【完結】好きになっちゃった!

冬田シロクマ 

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手放さない為に

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「あの…こんにちは。」 
「…」

冷たい視線で見る。
へらっと笑った、綺麗な四十代くらいの女性。

「…こんにちは」

俺は小さい声で言い、スタスタと歩く。

「ねぇ!あの……」 

女性は言いにくそうに口ごもる。

「…なんですか?」

沈黙が続く。
なにがしたいのかわからず、俺はペコッと頭を下げる。
サッサッと通りすぎようとした。

「あの……私達の家に来ない?」 

は?

ピタ…と足が止まる。
ゆったり振り返って言う。

「……私達の家…?」
「あっ…あの、あなたの病室に入り浸ってるの。私の息子。よくしてもらってるみたいで…」
「……」
「あの子貴方のこと気に入ってるみたいなの。急にじゃなくていいの。だけど親戚の家が嫌なら逃げ道もあるよ~って……」
「……」
「…どうかな?」
「結構です。」

俺は、それでも話し掛けてくる、おそらく香澄の母親を置いて、スタスタと歩いて行った。



先程、親戚が俺を、誰が引き取るかで言い争いをしていた。
伯父も伯母も祖父母もそれはそれは嫌そうに。
恐らくアイツは、それを俺に見せたくなかったのだろう。

余計なお世話だ

心の中で、チッと舌打ちを打つ。
そんなことで、いちいち傷付くたまじゃない。

ベッドに寝転び、目を閉じる。
浮かぶ香澄という男の顔。

…二つの死体をアイツはどこへやったのか。
それを脅すつもりか、俺を傍に置こうとする。
気に入られてるようだが、いつ飽きられ、どうなるかわからない…



「どこ行ってたんだよぉ!」

心配したように、香澄は近くに走り寄って来た。

パシンッ!

「え…?」

驚く顔。
無表情で見下ろす大雅。
香澄の目は涙目に変わる。

ひ…平手打ち…

「…な…なんで?」

頬を押さえる。結構痛かった。

「俺は、お前の思い通りにならない」
「え…?…うん。今更じゃない?思い通りになったことなんて、会ってから一度もないでしょ」

一度もないというのは少しオーバーだった、と思い直した。

「どうしたの?なんかあった?」

大雅に一歩近づく。
心配そうに見る香澄に、大雅はゾワッと鳥肌が立っているようだった。

◇  

頬にじくじくと熱を感じる。
冷やさないと、アオジになると経験的にわかる。

「さすがに僕でも痛いよ?
なんでまた急に叩くのさ。
さっきの…怒ったの?どういうこと?」
「こっちのセリフだ。どういうことだ?なんでお前の母親が、家に来いと言っている?」

チラッと香澄の方を見る。

「ああ…気が早いから」

失敗した…とでも言いたげに顔を背ける。

「ハッ笑…同情でもしたか?」

大雅のからかうような顔。
香澄は心底傷付いた顔をした。

「そうじゃないよ。…一緒にいられたら楽しいと思って…それに好きって言ったでしょ?」

顔色をうかがい見られる。

…バカバカしい。

俺は立ち上がる。

「待って!」

水色の入院服の裾を掴まれる。
ブンッ!とやれば離れるだろう。

「大雅…くん。僕と住むの、そんなにいや?」

不安そうに言う。

「あの…嫌なことしちゃったんなら謝るから…あの…僕の家、比較的裕福だと思うし、高校もやめなくてよくなるよ?」

大雅が気に入りそうなことを、あげつらえる。
大雅は「ハァー」と大きく溜め息を付いた。
苛ついたように、グシャグシャと髪の毛をかく。
大雅は、物わかりが悪そうな奴を見つめた。

「俺の…持っていた荷物をどこに隠したか言うなら、お前の家に行ってやってもいい」

鋭い眼光で言う大雅。
探るような瞳には、冷静さが漂っている。

僕が教えたら、その死体を一生懸命隠すのかな?
僕から離れて、手の届かないところに行く?

「それは…やだな」

香澄は小さな声でそう言った。
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