婿に入ってきた野心家、巻き込まれてしまったわたし達

冬田シロクマ 

文字の大きさ
上 下
3 / 17

3 嘘つきな王子

しおりを挟む
嘘だ…
そう思った。
探す気もない、と。
言葉に無責任な男にはいくらでも会ってきた。

「もういいわ。」
「なにが?」
「探す気なんて端からないんでしょ?」

男は笑う。
わたしは不愉快だった。

「上の兄弟なんて、ぼくは邪魔でしかなかったけどね。
今は仲がよくてもあとあと自分の将来の障害になりうる。
きみのように、よく思いすぎてる人もね。」
「…わかったようなこと言わないでくれる?」

男に強く言う。

「夫となったからって人の心に踏み込みすぎよ。
それにあなたが言ってるわたしに関してのこと、ずっと間違っているわ。」
「そうだね。ぼくはきみのことを何も知らない…」

近づかれたので、わたしは拒否するように離れた。

「…ねえ、どこに行くの?」
「水を飲みに行くのよ。喉が乾いて…」
「取りに行かせれば?あっ、僕が取りに行くよ。」

優しそうに言われる。
わたしはなにが、「あっ」だ?と思っていた。
毒や媚薬でも盛るつもりなのか…と。

「…自分でできるわ。
従者を起こすのもかわいそうでしょ。 
起きてる人も、月夜を楽しんでいるかもしれないし」

ランプを持った。
王子は「へぇ」と言って、わたしの言葉を楽しんでいるようだった。
今の言葉のどこにおもしろ要素があるのかはわからないが…

「王女」

舐めるような言い方で言われた。
ドアに向かうわたしは立ち止まる。
ゾワッと鳥肌が立った。
落ち着いて、気をそらすことを言う。

「あなたも水がほしいの?」
「いいや?けど欲しいと言ったら僕のも持ってきてくれるのかな。」

笑いながら腕を引っ張られ、ベッドの上で覆いかぶさられる。
目にも留まらぬ速さで、わたしはポカンとした。
ニッと魅力的に笑う王子。
その表情に、束の間見惚れた。

「な、なに?」
「きみは…姉の方か?」
「え…?」
「本当に第2王女だとしたら、ぼくの聞いてる話と違いすぎる。」
「聞いてた…話?どんな?」
「性格が悪く、頭が足りない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?

下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。 異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

辺境伯令嬢が婚約破棄されたので、乳兄妹の守護騎士が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  王太子の婚約者で辺境伯令嬢のキャロラインは王都の屋敷から王宮に呼び出された。王太子との大切な結婚の話だと言われたら、呼び出しに応じないわけにはいかなかった。  だがそこには、王太子の側に侍るトライオン伯爵家のエミリアがいた。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...