり、王立学院へ入学した以上は学生としての責務を果たす必要があるということだ。やむを得ない自主退学なら認めるが、それ以外は公費分の清算が必要になる。覚えておきたまえ」
「は、はい」
リットマンの威圧感はガーネットの比ではなかった。その金色の瞳からは誰も逃げられない――そう錯覚させるほどだ。
「それと、話の途中で悪いんだが、職員会議の時間だ。生徒は教室に戻りなさい」
ガーネットの肩に手を置いたままの学院長はそれだけ告げると顎で行きなさいと合図する。アレクはお辞儀をして職員室を後にした。去り際に「覚えとけよ」と聞こえたのは気のせいではないだろう。
◇
教室に入るとレイが出迎えてくれた。他の生徒はひそひそ何かを話している様子だった。
「アレク。大丈夫か?朝起きたらお前がいなかったから心配してたんだぞ」
「なんでだ?今までだっていない事もあっただろ」
後から聞いた話によると、昨日補習を受けた生徒が学院を去ったらしい。レイは朝起きたらアレクが居なかったせいで、アレクも学院を去ったと勘違いをしていたらしい。
「荷物は置いてあっただろう」
「そうだっけか?焦ってみてなかったぜ」
レイはほっと一安心といった様子で席に着く。アレクも続いて席に着いた。
「ちぇ。最下位で魔法も使えない無能くんが学院をやめるって聞いたのによ」
ミゼットグループの一人がそう言葉を漏らす。
「ほんとほんと。魔法が使えないなら学ぶことなんて何もないじゃん」
「学院に居ればタダ飯を食えるからだろ?あいつ孤児院出身らしいし」
「うわ。最低……」
「人間の屑じゃん」
彼のグループは好き勝手にアレクの悪口を言っている。アレクは相手にしないようにしていたが、それがミゼットを刺激したようだ。彼が机をバン!と叩いて叫ぶ。
「いい加減にしろ。魔法が使えない時点で、お前の居場所はねーんだよ。さっさと消えろ、目障りなんだよ」
「そんな言い方はないだろ」
アレクが無視を決め込んでいたら代わりにレイが反応した。
「お前も似たようなもんだろ」
「んだと?」
レイが立ち上がり、ミゼットに向かおうとしたが、教室の扉が開き、ガーネットが入ってくる。ミゼットのグループも各々の席に戻っていく。
「全員席に着いたな。伝達が2件、1つは皆も気づいているだろうが、C組から2名退学になった。もう1つは夏の競技大会の事だ。参加種目を決めておけ。以上だ」
それだけ言うとガーネットは教室を出ていく。C組から退学したのは補習を受けた2人だった。夏の競技大会とは夏季のイベントで、選択種目と必須種目がある。いずれの競技も魔法による得点を競う競技なので、魔法が使えないアレクには不利というか、無理な種目ばかりだ。
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