溺愛攻めを怒らせた

冬田シロクマ 

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引っ越し

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「あの子は別に悪い子じゃなかったよ。」

ロンは、みかんを頬張りながら言った。
何年かたった後だった。

「へぇ」

辺りはシンシンと雪が積もっている。
相変わらずこの街は、人が少ない。
クリスマスにも関わらず、外からは何の音もしない。

「ロンは、いい子だよねぇ」

怒ってるのか…

真綿で首を絞められる気持ちになる。

「ソイツと逃げないで、俺なんかと一緒にいて。その子はもういないよ?」

ハルの少し、おちゃらけたような声。
言葉を続ける。

「ロンと今一緒にいるのは俺だ。」
「うん。」

首に手をかけられ、僕は頷いた。

知ってるのだろう。
昔の元カノが、また来たこと。

「…」

僕がハルから逃げないのは、庇護欲?

「ハッ」

そんなわけない。
自分でおもって、笑いが出てくる。

「…?」

ハルは不思議だと言いたげな顔で、僕を見ている。
気にする風もなく、僕はみかんを頬張る。
真っ暗な窓から、チラチラと雪が降っている。
パチパチと暖炉の火の音。
眠くなり、ボーとする。
走馬灯のように過去のことが、思い出された。



寝ているロンの拘束具を、一つ一つ外す。
ロンが掴んでいるシーツごと抱き上げ、3階に向かう。
誰も使ったことがない、来客用ベッドに寝かせた。
スースーと幸せそうに、寝息をたてるロンの髪を、かき上げるようになでた。

「ん…」

俺の手に頬ずりをしてくる。 
「よしよし」とロンの花びらのような、ピンクの口唇をなでた。
くすぐったかったのか、ロンの身体はピクッと反応した。
ハルはまた、「よしよし」と遊ぶように、ロンの頬をさわった。



「おはよう」

ハルの機嫌がいいのが声でわかる。 
僕は低血糖で、険しい顔をしていた。

いつも付いている拘束具はなかった。 
見たこともない部屋。
下の階を見ると、ダンボールを持ち上げ、運んでいる人が多数いた。

「…?」

寝ぼけたかおで、ハルをボッーと見た。
寝癖が酷く、前髪も上に立っていた。 
おでこが見える。

ハルは「かわい…」と言い「こっちおいで」と言った。 
ロンは、のっそりと身体を動かす。
言われたとおりに、ハルの腕の中に入る。
ハルの膝の上に座った。
ボッーとしたまま、ハルの胸板に頭を預ける。
背もたれのように、ハルの身体に体重を乗せた。

「んゔ…」

まだ眠たくて、ハルの肩に頭をグリグリと押し付ける。
前に腕が回り、ハルにゆっくり抱かれた。
僕は「まだ眠い」と言いたげに、ハルに抱き着く。

「ふふ。温かい。子ども体温みたいだね。」

嬉しそうな、ハルの笑い声。
横の髪の毛にキスをされる。

「ロン、引っ越しするよ。」
「…?」

やはり、頭がボッーとしたままじゃ、すぐに意味が呑み込めなかった。
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