37 / 41
過去へ行く途中で
しおりを挟む「え?もう行ったんですか?」
オスカーが、驚いて目を丸くする。
「どういうことです?過去へは、一緒に行く手はずだったじゃないですか」
すると、オスカーの目の前のシリウスが、目を細めて言った。
「あまりに遅かったから、ついさっきリアムたちが出たのさ♪
連絡も来てるはずだぜ?」
「……来ていますね。」
「え、じゃあ俺たちはどうすんだ?
過去への挨拶とかしないのか?」
俺が、心配そうにオスカーを覗き込む。
「いいえ、これから我々も向かいます。
そう、伝達が来ているので。
ーーところで」
オスカーが、ジロっとシリウスを見る。
「貴方はなぜここにいるのですか?
過去へはリアム殿のみのはずですが」
「お気になさらず♪
俺はオスカー管理長を送り届けるだけなので。目的地設定も終わりました♪」
シリウスが、なんとも読めない表情で、微笑んだ。
「ふん、貴方のことですから、何か企みがあるのでしょうが。
先に言っておきますが私は、貴方が大嫌いです。女性ばかり目にかけて!年寄りのくせに。
どーせ今回だって女性目当てなのでしょう?」
「良く分かりましたね」
少し驚いた様に、目を丸くして見せるシリウス。全く悪びれる様子がない。
このクソイケメンめ
かと思うと、
「りんご」
と言うと、りんごの肩を一方的に組むと、ニヤニヤして言った。
「お前、ミア皇女って知ってるか?」
「ミア皇女?
それって、パリス王国の皇女様だろ?」
りんごが言うと、大袈裟にため息をつく。
「なーんも分かってねえのな♪すげえ美人なんだぜ、あの子。
性格はちょっとやんちゃだけど♪」
「もしかして、見に行こうとしているのですか?リアム殿に何も言わず?」
オスカーの目が鋭く光る。
それを見て、シリウスがイタズラをする子供のような笑みを浮かべたときだった。
「ここにいた!!!」
「げっ」
大きな声とともに、ミシェルが入ってきた。入ってくるなり、シリウスの胸ぐらを掴み上げる。普段とは雰囲気が違った。
「なんだ、なんだ??」
「どうした、ミル♪お兄様になる人に対して」
シリウスが、目を細める。
「次そんな戯言言いやがったら、蹴り飛ばす」
珍しくミシェルが、殺気を帯びた目でシリウスに言った。
「ミアに手を出したら、やつざきにするからな」
「おーこわ♪
これは攻略のしがいがあるな♪」
ピュウッと口笛を吹きながら、笑う。
状況が理解できずに、りんごが尋ねる。
「話が読めねえのだけど?どう言うことだ?ミシェルもミア皇女を狙ってんのか?」
「も?」
ミシェルの瞳孔が開く。
「りんご、殺すよ?」
「あ、や…そう言う訳じゃなくて…」
珍しいミシェルの態度に吃り始める。
すると、オスカーが思い出したように、言った。
「そういえば、ミシェル殿は皇室の血を引いていたんでしたっけ」
その一言を理解するために、りんごは5秒考えた。
「はぁっっっっ?!?!?!」
ガタンッと驚きのあまり、後退りしエレベーターの壁にぶつかる。
「え、おまーーえ?!?!?!
もしかして、下の名前ローズブレイド?!?!あのパリス皇室のーーー?!?
よく見たら、ミア皇女に目元が似てーーええ?!?!」
「落ち着きなさい。私も初めて資料を見た時は驚きました」
オスカーが宥める。そしてシリウスに向き直った。
「つまり、このチャラジイが、妹を寝取ろうとしているわけですね。
私も害虫駆除、手伝います。」
「おれ、初めてオスカー管理長のこといい人って思った」
「ひどいな♪
みんなして、俺のことそんなふうに思ってたなんて。」
シリウスがわざとらしく、悲しそうな顔をする。
「だが、もう遅いぜ♪」
ーーピッ
ーーーガゴンッッ!!!
シリウスが、過去へのスタートボタンを押したのだ。
「しまっーーーーうわっ!!」
エレベーターが、過去へ向かって動き出した。窓の外の景色が、変わり出す。
「やられましたね。一度動いてしまえば過去に着くまで戻れませんからねぇ」
オスカーが他人事のように呟く。
「うう…ミアが…」
ミシェルは、エレベーターの隅にうずくまって頭を抱え始めた。
りんごは、コソッとシリウスに尋ねた。
「おい、そういえばどうしてミシェルだけ、皇室から追い出されたんだよ?」
「ミシェルの前でよくできるな、その話♪今までのくだり聞いてたか?
