アイドルの元彼

冬田シロクマ 

文字の大きさ
上 下
28 / 31

飽きたら

しおりを挟む
居心地が悪そうに、ぼくは低姿勢になり、ゆうの腕を解かせるよう手をかける。
離させようと頑張った。
だが、びくともしないその腕と、後ろで笑った裕介の気配に圧倒される。
固く抱きしめられた。
それに多くの多幸感と満足感、それにゆっくり落とされる。
チャプ…と水溜まりのようなところに落ちたら,次は大きな不安が襲ってきた。
……
  
優しい声がする。
だが、ぼくの頭で通過した。
横に振り返り聞く。
んーと考えているような声を出す裕介。
袖が畳まれた状態でくっ付いているオシャレなシャツからは、ふんわり柔剤の香りがした。
背中を裕介の大きな身体に預ける。

「飽きそう?ぼくに」

ソラは物憂げに、裕介に聞いている。
裕介は機嫌がいいのか笑っている。
もう、怒っているのかどうかも判別つかない。
自分の頬についた髪をゆうの指で払われた。
こんなこと言いながらも,いちゃついているぼくたち。

「全然だね」

そう言いながらつむじの匂いを吸われた。
急なことで、背筋がぞくっとした。
鳥肌が立ち、性的な気持ちよさが襲う。
目をつむり、ゆうに気づかれないように耐えるぼくは耐えた。

身体を屈み、首を引っ込め、止まるソラ。
上から、ゆうのはは、とやわらかい笑い声がした。

「ゆう…どのくらい?」

誤魔化すように聞く。
耳にキスされ、ソラの身体はピクッと動いた。

「どのくらいで飽きそう?」

また身体をすくめ聞く。
ゆうの腕の中で、ソラはとても小さくなっていた。

「飽きられたい?」

声に、突き放すような響きを感じとり、上を向く。
変わってない裕介の表情を、今しばらく見る。
表情はやわらかいが、視線は氷のように冷たく感じる。
ただ抱きしめる腕はしっかりと、自分の周りを固定され、それだけが天邪鬼な自分の気持ちを安定させる。

どうしようもない自分。……

「…ゆうが、またテレビで活躍してくれるようになったら嬉しい」

純粋な声で言ってみる。瞳もできるだけ純粋に……
自分ではそう見えるよう努力をした。が、裕介は「へぇ」と気のない返事をする。
ぼくは挑発した。

「ゆうが……飽きるか飽きないかより、お金がいつ底を付くかの問題かもね」

ぼくの頭を撫でていた手がピタッ…と止まる。

「お金の心配をしてるの?」

顔を覗き込まれる。
ぼくは再び口を開いた。

「いや…でもそうなったら、ぼくは働きに出ないわけには行かなくなるでしょ?」

嬉しそうに笑う。
それに応えるように裕介は優しく微笑んだ。

「社会不適合者なソラが、働こうとするとはね」

急な嫌味に面食らう。
だが、就活のときに働きたくない働きなくないと、喚いていたのは裕介に散々聞かれていた。

「貯めてたよ」
「ゆうが?」

ぼくの知ってる限り、裕介は散財するのが趣味だ。
だから家を買った、と聞いてもそのこと自体に驚きはなかった。
だけど2人で住み続けるってなったら、話は違って……

「うん。」

無邪気に笑い、通帳を取り出す。
ぼくは自分の置いていかれた思考を、なんとか目の前のことに合わせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

国宝級イケメンのキスは極上の甘さです

はなたろう
恋愛
完結、さっと読める短いストーリーです。 久しぶりに会えたのに、いつも意地悪で私をからかってばかりの恋人。キスを拒めるくらい、たまには強がってみたいけど……

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

国宝級イケメンのファインダーには私がいます

はなたろう
恋愛
毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く私。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドルとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた?

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...