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山村を抜け、麓まで1時間。車を走らせると、車通りの多い、広めの道路に出る。左右にりんご農園、ビニールハウスが見え、次に田園風景が見えたところで、徐々に建物が見え始め、ホームセンター、地域密着型のスーパーが向かい合う二車線の十字路にたどり着く。
スーパーの駐車場に入り、出入り口近くに車を止める。
前の席に座っていた二人よりも先にハルは車から降り、スーパーの入り口へと走っていく。
後ろから、車のドアを開け降りようと顔を出していたスイの「おい」と呼び止める声も聞かずに、ハルはゆっくり開く自動ドアの間をすり抜け中に入った。
スーパーの中は入って目の前には野菜売り場、入り口左右には棚に雑誌が並べられている。冷蔵棚に置かれ、照明の照らされて輝く野菜にハルは目をやり、そのまま視線を天井に向ける。
まるでテーマパークにでも来たかのように、ハルは目を輝かせる。
「こーら、ハルちゃん。一人で勝手に走っちゃだめでしょ」
そんなハルを後からやってきたお隣さんが後ろから彼を抑え込むようにして抱きしめ、両手こぶしを左右のこめかみにぐりぐりと押し付ける。
「痛い、」
ハルは嫌々と頭を振る。お隣さんはこめかみから手を離す。
「お店の中は静かに。でしょ?他の人が困っちゃうからね」
後ろの自動ドアの開く音。
「ハル、おとなしくしてろよ」
肩に大きめのトートバッグを下げ、買い物かごとカートを引っ張って入ってきたスイが後ろから強めの口調で言う。
「うん」
スイから注意を受け、顔が引き締まるハル。
「ハルちゃん、お隣さんと手つないで行こー?」
お隣さんはハルの手をそっと握る。
「ねえ、スイ。今日はなに買うの」
野菜売り場を無視し、突き当りの魚介売り場までカートを押して行ったスイにお隣さんは言った。お隣さんに聞かれたスイは思い出したように、トートバックの中を除き中から何やら書かれた紙切れを取り出す。
「そろそろ雪降るかもだから、インスタントとか…、水かな」
まだ11月の頭だが、今年は寒波の影響で日本は12月中旬並の寒さが続いており、早めに雪が降るかもしれないと気象予報でも言われていた。
毎年、スイたち三人が住む家周辺の山村は1メートル、酷い年には2メートル近く雪が積もる。しばらく麓に降りられない可能性も考えてスイは買いだめをしておきたいと考えていた。
「米はまだあったっけ?」
お買い得シールの張られた8切入れの冷凍された鮭の入った袋を2つかごに入れるスイ。
「うん。60キロふたつ」とお隣さんが答える。
「ふたつか、どうすっかな…、」
スイは片手を顔の下に持って、考え込む。
「余分に買ってく?安いし」
「そうだな」
それから、三人はインスタント食品をかごいっぱいに、6本入りの水3箱をカートの下に乗せ、お隣さんの両手にはトイレットペーパーと5個入のティッシュ箱を持たせる。
「カメだ」
手作りパンコーナーの前でハルが言った。
ハルが見つめる先にはカメの形に作られたメロンパンが一つ100円で販売されていた。
「ほんとだー」とお隣さん。
ハルは物欲しそうにそのカメのメロンパンを見つめる。それを見たお隣さんが「スイ、なんか買ってこうよ。手作りパン近くでここしかないじゃん」と気をきかせる。
お隣さんにそう言われたスイはパンを見て目を輝かせるハルの横顔に目をやる。
仕方ないと息を吐き、
「昼めしに買ってくか」と言う。
「やったー。ハルちゃん好きなの選んで良いってさ」
それを聞いたハルはお隣さんとスイ向かってにこっと笑い、近くにおかれていたおぼんとトングを手に取った。
スーパーの駐車場に入り、出入り口近くに車を止める。
前の席に座っていた二人よりも先にハルは車から降り、スーパーの入り口へと走っていく。
後ろから、車のドアを開け降りようと顔を出していたスイの「おい」と呼び止める声も聞かずに、ハルはゆっくり開く自動ドアの間をすり抜け中に入った。
スーパーの中は入って目の前には野菜売り場、入り口左右には棚に雑誌が並べられている。冷蔵棚に置かれ、照明の照らされて輝く野菜にハルは目をやり、そのまま視線を天井に向ける。
まるでテーマパークにでも来たかのように、ハルは目を輝かせる。
「こーら、ハルちゃん。一人で勝手に走っちゃだめでしょ」
そんなハルを後からやってきたお隣さんが後ろから彼を抑え込むようにして抱きしめ、両手こぶしを左右のこめかみにぐりぐりと押し付ける。
「痛い、」
ハルは嫌々と頭を振る。お隣さんはこめかみから手を離す。
「お店の中は静かに。でしょ?他の人が困っちゃうからね」
後ろの自動ドアの開く音。
「ハル、おとなしくしてろよ」
肩に大きめのトートバッグを下げ、買い物かごとカートを引っ張って入ってきたスイが後ろから強めの口調で言う。
「うん」
スイから注意を受け、顔が引き締まるハル。
「ハルちゃん、お隣さんと手つないで行こー?」
お隣さんはハルの手をそっと握る。
「ねえ、スイ。今日はなに買うの」
野菜売り場を無視し、突き当りの魚介売り場までカートを押して行ったスイにお隣さんは言った。お隣さんに聞かれたスイは思い出したように、トートバックの中を除き中から何やら書かれた紙切れを取り出す。
「そろそろ雪降るかもだから、インスタントとか…、水かな」
まだ11月の頭だが、今年は寒波の影響で日本は12月中旬並の寒さが続いており、早めに雪が降るかもしれないと気象予報でも言われていた。
毎年、スイたち三人が住む家周辺の山村は1メートル、酷い年には2メートル近く雪が積もる。しばらく麓に降りられない可能性も考えてスイは買いだめをしておきたいと考えていた。
「米はまだあったっけ?」
お買い得シールの張られた8切入れの冷凍された鮭の入った袋を2つかごに入れるスイ。
「うん。60キロふたつ」とお隣さんが答える。
「ふたつか、どうすっかな…、」
スイは片手を顔の下に持って、考え込む。
「余分に買ってく?安いし」
「そうだな」
それから、三人はインスタント食品をかごいっぱいに、6本入りの水3箱をカートの下に乗せ、お隣さんの両手にはトイレットペーパーと5個入のティッシュ箱を持たせる。
「カメだ」
手作りパンコーナーの前でハルが言った。
ハルが見つめる先にはカメの形に作られたメロンパンが一つ100円で販売されていた。
「ほんとだー」とお隣さん。
ハルは物欲しそうにそのカメのメロンパンを見つめる。それを見たお隣さんが「スイ、なんか買ってこうよ。手作りパン近くでここしかないじゃん」と気をきかせる。
お隣さんにそう言われたスイはパンを見て目を輝かせるハルの横顔に目をやる。
仕方ないと息を吐き、
「昼めしに買ってくか」と言う。
「やったー。ハルちゃん好きなの選んで良いってさ」
それを聞いたハルはお隣さんとスイ向かってにこっと笑い、近くにおかれていたおぼんとトングを手に取った。
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