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しおりを挟む首を失ったお隣さんの胴体が、落ちたコンタクトを探すように両手で地面に触れている。
「こっち、もうちょい左、」と玄関前に外向きに首を下にして置かれたお隣さんの頭部が声を出して誘導する。
上記のとおり、お隣さんは人間ではない。
冷凍庫が寝床の、暑さが苦手な宇宙人である。
地球上で生活しやすいようにとスイと全く同じ姿をしている彼は、体の9割が氷で出来ているため、長時間熱い所にいなければ基本何されても死ぬことはない。
手探りでやっと頭部を見つけた胴体は頭部を抱え、ヘルメットをかぶるようにしてもとの首の位置に戻す。
玄関で靴ひもを結ぶハル。気持ち大きめのダッフルコートと首にマフラーを下げている。
「ハル」
後部座席を片付けていたスイがハルの前に駆け寄る。
ハルは顔を上げる。
「首が開いてるぞ」
スイはしゃがみ「それじゃあ風邪ひくだろ」とハルの首の周りにくたくたにまかれたマフラーをほどき、襟元を整えてやる。
「寒くないか?」
と、ダッフルコートの留め木を閉じ、前を締めてやるスイ。
「うん」と頷くハル。
「よし」
ハルの頭をくしゃくしゃ撫でながら立つスイ、に続いてハルも立ち上がる。玄関に出で、鍵を締めるスイの手元を見つめるハル。その二人の様子をいつの間にか助手席に乗っていたお隣さんが微笑ましそうに眺める。
「にやにやすんな」
それに気づいたスイはお隣さんを小突き、運転席に乗る。すると車内のエアコンから冷たい風がやってくる。思い当たる節があるのか助手席のお隣さんをキッと睨みつけた。
「お前、また、冷房にしやがって、今日マイナスいくんだぞ」
怒るスイに注意されたお隣さん。「えー」どうしてと眉をしかめる。
「俺氷と小惑星でできてるんだから、冬に暖房は勘弁してって」
「地球に住んでんだから我慢しろよ」
スイは暖房に切り替える。
ハルは後部座席の運転席側に座り、シートベルトを締める。スイはバックミラー越しにそれを確認すると車のエンジンをかける。
「安全運転でおねがいしまーす」
そんなお隣さんの言葉を無視しスイはアクセルを踏み、数メートルの砂利道を抜け、
道路へと車をゆっくり走らせた。
対抗車線との間にきっちりオレンジ色の線が書かれている整備された道路とは違ってスイの車が走る山村の旧道路には白線も何もない。車もほとんど通らないので、堂々と真ん中の道を走らせることができ時短にもなる。が、整備された道路とは違って、老人たちの予期せぬの斜め横断が多いため、その点では注意しなければならない。
さっそく横断してきた山村の老人に三人とも車内から会釈をし、横断させたあと、スイは再びゆっくりアクセルを踏む。
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