アイドルの元彼

冬田シロクマ 

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かわいい、と言われる

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それに、これが今だけなのは、ぼくが1番わかっている。
裕介の気を引くため、以前していた言動。

それを一切していない

素直に、従順に、ぼくは自分の気持ちに振り回されている。

ぼくからキスを催促し、自分から縋り身を寄せる。
昔は、こんなことはなかった。
苛立たせた裕介に、挑発しながらも抱かれる。
……あんまりいいやり方じゃない。

だけど…このままだと、
いつか裕介に振り払われる日が、そう遠くない未来に……

そう頭の中に浮かんだとき、ある種の息苦しさを感じた。
自分が自分でなくなったかのような感覚……
それを無視し、裕介に甘えた。

ソラの首の後ろに手が回る。
前髪でか、目元が見えない…
ゆうの口元が余裕そうに笑う。
どんな目をしているか、見たくて見上げた。

「無駄なことしか……考えてないよ。ぼくは」

やっとのことでそう言った。

「そう?」 

笑いながら言われる。
甘い声に、ぼくは蜂が蜜に吸い寄せられるように、ゆうに顔を擦り付けた。

今日は、背中に手を回されない

締め付けるように,首の後ろに腕が巻きつき、こめかみの辺りにキスされる。
そのあと……

「ソラにとって、僕に関することは無駄?」

上を向き、目が合う。
ニコリと笑う裕介。
見惚れたが、時間差で、しまった、と思った。
腕を解き離れようとする。
だが、後ろ首に巻き付いている腕は、案外強く、離れられない。
このあと離れようと暴れるぼくに、落ち着かせるように、またキスされる。
次は、頬にだった。
とりあえず、動きを止め、裕介の出方を腕を掴んだままうかがう。

コーヒー…かけられたりしないよな?

横に置いてあるコーヒーカップを見た。
まだ、ほかほかと湯気が出ている。

「冷めてるよ?」

裕介の声にびくつく。
裕介は…飲める温度だと言いたいのだろう。ぼくの分も遠くにあった。

「………ゆうすけ…」

ぼくは怒りを鎮めるため、裕介の背に両手を回す。
前は、自分からあんまりしなかったな、と思い出す。

裕介は、ぼくが今監禁されてるから媚び売っていると思ってるんだろうか?
ソラは落ち着き、心配そうに顔を見る。

「俺がこわい?」

耳元でつぶやかれる。
優しい声だった。
顔に熱がこもる。
裕介は、ははと笑い声をあげ、ぼくの様子を見て笑った。
イラッとし、裕介を見、睨むもまた手繰り寄せられた。

よしよしと腕をなでる。

「ソラはかわいいねぇ」

そう言い、離す気はないみたいだ。
ぼくは急のことで、されるがままに固まる。
くすぐったいのを、顔を微かにしかめ我慢した。

「前はかわいくないところがかわいかったのに、今は少し従順になったみたいだ。
諦めを覚えたからかな?」
「そうだな…」

まあ、前のぼくに比べたら従順だろう。
前なら暴れまくり、絶対にゆうの腕を離させた。
そして怒りに満ちた目をしただろう。

裕介に、猫にするように頬を、スリッ…となでられる。
うっとりした様子のゆう。

「俺の、言いなりになるソラは嬉しい」

ぼくは嫌そうに裕介の顔を見る。
変わらず嬉しそうで、ぼくは複雑な気持ちになる。

今のぼくはなんなのか。
逃げるために従順になっているのか。
それとも、本当にゆうが愛おしくてやっていることなのか。

おそらく…どっちもだろう。
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