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オズワルトの本当の真意

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一方その頃のドーフィンたちへ移る。

ドーフィンは黄金の階段をフィルムに収めていた。

すごいわね、これ。本物の金よ!
…少しくらい持って帰ってもバレなそうだわね。

ーーいや、カイルちゃんはめざといからすぐに気づきそうね…

やめておきましょ。


ーーあら?


気がつくと黄金の階段を登り切っており奥に部屋があることに気づいた。

その扉はこの時代では珍しい木の扉で、半開きになっている。中に人の影があった。


恐る恐る隙間から覗き込むドーフィン。

その光景に、思わず息を呑む。


部屋の中には奥に窓があり、そこから日の光が差し込んでいた。
そこにたっている人物の栗色の髪と目から溢れている水滴が光に反射し、美しく光り輝いていたのだった。
両手を胸の前で握り締め、涙を流していた人物はノアであった。

原始的で神秘的な光景にドーフィンはしばらくの間突っ立っていた。


「誰?」

ふいに、鋭い声が聞こえる。見ると、ノアがこちらを見て眉を顰めていた。
気を取り直したドーフィンがニコッとウインクする。

「あら、お邪魔だったみたいね。ごめんなさい、ノアちゃん❤️」


時の番人ってまじで歳的にはジジイだけれど見た目は若いから心臓に悪いのよねぇ。

しかも、ノアちゃん天使のような優しさを持ってるから気を抜いたら一瞬でKOだし。今の鬱陶しそうなお顔も素敵だけどね


しかし、ドーフィンの期待を見事に外した。


ーーーバキッ!!!


「はーーー」


気がつくと、ドーフィンが片目につけていたフィルムがノアに握りつぶされていた。

全く笑顔にならないノアをみて、ドーフィンの背中に冷や汗が流れ落ちる。
ノアが眉をしかめながら言った。

「撮られるのは好きじゃない」


「あ…そう…よね」


天使のような優しさは?!どこに行っちゃったの?!?!あの愛くるしい笑顔はどこなのよ?!

「ノアちゃんもしかして、機嫌が悪い?アタシのせいよね、ごめんなさい。でもいつもの笑顔がみたいわ」


オロオロと慌てるドーフィン。ノアの頬を触ろうとするものの、呆気なく振り払われてしまう。さらに、ノアの機嫌が悪くなる。

「邪魔だってわかってるならさっさと出て行って」


「ーーー!!のあ…ちゃーー」


ノアに冷たくあしらわれ、理解が追いつかないドーフィン。心が折れかけたその時、背後からオズワルトの声がした。

「これがノア様の素なんですよね?」


「ーー!!

オズちゃん!」

藁をもすがる思いでオズワルトを振り返ると、オズワルトがニコニコ微笑みながら立っていた。

ノアの眉間は相変わらず歪んだままなのを確認してオズワルトに尋ねる。

「素?じゃあ、いつもの可愛らしい笑顔はなんなのよ?まさか、二重人格とでもいうの?」


「そんなものですよ。任務時間になると性格が変わるんです。ま、普段は任務中なので見たことないのも無理はないですよね」


「なんでアンタはしってんのよ」


「僕は裏方の仕事なので。皆さんのことならなんでも知ってますよ」

冗談か本気かわからないオズワルトに眉間にシワをよせる。それから、ドーフィンは不機嫌なノアをチラッと見やり、吐き捨てる。

「あーあ。別にこの部屋で特にみたいものなんてなかったし、いいわ」


と言い、部屋を出て行った。
残ったオズワルトに怪訝な顔をしながらノアが尋ねる。

「何?俺に何か用?

たしか、グレン・オズワルトだったよね?ルイの息子」


「おお、覚えていただき光栄です。僕の代ではあまり交流がなかったので覚えていただけてないかと思っていました」


「ルイがよく話してた」

ルイという言葉を聞くと少しだけオズワルトの目の下が痙攣した。

「それでーー用事は?」


「ああ!そうでした。
過去が変わってしまったこと、どう思われますか?」


「…。どう変わったのか全貌すらも掴めてないから、なんともいえない。
ーーでも懐かしい人たちに会えるのは嬉しい。こちらの顔は明かせないにしても。ケニーと、ユリウスーーーーそれにカールも」


