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ソラ視点 ファンタジー感
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自分しか寄せ付けなかったその手は、ファンに手を振るにあるのだろう。
男の頭を…なでるためにあるんじゃなくて…
熱狂的な大観客の中、ぼくの足は岩で覆われたように動かず、ただそこ立ち尽くした。
キラキラと光り、楽しそうに歌う裕介が瞳に映る。
苦しくなり…目を、背けた。
……
「ゔ…」
白い光が朝を告げるように、瞼をさらっと覆う。
眩しくて、嫌そうに顔を歪ませ、起きた。
ブカブカなグレーのTシャツ。
裕介の匂いがまだ染み付いていた。
目覚めの悪い朝だ。
そうぼやく。
寝すぎると、いつもといっていいほどソラは悪夢を見た。
今回は、微妙な悪夢だった。
だが、いつもはすぐ消える悪夢も、裕介が出てしまうと、何度も繰り返し思い出すことを痛感している。
軽くため息をつき、焼いたパンに、マーマレードのジャムを塗った。
塗り終わった小さなスプーンを口に加える。
なにかしているときも、ふと、顔を思いだしてしまう。
たいした夢でもなかったのに…
台所で、目をつぶり首を振った。
自分の頬が、涙の跡で硬くなっているのに気づく。
また夢を思い出し、口元が、悔しくて歪んだ。
……
寝る前に来た人は、やっぱりただの宅急便だった。
中身はいっぱいのリンゴ。
そりゃそうだろう。
友だちも元々少なく、ゆうと別れてからますます出不精になった。
そんな自分の家に来るのは、母さんからの荷物くらいしかありえない。
だけど…ゆうが来たのは想定外だった。
もう、忘れられてると思っていたのに…
裕介を起こさないように、遠くの時計に手を伸ばす。
まだ、朝だった。
これから…どうすんだろう…
遠くを見つめる。
そして、横を見下ろす。
スースーと寝息をたてている。
整い過ぎている顔と、自然界ではありえないその髪色が、この世のものとは思えない空気を裕介から醸し出していた。
裕介が来てから…今もまだ、非現実な感じが自分の中で漂っている。
あんなに、感情の起伏が激しくなったのに…
昨日裕介に泣かされて、涙で乾ききった頬。
無意識にほほえんだとき、頬が引き攣った感じがした。
……
涙が落ちてるとき、裕介の指がその涙に触れた。
心配そうに見られ、無表情のまま、またベッドで横になる裕介。
ぼくは昔のように、裕介の髪の毛を撫でた。
やわらかい髪の感じ。
前と変わっていない。
鋭い目つきが、少し細められる。
「なんで?」
裕介の声が届いた。
それは、ファンタジー感あるきれいな声だった。
男の頭を…なでるためにあるんじゃなくて…
熱狂的な大観客の中、ぼくの足は岩で覆われたように動かず、ただそこ立ち尽くした。
キラキラと光り、楽しそうに歌う裕介が瞳に映る。
苦しくなり…目を、背けた。
……
「ゔ…」
白い光が朝を告げるように、瞼をさらっと覆う。
眩しくて、嫌そうに顔を歪ませ、起きた。
ブカブカなグレーのTシャツ。
裕介の匂いがまだ染み付いていた。
目覚めの悪い朝だ。
そうぼやく。
寝すぎると、いつもといっていいほどソラは悪夢を見た。
今回は、微妙な悪夢だった。
だが、いつもはすぐ消える悪夢も、裕介が出てしまうと、何度も繰り返し思い出すことを痛感している。
軽くため息をつき、焼いたパンに、マーマレードのジャムを塗った。
塗り終わった小さなスプーンを口に加える。
なにかしているときも、ふと、顔を思いだしてしまう。
たいした夢でもなかったのに…
台所で、目をつぶり首を振った。
自分の頬が、涙の跡で硬くなっているのに気づく。
また夢を思い出し、口元が、悔しくて歪んだ。
……
寝る前に来た人は、やっぱりただの宅急便だった。
中身はいっぱいのリンゴ。
そりゃそうだろう。
友だちも元々少なく、ゆうと別れてからますます出不精になった。
そんな自分の家に来るのは、母さんからの荷物くらいしかありえない。
だけど…ゆうが来たのは想定外だった。
もう、忘れられてると思っていたのに…
裕介を起こさないように、遠くの時計に手を伸ばす。
まだ、朝だった。
これから…どうすんだろう…
遠くを見つめる。
そして、横を見下ろす。
スースーと寝息をたてている。
整い過ぎている顔と、自然界ではありえないその髪色が、この世のものとは思えない空気を裕介から醸し出していた。
裕介が来てから…今もまだ、非現実な感じが自分の中で漂っている。
あんなに、感情の起伏が激しくなったのに…
昨日裕介に泣かされて、涙で乾ききった頬。
無意識にほほえんだとき、頬が引き攣った感じがした。
……
涙が落ちてるとき、裕介の指がその涙に触れた。
心配そうに見られ、無表情のまま、またベッドで横になる裕介。
ぼくは昔のように、裕介の髪の毛を撫でた。
やわらかい髪の感じ。
前と変わっていない。
鋭い目つきが、少し細められる。
「なんで?」
裕介の声が届いた。
それは、ファンタジー感あるきれいな声だった。
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