アイドルの元彼

冬田シロクマ 

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自分を抑えていた分

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悪い気持ちになる。
なにを考えてるのか、ソラの顔から表情がどんどん失なわれていくのがわかった。

「ソラ」

無邪気な声と表情。
言いながら、大きな手に頬と髪をなでられる。
変わり映えのしない…平凡な黒髪。
顔も平凡だろう。
ゆうを真摯に見つめる。
一方裕介は、うっとりした瞳だった。

なんでだろ

そう思いながら見慣れない、長めの水色に手を触れる。
少し癖っ毛の髪。
顔も目が鋭くて美しい……

ぼくを見て、うっとりしている裕介を不思議に思った。

鏡を見れば、誰よりもかっこいい顔がそこにあるのに……

抱き締められながら、ゆっくり考える。

今は盲目だけど…
いずれ飽きられる。
だけど、近いうちに自由になりたい…。

従順な振りをし、外に出かけても許されるようになる。
そして徐々に距離をとる。
それが目標だ。
自分の傷も浅く済む。

愛おしそうに裕介の頬に、ふわっと優しくキスをする。
すると、ニッと笑い、噛み付くようにキスをされた。

やっぱりすごく魅力的な人だな。

ボッーとした頭の片隅で、冷静に自分に訴えかける。

終わっていいはずがない。
このまま…ゆうの芸能生活が。



それを繰り返し自分に言う。
釘を刺すように。

だから今だけ………

ソラは両手で、裕介の顔に添えた。
キスを催促した。

「キスしたい?」

とても優しい声だった。
ぼくは頷く。

嬉しそうに笑いながら近づく裕介の顔と、重なった。
……

「なに…」
「無駄なこと考えてるでしょ」

ソラはグルンと、裕介の方に顔を向けた。
脱力しきったソラは、え?と気の抜けた声を出した。
逃がさないようにか、腰に腕を回される。
ぼくがあえて裕介のために嫌がっている状況を、ゆうは面白がっているようにも見えた。

「なに言って…」

言いながら、後ろの手を離させそうとした。
ほどけそうにない腕に、身体が固まる。
目も点になり,遠くを見た。

「…ゆう」

窘めるように言って見る。
ニコッと優しく笑うゆうは、なぜだかとても怖かった。
喜んでんだか面白がってるのか判別つかない。
いや…怒っているから怖く感じるのか……

言うことを聞けよ、と脅される。
昔はそうだった。

今は……

怒りを抑えて計算している、頭で。

ぼくの思考回路も読めてるのだろう。

後悔してるのがバレてるのか…

自分からキスを頬張っといて、あとで空虚の目で脱力しているソラ。

自分ですら、これはポーズなのか、どうなのかわからない。

俺を翻弄したいの?

そう聞かれたこともある。
ソラの前髪を整えながら、努めて優しく言う…裕介。
わからない…そう答えたソラ。

毎回のように後悔している。

やらかしてしまったあとは、自分の忍耐力が足りないからだと自分を責めた。
ずっと会えなかったからか、溢れ出すように裕介への想いが暴走してしまっている。

前は違ったのに。

自分にブレーキをかけながら、裕介を見た。
ほだされる笑顔。

ゆうは優しく対応してくれるから、ぼくが何度も過ちを繰り返してしまうのもある。
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