アイドルの元彼

冬田シロクマ 

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思い出と

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「裕介ッ!」

思いっきり腰を抱き抱えられる。
客観的に見ると、ハッキリと誘拐現場だとわかる。
「外まで、送ってほしい」と言う裕介に、騙されノコノコついて行った結果。
内心ぼくは、裕介に連れ込まれながらも、朝4時で誰もいなさそうなことに安堵した。
だが

「お前!正気じゃないぞ!!」

抱き抱えられたまま、思いっきり叫ぶ。
急に何しでかすかわからない思考は、社会人になっても変わらなかったみたいだ。
たまに裕介の頭の中を覗いてみたくなる…

「僕はずっと正気だけど」

サラッと言う裕介に、「ウソつけ」と震えながら言うソラ。
ゆうの縄張りに入るとなにされるか、わかったもんじゃない。
昔、仕事が忙しくてすれ違いが多かったときも、おれが別れようとしたと思い、無理矢理拘束じみたことをされそうになった。
あの時は、ボロボロ泣くゆうに絆されたが…

「冗談キツイって…」

ブロロロと車のエンジンが鳴る。
車に揺らされ、自分も揺れる。
あのぐらいの抵抗で終える自分に、呆れを通り越して、泣きたくなった。

「睡眠薬でも飲ませればよかった?」

ほほえみ、あくまで優しく言う裕介に、ぼくは目を白黒させた。
その一瞬の間、担がれ車に乗せられた。
車のドアは開いており、なにか言い聞かすようなニコッと笑い目配せ。
ぼくはなにか、問いかけなければいけない感じがして、切羽詰まった瞳で裕介を見た。
裕介はなにも言わない…

「僕が運転するから。大人しくしてて」
……

問いかけたかったこと。
自分を捕まえてなにをしたいのか。
ずっと一緒にいたいと言われた。

それは、どうしてだ?

ソラの暗い瞳が眩しいように目を細める。

それは…仕事から逃げるため?

その考えが浮かぶ。

ぼくに逃げるのは…

口にしたら終わってしまう気がした。
いや、終わるというよりその他大勢の意見を言う人間に、格下げされる気がしてならなかった。

「歌ってるゆうは…キラキラしてて……」

運転している裕介の目が、こっちを一瞬見たのがわかる。

「ほんとうに楽しそうで…」

満たされて、目をキラキラさせながら話すソラ。
語り続ける。

ずっと…見ていたいと思った

見てて辛いと思ったこともあるが、これもまた本心だ。
心に浮かんだ言葉をそのまま言った。

「応援してたんだ。…これでも」

キイーと音を立て、車が横にそれ、止まる。
裕介はハンドルを左手の親指でトンッ、と軽く叩き、一泊置いた。
そしてぼくの方を振り向く。
やわらかい表情で、態度も瞳も落ち着いているように見えた。

「俺は…楽しいと思ったことないよ。この仕事。」
「え…?」
「だってただの仕事だから。」 

そう言われ、ソラは固まった。
まるで裕介は、ただの事実だと言わんばかりに淡々と言っている。
ぼくの信じられないと言いたげな表情を見て、フッと笑った。

「え?でもあんなに楽しそうに…」
「演技だよ。そんなの。
仏頂面だと誰も応援してくれないでしょ?
てか、会社に言われて笑ってただけだし…」

絶句が止まらない。
クッと喉を呑んだ。

楽しそうに、見えたのに…

そして、裕介はさっきの声とは比べものにならない、とても優しい声でこう言った。

「ほんとうに、心からの楽しいと思っているのはソラといるときだけだよ。
現に今だって、こうしてソラと話しているだけなのにとっても楽しいし、嬉しい。」 
 
無邪気に言う裕介に
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