溺愛攻めを怒らせた

過去9

「あの女が、ロンのこと好きとかほざくから…」

急に口の悪い言葉を聞き、脳がフリーズする。

ほざく？

驚いているロンを他所に、ハルは話を続ける。

「少し怖がらせただけだよ」

優しく言った。
そしてハルは、にこやかに笑う。

「…なにを…したんだ？」

ロンの片方の口角は、ヒクッと引き攣る。
それをハルは、いつもの優しい表情で見つめていた。
知らないハルの本性に、恐怖で声が震える。
それに気づかれないよう、できるだけ表情を変えないようにして言った。
ハルは僕の様子を見て、静かに話を続けた。

「あの子…援交してたんだよ。親にナイショで。もし告白したら、学校で全部バラすって言った。」

話の内容とは反対の、優しい声と口調に混乱しそうになる。
…前に、学校の掲示板や黒板に、たまに人が知られたくないと思われる写真や、文書が貼られたことがあったのを思い出した。

「ロン、震えてる…」

温めるように、ハルはロンの肩を、手のひらでさすった。
僕を、心配しているかのような表情…
なにも悪いことは、していないかのようなハルの表情に内心愕然とする。

「俺たちのことに気づいた人たちだよ。」

そしてハルは、そっと甘い声でささやいた。

「…え？」
「今まで俺がしてきたのは。
ロンは…俺と付き合ってることみんなに気づかれたら、俺から離れていくでしょ？だから…」
「だから、その人の知られたくないことを、学校で全部バラしたのか…？」

声には非難めいた響きがあった。

「…本当に言わないと思う人には、そんなことしてない」

ハルは小さな声で言った。
ロンは、自分に触れようとする、ハルの手をバシッ！と振り払った。
ロンの顔は、強い軽蔑に染まっていた。

「ロン…」

反省するかのようなハルの表情、言い方がさらに癇に障った。

「最低だッ…！」

心からの言葉だった。
少しでもハルに優しくしてやろうとかいう気持ちは、このことを知ってから、まったく無くなった。