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最終話
しおりを挟むーーー4年後
「あー緊張するわ」
あたしは、未来政府の新入社員として、祝辞を受けていた。
メールで未来政府のことが書かれていた。
最初は、バカみたいな名前に、詐欺かと思った。
でも自然と手が応募するって言うボタンを押してたの。なんか、魂が叫んでいるような、そんな不思議な感じ。それで、あたしは入社を決意した。自分でも変だってわかってたけど。
幸也にも来てたみたいで、あたしたちは一緒に、面接に行って、合格した。
合格した時は、胸のつっかえがとれたような、そんな感じ。条件もいいし、思ったよりもホワイト。
本当によかった。もう、就職で悩まなくていいんだ
しかも、気のおける幸也とも一緒だし
目の前の壇場で、変わった制服の偉そうな男が、これからのことを説明しはじめた。
どうやらこれから、時の番人っていう人と会うらしいーー
伝説と言われた存在らしくて、見たことある人は、本当に少数らしい。過去と未来を行き来できる存在で、彼らがいつ誕生したのか、誰もわからない。
全員で7人らしいけど、今回何人来るかは、分からない。
新入社員の何人かは知ってるみたいで、興奮と熱気が会場を包みこんだ。
「おう!2人とも」
そばで聞き慣れた声がすると思ったら、壇場の男と同じような制服に身を包んだ水無瀬が笑いながら立っていた。どうやら、水無瀬はあたしたちよりもっと前に、ここに就職してたみたい。
「つか、あんたここに就職してること、事前に教えなさいよね!就活のせいであたしがどれだけ悩んだと思ってるのよ!」
「かおりん、いたいって!
てか、説明受けたろ?この仕事はほかに知られちゃまずいんだよ」
「そうさ。水無瀬も悪気があるわけじゃねえよ」
幸也も、水無瀬を庇うように言う。
「そうかもしれないけど!
あたしが、就活で散々落ちてたの、知ってたでしょ?」
あたしが、不貞腐れたように言うと、水無瀬が読めない表情で、言った。
「ああ、そのピアスのせいだろ?」
水無瀬が、あたしの耳についてる砂時計のピアスを指差す。すると、幸也が面白そうに喋り出した。
「こいつ、就活の面接もこれつけていってんだぜ?これ聞いた時、まじでバカなんじゃねえかとーーー」
「う、うるさい!!黙りなさいよ!!」
「バッカだなぁ!かおりん。
そりゃ落ちるに決まってるだろ」
「水無瀬まで!!
別に、あたしの勝手でしょ?!外したくなかったの!!大事なものだし!!」
「就活よりもか?お前、面接官の気持ちになったことーーー」
「あー!!もう!!!うるさいわね!!この話は終わり!」
「かおりんの強引なところ、ホンット高校から変わってねえよな」
水無瀬が愉快そうに目を細める。
「そういえば、かおりんのそのピアスって高校の時からつけてたけど、誰からもらったん?」
水無瀬が、読めない表情であたしに聞いてきた。
「これは、大切な人からーーーー」
あたしはすぐに言葉に詰まる。
大切な人ーーー
…って、誰だっけ?
そもそも、あたしはこんなもの、いつから付けてた?
あたしが、難しい表情のまま思い出せずにいると、幸也が吹き出した。
「ぶはっ!知らねえで付けてたのか?大切な人からもらったのに?
そんな中途半端な気持ちで、よく面接に付けていったわ、まじで」
「うるさい!!次笑ったら、叩くわよ?!今日は調子悪いだけなのよ!!」
「おー、怖い怖い。
おい、水無瀬もなんか言ってやれーー」
「かおりん、忘れたはないぜ。
今頃、泣いてるだろうな。その人」
「うるさいわね。てか、あるでしょ?
思い出しそうで出せない時」
「ねえな」
「俺もないね」
あたしは、2人の息ぴったりな言葉に、思い切り足を蹴飛ばした。
2人とも、蹴られたとこを押さえながら、しゃがみ込む。
言い様よ
「そういや」
しばらくして、思い出したように、幸也が話し始める。
「高校の時、なぜかショッピングモールで俺ら倒れてたことあったろ?
未だに、なんで倒れてたか、よく思い出せねえんだよな。水無瀬が俺らが倒れてるの見つけてくれたんだったよな?」
幸也の言葉に、あたしも倒れてたことを思い出す。
「あったわね。そんなこと。なんでだろ」
記憶に白いもやがかかっているような感じで、思い出そうとすると、なぜか何も考えられなくなる。まるで、意図的に記憶に鍵がかかってるみたい。
「貧血だったんじゃね?つか、昔のことすぎて、俺あんま覚えてねえわ」
そういう水無瀬の顔は、少し寂しそうな悲しそうな、そんな顔だった。
そういえば
「そういえば、砂時計のピアスもそのあとからし始めたんだった」
そう。それだけはなぜか鮮明に覚えてる。
誰から貰ったのか、わからないけど、それだけは忘れちゃいけないって魂が叫んでた、みたいな?
