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第四話 マク側の想い。
しおりを挟むおれーー野亜池 真久は、悩んでた。
悩むことは、学校に来る前にもあったけど、こんなによくわからないのは、はじめてだったから。
昨日は、結局、かおりちゃんは目も合わせてくれなかった。ゆきやとみなせに言われて、おれは本当にどうしたらいいか分からなくて、学校が終わってからも、一日中考えていた。おかげで、眠れてない。
「はぁ。時間もないっていうのに」
おれは、スマホの日付を見てぼやいた。
かおりちゃんは、おれが初めてこの学校に来た時からずっと一緒にいてくれた。
ゆきやからもよく守ってくれるし、この世の中のことも教えてくれる。それで、おれがどれだけ助かったか。今では、一緒にいないと落ち着かないくらい、おれはかおりちゃんを信頼してる。このまま、何事もなく最後の時間が来て、別れるのだと思ってた。
でも、違った。
このごろはかおりちゃんの機嫌が悪くなる日々が多くなる一方だ。最近は特にひどい。
前までは、機嫌が悪くても、話し始めてその数秒後にはケロッと治ってた。黙ってどっか行ったことなんてない。
「なにに怒ってるんだよ……」
昨日も、仲直りに失敗した。
おれ、結構本気で走ったのに……
「ミシェル」
思わず泣きそうになっていると、懐かしい声が聞こえた。おれの本名を知ってる人で、この声なんて、1人しかいない。
「ユリウス!」
振り返ると、予想通り、後ろで一つに縛った、滑らかな黒髪を持つユリウスが、倉庫の中に、ハリセンを持って立っていた。ユリウスは、おれの本当の上司。未来政府に所属する結構偉い人で、この時代を選んだのもユリウスなんだ。ていうか、ゆきやたちに言ってた内容は、全部本当なんだからね。
懐かしすぎるのと、悩んでるのと相まって、おれは勢いよく飛びつく。
「?! 苦しい!何をする!」
抱きついた瞬間ユリウスが、苦い顔でおれを押しのけた。
「いいじゃんか!久しぶりなんだからさ!!」
おれの言葉に、ユリウスは呆れたように言った。
「本っっ当に、何も変わってないな。お前は
リアムなんか、過去へ行って人が変わったようになったから、お前にも期待したんだが、期待はずれだ。全く」
ユリウスがやれやれと、頭を抱える。
ーーおれはユリウスにも悩みを打ち明けることにした。
「けんかぁ?!」
話を聞いたユリウスが、オーバーリアクションで言った。
「そんなクソつまらんことで悩んでるのか?
バカなのか?お前は。本分を思い出せ。本分を!過去が変わってないか、一ヶ月で確認するのがお前の役目だろうが!それも、あと3日なんだぞ!!そんなくだらんことに、時間を使ってる場合か!!」
「おれにとっては、本分よりも大問題なの!あと3日だからこそだよ!!このまま避けられるなんてつらい!!」
おれが泣きそうになってたから、しばらくユリウスは、何かを考えてた。そして、顔を上げるとドヤ顔でおれに、言った。
「ふん、女子というのは、気分屋だ。しばらくすればまたケロッと元に戻るから、安心しろ。」
「独身のくせに。っていうかおれ、ユリウスがプライベートで女の子と話してるの見たことないよ」
「お前、一旦叩いていいか?
ーーいや、私の方が本分を忘れるとこだった。いかんいかん。」
ようやく、ユリウスが真剣な顔になる。
「まぁ、お前に伝えるまでもないかと思ってたんだが、一応、な。私は連絡のためにここへ来たのだ。
ーークーデター軍がこの時代に来ている。」
「え」
おれは、驚いた。
クーデター軍って、歴史を変えようと企んでる奴らのことでしょ?
おれたちが、過去を守るのと、真反対の存在。
でも、所詮は人間だから、能力を持つ俺には、全く相手にならないんだけどね。
「お前は、今リングをしているから、力を出せない。やつらと対等な力になる訳だ。
普段なら気にも留めることはないんだが、能力が使えないのなら話は別だ。
まぁ今、リアムが過去へ来てやつらを探しているから、心配はいらんが」
「リアムが!」
その言葉に目を輝かせたけど、ユリウスがすぐにおれの期待を打ち破った。
「言っておくが、お前とは接触しない。
せっかく、お前は過去で一ヶ月過ごすんだからな。気が散ってもらうと困る」
「ちぇっ」
おれが不貞腐れたように言うと、ユリウスが念を推すように言った。
「いいか?やつらをみたら、すぐ我々に報告するんだぞ。今のお前じゃ、互角どころか、武が悪い。
リアムがお前のカバンに通信機を入れたそうだ。それで連絡を入れろ。分かったな?」
「え、かおりちゃんのことは?」
おれの声が裏返ると、ユリウスが言う。
「知らん。
だが、一つだけアドバイスするならな、女子は気分もあるが、噴火する前から、その原因を相手に仄めかしてる。心当たりがあるなら、それを変えてみるこったな」
「付き合ったこともないくせに」
と言った瞬間、ハリセンで思いっきり、叩かれた。
「黙れ、若造が。
少女漫画で、学んだんだよ!悪いか!!
じゃあ、あとはお前ががんばれ」
半ばぶっきらぼうに言うと、ユリウスの姿が消えた。
未来へ戻ったんだ。
「その前からかおりちゃんがおれに言ってたこと……」
おれは頭をフル回転させた。こんなに頭を使ったのは、初めてかもしれない。
「わっっ!!」
考えながら、教室へ向かう途中、何かに躓いておれはそのまま床に倒れた。
でも、それがクラスメートの足だと言うのに気づくのに長くは掛からなかった。
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