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手放さない為に
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「あの…こんにちは。」
「…」
冷たい視線で見る。
へらっと笑った、綺麗な四十代くらいの女性。
「…こんにちは」
俺は小さい声で言い、スタスタと歩く。
「ねぇ!あの……」
女性は言いにくそうに口ごもる。
「…なんですか?」
沈黙が続く。
なにがしたいのかわからず、俺はペコッと頭を下げる。
サッサッと通りすぎようとした。
「あの……私達の家に来ない?」
は?
ピタ…と足が止まる。
ゆったり振り返って言う。
「……私達の家…?」
「あっ…あの、あなたの病室に入り浸ってるの。私の息子。よくしてもらってるみたいで…」
「……」
「あの子貴方のこと気に入ってるみたいなの。急にじゃなくていいの。だけど親戚の家が嫌なら逃げ道もあるよ~って……」
「……」
「…どうかな?」
「結構です。」
俺は、それでも話し掛けてくる、おそらく香澄の母親を置いて、スタスタと歩いて行った。
◇
先程、親戚が俺を、誰が引き取るかで言い争いをしていた。
伯父も伯母も祖父母もそれはそれは嫌そうに。
恐らくアイツは、それを俺に見せたくなかったのだろう。
余計なお世話だ
心の中で、チッと舌打ちを打つ。
そんなことで、いちいち傷付くたまじゃない。
ベッドに寝転び、目を閉じる。
浮かぶ香澄という男の顔。
…二つの死体をアイツはどこへやったのか。
それを脅すつもりか、俺を傍に置こうとする。
気に入られてるようだが、いつ飽きられ、どうなるかわからない…
◇
「どこ行ってたんだよぉ!」
心配したように、香澄は近くに走り寄って来た。
パシンッ!
「え…?」
驚く顔。
無表情で見下ろす大雅。
香澄の目は涙目に変わる。
ひ…平手打ち…
「…な…なんで?」
頬を押さえる。結構痛かった。
「俺は、お前の思い通りにならない」
「え…?…うん。今更じゃない?思い通りになったことなんて、会ってから一度もないでしょ」
一度もないというのは少しオーバーだった、と思い直した。
「どうしたの?なんかあった?」
大雅に一歩近づく。
心配そうに見る香澄に、大雅はゾワッと鳥肌が立っているようだった。
◇
頬にじくじくと熱を感じる。
冷やさないと、アオジになると経験的にわかる。
「さすがに僕でも痛いよ?
なんでまた急に叩くのさ。
さっきの…怒ったの?どういうこと?」
「こっちのセリフだ。どういうことだ?なんでお前の母親が、家に来いと言っている?」
チラッと香澄の方を見る。
「ああ…気が早いから」
失敗した…とでも言いたげに顔を背ける。
「ハッ笑…同情でもしたか?」
大雅のからかうような顔。
香澄は心底傷付いた顔をした。
「そうじゃないよ。…一緒にいられたら楽しいと思って…それに好きって言ったでしょ?」
顔色をうかがい見られる。
…バカバカしい。
俺は立ち上がる。
「待って!」
水色の入院服の裾を掴まれる。
ブンッ!とやれば離れるだろう。
「大雅…くん。僕と住むの、そんなにいや?」
不安そうに言う。
「あの…嫌なことしちゃったんなら謝るから…あの…僕の家、比較的裕福だと思うし、高校もやめなくてよくなるよ?」
大雅が気に入りそうなことを、あげつらえる。
大雅は「ハァー」と大きく溜め息を付いた。
苛ついたように、グシャグシャと髪の毛をかく。
大雅は、物わかりが悪そうな奴を見つめた。
「俺の…持っていた荷物をどこに隠したか言うなら、お前の家に行ってやってもいい」
鋭い眼光で言う大雅。
探るような瞳には、冷静さが漂っている。
僕が教えたら、その死体を一生懸命隠すのかな?
僕から離れて、手の届かないところに行く?
