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オスカーの胸の内
しおりを挟むーーーーードサァッ
「死ぬがど思っだ…っ。
Gのレベルがシリウス以上…っごほっ!
やべ、吐きそ…っ」
「これだから、ヒヨッコは。げほっ!
ーーしゃんとしてください。ここからが本番なんですから。」
オスカーの言葉に、りんごが重々しく顔を上げる。
「ここは…?」
気がつくと、先程までの学校の面影はなく、大きな建物の前に二人は立っていた。
りんごが怪訝な顔で、首を傾げる。
「病院?あれ、おかしいな。兄貴は刑事で、警視庁にいるはず…」
りんごたちは、中央病院と書かれた大きな建物の前にいた。賑わっているようでガラス張りの病院内には、多くの人が診察のために待っているのがわかる。
すると、オスカーがどこからか分厚い本を取り出してパラパラとページをめくっていく。
「なんだ、それ。辞書よりもでけえし、分厚いんだな」
と、本を覗こうとするりんごを押し除けて、オスカーが小馬鹿にしたようにせせら笑った。
「この本は一般人の貴方には、教えられない極秘の内容が載っているんです。見たければ、せいぜい勉学に励みなさい」
「ちぇっ、頭硬えな。
ーーと見せかけて隙ありっっっ!」
オスカーにりんごが強引に、体当たりをかます。
「ぬっ?!ーーやめ」
オスカーがよろめくと、その拍子に、本の中からある紙が落ちる。
「ちょっと!!ーーったく!これだからバカは!!
もう!!あれほど紙は嫌だと言ったのに!重いし、嵩張る!!あのラフテル爺さまも考え方が古い!」
オスカーがヒステリックに愚痴を吐き捨てているのをいいことに、りんごがそっと紙を拾い上げる。
これ。
拾い上げたのは写真だった。
5歳くらいの男の子が写っており、無表情にこちらを見ていた。首輪をつけており服もボロボロだったが、はっきりと今の面影があった。
「ノア…?」
りんごが呟く。
「何で首輪なんか」
珍しく眉を顰めるりんごに、オスカーがふぅ、とため息を漏らした後、うやうやしく説明を始めた。
「それは、この時代のノア殿です。私も最初見たときは信じられませんでしたよ。
今では番人は、それはもう楽しく隠居生活を送っていますが、幼い頃のノア殿は身寄りがなく、物心ついたときからサーカス団で暮らしていたようです。その時の写真のようですよ。
昼間は、楽しそうなサーカスが。しかし夜な夜な、当時奴隷だった子供たちを戦わせて賞金をかける残虐な殺し合いをさせていたのだとか。ノア殿は、その奴隷の子供の一人だったのでしょう。」
「…っ!ひでぇ話だな。まだ子供に…。最低だ」
りんごが顔を顰める。
「彼は昔から人一倍強かったそうです。だから殺し合いという過酷な環境でも生き延びれた。
サーカス時代でも、歴代最強の子供と謳われていたそうですし」
と、いったところでオスカーは心の中でつぶやいた。
こんな子供時代なら、社会を恨んで育ってもおかしくはない。しかし、知り合って3年ほどですが、未だに怒った姿を見たことがない。
番人だけの前ではまた態度が違ったものかもしれませんが
殺し合いをさせられてた過去を持つと言うのに、あれほどの優しさの塊は見たことがありません。
と、オスカーはまた、分厚い本に目を移す。
1000年という長い年月を生きていたせいでしょうか。もしかすると、この時代の彼は少しは違うのかもしれません
そういえば、ここへ来る前にラフテル殿が言っていた言葉の意味もまだ理解できないままです。
と、過去へ来る前に、許可証や注意事項を聞くためにラフテルの元へ寄っていた際の会話を思い出す。
ーーーーーーーーー
『ああ。最後にーーオスカー。』
ラフテルが出ていこうとするオスカーを呼び止めると、意味ありげに言った。
『なぜお前が、選ばれたのかわかるか?
優秀じゃが、5人の中で1番若く、経験も少ないのに、じゃ。』
その言葉にムッとした顔をするオスカー。
『気分を害したのならすまん。
しかし、これは事実だ。
ではなぜ、選んだのか
ーーそれは、お前に期待をしているからだ』
『期待、ですか?』
眉間にシワを寄せたままのオスカーが尋ねると、ラフテルはゆっくりうなづく。
『そう、期待だ。
しかし、お前が彼らを毛嫌いしているのもよく知っている。彼らにもちょくちょく、おちょくられているようじゃしな。分からんでもない。
じゃが、この件でお前は多くのことを学び、気づくことになるじゃろう。時には、聞きたくないことも。
ーーーお前は、彼らのことを全て知った時、何を思うだろうな?
