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しおりを挟む裏口前に置かれた上開きの大型冷凍庫の蓋が開き、水族館のショーのアシカのように顔を起こすお隣さん。まだ眠そうに顔を歪めている。リビングに向かうと、同じ頃に起きてきたのかスイもリビングに入ってきた所だった。
「おっは、」
お隣さんは鼻の穴から出たようなこもった声で言うと、スイはお隣さんに顔を向けた。
リビングに置かれた壁掛け時計の時刻は朝の9時。殴り合いの喧嘩の後のようにスイの目の周りのくまはひどくなっていた。加えて、瞳が半分以下しか開いていない、まぶたはほぼ落ちかけている。
「なんか、いつも以上ににらみきかせてない?」
苦笑するお隣さん。
「いつも通りだよ」
スイはリビング横の縁側のカーテンを開く。
「仕事で寝てないの?」
心配そうにお隣さんは聞く。
抱きついて寝てしまったハルのおかげで腕の置き場所に困り、寝れなかったなんて言えないスイは戸窓をわざと音を建てるようにして開き、「あ?」と片耳を相手に向け聞こえていないふりをする。
戸窓の外から冷たい風が入る。
戸窓の向かい、遠くには連なった山々が見える。
「あ、そっか、わかったぞ」
とお隣さんはポンと手を叩く。
「またヤッたんだ!」
「一回もヤッてねーよ!」
お隣さんの突拍子もない発言にスイは赤面し、叫ぶ。
「え、なーんだ」お隣さんは残念そうに口を尖らせる。
「早く結婚しちゃえばいいのに」
「好きじゃねーし、」
少々怒り口調でそう言い放つと鼻から息を吐き、顔を掻くスイ。
それを見てお隣さんは口を紡ぎながら笑う。
お隣さん曰く、スイは困ったことがあると指先で顔を掻く癖がある。おまけにハルに好意があるか確認するとすぐにプンスカ怒り出す。
三人一緒にこの家で暮らし始めて一年半。
絶対好きじゃんと、お隣さんは確信していた。
それを口では否定する彼を面白がって、ちょっかいを出すのがお隣さんの楽しみになっていた。
なんて微笑ましいんだと噛みしめるようにウンウン頷くお隣さん。
戸窓から入る冷たい空気を浴び、寒かったのか肩をすくめていたスイが外に向かってくしゃみをした。
地球を正面から殴りつけたかのような轟音と波と衝撃。
と同時にお隣さんを含めたリビングの家具が爆撃を食らったかの如く吹っ飛んだ。
「やっべ…、鼻水、」
鼻の詰まった声を出すスイ。片手で鼻を隠しながら目を開けると、先程まで見ていた山々の一角の先が目に見えて欠けていることに気づく。
それを見てスイはああ、やってしまったと眉を下げ、深く深くため息を吐いた。
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