「それは…やだな」
香澄は小さな声でそう言った。
「…」
冷たい視線で見る。
へらっと笑った、綺麗な四十代くらいの女性。
「…こんにちは」
俺は小さい声で言い、スタスタと歩く。
「ねぇ!あの……」
女性は言いにくそうに口ごもる。
「…なんですか?」
沈黙が続く。
なにがしたいのかわからず、俺はペコッと頭を下げる。
サッサッと通りすぎようとした。
「あの……私達の家に来ない?」
は?
ピタ…と足が止まる。
ゆったり振り返って言う。
「……私達の家…?」
「あっ…あの、あなたの病室に入り浸ってるの。私の息子。よくしてもらってるみたいで…」
「……」
「あの子貴方のこと気に入ってるみたいなの。急にじゃなくていいの。だけど親戚の家が嫌なら逃げ道もあるよ~って……」
「……」
「…どうかな?」
「結構です。」
俺は、それでも話し掛けてくる、おそらく香澄の母親を置いて、スタスタと歩いて行った。
◇
先程、親戚が俺を、誰が引き取るかで言い争いをしていた。
伯父も伯母も祖父母もそれはそれは嫌そうに。
恐らくアイツは、それを俺に見せたくなかったのだろう。
余計なお世話だ
心の中で、チッと舌打ちを打つ。
そんなことで、いちいち傷付くたまじゃない。
ベッドに寝転び、目を閉じる。
浮かぶ香澄という男の顔。
…二つの死体をアイツはどこへやったのか。
それを脅すつもりか、俺を傍に置こうとする。
気に入られてるようだが、いつ飽きられ、どうなるかわからない…
◇
「どこ行ってたんだよぉ!」
心配したように、香澄は近くに走り寄って来た。
パシンッ!
「え…?」
驚く顔。
無表情で見下ろす大雅。
香澄の目は涙目に変わる。
ひ…平手打ち…
「…な…なんで?」
頬を押さえる。結構痛かった。
「俺は、お前の思い通りにならない」
「え…?…うん。今更じゃない?思い通りになったことなんて、会ってから一度もないでしょ」
一度もないというのは少しオーバーだった、と思い直した。
「どうしたの?なんかあった?」
大雅に一歩近づく。
心配そうに見る香澄に、大雅はゾワッと鳥肌が立っているようだった。
◇
頬にじくじくと熱を感じる。
冷やさないと、アオジになると経験的にわかる。
「さすがに僕でも痛いよ?
なんでまた急に叩くのさ。
さっきの…怒ったの?どういうこと?」
「こっちのセリフだ。どういうことだ?なんでお前の母親が、家に来いと言っている?」
チラッと香澄の方を見る。
「ああ…気が早いから」
失敗した…とでも言いたげに顔を背ける。
「ハッ笑…同情でもしたか?」
大雅のからかうような顔。
香澄は心底傷付いた顔をした。
「そうじゃないよ。…一緒にいられたら楽しいと思って…それに好きって言ったでしょ?」
顔色をうかがい見られる。
…バカバカしい。
俺は立ち上がる。
「待って!」
水色の入院服の裾を掴まれる。
ブンッ!とやれば離れるだろう。
「大雅…くん。僕と住むの、そんなにいや?」
不安そうに言う。
「あの…嫌なことしちゃったんなら謝るから…あの…僕の家、比較的裕福だと思うし、高校もやめなくてよくなるよ?」
大雅が気に入りそうなことを、あげつらえる。
大雅は「ハァー」と大きく溜め息を付いた。
苛ついたように、グシャグシャと髪の毛をかく。
大雅は、物わかりが悪そうな奴を見つめた。
「俺の…持っていた荷物をどこに隠したか言うなら、お前の家に行ってやってもいい」
鋭い眼光で言う大雅。
探るような瞳には、冷静さが漂っている。
僕が教えたら、その死体を一生懸命隠すのかな?
僕から離れて、手の届かないところに行く?
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香澄は小さな声でそう言った。
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