アイドルの元彼

冬田シロクマ 

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「だめ。」

冷たい笑みで笑ったゆうすけ。
かっこよ過ぎて一瞬息を止めた。

「さっきも言ったけど、逃げる気でしょ?」

低い鈴のような軽やかな声色。
昔のゆうすけより、態度が少し落ち着き払っているな、と妙に感心した。
そして、こんなに優しそうな表情なのにハッキリと怒っているとわかる。
そんな自分がとても不思議に思えた。

少しの間でも同居していたからか…

現実逃避やなにかに頭を持っていかれる。

全然関係ないことなのに…

「ゆうすけ…仕事は?」
「ソラに関係ある?」

平然と、笑いながら怒る。
相変わらずだと思った。
……

「やめるよ。仕事」
「え…?」

しばらく閉じ込められたあと、ある日、淡々と新聞を読みながら言われた。
時が止まる。
ペラッ…と新聞を閉じる音がゆっくり聞こえた。


一瞬、なにを言われたかわからなかった。
だんだん理解が追いついてきたとき、自分の顔がどんどん青ざめていくのがわかった。
このとき、尋常じゃないくらいに焦っていた。
瞳を忙しなく動かすソラに、ゆうすけはふは、とまるで他人事のように笑う。
あまりにも落ち着きすぎているゆう。
それとも仕事から逃れられるから、ホッとしているのだろうか?

「そんなに僕の仕事が大事?」

ぼくの青ざめた顔を見る。
瞳は冷たかった。

「うん…」
「アイドルとか、そういうの興味なかったでしょ。」

伸びかけの長い前髪を鬱陶しそうに払いながら言うゆうすけ。
それだけで様になっていた。

やっばり、この人は…表舞台に立つのが天職だ。

ただ今は疲れてるだけかもしれない…………

大きな言葉がこだました。
この仕事をゆうは手放すべきじゃない、と直感が訴える。
だがゆうの直感はなにも訴えてないんだろう。
だから、おれの勝手な…願望……

「いや、ある。」

口走った。
やめてほしくなかったから。
言ったあとで必死で頭を働かせる。

「俺のファンだった?」

半分バカにしているのがわかる。
なんでバカにされるのかわからなかった。

そうだ。
応援していた。
だけど、ある日を境につらくなって、見るのをやめた。
テレビも捨てた。
ゆうすけが再び来たのは、もうテレビを処分したあとの家だ。
ゆうすけのあとは、あの恋人時代に買ってもらった物だけだ。

「ソラが嫌なのは…」

ゆうすけは、遠くを見つめる。
そのときはぼくを見ていなかった。

「俺が辞めて話題になって、自分の存在が世間に知らされるのを恐れてるんでしょ」

案に男もいけることがバレるのが嫌なんでしょ、と言っている。
綺麗な、鋭く諦めたような瞳がこっちを向いた。

「俺と付き合ってたって知られるのそんなに嫌?」

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