溺愛攻めを怒らせた

冬田シロクマ 

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不穏

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子どもの頃、いつも不安でいっぱいだった。
いつお母さんは、不機嫌になるのかと。
あの人のため息を聞くたび、小さい頃の僕は肺が圧迫され苦しくなった。

ある程度大きくなった頃には、彼女の家に行くなど、他の解決策が見えてきた。
だけどそれは、ほんの一時しのぎで…


それからはずっと、自分がいてもいい場所を探った。
心から落ち着ける…ホッとできる場所を。
それは今考えると、ハルの傍しかないみたいだ。
スヤスヤ眠っている…ハルの腕に手を伸ばす。
だが、その手は一旦躊躇した。


ロンは…最近俺から逃げた。
もう目の前から消えない。…と思っていた矢先だった。

寝てる間に…

思い出して、ゾッとする。
そのまま行方不明にでもなっていたら…

ここに使用人はいない。
森もある。
こんな人気ひとけのないところ、探すとなったら一苦労ひとくろうだ。

「……はる?」

ロンの声で我に帰った。

「ん?なに、…どうかしたの?」

ハルはニコッとほほえむ。
ピリッ…と怒っていたのが伝わってきた。
浮かべているのは、作り笑顔だとわかる。
ロンはムッと不快感を示した。

「ろ~ん?どうかしたの?」

いつものように笑いながら問いかける。
そして、ハルの顔がゆっくり近づいてきた。
……

「ハル…ちょっと、待って」

戸惑ったように、ロンの顔に添えようとしている俺の手が振り払われる。
…鬱陶しがられるのは、よくあることだ。
心に余裕があるときは、耐えれた。
だけどこのときばかりは、難しかった。


腕を引っ張り、自分の膝の上に乗るよう指示する。
ハルの冷たい目を見て、言うことを聞く。
怒らせるのは、やっかいだ。
僕はこのあと、ハルの手のひらを、できる限り受け入れた。
……

大きな手のひら、
僕の顔を包み、軽いキスを何度もされる。
甘ったるいこの時間に、少しこっ恥ずかしさを覚えた。

「もう…いいだろ」

そう言い、ハルに指示され回した腕を、緩める。
そうすると、ハルに抱き締められている腕が強くなった。
もっとぼく達の距離は近くなる。
…身体を、圧迫される。
……


……不安に駆られてるハルは、久しぶりに見る。
最近は、穏やかな関係を築けてると思ってたのに。

ポンポンと、苦しいながらも落ち着かせるように、ハルの背中を叩いた。
するとハルの身体は、沈み込むように僕の身体に密着した。
結構な重さが乗る。
ギュウウウと、強く抱き締められる。

「ロン…」

必死な声が響く。
すがるように抱きつかれ、子どものように涙目のハルは、僕の肩に顔を埋めた。

…不安、なのだろう。
最近こういうことも減ってきたのに…
本当に、どうしたんだ?

ぼくは心配な気持ちになり、ハルの髪の毛を優しくなでてあげた。



最近…ロンの様子がおかしい。
どことなくソワソワしている。
なにか隠してるのか?と疑ったが、とくになにも出てこなかった。

「どうしたの?」

にこやかに笑い、近づいてくるハル。
最近そういうことが増えた。
お互い…用がないのに近づく。
ハルの場合は顕著だった。

元々ハルは、なにもなくても関わってくることが多かったが…

最近異常に多い。
姿が見えない場所にいると不安がる。
名前を呼ばれ、探される。
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