「ショッピングモールで、お前が自分で買ったんだろ。大切な人からとかいてえやつだな」
「違うわよ!」
違うのよね…?
なんか自分の記憶に、自信がなくなってきた。もう!なんで思い出せないのよ
あたしたちが、喋っていると、ふっと、微かにキンモクセイのかおりがした。
キンモクセイ……?
会場の、真ん中の扉が開く。
途端に、会場にいた人たちが、一斉に立ち上がり熱気と興奮と共に迎えた。
時の番人がきたのだと、すぐにわかった。
3人たっているのが、見える。
青い煌びやかな軍服に身を包んだ、自信に満ち溢れた金髪の男と、少し背の低いオレンジ髪の笑顔の男、そしてーーー
ーーーもう1人は頼りなさそうな白髪。
まるで、漫画のようにみんな、容姿が整ってて、幸也も、あたしも、会場にいる人たちも、3人の容姿を、食い入るように時の番人を見ていた。
3人とも、タイプの違うイケメンって感じ。まさに、生ける伝説ーー
ーーそう思って興奮していると、金髪の男と一瞬、目があった。
金髪の男が、フッとあたしに笑いかける。
あたしは、驚いて、目を見張る。
時の番人って、伝説的な存在なんでしょ?
そんな人があたしのことなんか、認識してるはずないわよね?
思った通り、それは一瞬のことみたいで、すぐに他の番人の方を見て、喋りはじめた。
やっぱり、気のせいよね
「あれが、時の番人か。
なんか、会ったことある気がするな?自分でもよくわからんが」
幸也が言う。でもあたしは、さっきのこともあってか、なぜか番人から目が離せずにいた。
「うう…人がいっぱい」
白髪の男が、オレンジ髪の男の後ろにこそこそと隠れながら、漏らす。
「気色悪いので、離れてくださいー。」
オレンジ髪の男が、笑顔で言った。
「その前にお兄さん小さいから、ミシェル隠れられないでしょ」
金髪の男が、バカにしたように、言う。
「今カチンときましたー。喧嘩売ってるんですか?リアム」
「あれ?気づいた?」
「この、愚弟が
今日という今日は許しませんーーー!!!!
ーーて、どうしたんです?ミシェル?」
オレンジ髪の男が素っ頓狂な声で、べつのところを見てる白髪の男に言う。
白髪の男は、なぜか、あたしたちの方を見て、驚いた顔で固まっていた。
ドクンッ
あたしの心臓が、鳴り出した。
なんだろうーーーあたしの魂がなにか叫んでる気がする?
ーー何を?
そう思った時だった。
白髪の男が、他の番人から離れて、あたしたちの方に近づいてきた。
オレンジ髪の男は、怪訝な顔で白髪の方を見つめてたけど、金髪の方は、何かを悟ったように、柔らかな笑みで見つめていた。
「それ、おれと一緒だね」
いつのまにか、白髪の男が、あたしたちの目の前にいて、屈託のない笑顔で、あたしの耳についてるピアスを指さす。
白髪の男の耳にも、片っぽだけ、あたしと同じピアスがついていた。
砂時計のピアス。
就活中も、意地でもずっと離さなかったのは、さっきの会話で丸わかりだけど。
そのせいで何社も落ち続けた
ホントだ。一緒ーー
あれ?なんでだろう。
「あれ?そのブレスレットーー」
幸也も、何か感じるものがあったのか、白髪の男の腕のブレスレットをまじまじと見つめた。
「ああ、これ?」
男が、ブレスレットを触りながら言った。
「貰ったんだ。大切な人から。」
水無瀬は、なんとも言えない表情で黙って見つめていた。
大切な人か。あたしと一緒だ
でもあたしは、誰から貰ったのか、全く思い出せないーー
でも、大切な人からーーー
そう思った時、男が、柔らかい春風のような笑みを浮かべて、あたしに言った。
「このピアスはね、初恋のひとにあげたんだよ。」
その言葉に、キンモクセイの香りが、一気にあたしを包み込んだ。懐かしいかおりがする
男のもう片方の耳には、キンモクセイのピアスがしてあった。
さっきの微かなキンモクセイの香りは、このピアスからだったんだ。
何かを思い出しそうな…まるで、この香りが、今という未来を繋いでくれてるような…
キンモクセイの花言葉は、初恋ーー
その瞬間、鍵がかかってたはずの記憶の扉から、思い出という記憶の砂が一気に、流れ込んできた。
砂時計のピアス。
そうよーー!!
あたしは、ハッとして顔を上げた。
「ミシェルーー」
「やっと会えたね」
男が、照れ笑いのような笑みであたしに向かって笑いかける。
「待ってたよ、かおりちゃん」
ーーあたしのあげたキンモクセイのピアスは、大切な過去と未来を、繋いでくれてたみたいだ
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