上 下
6 / 30
1章 入学編

第6話 試験の末に待つもの!

しおりを挟む
試験が終わり、ギスギスしていたクラスの雰囲気も少し落ち着きを見せていた。試験結果は本日の正午、各学年の廊下にある掲示板に貼り出される予定になっている。その関係で、成績に問題ない生徒は午後から休みになるが、問題がある生徒は補習が待っているそうだ。

「筆記はさっぱりだったからな……」

レイが不安そうにつぶやく。他の生徒はすでに教室から廊下に移動していたが、混雑するのがわかっているので、2人は教室に残っている。彼は座学が苦手なので、補習は避けたい様子だった。アレクは相槌を打って答える。なぜなら自分はほぼに補習の対象になるからだ。

「お前はどうなんだよ」

レイはアレクの態度が気に障ったのか、眉にしわを寄せて確認してきた。聞かれたには答えるしかない……。俺は覚悟を決めて答える。

「筆記はともかく、実技がね……」

そう。試験は筆記と実技だ。魔法が使えないアレクにとって、実技の点数は知れている。補習は免れないだろう。

「そ、そうか……」

レイもそのことを察したのか、静かになる。普段元気なレイが、そこまで静かになると逆に気まずい。このままでは間が持たないので、アレクは立ち上がり、レイに言う。

「行こう」

「お、おう」

2人は教室を後にし、廊下に出る。1年生の掲示板はA組とB組の間にあり、そこにはまだ20人程残っていた。ほとんどの生徒が喜びや驚きを隠せずにいる。自分以外の成績も確認しているようだ。俺たちも近くに移動し、2人はそっと掲示板を覗き込む。

学年1位 A組 トゥナ・ブラウン筆記296点 実技200点 総合496点
学年2位 A組 ルカリス・ブルー 筆記288点 実技200点 総合488点
学年3位 A組 ノエル・アーサー 筆記282点 実技200点 総合482点
学年4位 A組 アリーシア 筆記284点 実技180点 総合464点
学年5位 A組 ミーナ・ブラウン 筆記262点 実技200点 総合462点


学年28位 D組 ミゼット・グリーン 筆記188点 実技160点 総合348点


学年58位 D組 レイ 筆記148点 実技100点 総合248点
学年59位 D組 リア 筆記206点 実技40点 総合246点
学年60位 D組 アレク 筆記240点 実技0点 総合240点

※筆記300点満点、実技200点満点
※成績優秀者は後日、バッジの授与を行う
※90点未満、実技60点未満の者は補習を受ける事

筆記の点数は良かった――と言うより、クラスでトップの成績だった。しかし、実技に関しては……

―― 実技 0 点 ――

「はぁ…」

アレクはため息をつく。自分には魔法の才能がなかったのだと思い知らされる。しかも、この成績は掲示板を通して全校生徒に公表される事になるのだ。

「俺はなんとか補習回避できたぜ。お前はどうだった?」

隣のレイは喜んでいる。自分の結果しか見ていないようだ。見れば分かる事をわざわざ聞いてくるのは少し嫌味にも感じてしまう。

「実技……補習だって」

「そ、そうか……」

それを聞いたレイは少し気まずそうに返す。喜びに水を差して悪いとは思うが、今はそれどころではない。補習――魔法が使えないのに補習も何もないだろう……。

「と、とにかく。食堂行こうぜ」

レイはアレクの手を引き、その場から遠ざけるのだった。



その日の午後、アレクは訓練場に居た。隣には担当教師のガーネット。

「お前……真面目にやる気あんのか?」

補習を始めてすでに2時間が経過しているが、一向に魔法は発動していない。アレクからすれば『お前こそ真面目に教える気あんのかよ』と言いたい所だが、それは口にできなかった。

「俺の顔に泥を塗るどころか、仕事まで増やしやがってさ」

仕事と言ってもただ見ているだけだ。ガーネットは不満そうにアレクの様子を見ている。C組の補習者は3名――いずれも実技が60点に満たなかった者だ。しかし、現在訓練場に残っているのはアレクただ一人だった。