探究心の強いお前のことだ。きっと全て知り尽くすまで終わらせはせんだろう』
『………』
『自分の目でみたことだけを信じなさい。真実の多くは、身近なところに隠されているものだ。
ーーなぁ?リアム』
なぜか、オスカーを見てラフテルが言う。
『?
ここには、リアム殿はいませんが』
『ふはは、そうであったな。失礼。」
そういうと、ラフテルは珍しく笑い声を上げ、近くにあった椅子に腰掛ける。そして、オスカーを何とも言えない表情で、真っ直ぐに見据えた。
「オスカー。
お前は私情を挟むこともあるが、いつも公平に物事を見て考える力を持っていると思っている。だから、選んだのだ。
そしてきっと、お前は大切なものの真実にたどり着くことになる。
ーーそのことに気づいた時ーーおっと、いかんいかん。
先に答えを与えてはダメじゃった。まぁたとやかく言われるのぅ』
『?
誰にーー?』
『ふふ、誰にかは、そのうちわかる。
わしは昔からお前のことは聞いていた。
オスカー家にようやく秀才が現れた、とな。』
『ーーーーー!!』
それを聞いて、オスカーの表情が固まった。
『それを言ったのは一体誰ーー』
『ああ、もう時間じゃ。』
と、ラフテルが大きな砂時計を見ながらわざと遮るように言った。
『無駄話はここまでで、もう行け。日が暮れてしまう。真実を見極めに』
もうそれ以上、ラフテルが口を開くことはなかった。
遮られ、最後の最後まで、納得できずに部屋を出るオスカー。
ーーーーーーーーーーーーー
首相殿の最後の言葉…
私の家の事情を知っていたということは代々伝わっている伝承も聞いているということーー
戻ったら詳しく聞かなければーー
ーー真実は近くに
私が気づいていないヒントがあったのでしょうか?それに、彼らの過去を全て知る、とは一体。この資料にのっていることが全部ではないのでしょうか?
はあ、知っているのなら教えてくれればいいのに。全く
近くとはーー
「それで?」
りんごの問いかけでふと我にかえる。
「それで、とは何ですか?」
「いや、あんたはあいつらの過去を聞いた時、あいつらに対する考えが変わったのかなって」
「ーーーー。」
ラフテル殿と同じことを言いますね、このガキも。バカだと思っていましたが思ったより鋭い
「ふん、ガキのくせに生意気な」
「あ?やんのか、
まゆげーーーーーうぐっっ!」
「ふふん、見逃しませんよ。」
にたぁと笑いながら、りんごを見て勝ち誇ったかのように目を細めるオスカー。
「まじで、大人げねぇ」
りんごが、涙目で頭を押さえ、最大限の皮肉をいう。
「ふん。何度も言ってるでしょうが。貴方こそ歳上に対する礼儀がなっていない、と。
そんな話よりもお兄様とノア殿はーーー」
と、いったところで二人の耳に、聞き慣れた男の声が聞こえてきた。
「また来てくれたんだ♪嬉しいな
ーーもしかして、診察じゃなくて俺に会いに?」
その甘ったるい聞き覚えのある声に、オスカーの眉がピクッと痙攣する。
「ん、診察?ざーんねん♪
どこが痛いの?向こうで詳しく聞かせてくれよ♪」
りんごも、オスカーも冷めた顔でしばらく黙って立っていた。
「はぁ。ノア殿から、と思っていたんですが、1番厄介な相手からになるとは。
この甘ったれた声、間違いなく、あのチャラ男ですね。」
オスカーが観念したように、見ると、病院のドアの前で白衣を来た、やはり見覚えのある銀髪の男の後ろ姿が見えた。
「ちっ。あのふしだらな性格は天性のもののようですねぇ。ふん、私よりも年下のくせに生意気な」
「おっさん、それ私怨が混じってんぞ」
「おっさんって誰のことですか?」
「言い間違った、オスカーさん。」
「………。」
納得のいっていないオスカーに、構わずりんごが茂みから様子を伺う。
にしても、シリウスのやつ相変わらずだな、まじで
俺が初めて未来に行った時も、ナンパとか言って俺を見捨てやがったし。
あれ、なんか腹立ってきたな。許せねえっっ!
右も左もわからん可愛い俺を…っ!あのやろう!
「あの野郎、まぁた、女とイチャイチャしてんぜ。まじで、腹立つな」
「それな、ムカつくぜ。イケメンは滅びろ」
と、言ったところで、オスカーの声ではないことに気づくりんご。
あれ?じゃあ、隣のやつは一体誰だ?
ーーこの横顔、どっかで
「ーーて!!兄貴?!」
隣を振り返ると、なぜか兄の拓哉が同じく茂みに入って、シリウスを見ていた。
「りんごーー?!」
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