上 下
9 / 16

9 複雑な立場

しおりを挟む
「第2王女」

時が止まる。
一泊置いて、わたしの身体は1センチ飛び上がった。

「考えごとか?勉強は?」

圧がある。
ほほえむ王子に、わたしは恐怖で固まった。
だが、味方かもしれないと思い直す。
だって、この国のスパイ学校に…
そう思ったが、お金がなかったら、自分の得になりそうなことならなんでもやりそうだなとも思った。

「今…読んでる。」

片手に持っている教科書を偽王子に見せた。

「へぇ、どこまで?」

その教科書を、第2王女から受け取り、開いていたページを見る。
パラパラとめくっている第一王子。

「…読んで感じたことは?」

ちゃんと読んでいるか確認したかった。

「この国は…酷いことをしたんだと」

暗く言う。
まるで遠い昔のように。
まだそこまで経っていない。
 
「君の祖先かもしれない。」
「祖先?酷い従者じゃなくて?」

教科書を受け取る。

「周りがした。
碌でもない政治家が操り、王を動かした。
言葉巧みに王を騙し……」

わたしは居心地の悪さを思い出した。
黙って聞いている。

「騙された方にも問題があると思わない?」

飄々と、笑顔で言っている。
わたしは…言葉を選ばなければならないと思った。

「言いたいことは……わたしに罪悪感を持って欲しいのか。
それとも…従者ごときに騙されない王になれとわたしに案に言っているのか。」

後者だろう。
言っている途中で分かった。

「どっちもある。」

綺麗な仕草で立ち上がる。
やっぱり王族の血を引いているとしか思えない。
乱雑さが一切ない。
これは覚えて真似できるものなのだろうか?
優雅で平和なところで育った、ゆっくりとした見た目だけ美しく見える所作。
庶民にはなんの意味も持たない所作だ。

「人のせいにし、全ての罪を誰かに被せられるのは、王族という歴史やイメージを守らなければならない人間の特権だが、わかる人にはわかる。
ここは………この国だと違うが、全世界からは非難轟轟に書かれているページだ。」

淡々と事実を言っているようだ。
わたしは静かに偽王子を見た。

なぜ、居心地の悪さをわたしが感じるのか、あとで自問自答したかった。

「決めたのは政治家だが、王にも発言権があった。
それを使わなかった。
数少ない特権だったのに。
それで、たくさんの他の国の人を犠牲にした。」
「……それで…わたしにどうしろと?
戦争のない世を作れと?」

わたしは静かに言う。
この男の意図が知りたかった。

「そこまでは言ってない。」

近くに座る。
ヒョイと座る様子は、豹のようだと思った。

「君は、王位継承権があることを自覚をすべきだ。
姉がいなくなったら、君が女王。
そんなことぐらいわかっていたはずだ。」
「あなたは…姉が戻って来ないと思ってるの?」

目がキラリと光る。
それが1番聞きたいことだったのだろう。

「さあ、ぼくには分からない。
ただ…」

近くに寄る。
女慣れした雰囲気を感じ、咳払いする。
甘い雰囲気にされるのを恐れた。

「ぼくがったとしたら、あんなに怒ると思うかい?
王位継承者でもない妹と結婚させられて、ぼくはとても腹が立っていたんだ。」

甘い声で言われる。
これは生まれつきだろう。
言われたことを考え、前の出来事を思い起こしてみる。

…確かに、あのときは静かに怒っていた。
大きな苛つきを、内面に隠していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

完 あの、なんのことでしょうか。

水鳥楓椛
恋愛
 私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。  よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。  それなのに………、 「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」  王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。 「あの………、なんのことでしょうか?」  あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。 「私、彼と婚約していたの?」  私の疑問に、従者は首を横に振った。 (うぅー、胃がいたい)  前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。 (だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...