個生院の患者のみなさん

さとう たなか

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「…あなたに謝らなければなりませんね、」

少し間を置いて、先生が俺に向き直った。

「何がです?」

先生は真剣な表情をしている。

「医者と、嘘をついてしまったこと、」

ああ、そうだ。先生と母親との会話越しに聞こえた、研究施設という言葉。

「ここ、個生院は、澄田さんやカドル達のような、不思議な症状を研究する施設として開かれました。なので私は、お医者さんではなく、研究員なのです。…騙していて、申し訳ございません、」

先生は深く、深く頭を下げた。
俺は問診をしているときの先生の様子を思い出した。思えば、カドルの手当てをしている時にすでに違和感を感じていたのかもしれない。

「今の医者って、パソコンでカルテを作ってますよ」

先生はそれを聞いて驚いたのか顔を上げる。

「そうでしたか…。ここ数年、私自身病院に行く機会が無くて…、自分の中の病院の記憶を頼りにやっていたんですが、だめでしたね」

先生は苦笑して頭を掻く。

「失望されましたよね」

「いいえ、むしろ、犯人当てたみたいで」面白かったですと俺は笑って先生に返した。

「あらら、そうですか」

俺のそんな表情を見て先生は参った顔をしてまた頭を掻いた。掻くのはこの人の癖なのかもしれない。

「どうして、病院みたいな、振る舞いを?」

「…研究施設と紹介されると、症状を持つ人が来てくれなかったんです。せっかく病院への協力もお願い出来たのですが…。でも、仕方ないですよね、怖いと思います、何かされるんじゃないかって、」

「だから、病院っぽく?」

「その方が、皆さん安心してご利用いただけるかと」

先生が困った顔をして笑う。

「そうですね、俺は騙されて来てしまいました」

「申し訳ありません、」

先生はまた困った顔をしながら頭を下げようとしたから、俺は急いで静止した。
···そう言えば、会話の中で聞いて、もう一つ気になることがある。

「俺の、この症状とあの羽の生えた人って、同じ病気なんですか?」

「…この、症状になった患者さまたちとお話して分かったのは、澄田さんとカドルのような症状は、育った環境やその人の性格によって生まれた強い思いとか、叶えたい願い、それを周りに伝えようとして、体から直接、関連する何かとなって発せられている可能性があるという事でした」

「ストレスが、爆発しちゃった、みたいな…、ですか?」

俺の問いに先生は首を振る。

「その可能性も考えたのですが、そうとも言えないのです。血液検査等をしても体に異常は見られない。それに、自然界にも同じような事が起きていました」

俺は首を傾げる。

「人間以外の動物達、水、草木、花、落ちている石、漂う空気だったり…。すべての物に澄田さんのような症状が起こるという事です。これは、つまり、すべての物には思いや願い、意識があるという事の証明でした。これを病気とは言いません。ある種、思いや願いを届ける為の言葉のようなもの。それは、知ることのできた私たちが耳を傾けなければならない、そう思ったんです。そして、この症状を憎まないで、自分自身の声だと思って、一部だと思って、大切にしてほしいと…。だから私たちは、それらの症状を、その人の『個性』と呼ぶことにしたんです」

どこで聞いたか忘れたけど、個性は自分らしさだ、とか言っている人がいたっけ。自分の中で何か、押し殺してしまっていることがある、人に伝えたいことがある…。
考えを巡らせていると、自分の中で何かに突っかかった。でもそれは、暗い深海に埋まった岩のようで、誰もが見て通り過ぎてしまうような…そんな感じがした。
先生は「はっ」と我に帰ってゴホンと咳ばらい、背筋を伸ばして俺に向き直る。

「すみません、話混んじゃって。研究者の端くれなので…つい。オタクな話になると止まらなくなってしまうんです」

やってしまったと困った顔をする先生。

「いえ、そんな」

俺は先生に対して、悪い人だなんて思っていない。

「とにかく、澄田さんの症状は良くなります。絶対に」

笑顔で言う先生のその言葉に、俺は「はい」と笑って返事をする事ができた。
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