「もういいぞ。何度やっても結果は同じだろうからな」

これだ。残りの2人も補習終えたわけではなく、諦めて宿館に戻っていったのだ。だが俺は、ここで終わるわけにはいかない――じいちゃんのためにも――

「まだ……やれます……」

アレクは諦めない。しかし、ガーネットはすでに我慢の限界だった。彼にとってアレクという存在は底辺の底辺で教える価値などない。にも関わらず、担任だというだけでこの場に駆り出されているのだ。

「いいか?実技0点。つまりお前には魔法の才能がない」

ガーネットの口から改めて事実を告げられる。そんなはずはない。だって、おじいちゃんは――『お前には魔法の才能がある――』そう言われた事を思い出す。

「ま、まだ3ヶ月じゃないですか。これから魔法が使えるようになる可能性だって十分にあると思います」

おじいちゃんに言われた事を馬鹿にされたような気がして、つい反論してしまう。しかし、それを聞いたガーネットはさらに不機嫌になる。

「お前、もう学院やめろよ」

ガーネットの言葉がアレクを追い詰める。額から汗がこぼれる。頭によぎるのは退学の2文字――。ガーネットは止まらない。容赦なく続ける。

「このままここに居ても得る物は何もない。お前には魔法の才能がないんだからな。いいか?このまま卒業でもしてみろ、魔法を使えない無能の教え子なんて社会に出てまで俺の顔に泥を塗るつもりか?」

「そ、そんな……。俺は魔法が学びたくて……」

「何度も言わせるな。お前に魔法の才能はない。俺も暇じゃないんんだ。今日はもうしまいにして部屋に帰れ。退学手続きは分かるな?もう二度と俺の前に姿を現すなよ」

それだけ言うとガーネットは去っていく。その姿を見ながらアレクはしばらく立ち尽くす。これからどうすればいいのか、退学しか道は残っていないのか――。



アレクがガーネットに退学しろと言われたその日の夜――。2人の教師が作業をしていた手を止める。

「これはどういう事だ?」

「さあ……私にも分かりかねます」

先日、試験最終日に行われた魔力測定の結果を確認していた教師が1人の検査結果を見ていた。魔力測定は
専用の魔法具に魔力を流し込む事でその者の魔法力――魔力を魔法に変換する力、魔力量――魔力を有する器の大きさ、得意属性――各属性魔法の優位性を調べる検査だ。

記録は専用の用紙に魔法で刻まれるため、検査後に教師達が確認して生徒達に結果を通知するようになっている。こちらは試験の結果と違って、将来にまで影響を及ぼす可能性があるため、一般的には公表されない。

「きっと装置の故障か何かでしょう」

「では改めて測定するように該当生徒に通達しましょう」

「いや、担当教師の話だと、退学する予定の生徒らしいから、適当な数値に直して提出したんでいいだろう」

「わかりました――」

こうして、の検査結果が捏造される。この事は魔力測定の集計をしていた2人しか知らない。そして、彼らの見ていた用紙にはこう記載されていた。

1年D組 アレク 10歳
魔法力 ≪判定不能≫
魔力量 ≪測定不能≫
属性優位 ≪測定不能≫

と――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者 転生した世界がクソだったので覇道を目指してみた

田布施月雄
ファンタジー
毎日を無駄に過ごす日々。 ふとしたことで助けた彼女からこんなことを告げられる。 「あなた、このクソみたいな世界を何とかしたいと思わない?」 そこから歩、真緒コンビが野望を抱き世界に挑む。 「我々美化委員は、ここに生徒会に対し宣戦布告する!」

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

エターナニル魔法学園特殊クラス

シロ
ファンタジー
銃と科学の世界カーレントと真逆の位置にある剣と魔法の世界エターナニル。 そこにある魔法学園に入学したカーレントの少女レイカ。 これは授業や事件によって成長していく彼女の物語

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...