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画面越し
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やけに光が強いバラエティーの番組の中、今をときめく人気アイドルの1人が出ていた。
甘いマスクに、かわいい笑顔。
空のような淡い水色の髪。
「それで?ここの貧乏時代どうしてたの?」
大物司会者が、大きなフリップの空白を指差す。
高校を中退したあとと、書かれていた。
「えっ…とその時お付き合いしていた人がいたので、その人の家に…」
「転がり込んでたの!?」
「はぁー!」と大袈裟に言う大物司会者。
そのアイドルは照れたように笑う。
恥ずべきことと知ってるのか、言いにくそうに。
だがその割には、少し嬉しそうに片頬が持ち上がっていた。
「まぁー顔がいいからね」とガヤから諦めに似た声が多数した。
「いやいや…」と謙遜している風のアイドル俳優。
変わったなぁ…と思う。
謙遜なんていつ覚えたんだろ。
そう思いながら、ズズズッと安物のカップ麺をすすった。
「それで…有名になったら、迎えに行こうと思ってて…」
「キャー!!」「イヤー!!!」
悲鳴に似た叫び声が、お客さんの方から湧き起こる。
ぼくはゴホッゴホッ!と咽せた。
涙目でテレビを見る。
「え!!」「いいの言って?」
芸人さんたちが口々に言った。
「へぇー!!おそらく待ってるんじゃない?その子。」
吹っ切れたのか、はやし立てる大物司会者。
無責任なことを言う…とぼくは呆れ顔でテレビの司会者を見つめた。
嬉しそうに頷く、今をときめくアイドル俳優。
ぼくは、まったく待っていなかった。
大人気アイドル。
そのキャッチフレーズで、出まくる過去の恋人。
テレビに映る彼は、もうおれの知っている人じゃなかった。
ズズズッ
一人暮らしになってからというもの、まともにご飯も作らなくなっていた。
あいつが…帰ってきたら
そうよぎり、泣きそうになる。
おかしいな。
もう乗り越えたと思っていたのに…
麺をすする。
忘れてしまえばいい。
そう自分に言い聞かせた。
…
「ああ、遊びに行くよ」
モニター越しに言う。
「そう?よかった。
お母さん、食べきれないものこんなにあって…」
ダンボール一杯のりんごを見せられる。
母さんは、焦ったような顔だ。
自分の疲れた声とは相反し、ぼくを慰めようと、明るい声を出す母親。
「ありがとう。すぐ帰るよ」
✯
会いたいなぁ
水色の髪の綺麗なイケメンは、小さな寂れたマンションに向かう。
ピンポーン、ピンポーン…
足音もしない。
「そらくん?」
ピンポーン。ピンポーン。ガチャガチャ
ピンポーン
けたたましく鳴るインターホン。
「なんでいないんだろ」
苛立ち紛れに、ドアをガンッ!と蹴る。
こっちは、忙しい中きてんのに…
まさか、引っ越した?
不安な気持ちに包まれる。
ガンガンガンッ
ドアを叩く音がした。
…
布団から起き抜け、目をこすりながら除き穴を見る。
寝起きで、ぼやけてよく見えない。
誰だ?こんな時間に…
なにも頼んでないはずだけど
ぼくはイライラと髪をかき上げ、ドアを開ける。
ガンッ!
ドアの間に足を入れられた。
見覚えのある青いシューズだった。
「そらっ!」
「おっ前!」
目を疑った。
綺麗な水色が目に飛び込んでくる。
「やった。会えたあ~!!」
開けるなり飛びついてくる。
「は…?」
ぼくはポカンとし、しばらく呆然とした。
…
フリーズする。
「は…?もう1回言って…」
「だ、か、ら~聞いてなかった?
やっぱ俺、ここの生活が慣れてしまったみたい。」
ニッコリ笑う裕介に、おれは唖然とする。
コイツは…ここにいるべきじゃないよな?
