アイドルの元彼

冬田シロクマ 

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ぼくはなにも言えなくなった。
ソラの固まってしまった心とは反対に、車はどんどん山奥へ進む。

途中でおかしいな、変だな、と思うのはこれからずっと先のことだった。
……

「…?」

東京は…こっち方面だったっけ?
 
都道府県の形を頭に思い描きながら思う。
頭にハテナマークが浮かぶ。
うつらうつらしている間に、田舎から他の田舎に変わっただけだが、だいぶ遠くに連れてこられたのが、体感的にわかる。
自分で帰れないようなところに連れて行くんだ…

僕が方向音痴だということは、裕介は知ってるだろう。
こんなところに捨て置かれたら…

頭に浮かび考えが冷える。

もしかして、会った時冷たく接したからその仕返し…?

幼稚な、昔の裕介ならありえないことはなかった。

こんなことして遊んでいる暇ないだろ…

呆れた様に裕介を見、思う。

前を見ながら、フリーズしているソラ。
裕介は一瞬、バックミラー越しにソラを見て、あとは静かに運転し続ける。

静かすぎる車内で、ソラの鼓動はもっと早くなった。

一緒に死のう、とか、言い出さないよな?

いろんなことが頭を巡っては満杯になって溢れていく。

それは、ありえない…?

「ゆ、ゆうすけ?」
「なに」

つっけんどんな言い方だった。
もっとソラの不安を煽る。

「どこいく気だ…?」

祐介の顔色を一生懸命伺い言う。

「どこだと思う?」

愉しむような表情。
ぼくはポカンと口を開けた。

え、なに…
教えてくれる気、ゼロ…?

ソラの様子を見て、笑っている裕介。
ぼくが不安そうにしているのが、面白くてたまらないみたいだ。

パカッ、とドアが開く。
裕介が少しかがみこっちを見ている。
ぼくは自分の、勘違いだと思いたくて、せわしなくしゃべり続けた。

「あの…えっと………」

なにか思いつかないかと、黒目がキョロキョロ動いた。
裕介はその表情を、うっすらほほえみながら見ている。
ゆっくり口を開いた。

「……まず、ソラをそばに置こうと思って。」

ゆったりとした落ち着いた様子で言う裕介。
ソラは、ふう~と宙に浮いたような感覚に陥る。

「さっ、行こ」

強引に腕を持たれ、上機嫌で家に連れ込まれた。
……

静かな別宅。
ペンション的なホテルかとも、思ったが人は誰もいない。
敷地内が大きすぎ、どこまで行ってもここから出られそうにない場所で、不安が襲う。
裕介から離れ、辺りを見回していると、

「ソラくん」

上機嫌な声だとわかる。
後ろを振り向くと、やはりすぐ近くにいた。

「綺麗な景色でしょ。とても静かで…」

光が反射し、ゆうの瞳が美しく光る。
綺麗な顔と相まって、とても幻想的だった。
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