溺愛攻めを怒らせた

冬田シロクマ 

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焦った

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ハルは玄関げんかんを開けるなり、飛びついてきた。

「ロン…!ロン…!よかった…!!」

僕を見つけて安堵の声。
ハルは肩から息をしている。
耳に声がかする。
くすぐったい。
だが僕の心は虚無だった。

本当にこれでよかったん…だよな…?

「今すぐ帰れ」と元カノには怒鳴り、帰らせた。
泣き声で嗚咽気味の僕に、驚きはしたものの、危険を感じ取ったのか、その子はすぐにきびすを返した。

それから…ハルが帰ってきたのが、3分も掛からなかった。


「よかった!!よかった!!間に合わなかったかと思った!!!…あの女と出ていったかと…思った…」

最後の方の、言葉が震える。
ハルは泣きそうに、目をにじませる。
僕はで、ハルの背中をポン…ポンと軽くたたく。
「ゔゔ…」という声。
しばらくたった後「ふふっ」と、とても嬉しそうな声とともに、抱き締める腕が強くなった。



とても嬉しそうに、飛びついてきたハルを横目に、周りの大人たちを見た。
やとっていたのか、屈強そうな人たちが辺りをうろついていた。

どうせ、あの後逃げても探偵を雇って、場所を特定され、連れ戻される。

そんなことは、冷静になった今、ハッキリとわかる。

「ロン?」

甘くて低いハルの声。
微かに震えて、かすれている。
ロンは遠くを見つめていた。

「ロン。どうしたの」

目尻を下げ、心配そうなハルの表情かお

…少しオロオロしていた。

僕は表情を変えずにハルを見た。
ロンの気の強そうな瞳が、ハルを捉えた。



「車で無理して走って帰ってきたんだ」
「うん」

肩に、顔をうずめ言われる。

「ロンが大切で、急いで帰って来たんだ。」
「…うん。知ってる」

ハルの必死な声とは対象的に、ロンの冷めた声。 

僕が冷たいんじゃなくて、コイツがしつこいんだ。
「もういいだろ」と言いたげに、「はああ」と溜め息を付き、ポンポンと背中を早くさする。

僕は、ハルを慰めることより、大事なことがあった。

一つの事実が、頭をグルグルと回る。
僕は…せっかくのチャンスを無駄にした。

「ロン…その表情、こわい」

そっと頬を押される。
ハルの方を向かせられた。
ハルの表情は酷く不安に浸っていた。

「ほんとに…よかった…!」

何度目かの言葉。
美しい顔が、嬉しそうに何度何度も笑う。

大袈裟だな…

すぐに連れ戻されることが、わかっている自分はそう思った。
だが、ハルの様子が可笑しくて、僕もつられて「フフフッ」と笑った。

「ロン…!」

ハルの顔は、ぱああと明るくなる。
高校の時の、クシャッとした無邪気な笑みを浮かべた。
あの時のような幼い印象を受けた。


あの後、ハルに熱烈なキスをされた。
貪るような、こわい口付け。
キスをされながら、ハルの手が僕の首に回る。
ハルは夢中で、無意識のようだ。
僕はその手を、制するのを止めた。



えがおを見た時、あの時の…昔の笑顔のままだ。と思った。
高校生の時の、必死でかわいいハル。
まさか、監禁して犯罪を犯すやつになるとは、誰も…担任の先生も、夢にも思うまい。

ニコニコと笑うハルの気配。
近くに来て、ハルが笑った。

「いなくならないでくれた♪」

機嫌がいい…

嬉しそうな子どものような、幼く見えるハル。
ギュウウウと、苦しいほど抱き締められる。

「ゔ…」
「すきだよ。大好きだよ。ロン。愛してる。」

ハルの顔を見て息を呑む。
ウットリするほど美しい表情だった。
それと純粋な言葉に、心がほだされた。
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