「カールって、時の番人に初めて会った初代のオズワルトでしたっけ?」

オズワルトが笑顔で尋ねると、ノアがうなづく。そして、吐き捨てるように言った。

「そう。時の番人プロジェクトで俺たちを殺そうとした野蛮人」


ノアの返答に笑い声をあげるオズワルト。
「すごい覚え方ですね、それ。

ーーですが納得です。初代オズワルトであるカールはーーー」


「でもーーー…いいやつだった」


「ーーーー」

オズワルトの話を遮るようにノアが懐かしそうにフッと笑いながら言った。
それを見て、心底驚いたようにオズワルトが目を見開いた。

「いいやつ…ーーーですか」

ノアがうなづき、続けた。

「俺たちを殺したくてたまらないって感じだったけどーーーなんだかんだ最後まで面倒をみてくれた。それはーーー感謝してる」


オズワルトの目の下がまた痙攣する。そして、拳を握り締め、真顔でボソッと呟いた。

「それは、あの人にとって特別な存在だからーー」


「何?聞こえなかった」


ノアがこちらを見て尋ねる。

「いえいえ!独り言です」


「…?そう」



「それよりも!ノア様は元はサーカス団の見せ物だったのですよね?そこからケニー・ブラウンに拾われたんだとか」


「ーー知ってるなら言わないで」

明らかにウザそうな素振りを見せるノアに慌てて食い下がるオズワルト。

「待ってください!ーーサーカス団の前は何をしていたんですか?!」


「ーー知らない。小さかったから、覚えてない」


「本当ですか?」

黙ってオズワルトに背を向けどこかへ行こうとするノアの袖をつかんだ。

「しつこい。覚えてないってーー

ーーーーーっ?!」


ノアの言葉が突然止まる。
オズワルトの手にあるものを見て言葉を失っているようだった。
ようやくオズワルトが余裕を取り戻して、微笑む。

「ようやく聞く気になってくれたようですね」


「ーーーそれ、どこからーー」


「ああ!これですか?初代カールが残していた端くれです。他の番人の資料とともに保管されていました。」


「カールーー?」

ノアの頬に冷や汗が流れる。オズワルトの言葉を理解できないでいるようだった。
彼の手には幼い頃のノアが笑っている写真があった。まだ幼く五歳にも満たない歳のようで、明らかにサーカス団に引き渡される前の写真である。服装もキチッとしていて、幸せそうな笑顔だった。
写真の上にペンで走り書きがしてあった。将来は素晴らしいアルフォンスになるだろう、と書かれている。ノアの胸には誇らしげにバッジがつけてあった。未来政府のシンボルである砂時計のマークだった。

「それを見る限り、もともと未来政府の関係者だったようですよねぇ。あ、もしかしてやらかして追い出されたとか。」


「覚えてないーーー」


わからないーー
サーカス団の団長からはゴミダメに捨てられていた、としか聞いていない。

なにより、俺自身が全く覚えていないーー


ふいに、ノアの脳裏に記憶に関する取扱い上の注意を思い出した。


ーーー記憶を抜き取ったら、その前後の記憶は一切なくなる。抜き取られた者は記憶にぽっかり穴が空いたような状態となり、なにも覚えていない。ーーー


もしかしてーー
記憶が全く思い出せないのも、そのせい?
記憶を抜かれたからーー?
アルフォンスって…聞いたことない

ノアが眉を歪めながら頭を抱え考えているのを見て、オズワルトがにたぁ、と楽しそうに笑う。そして、ノアに助言した。

「思い出せないなら、実際に見てくればいいのでは?

ーー時を超えてね」


「ーーーー!!」


「幸か不幸か、その時代の歴史が変わってしまっています。しかも貴方たち時の番人がキーワードでね。

これは、チャンスじゃないですか?あわよくば本人に聞けるかもしれませんし」


「…本人ーー?」

これまでに見たことない顔でオズワルトがニンマリ笑う。

「まだ、生きている時代ですよね?

ーーー本当のご両親も」

オズワルトの言葉にノアの目が見開く。


ふっふ。
この動揺具合、うまく行っちゃったね。

ノアは家族のように育った時の番人への想いは表情や行動には出さないが一番強い、とカール見聞記録に書いてあった。
さらに、それは本当の両親を見たことがないからだ、とも。

そこの部分を突っついてやれば、すぐに崩れる。


にたぁとうすら笑いを浮かべるオズワルト。

ーーカール…

時の番人に初めて会う初代オズワルト。

歴代1の秀才だときいた。冷酷無慈悲な冷たい人間だとも。


僕も秀才だと言われてきたが、何度も何度も、こいつと比べられてきた…っ!
今は死んでいるジジイと!


ふいに、父であるルイの言葉が蘇った。


『お前は何も分かっていない。こんなことでは家業を継がせられそうにない。

あんなに初代カールの生まれ変わりだと信じて大切に育ててきたがーー


ーー期待はずれだったようだ』


ぐしゃあっ!!と持っていたノアの写真を握り潰す。ノアは頭がいっぱいでこちらのことまで見れていなかった。ホッと胸を撫で下ろす。


まあ、いいね。
今回見張り役に選ばれるとは思っても見なかったけど、これはいい…っ。
カールに接触ができる

ーー時の番人にもーー!


また、オズワルトが幼い頃の父との会話を思い出した。

『見てみろ、あれが時の番人の方々だ。全員、互いの絆が強い。だからどんなにピンチが来たとしても乗り越えられるんだよ。全員、優秀でね。代々オズワルトが管理をしているんだ。カールが残してくれた優秀な方達だ。彼らを誇りに思うよ。お前もいつかあんな風になるんだよ』


『うん』


『ああ、あの方達の元で働けて私は幸せだよ。いっそ息子だったらどんなに喜んだことか!』

父の目には僕なんか映っていなかった。秀才だと褒められた時も、時の番人へ自慢ができると、初代へ顔向けができるしか言わなかった。逆に出来ないことがあると、彼らなら出来たのに、と嘆く。

事あるごとに比べられ続けた僕は劣等感の塊として育った。時の番人を見るのも父を見るのも苦痛だった。

なんでも出来る優秀な時の番人ーー

秀才だった初代オズワルト、カールーー



幼いながら、僕は思った


ああ、邪魔だーーーと。




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