たくさんのファンたちが…
「駄目だ!」
裕介の身体を押す。
そらは、首をぶんぶんと振った。
「お前は…」
言いながら泣きそうになった。
「待ってる人たちがいるだろ…?」
崩れ落ちそうな顔で言う。
裕介は「なにそれ?」とキョトンとしていた。
「ぼくはソラさえいればいい」
ぎゅううと抱き着かれる。
甘酸っぱいグレープフルーツと、シトロンの香りがした。
前は、畳の匂いだったのに…
関係ないことを思い出し、軽い現実逃避に頭をもたげた。
甘いマスクに、かわいい笑顔。
空のような淡い水色の髪。
「それで?ここの貧乏時代どうしてたの?」
大物司会者が、大きなフリップの空白を指差す。
高校を中退したあとと、書かれていた。
「えっ…とその時お付き合いしていた人がいたので、その人の家に…」
「転がり込んでたの!?」
「はぁー!」と大袈裟に言う大物司会者。
そのアイドルは照れたように笑う。
恥ずべきことと知ってるのか、言いにくそうに。
だがその割には、少し嬉しそうに片頬が持ち上がっていた。
「まぁー顔がいいからね」とガヤから諦めに似た声が多数した。
「いやいや…」と謙遜している風のアイドル俳優。
変わったなぁ…と思う。
謙遜なんていつ覚えたんだろ。
そう思いながら、ズズズッと安物のカップ麺をすすった。
「それで…有名になったら、迎えに行こうと思ってて…」
「キャー!!」「イヤー!!!」
悲鳴に似た叫び声が、お客さんの方から湧き起こる。
ぼくはゴホッゴホッ!と咽せた。
涙目でテレビを見る。
「え!!」「いいの言って?」
芸人さんたちが口々に言った。
「へぇー!!おそらく待ってるんじゃない?その子。」
吹っ切れたのか、はやし立てる大物司会者。
無責任なことを言う…とぼくは呆れ顔でテレビの司会者を見つめた。
嬉しそうに頷く、今をときめくアイドル俳優。
ぼくは、まったく待っていなかった。
大人気アイドル。
そのキャッチフレーズで、出まくる過去の恋人。
テレビに映る彼は、もうおれの知っている人じゃなかった。
ズズズッ
一人暮らしになってからというもの、まともにご飯も作らなくなっていた。
あいつが…帰ってきたら
そうよぎり、泣きそうになる。
おかしいな。
もう乗り越えたと思っていたのに…
麺をすする。
忘れてしまえばいい。
そう自分に言い聞かせた。
…
「ああ、遊びに行くよ」
モニター越しに言う。
「そう?よかった。
お母さん、食べきれないものこんなにあって…」
ダンボール一杯のりんごを見せられる。
母さんは、焦ったような顔だ。
自分の疲れた声とは相反し、ぼくを慰めようと、明るい声を出す母親。
「ありがとう。すぐ帰るよ」
✯
会いたいなぁ
水色の髪の綺麗なイケメンは、小さな寂れたマンションに向かう。
ピンポーン、ピンポーン…
足音もしない。
「そらくん?」
ピンポーン。ピンポーン。ガチャガチャ
ピンポーン
けたたましく鳴るインターホン。
「なんでいないんだろ」
苛立ち紛れに、ドアをガンッ!と蹴る。
こっちは、忙しい中きてんのに…
まさか、引っ越した?
不安な気持ちに包まれる。
ガンガンガンッ
ドアを叩く音がした。
…
布団から起き抜け、目をこすりながら除き穴を見る。
寝起きで、ぼやけてよく見えない。
誰だ?こんな時間に…
なにも頼んでないはずだけど
ぼくはイライラと髪をかき上げ、ドアを開ける。
ガンッ!
ドアの間に足を入れられた。
見覚えのある青いシューズだった。
「そらっ!」
「おっ前!」
目を疑った。
綺麗な水色が目に飛び込んでくる。
「やった。会えたあ~!!」
開けるなり飛びついてくる。
「は…?」
ぼくはポカンとし、しばらく呆然とした。
…
フリーズする。
「は…?もう1回言って…」
「だ、か、ら~聞いてなかった?
やっぱ俺、ここの生活が慣れてしまったみたい。」
ニッコリ笑う裕介に、おれは唖然とする。
コイツは…ここにいるべきじゃないよな?
たくさんのファンたちが…
「駄目だ!」
裕介の身体を押す。
そらは、首をぶんぶんと振った。
「お前は…」
言いながら泣きそうになった。
「待ってる人たちがいるだろ…?」
崩れ落ちそうな顔で言う。
裕介は「なにそれ?」とキョトンとしていた。
「ぼくはソラさえいればいい」
ぎゅううと抱き着かれる。
甘酸っぱいグレープフルーツと、シトロンの香りがした。
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