こーんなに、落ち込んでるんだぜ?」
「貴方が元凶なんですがね。」
呆れ返るオスカー。
「ですが、私も知りたいです。
なにせ、捨てられた、としか書かれて無かったのでね。」
「みんなおれにとどめをさしてくる…
しにたい…」
メンヘラモードに入るミシェルを、ガンスルーすると、シリウスが口を開く。
「生い立ちを話す前にだな。
ミシェルっていう名前、本当は女性ものっていうのは知ってるか?」
その言葉に、オスカーがうなづく。
「まぁ最近は男性も使う方が増えていますが、昔は女性名だったんでしたよね?」
「そう♪ミシェルの両親は、こいつを最初、女の子として育てたのさ♪だから、ミシェルなんだ。
髪も昔は長くて、可愛かったなぁ」
「突っ込みたいところはいろいろありますが、今は飲み込みます。
つまり、女性ではなかったため、捨てられたということですか?」
「大まかに言うとそうだ♪くっそくだらねえよな。
普通の親なら、そんなことはしない
国王と女王に会えばわかるさ。政治にも全く興味がない。だから、その周りが政権を握ろうと国王をうまく丸め込もうとしてるのさ。
ーー現に、過去のリアムが狙ってるしな」
シリウスが言うと、ミシェルがいつになく真剣な顔で言う。
「今のリアムなら五千歩譲れるけど、あの時のリアムは絶対に譲れない。」
「珍しいですね。ミシェル殿がそんなことを言うなんて。気持ち悪いぐらい、いつもリアム殿にべったりなのに」
「まぁ、あの時はだいぶ際どいことをやってたみたいだからな♪
会えばわかりますよ」
シリウスが目を閉じて、笑った。
「今から、会う過去政府関係者ってそいつらなのか?」
りんごが、言った。
「いいえ、違います。
ですが、過去のリアム殿の監視のためにパリスと、日本は行きますが、今回の挨拶は初代未来政府です。」
「初代未来政府?」
「ええ。貴方がいる1000年前は、今の未来政府の土台が出来上がった時代なのです。まぁ、番人がたの時代でもありますし、本格的に始動出来た時代なのです。
今回会うのは、ユリウス・バートンとカール・オズワルド。彼らがその基礎を築いた礎と言っても過言ではない。」
「つまり、俺の未来の上司となる奴らが偉い奴ってことか」
りんごが、意気揚々と言うと、オスカーがこれまでにないくらいの冷たい顔をする。
「まだそんな戯けたことを言ってるんですか?」
「え?りんご、未来政府で働きたいの?!」
ミシェルが驚いたように、言った。
シリウスも少し目を丸くしていた。
「これは、予想外だぜ♪」
「俺が入ったら、ビシバシ指導するから覚悟しとけよ、お前ら」
「楽しみだな♪
ーー苦労してるのが目に浮かぶけど」
シリウスが笑って、言った。
「カールは怖えぜ?少しでもミスしたらすぐ首が飛ぶ」
「ぞっっ」
りんごは、自分の首が飛ぶのを想像して、慌てて首をさする。
「ユリウスは、ハリセンだな♪」
「ハリセン?」
りんごが、顔を上げシリウスの顔を見た。
シリウスは昔を思い出しているのか、柔らかい表情になっていた。
「あれで、よく殴られたなぁ♪恐ろしく力がこもってた」
「特に女関係になったら、ブチギレてたよね。ユリウス、生涯独身だったから」
ミシェルも、思い出したように言う。
「……なんか、私が思い描いていた偉人とはだいぶん違ったようです。」
黙って聞いていたオスカーが、呆れてため息をついた。
「貴方がたも全く想像と違いましたし」
「そっか、まゆーーじゃない、オスカーさんはこいつらに憧れて入ったんだもんな」
「幻滅しましたけどね。もうこの老人どもに憧れなどないです。ですが、ユリウス殿とカール殿は、これからお会いするのが、楽しみです。」
オスカーがすこし興奮気味に言うと、ミシェルがポツリと呟いた。
「ユリウスとカールかぁ。
懐かしいな」
「2人は番人の、初の指導係だったのです。一緒に会議に出てる写真などもたくさんあるのですよ。」
フンと、自慢げに言うオスカーに、ミシェルがキョトンとして、いった。
「オスカー管理長って、やっぱりおれたちのオタクなの?」
「ふん!そんなバカな!ユリウス殿とカール殿に限っての話です。
貴方がたに至っては、今はただの老害だとしか思ってないです」
「ひっで♪」
シリウスが、ぼやく。しかし、オスカーが入社前からずっと時の番人に憧れを抱いていたのは知っていたため、こう言った。
「そうだ♪
これから少し時間もあるわけですし、昔話でもしましょうか?」
「え?いいんですか?」
オスカーがいつになく嬉しそうに、食い入るように見つめる。
「それでは、初対面の感想を教えてくださいっ!!」
「すげぇ張り切りようだな。ふつうにガチオタじゃねえか」
りんごが呆れたように言った。
「いいですよ♪じゃあ、教える代わりに今度、女の子紹介してくれますか?あ、合コンとかいいな♪」
「はぁ?貴方に紹介する女性なんてーーー」
オスカーが食ってかかろうとすると、シリウスが悲しそうな顔で言った。
「じゃあ俺から話すことは何もないです。あーあ、せっかくマル秘エピソードを話そうと思ったってのに♪
釣れねえのな」
「すみません、やっぱり紹介するので教えてもらっていいですか?」
態度の豹変に、呆れるりんご。
「すんなり、仲間を売りやがったよ」
「よし!じゃあ、コンパってことで♪」
シリウスが、満面の笑みで言った。
「楽しみだなぁ♪」
「それよりも、お二方のお話をーーー」
ーーーガゴンッッ!!
エレベーターが、止まった。
過去へ着いたようだ。
「あ♪無駄話してるうちに、着いちまったな」
「いえ、あのーーー」
「さぁ♪行くか」
「シリウス殿っっ!!」
オスカーが、耐えられず叫んだ。
「着いてしまったなら、話は別です♪
あまり時間にって言ったはずですよね?」
シリウスが、にたぁと笑う。
「ほらほら、行きますよ」
オスカーが、憤慨して、顔が真っ赤になる。
可哀想になってきた
いっつもこうして、いじめられてるんだろうな
りんごが、そう心の中で同情すると、チラッと外を見た。
もう、当たりは真っ暗だった。
そりゃそうか、学校終わって放課後になってたんだから。
初代未来政府…
一体、どんな奴らなんだろう
エレベーターの扉が開く。
ーー俺たちは、この時はまだ過去がどれほど深刻か、想像もしていなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる